183G.ナチュラルレアリティー フォースドノ―マリティー

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 天の川内銀河インサイド、ノーマ・流域ライン

 ニューキャピタルサイド星系グループ、ニューキャピタルG8L:F。

 センチネル艦隊、学園都市船『エヴァンジェイル』。

 騎兵隊格納庫前。


 レトロなレンガ造り風の倉庫の中には、コロニーシップを守る防衛部隊、騎兵隊のヒト型機動兵器がたたずんでいた。

 威圧感を抑えるように装甲の角を落とした滑らかなシルエットながら、全身のブースターや腕部の固定武装、平面的な頭部の大型センサーアレイといった装備を充実させたゴリゴリの実戦機、『メイヴ・スプリガン』だ。


 それらを背に、居並ぶ騎兵隊員の女子生徒たちへ、赤毛の艦隊司令が状況説明を行っていた。


「以前にも話したが、作戦中『エヴァンジェイル』は『アトランティス』と共に後方の星系外縁以遠で待機してもらう事になった。

 別の星系で待機という案もあったが、万が一を考えてサンクチュアリの攻撃艦隊を支援できるギリギリの位置で、というギリギリの判断だな。

 騎兵隊も内外のトラブルに備えて、全機出撃待機という事になる。

 基本的にチーム1がコロニー外でメナスへの警戒、他のチームは艦隊とエヴァンジェイル内部の保安活動を行う事になると思うが、その後の指揮は隊長のディーと各チームのリーダーに任せる。

 メナスは本隊が全て排除するつもりだが、戦場に絶対はない。常に戦闘に備えるように。

 また非戦闘員が多数搭乗するアトランティスやエヴァンジェイルは、常に生存を優先する方針の上で運用されている。

 退避となれば騎兵隊も一緒に退く事になるだろうが、その時はこちらからの指示が無くてもエヴァンジェイルの防衛に専念してほしい。

 以上、質問は」


 と、淡々と話していた『村雨ユリ』こと村瀬唯理むらせゆいりは、ここで空中投影された戦略予測図から騎兵隊の皆へ視線を移す。

 すると、女子生徒たちは皆一様にポカンとした顔をしていた。一部、熱に浮かされたように顔が赤い。

 何やら女の子たちの様子がおかしくない? と怪訝けげんな顔をしていた赤毛の女子生徒・・・・・・・は、少し考えた後、ハッと自分の制服姿に気付いていた。


「今の無し!」


 すかさず、勢いに任せて誤魔化そうとする赤毛である。


「えー…………と、以前にもお話しましたが、エヴァンジェイルはアトランティスと共に星系外縁以遠にて待機してもらう事になりました。別の星系で待機するという案もあったのですが、サンクチュアリの攻撃艦隊を支援する必要が出た場合に対応できるギリギリの位置にいた方がいい、というのがその理由ですね。

 騎兵隊も内外のトラブルに備えて全機出撃待機という事になります。メナスへの警戒がチーム1、他のチームに艦隊とエヴァンジェイル内の保安任務を担当していただく事になるかと思いますが――――」


