174G.都合よく進むアンソリシティッドスクリプト
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天の川銀河、ペルシス
第15惑星ジオーネG15M:I軌道上プラットホーム。
強襲揚陸艦アルケドアティス。
簡単な逆算である。
全く気に入らないことではあるが、銀河の文明圏を安定させるには、連邦が必要だ。
銀河に秩序をもたらす
新しい秩序と防衛体制を一から構築するのも、メナスという天敵に人類が脅かされたままでは難しいだろう。
被害は今も、拡大し続けているのだ。
半ば崩壊しかけているとはいえ、既存の枠組みを廃品利用した方が手っ取り早い、という話である。
『よって我々「センチネル艦隊」は連邦と中央星系「サンクチュアリ」の奪還を当面の作戦目標とする!
これを以って人類は後方を確保! 体勢を立て直しメナスの勢力圏にある星系の解放に転じる!
と、いうのが今後の基本方針だ。
本艦隊は編成及び慣熟訓練を進めつつ他の勢力と合流、十分な戦力を確保し次第、サンクチュアリへ進攻、解放作戦を実行に移す。
戦いは既に始まっている。決戦なんぞ戦況を決する一場面に過ぎない。
諸君らが悔いなく力を出し尽くせるよう健闘を祈る。以上』
装甲の翼を広げた強襲揚陸艦、旗艦『アルケドアティス』の
赤毛の艦隊司令官ユーリ・ダーククラウド、
ここからは、最優先目標まで脇目も振らずまっしぐらだ。
艦隊を形にし、避難民を吸収し、連邦の残存艦隊とも連携し、サンクチュアリ星系に巣食うメナス艦隊との決戦に挑む。
と、全部やる。
「お疲れ様でした、司令」
「んもー我ながらもう滅茶苦茶だな…………」
そんなこと簡単に出来たら苦労しねぇ、とは本人も重々承知なのだが。
全力の背伸びに疲れて赤毛が艦長席に座り込み、
「お嬢さま、コーヒーでございます」
「ああ、ありがと……。さて、艦は全て到着したかな、フロスト」
赤いメッシュを入れた黒髪メイドさんがコーヒーを
ミルク無し、砂糖有りが赤毛の飲み方だが、コーヒー文化再生期にあって同じ飲み方をする者が多いとの話だった。
それを一口含むと、座る姿勢を改め司令官として相応しい
「現在集結中です。脱落艦なし。集結が完了し次第、暫定的な人員配置を行います。暫定ではありますが、これは基本的にそのまま訓練、そして実戦を行う乗員構成となります。
戦力化を最優先する為の措置です」
「細かい適性や配置より、まずは使いものになるかが重要、と。妥当な計画だな。ブレイズ」
「とりあえずエイムに乗れる奴は片っ端から現場作業に放り込んで適性を見るしかねーよ。作業効率評価で上のヤツから希望聞いて戦術単位のユニットを組ませる。
実戦でどうかは、もうやって見せるしかないな。考え得る訓練をしたら、あとはお祈りだなぁ」
「小隊長中隊長格が足りな過ぎて模擬戦もままならんからなぁ……。教官もほぼゼロとしか言いようがないし。
実戦で育つのを待つしかないけど、今後の戦場はメナス戦が主だろうし。新兵にはハードル高過ぎるわ」
傷面にアッシュブロンドのオールバック、フリートマネージャーのジャック・フロスト。
逆立つ黒髪と揉み上げの剛毛、全身筋肉の戦場職人、実働部隊長のブラッド・ブレイズ。
実務を受け持つふたりの報告に、コーヒー
「いずれかの星系艦隊から引き抜きを?」
「貴重な前線指揮官がその辺で浮いていれば、それでもいいけどね。今はどこも人手不足だろ。
とりあえず最低限船を動かして基本的な火器操作さえできればいい。それだけでも使い方はある」
赤毛の司令は席を立つと、カップをメイドさんに渡し