 そして、何事も無かったかのように、麗しのお嬢様モードで状況説明のやり直し。

 学園では基本これで通しているのをコロっと忘れていた唯理である。


「では大尉、後をお願いしますね。行きましょうクラウディア隊長」


「おーう」

「はいはい」


 話を終えると、やはり穏やかな微笑のまま、老教官のロックスミス・ファーガソンにその場を任せて颯爽と歩き去るユリ様。

 騎兵隊の女子たちは、豆鉄砲喰らった鳩のような面持ちのままそれを見送る。

 日頃物腰柔らかな美少女で通っている赤毛の擬態娘が、無表情かつ無感情な声でスピーチしていれば呆気に取られもするだろう。


 なお、半数ほどの乙女の性癖にはブッ刺さっていたようである。


                ◇


 村瀬唯理が連邦軍を巻き込んで推進中の、連邦中央星系サンクチュアリの解放作戦。

 しかし、それを想定して実施される合同演習は、全く足並みが揃わない状態である。


 銀河最大にして、既に連邦政府自身も全体像を把握できなくなっている、連邦軍。

 その内情は長い歴史の中で、兵士の集団ではなく軍服を着た公務員という表現の方に近くなっていた。

 命の危険を伴わないシミュレーションですら、安全重視でさっさと後退してしまう有様。

 同時に、連邦政府と軍の上層部は、センチネル艦隊を奪取し全ての主導権を握ろうと、その手段を模索し続けている。

 これでは演習に本腰も入るワケがない。


 機械的に戦闘を処理しようとするだけの連邦軍をどうしたものかと悩む唯理。

 唯理の持つ『キー』を複製しようと考えながらも、手掛かりが無い連邦軍。

 両者、内に抱えるものを感じながら、合同演習は一時中断となっていた。


                ◇


「わたしはー……てっきりもう、おしとやかなフリはやめたのかと思ったんだけど」


 騎兵隊の格納庫を離れて暫し。

 それまで何も言わなかったスレンダーお嬢様、騎兵隊の隊長クラウディアであったが、ついにこらえきれず半笑いでそんな事を言ってしまった。


「……失敗したんですぅー。わたしとした事が、油断して仮面をつけ間違えるなんて」


 言及されたくなかった、と珍しく子供っぽい反応をする赤毛。お嬢っぽく頬を抑えながら、沈痛な面持ちだ。

 小さなことではあるが、普段しないミスだけに尾を引いているらしい。

 寝起きと脱ぎ癖以外は完璧なのになぁこの娘、と思うと、何やら密かに胸が高鳴ドキッとなるクラウディアである。


「ユリもお疲れってことかしら?」


「……そうかも。余裕ないのかな?」


 しかし、弱音を吐くという本当に珍しい、ある意味非常事態とも言える唯理の姿には、クラウディアの笑みも引っ込んだ。

 考えてもみれば、センチネル艦隊と連邦の大艦隊を率い、銀河の命運を分かつ決戦に挑もうというのだ。

 そのプレッシャーや精神的負担を考えると、笑うどころか哀しくなってきた。

 自分も騎兵隊長として今から緊張でお腹が痛いのだが、それよりもこの赤毛をどうにかする方が人類の未来的にも重要なのではないか? と変な使命感も覚えるものである。


「ユリは…………この後は?」


「2時間後に演習再開! それまでにエイムの新装備を実機テストしたいんだけど、まだ試作機も安定してないっていうから、それほど焦る意味もないか」


「それなら、何か食べて少し休みましょう。ユリ、忙しいと思うけど睡眠は取っているの?」


「……きちんと取っているよ?」


「こっち見て言いなさいよ」


 何食わぬ顔でシレッと嘘を口にする赤毛。

 スレンダーな金髪娘はジト目で詰めて来る。

 最終的に、クラウディアのデコが唯理のこめかみにあたる段となり、唯理の方が降参する、という珍しい結果になった。


                ◇


 演習がグダる、試作兵器もてこずる、と諸々の理由もあり空白の時間が出来たので、唯理とクラウディアは休憩を取る事とする。なお赤毛の艦隊司令は三日ほどまともに寝食してない。


 唯理は遠隔操作リモートで4輪バイクを呼び出すと、学園を出て市街地へと走らせた。クラウディアを後ろに乗せた、ふたり乗りだ。

 デリカレーションが受け入れられるにともない、その販売形態も多様性を増しているエヴァンジェイル船内。

 中には屋台やワゴン販売などの屋外店舗もあり、川沿いの公園内には軽食を提供する自動キッチンカーがあった。


「タマゴ、ってこの外側のパリパリが気持ちイイのよね」


「うーむ…………」


 ベンチに並んで座り、クラウディアが食べるのはタマゴが半分にカットされた形で入っているエッグサンド、唯理が食べるのはエビのフリットサンドだ。

 しかし、外見こそそれらしかったが、卵は真球型で外側に薄く脆い殻が作られており、エビはイカリングのような輪っか型だった。

 これ誰か形成過程で勝手なアレンジとか解釈加えおったな、とは思うが、平穏なラインチタイムに言う事ではないか、と空気を読む赤毛である。


「でー……ユリの事だから勝算はあるんでしょうけど、その、実際どうなのかしら? メナスの大集団との決戦なんて、もうわたしの想像の埒外なんだけど」


 ヒトで賑わう公園の景色を見ながら無言でモグモグしていたが、食後のお茶に移るにあたり、クラウディアはその様に話を切り出した。

 実戦の事は唯理に任せておくほかない、と割り切っているものの、会話を持たせるついでに、この際聞いてみようと思ったのだ。


「『どう』と言われても勝つ以外に選択肢無いし、勝てるように万全整えて本番にのぞむだけ。

 非常手段もいくつか用意しているしね。勝てなかった時の事も……一応考えてある。

 まぁ問題は、その準備が大変なワケだけど」


 再生樹脂のボトルを両手で包み込むように持ち、ホッと一息つきながら答える赤毛。

 この破壊力のあり過ぎる横顔にも大分慣れてきたルームメイトだが、やはりそこに微かな疲れの色を見る事が出来た。

 何かできる事はないか、とクラウディアは考えるが、エイムオペレーション以外に出来そうなことも特に思い付かず。


「ゆ、ユリ……! ほら! ほら!!」


「はい? え? なに??」


 考えた末に、自分のスカートの上から膝フトモモなどペシペシ叩いているスレンダー娘である。お嬢様的には褒められた行動モノではない。

 要するに、少しでもいいから赤毛娘を横によう、と思ったのだ。

 帰って仮眠を取れと言うのは時間が足りないし。そもそもこの赤毛、ひとりにしても休みそうにない。


 ルームメイトの謎の行動に、唯理の方はこれまた普段はしない困惑顔。なんせ司令官なので部下が迷うような行動はしないよう気を付けている。

 そこから30秒ほどの間を空けて、それがいわゆる膝枕のお誘いであることに気付いていた。


「いや気持ちはありがたいけどわたしヒトの膝枕じゃ寝られないし。それにその間ディーが動けないのは迷惑でしょ。

 そもそもわたし、膝枕という行為自体が好きではない」


「こいつ……!」


 大真面目な顔でお断りNo thank youする赤毛。低血圧なクセに用心深いので寝床にはメチャクチャ厳しかったりする。ベッドの上よりベッドの下で寝る事の方が多い女だ。銃持って。