艦橋前面の大型舷窓には、無数の艦船が無秩序にあちこちの方を向き滞留しているのが見えた。
整列も何もなく、ただそこにいるだけという状態がいっそ清々しい。
「ボチボチ船も起こすかなぁ……」
潮騒のように静かな
船。千年王国の艦隊、遺跡艦、フォースフレームフリート。
かつて起源惑星の
唯理はこれを指揮する資格を持つのだが、正直あまり使いたくはなかった。
本来なら、既に役目を終えた艦隊だ。
人類は2500年の間に、21世紀時点では到底持ちえない遥かに進んだ技術への依存から脱却している、はずだった。
ここでフォースフレーム艦を大々的に持ち出せば、銀河の人類は再びそれらに依存することになるだろう。
そうでなくても、2500年をかけた技術水準が期待のレベルに到達していなかった、というのに。
とはいえ、事態は切実で切羽詰まっている。
連邦を立て直した後に来るのがフォースフレーム艦隊の奪い合いになるとしても、今は人類を生かさなければならなかった。
後の面倒を思うと今からうんざりする赤毛だが。
などと思っていたならば、
「レーダーにフラッシュ。本艦より30万キロ、宙域基準点160度方向にスクワッシュドライブ反応」
「全艦センサーをフォーカス! 反応解析中! 宇宙船の質量と思われます!!」
レーダー画面に出現する重力波紋の表示に、
各科の
面倒が後から来るなんて、我ながら随分生温いことを考えていたもんだな、と赤毛は自分の気の緩みに溜息しか出なかった。
だがすぐに、気を引き締めて役割を果たす事とする。
「全艦警戒体制。本艦を前に出し体制の整っていない艦は惑星の反対側に退避させろ。全火器立ち上げ。対象のワープアウトと同時にセンサーでマーク。直掩機、攻撃機は発艦準備。即戦闘に入るのも想定しろ。フロスト」
「全艦戦闘配置。全隔壁閉鎖。非戦闘員はバイタルパートへ退避。カナン、退避する船の指揮を任せる」
『了解』
装甲の翼を広げた強襲揚陸艦、アルケドアティスと他数艦が艦首を星系側の反対方向へ向けた。
間もなく、空間を圧縮した回廊を飛び越え現れる200隻近い艦隊。
その中央には、艦体の腹を大きく横に膨らませたような大型戦闘艦が鎮座していた。
テンペスタ星系、中央軍総司令部特務戦隊。通称、親衛隊。
旗艦『カイザーテンペスター』。全長1200メートル。最大幅1300メートル。
母艦機能と司令部機能に居住性もコロニー並にある、万能戦艦という規格外の宇宙戦闘艦である。という触れ込みだった。
『テロリストに告ぐぅ! お前らは我がテンペスタ星系国の主権を土足で踏み躙り、国の財産を不当に
よって国家と国主の権威に反逆した罪で有罪! 三権の長である国主の権限によりぃ! 財産の全てを没収した上で極刑とするぅ!!!!』
その自称万能戦艦の
もはや最高権力者としての余裕も忘れた、テンペスタ星系の国主である。なお名前はヨーンという。
◇
現在の天の川銀河における多くの惑星がそうであるように、テンペスタ星系と本星のウィンドブレークは、メナス侵攻に備えようとしていた。
しかしその備えとは、一部の特権を持つ国民のみを惑星地下に
当然ながら残される他の住民は国主と政府の棄民政策に猛反発し、メナスという最悪の外敵に脅かされながら、星系内で内戦を起こす事となった。
村瀬唯理は艦隊整備に忙しく、ほか多くの星系で起こっているようなテンペスタの状況には、介入しない構えだった。
だが大を生かす為に小を見殺しにするという基本的な戦略判断を良しともできず、大人の判断クソくらえと赤毛娘は方針を転換。