 膝枕なんてちょっとロマンチック過ぎるかな、などと密かに胸おどらせていたスレンダー乙女は、無粋な返事にチンピラのような眼付となっていた。


「ちょっと寝てみなさいよ! 案外気持ちイイかもしれないでしょ!?」


「気持ちイイ気持ち良くないの問題じゃなくて。わたしの場合屋外で横になるのがまずあり得なくてですね」


「銀河で一番安全な艦隊のド真ん中で何言ってんの!? ここでユリが倒れる方がマズいのよ!」


「そんなに消耗してませんー。1カ月不眠不休で戦争してたこともあるっての」


 掴みかかる華奢な金髪に、がっちり組み合い抵抗する戦闘用赤毛。腕力では勝負にならない。

 見目麗しい制服姿の美少女ふたりが何やら力比べしている図に、道行く一般人が怪訝けげんな顔になっていた。


「うー! うー! め、メアにはおっぱい触らせたクセにー!!」


「なんのこと!?」


 しまいには半泣きになるクラウディアである。

 なお、天真爛漫娘に唯理がおっぱい触らせた云々は、旗艦サーヴィランス艦内にある銭湯スパ『裸王』での一幕だ。

 痴女的なエピソードではない、と当事者は声を大にして言いたい所存。


 基本女の子には甘い唯理なので、泣かれると如何ともし難く。所詮腕力や暴力で解決できることは極少ないのだ。

 よって、クラウディアのフトモモを枕にせざるを得ない赤毛であった。


「どお? リラックスできる??」


「……落ち着かない」


「まだ言うか」


 まず無防備状態になるのが嫌な赤毛の常在戦場娘なのだが。

 身動きし辛い状態で、頭上にはクラウディアまでいる。身を護る上ではお世辞にも良い状況とは言えない。

 だがそんな事も言えばまた機嫌を損ねそうなので、まな板の上の鯉、膝の上の赤毛である。


「ふむ……こうやって感じてみると、ディーのフトモモも大分肉付きが良くなっているようだな。

 でも、もうちょっとムチムチしてても健康的でいい気がする」


「真剣なキメ顔で何言ってんの!? 膝枕はそういったサービスじゃありません!!」


「ディーはちょっと心配なほど細いから。まぁその分綺麗なスタイルしていると思うけど」


「なにセクハラ!? 無理やり膝枕させた意趣返しなの!!?」


 しかし、赤毛の達人は後頭部で感じる弾力から華奢な少女の育ち具合を確認。ついでに、風呂などで時々見た体形スタイルの論評など。

 クラウディアは気恥ずかしさで真っ赤になり、赤毛の顔面にベチベチ平手を打ち下していた。

 されるがままの唯理ユリである。


 そして、このようなじゃれ合いをしていたら眠れるワケもない、と思っていたふたりではあるが、意外と眠たくなってきた自分に驚きビックリな赤毛の方。


「なるほど……これがディーのフトモモの安眠性なのか」


「永眠させるわよ」


「それも悪く無い気がしてきたけど、せっかくなので5分ほどで起こして……」


 クラウディアを再度ジト目にさせながら、唯理が目を閉じた。

 外界の情報をある程度遮断するだけでも、そこそこ脳が休める。連戦や鉄火場の時は、よくそうしていたものである。


 そのつもりだったが、ハッと気付くと周囲に他の騎兵隊初期メンバーが揃っていた。


「あー! ユリさん起きた?」


『おはようございます』


「ユリって寝顔緩み過ぎて全く別人になるのね。知らないと誰も気付かなさそうだわ」


 上から覗き込んでいる無邪気な笑みの少女、その後ろから前のめりな仲間を支えている片目隠れの無表情少女。

 クラウディアの反対側に座り唯理を見ているのは、茶髪の淡泊少女である。


 状況の推移が全く分からないというのは、唯理には珍しい事態であった。

 寝落ちしていた自分が信じられない。

 それほど寝入ってはいなかったので血圧は通常値だが、思考は止まっていた。

 これ何度死んでいたか分からんぞ、とショックで目も真ん丸である。


「……どれくらい落ちてた?」


「えーと、10分、くらい?」


「5分でお願いしなかった?」


「口むにゅむにゅしているの面白くて……」


「クラウディアさん……?」


 目をそらす膝枕お嬢様に、下からすさみ切った目を向ける赤毛。

 とはいえ、自分の無様を他人のせいにはできまい。

 ここは敗北を認めるしかない唯理であった。これから決戦だというのに極めて幸先が良くない。


「でー……皆はなんでここに? 大尉と一緒に後輩のたちのシミュレーション訓練でしょ?」


「大尉がチーム2と3でチーム戦やるって! わたし達は勝った方と模擬戦だからその間何か食べに行こうって!!」


「わたしはついでにユリに聞きたいことがあったから、それでね……」


 騎兵隊一軍のお嬢様方は、少し時間が空いたので一休み入れに来たのだとか。元気よく代表して説明するナイトメアである。

 茶髪女子高生風お嬢様の石長いわながサキは、何か改まった話があるとか。


 ベンチから起き上がると、赤毛の少女は伸びをして肩と首を鳴らした。

 まだ予定の時間ではない。お茶をする余裕くらいはあるだろう。

 騎兵隊の一行は市街地中心部の繁華街へ移動すると、よく利用するデリカレストラン二階のテラス席へ。

 忙し気に足早で移動していく地上の人々や、空を行く小型艇の様子を眺めながら、久しくゆったりとした時間を過ごすことになった。


 そして、1時間後。


「さーて……それじゃ仮想演習行ってきまーす」


「いってらっふぁーい!」


『メアさん、お口……』


 ゆっくりし過ぎて若干お尻に根が張りはじめていた赤毛であるが、時間なので、重い尻もとい腰を上げる。

 見送るナイトメアは口いっぱいにショートケーキを頬張ったままだ。片目隠れのフローズンが甲斐甲斐しく口元を拭いていた。


「ユリ、大丈夫なの……?」


「大丈夫だってば。まぁ、確かに大分楽にはなったよ」