療養の為に星系を離れていたテンペスタの軍人、ロックスミス・ファーガソン退役大尉を先頭に、星系に殴り込みをかける。
そこで、星系住民を虐殺しようとする
同時に、防衛体制が崩壊し地下都市へ市民軍が雪崩れ込み、国主と一部特権階級のみが生き残る為の政策も事実上消失。
国主は親衛隊と共に宇宙に逃れ、私怨だけで赤毛娘の強襲揚陸艦を追撃してきた、とこういう経緯である。
◇
「接近中の艦隊よりセンサー
「フォースシールド、グラヴィティーシールド、同時展開。こちらも攻撃準備を。司令」
テンペスタ親衛隊艦隊は壁のような陣形を形成し、アルケドアティスとの距離を詰めて来る。
万能戦艦以外は、全て通常艦艇。空母も何隻かいるようだ。
アルケドアティスのセンサーはそれら全てを補足しており、フリートマネージャーにより攻撃の準備が整えられていた。
「センチネル艦隊司令、ユーリ・ダーククラウドだ。テンペスタ星系政府国主殿、先日はどうも。
ですがここはテンペスタではありませんよ、ジオーネ星系です。
ここではテンペスタの法も国主の権限も全く意味がないモノでは?」
『黙れテロリストぉ! ボクに逆らう奴はこの宇宙のどこにいようが死刑決定なんだよ! 決めるのはボクだ! その船はボクの物! お前は人権剥奪してセックスドールにして無様な姿を全銀河にライブフィード配信して死ぬまで使い倒してやるからなぁ!!』
赤毛の少女もテンペスタの主権を全無視して暴れたので、本人としても煽るような言い方になってしまったと思う。
とはいえ、それが間違っていたとは思わない。
腐れた法よりも遥かに優先すべき事がある。それだけだ。
そして遺憾なことに、法よりも自分の意地を優先するという点では、国主と同意見のようである。
「個人的には、ここであなたの息の根を止められるならスッキリするけど、独裁者の排除は私の目的ではない。キリもないし……。
だから不本意ながら警告しておこう。
通常艦艇200隻ばかりでこの艦に
『ボクの艦隊とこの戦艦は最強の船だぞぉ! それっぱかしの船でどうにかなるワケないだろうぁ!!』
怒りに任せた勢いだけな国主の啖呵に、思わず赤毛も少し驚く。
アルケドアティスの戦闘能力は、星系艦隊と単艦で戦えるほど。
船のスペックが戦闘の結果を決めるワケではないが、親衛隊の戦闘艦が多少優秀でも常識的な範疇でしかなく、勝ち目のある戦いではなかった。
国主は、アルケドアティス含め7隻しか戦闘態勢を取ってないという事で、数の圧倒的有利があると考え強気だが。
テンペスタ星系の首都でいったい何を見ていたのか。
何を考えていたとしても、最終的な結果は大差ないようである。
「やっぱ一発喰らわせないとダメか。統制射用意。命令で全目標に砲撃」
「
「シールドだけでいい。とりあえず電子戦の能力まで見せる必要はない」
翼を広げた強襲揚陸艦に殺到する射撃用のセンサー
分かっていた事ではあるが、腹いせしか見えていない国主に理屈が通じるはずもなく、唯理はアルケドアティスに真向撃ち合う構えを取らせ、
テンペスタの親衛隊艦隊とは全く違う方向からレーザーが飛んできた。
「艦砲射撃? 別動隊でもいたのか??」
「センサー走査がありませんでした。隠蔽性を優先した目測照準です」
船ごと一帯を飲み込むような赤い光の豪雨が、自動展開されたエネルギーシールドを派手に揺らす。
見事と言って良いほど完璧な奇襲攻撃に、唯理は怪訝な顔、フロストはいつもと変わらない。
他方、肝が据わり切っているふたり以外は大騒動だ。
「射撃位置……基準点30度約140キロに偽装した戦闘艦1100!
「シールドジェネレーターに負荷! フォースシールド、グラヴィティーシールド95パーセント! 低下中!!」
「ちょい待ちスキャンに割り込まれてる! これこっちの検出情報読まれてるぞ! センサーデータにフィルターかける!!」
装備ばかり揃えて力押ししか考えないテンペスタ国主と違う。
自分の位置を明かすセンサー信号の発信無し、敵センサー
明らかに手慣れた襲撃を前に、唯理は警戒レベルを数段引き上げていた。
「外装は消波装甲でしょうか」
「徹底してるな。どこぞの国主さまとは大違いだ。
ブレードアーマー閉鎖、トルーパーモード。プラットホームから距離を取る。高火力艦から制圧射」
強襲揚陸艦アルケドアティスは、装甲の翼を艦体に
プラットホームを巻き込まないよう距離を取ろうとする。
とはいえ既に、アルケドアティス単艦に対し集中砲火されている為、相当数のレーザーが外れ流れ弾としてプラットホームへ直撃していた。
骨組みを剥き出しにして適当に積み重ねたような構造体が、瞬く間に無数の熱線に焼き切られ赤熱した断面を
当然、プラットホームの内部は大混乱だ。
避難して来ていた宇宙船の乗員、以前からの住民、不運な滞在者、そして港湾労働者組合員が逃げ場を求めて右往左往走り回っている。
いかんせん長くプラットホームで働く者さえ、場当たり的な増改築を繰り返した内部の構造の全てを把握する者はいないのだが。
「交差射撃を受けています、司令。プラットホームを盾にし攻撃面を制限するべきかと」
「まぁフロストの立場ならそう言うしかないだろうが却下だ。
テンペスタと第2勢力艦隊の中心へ移動。ECM、ECCM、エネルギーシールド最大展開。ウェポンフリー、派手に撃て。
手詰まりになったらエイム出してくるぞ。ブレイズ」
『いっそこっちから突っ込んだらどうだー?』
「テンペスタの方はともかく、横槍入れてきた連中はちょっと得体が知れない。ギリギリまで腹を探る。まだ仕掛けない。
想定外の発進があるかもしれないからそのつもりで。向こうのお手並み拝見だ」
猛攻を受けているアルケドアティスだが、赤毛はここで双方に距離を詰め、あえて攻撃を受けやすい位置に移動するという判断。
エイムに乗り待機中の揉み上げ機動隊長の意見は、慎重を期して却下した。
両陣営の間に入り、アルケドアティスを挟んだ状態での同士討ちと、プラットホームから攻撃を遠ざける、という作戦を取る。
同士と言っても両者が仲間のようには見えないが。
艦尾ブースターを吹かし前進する、頑丈極まりない強襲揚陸艦。
分厚い装甲に無数のレーザーを受けながらも、撃ち返す火力は1300対1で全く引けを取っていない。
敵艦隊の間を薙ぎ払う青いレーザーは、一撃で十数隻の装甲を撃ち抜き大爆発を起こさせていた。
かと思った直後、所属不明艦隊の後方部隊がスルスルと目立たず動くと、前衛艦隊の援護でプラットホーム後方に滑り込んでいく。
「チィ……織り込み済みか。最初からこっちと入れ替わりでプラットホームを盾にする気だったな」
「我々がプラットホームを守る立場であるのを見透かされていますね。このままだと遮蔽物の陰から一方的に撃たれることになりますが」
「僚艦に阻止させろ。動いた敵別動隊の動きをけん制。プラットホーム後方に位置させて敵に安全地帯を取らせるな」
後から来た艦隊は、アルケドアティスと自陣の戦力差をよく理解した上で、盤上の戦術で詰めに来ている。
プラットホームを離れるように仕向けられ、その上でアルケドアティスの火力を封じ込めるような細工に、赤毛は艦長席で脚組みして考え込んだ。
この仕込みは、いきなり思い付いてできるような動きではない。以前から近場で情報を取集されていたはずである。
「プラットホームに避難した船に紛れ込んでいた、か。となると……。あっちにも何か仕掛けられているな」
ならば相手はこれ以上何を仕組んで来るだろう、と考えた唯理だが、それに思い至るのと背後から攻撃を受けたのが同時だった。
プラットホームの外壁に設置されている砲塔からの攻撃だ。
元々自衛用に装備していたのか、アルケドアティスの不意を打つ為に新しく備え付けたのか、そこは分かったところで意味もないのでどうでもいい。