 どことなく探るような眼差しで、前のめりにたずねるクラウディア。

 素っ気なく応える唯理であるが、自分でも意外なほど頭の中がスッキリしているのが分かった。

 実は顔付きもスッキリしている。


 どうやら、完全に昔の身体能力を取り戻したと思っていたが、そうでもなかったらしい。

 もう少しセルフマネジメントには気を付けようと思う。


                ◇


「総司令がブリッジへ!」


「お疲れー……。お歴々は?」


 旗艦サーヴィランスの艦橋に入ると、担当の警備主任が声を張り上げた。

 軽くそれに挨拶しながら前を通り過ぎると、赤毛の艦隊司令は艦長席に着き、艦隊管理者フリートマネージャーに連邦側の状況を確認する。


「まだ内々での調整を行っているようです。少し遅れると連絡がありましたが、多少長めに待たされる事になるかと」


「そっか……。

 次のシミュレーションは連邦が付いて来る来ないに関わらずウチがリードする。

 序盤から艦隊を一気に前に出すぞ。向こうを待つ間に全艦隊で動きの再確認を」


「了解しました。ノーマルシナリオ、センチネル艦隊単独での戦闘をアレンジします」


 傷面の艦隊管理者フリートマネージャーが艦隊の共有通信帯域で10万隻に命令を下した。

 間もなく、あわただしくヒトが動き始める艦橋ブリッジ内。正面の舷窓がモニターに変り、この先の戦場の姿を映し出す。


「全艦隊準備完了です、司令」


「りょーかーい…………」


 既に演習の準備自体は整っており、連邦艦隊が不参加という土壇場での変更にもスムーズに対応している。

 いつも通りにスマートな所作と仕事でフロストが告げると、唯理は僅かな沈黙を挟んで演習の開始を告げた。


「それじゃ、はじめようか。

 連邦はトラブルで出遅れている。センチネル艦隊は先制してメナスの頭を押さえ連邦艦隊を支援。可能な限り打撃を与えて動きを止めるぞ。

 前衛艦隊に続き全艦隊前進。統制射」


「前衛艦隊前進。後続は砲撃し前衛艦隊を援護。機動部隊はメナスの機動戦力に警戒し発進待機」


 トップからの命令を受け、航海艦橋と艦隊司令艦橋のオペレーターも全艦隊への指令伝達を開始。

 人機一体の管制システムが艦隊の意思を統一し、ひとつの戦闘群として機能させる。


「了解、センターコントロールよりセンターフリート、艦隊運動開始」

「ライトウィングコントロールよりライトウィングフリート、艦隊運動開始します」

「レフトウィングフリート、艦隊運動開始。レフトウィングサポート、攻撃スタンバイ」

「全艦隊サーヴィランスのFCSトリガータイミング同期!」

「メナス艦隊へターゲットマーク! 火力投射開始!!」


 シミュレーション上のメナス艦隊に対し、猛然と襲い掛かりレーザーの一斉射を仕掛けるセンチネル艦隊。

 反撃と防御。双方が艦隊戦力にある程度の打撃を与えると、ヒト型機動兵器や小型攻撃艇、あるいは小型メナスが飛び出し、戦場のド真ん中で衝突した。


「終了だ。次。撤退戦シナリオ」


 状況を一通り消化すると、唯理はそれを切り上げさせ、次のシミュレーションへと移るよう指示を出す。

 直ちに初期化されるシミュレーション画面と、センチネル艦隊の各艦の態勢。

 艦隊と乗員クルー、そして全ての兵器に搭載されたシステムは、こうして戦闘効率と戦術の組み立てを最適化させていくのだ。


 この後、当初の予定通り連邦艦隊も演習に参加するが、気合と練度で圧倒するセンチネル艦隊に追随する他なくなっていた。





【ヒストリカル・アーカイヴ】


・デリカレーション

 宇宙進出時代の食材の不足や栄養補給の効率化と合理化の流れの中で滅んでいた食文化を、21世紀産まれの赤毛女子高生が復活させたもの。

 自然に栽培育成した天然の食材を用いる料理や、分子レベルで合成した素材を用いる料理など、デリカレーションの中でも製造方法に違いがある。

 また、現場の事情や時代に合わせた料理の新解釈により21世紀とはまた異なる独自の料理へと変化を遂げる場合も多い。


・4輪バイク

 この時代では珍しい装輪タイプのヴィークルを、村瀬唯理の希望により高速貨物船パンナコッタのエンジニアが製造したモノ。

 前後2輪の通常のバイク形態から、前後の車輪を左右に分割させた4輪タイプへ変形する。

 重力制御機構が搭載されている為に飛行も可能。その際は4輪それぞれが逆『ハ』の字へ傾き空力的安定翼の役割を果たす。

 エンジニアのエイミーが開発製造したオリジナルはキングダム船団に残されており、学園都市船『エヴァンジェイル』で唯理が搭乗するのは後に自力で製造したコピー。

 構造こそ真似ているが調整が出来ない為に、ホイールの過熱という問題を抱えている。

 起源惑星の神話から取り、不死の馬『ザンザス』の名称を与えられている。


・FCS(ファイアコントロールシステム)

 直訳して射撃統制システム。兵器や艦船に搭載される攻撃火器の制御を行うシステム。

 単なる照準と発砲に留まらず、ハードウェアの保守や攻撃目標の行動予測、砲手の支援、複数火器の連携、効率的な目標とタイミングの選択など、砲撃全般をパッケージングするのが基本。

 射撃指揮装置イルミネーターのような攻撃目標の補足と識別を行うシステム、導波干渉儀などセンサー類、予測演算器ダイナミクスといった別システムを包括するシステムとなる。


・膝枕(ひざまくら)

 本来は21世紀から続く人体救護技術だが、現在ではそれを建前にした男女(同性同士でも可)の接近テクニックとなっている。

 肉体的接触を特異な行為としている現代では、半ばフィクション(恋愛ジャンル)の中の行為でもある。

 マウントポジションから顔面に打撃を加える格闘技術ではない。




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