「機動部隊にプラットホームの武装を排除させますか?」
「それもいいけどまずは連絡だな。シールドのパワーは!?」
「フォースシールドジェネレーター88パーセント! グラヴィティーシールド75パーセント! 一次装甲ブレードアーマー耐久能力は現在80パーセントです!」
「プラットホーム後方の敵艦からエイムの発進を確認! 数300! 敵艦の阻止は失敗です!!」
「敵艦隊より大型のプロジェクタイル射出確認! 接触まで0秒!!」
「不明艦隊前衛からも敵エイム発艦を確認!」
「距離を詰められる前に迎撃しろ。最優先」
畳みかける不明勢力からの攻撃。ほぼ単艦で戦わなければならないアルケドアティスに対して、十分に数の有利を活かしている。
プラットホームの背後に回り込んだ敵艦隊からの、味方艦への攻撃。レーザーと同時に来る、対シールド兵器と思しき
「やれやれ、この局面は完全に負けだな。
組合長、村雨です。そちらの状況はどうなってます」
絶え間なく赤い光線が放たれている舷窓からの景色を背にし、赤毛の目の前にサングラスかけたハゲのおっさんの顔が投影される。
『どーもこーもないよ、今までの違法建築のツケが一気にドバっと、って感じだねぇ。居住区から荷上場からバラバラになっちって、もうダメだなこりゃあ。
どこの連中とやり合ってるかは知らんが、こっちを救助する余裕なんかあるのかい?』
いつも寝ているような腹の出ているオッサンは、背後が阿鼻叫喚の様になっていても、いつも通り
すぐ近くでは、長女のキャサリンが避難指示を出し声を張り上げている。
アルケドアティスのセンサー
気密はとうに失われており、噴き出す空気がプラットホームを本来の軌道から動かしてしまっている。
このままでは惑星上に落ちるばかりか、脱出の間もなく真空宙に放り出されるか大気圏への突入で燃え尽きるかと思われた。
「組合長、スキャンでも確認しましたがプラットホームの内部に爆発物が仕掛けられています。特に構造負荷がかかる部分を吹っ飛ばすように設置されているので、プラットホーム全体の崩壊は避けられません。
それに連中、私をそちらの救助と攻撃への対応の板挟みにしたいようで身動きが取れません。こちらからの救助活動は難しいですね」
フンッ、と鼻を鳴らし、気に食わなそうに赤毛が言う。
戦争の本質とは、敵の嫌がる戦術を実行するということだ。
不明艦隊は、唯理の性格や行動原理を考慮に入れて作戦を立てている。
そして完全に、相手の目論見通りにハメられていた。
「編成だなんだとバタバタして足元を固められなかった、そこを完全に突かれました。
そっちを助ければ向こうのエイムに距離を詰められて取り付かれます。
かと言って襲撃に対応していたら、その間にプラットホームはバラバラ、ということです。そろそろ、見せしめにどこか吹っ飛ばされますか」
『んじゃぁおいら達はこのまま嬲り殺しって事かい。悪辣だねぇやり方が。
まぁ最近はここも得体の知れない連中ばかりだったけどな』
『ばッ……!? 爆発ですか!? そんな!!』
それなりに深刻なのだが、どこか緊迫感なく話をしている赤毛とハゲ組合長。横で聞いていた長女は真っ当な反応をしている。
赤毛を揺さぶる為にプラットホームの一部が爆破されるというのも、現状を見ればありそうな話だ。
アルケドアティスの至近で派手な爆発が連鎖し、艦内も激しく振動していた。
正面の舷窓が採光量を自動調整し暗くなる。続けて降りるシャッター。
艦橋内も薄暗くなり、外部を映すカメラ映像が大きく表示されていた。
不明勢力が出撃させたエイムを、アルケドアティスも機動部隊を展開し迎撃に移っている。
手が離せる状態ではなく、プラットホームへの救援は絶望的だった。
ここまでお膳立てをしておいて、唯理を追い詰めた相手は運が悪いとしか言いようがないだろう。
運が悪いのは赤毛娘もだが。
「組合長、全員連れてプラットホームの中央、キール部分に移動してください。中へ退避を」
『はぁ? いやお嬢ちゃん、プラットホームの中心部分なんて何があるかおいら達も把握できてないんだがね。
古過ぎて中の制御システムとかもサッパリで――――』
「そっちは開けておくので問題ありません。全員が避難を終えるまで、こっちはもう少し向こうの狩に付き合って見せますよ。それでは、後ほど」
なぜヨソから流れて来た赤毛の少女が、プラットホームの内部事情に関する事を請け合えるのか。
当然の疑問であったが、組合長がそれを口にする前に、唯理は通信を終わらせた。
忙しくなってきた為、という事にしたい。
「ったく……結局こうなった」
「私は彼らに感謝するべきでしょうか」
「笑えない冗談だなフロスト。艦をプラットホームの距離1キロまで着けろ。ブレイズ、外壁の火器を掃除して。
プラットホームを再スキャン、接舷できる場所を探して内部の人間を救出する。ように見せかけるぞ」
盤面の差し合いに負けた上に不本意な流れになった、と赤毛の艦隊司令は
フリートマネージャーの真意の方は不明である。
唯理だって言われなくても分かっていたのだが。
時間もないのだから、
「プロジェクタイル弾第4波迎撃中! 左舷側レーザーセルF群強制冷却に入ります!」
「不明艦隊より新たなエイム部隊! 数60!!」
「プラットホーム後方敵集団がプラットホームに攻撃中!」
「電子防御の強度低下してる! センサーノイズ増えてるし! これ多分1時間もしないで暗号プロトコル解析されて使い物にならなくなるよ!!」
正体不明の艦隊は巧みにアルケドアティスの火力を制限してくる。
対して、アルケドアティスは手足を縛られての長距離走を強いられ、ここに来て防御容量の限界が見えてきた。
電子戦でも通信やセンサーの暗号パターンが解析されてきたようである。徐々に精度が怪しくなっている、というのは柿色眼鏡少女ロゼッタの報告。
ブレイズとエイム機動部隊を一部プラットホーム側に振り分けたので、敵エイムに対する防御も薄くなっていた。
このままではアルケドアティスに取り付かれ、防衛火器での迎撃が難しくなる。
と、誰もが思う。
「わたしも出る。直掩機はわたしひとりでいいだろ」
「司令」
「切羽詰まったように見せるだけだよ。船からは離れないー。
船を接近させたら別命あるまで対空防御に専念」
自ら最前線に突撃する、と言い
あっさりとしたセリフだったが、傷面のフリートマネージャーは当然の苦言を呈す。
その懸念は理解できるものの、唯理は考えを変える気は無かった。
自分はあくまでも現場の人間。いち兵士なのだから。後方でふんぞり返り部下を
先の思いやられる艦隊だった。
【ヒストリカル・アーカイヴ】
・消波装甲
存在の発する波を利用したレーダーシステム、導波干渉儀に感知されないよう自らの波を抑える、または自ら発する波を打ち消す逆位相の波を発生するメカニズムを持つ装甲。
装甲とは呼ばれるが強度を犠牲にする場合がほとんどであり、実質的には消波システムと言うべき装備。
・
強襲揚陸艦アルケドアティスが独立稼働する一次装甲を艦本体に密着させた基本形態。
長期間に及ぶ自己修復時に、過去の戦闘経験から一次装甲を外部展開させる
・ECM/ECCM
電子妨害、対電子妨害の略称。装置、または戦術を意味する。
物理的破壊を伴う攻撃行為と同時並行して行われる、敵対する相手の用いる電子装備を制圧ないし無効化する為の戦闘である。
センサーに対する偽装情報の送信、ランダムかつ高出力なデータ送信によるスキャン妨害、通信波の妨害又は傍受、などがこれにあたる。
・ウェポンフリー
行使し得る全ての武装に対する使用許可。
指揮官が射手に対しあらゆる手段での全力攻撃を行える裁量を与える命令。
・プロジェクタイル
被投射体。自己推進能力を持たず、射点より一定方向へ投射される物体。
レーザーやビームのような熱エネルギーによる対象の破壊ではなく、物体の質量と運動エネルギーを用いた衝撃力による破壊を目的とした攻撃用物体。
レールガンの弾体がこれにあたるが、自己推進能力を持つキネティック弾をプロジェクタイルウェポンと分類する場合もあり、エネルギー兵器に対する実態兵器として認識されるのが一般的。
・キール
船の中心を貫く最重要の構造材。竜骨とも言う。
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