159G.リラクゼーション ナチュライゼーション

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 天の川内銀河インサイド、ノーマ・流域ライン、アクエリアス星系グループ近傍宙域

 臨時船団、強襲揚陸艦『アルケドアティス』。

 艦長室(仮)。


 数時間前までは、大変な状況だった。


 騎乗競技会終了と同時に伝えられた、天の川銀河最大の連合国家、シルバロウ・エスペラント惑星国家連邦、中枢部の崩壊。

 それにより、一気に情勢が不安定となる銀河の文明圏。

 競技会に参加していた聖エヴァンジェイル学園騎乗部も急ぎ学園に帰ろうとするが、そこでメナスという全人類の天敵に襲撃されてしまう。


 5万個体という絶望的な数のメナス艦隊に追い詰められる聖エヴァンジェイル学園騎乗部と、同道していた臨時船団の260隻。

 だがこれを、赤毛の少女、村瀬唯理むらせゆいりの指揮する強襲揚陸艦アルケドアティスと、本人の搭乗するヒト型機動兵器が迎撃。

 大きな損害を被りながらもメナス艦隊を殲滅し、目的地であるアクエリアス星系を前に、ひと時の穏やかな時間を迎えていた。


               ◇


 クラウディア・ヴォービスは聖エヴァンジェイル学園騎乗部の部長、という立場だ。

 だが元々は、ただの良いとこ・・・・のお嬢さま。それも、学園に隔離されるまでは地元で遊び呆けていた口である。


 それが、将来を悲観したのでエイム乗りという手に職付けようとしたら、先生役の赤毛に人類でも上から数えた方が早いようなエイムオペレーションを叩き込まれ、気が付けば競技会で実戦でもやらないような殴り合いを演じた上に、メナスというバケモノ相手に生きるか死ぬかのチキンレースを戦い抜くハメになっているという。

 誰のせいでもないのだが、一介の女子学生が乗り越えるアクシデントとしてはちょっと大変過ぎない? と、落ち着くと改めて思う次第である。


 夢に見るほど大変な思いをしたので、疲労の限界にあったクラウディアは悪夢から抜け出せないほど爆睡していた。

 目が覚めてからもボーッとしており、少し上にルームメイトの美貌があっても、(なんか近いところにいる)と寝ボケた感想した持たなかった。


「ああ……おはようございます、ディー。よく眠れましたか? 昨日はお疲れ様でした」


「んぅ~…………ユリさん……なにやってんのぉ?」


「整備ステーションの予約順番の入れ替えとか……あとメイドさんたちの仕事の連絡ですね。

 いま操舵してもらってますけど、もうアクエリアス星系に入ってますよ。スコラコロニーまで6時間というところです」


「ユリさんは……また眠り浅かった?」


「慣れてるので、これでも結構休めているんですよ。仮眠さえ取れれば半年くらいは連続でも戦えます」


 仰向けに寝ている赤毛娘は、頭の上にホログラム映像を出して何かしら操作している。

 寝ボケていない。いつも通りだ。

 アルペンビルスク星系を出てから、クラウディアはこの娘が熟睡したのを見た覚えが無い。低血圧なので、いつも寝起きはヒト型ロボットのようなぎこちない動きになっているのに。


「…………疲れてない?」


「そうですね……少し平穏に慣れ過ぎていたので、気疲れみたいなものがあるかもしれませんけど。

 この程度なら問題ありません。もっとタフな現場はいくらでもありました。すぐに取り戻せます」


 微かな笑みを見せて、赤毛のヤツは頭上で投影されていた画面に目を戻した。

 平然として見えるが、ひたすら真剣なのだろう。

 学園でも競技会でも、それに危険な航海の最中さなかでも、常に平静で穏やかな顔を保っていたが、いつだって皆を守る為に力を尽くしてくれた。

 根拠無く強がって見せることも、皆を怯えさせることもない。

 どれほどの困難に直面し、どれほどの絶望と対面しても、どこかでこの赤毛の少女がいてくれることが最後の心の支えになっていた。


 でも、この娘は誰が支えるのだろう。


「むー…………」

「ぉう? ディー??」


 弱音も吐かず、ひとりで辛いのを隠し頑張っているのを想像したら、どうしようもないほど胸が締め付けられるクラウディアである。

 我慢できなくなったので、そのまま赤毛のルームメイトに強く抱き付いてしまった。


 胴にしがみ付かれて少々驚く唯理だが、先日までの疲れもあるだろうし、何より怖い思いをしていたのだろう、と相手の好きにさせることに。

 兄貴気質ではあるが、包容力も完備の赤毛である。


(うう……この思いっきりギュッとさせてくれるの好き。すごく弾力があるのにフワフワでじんわり温かくてイイ匂いまでするぅ……)


 赤毛の抱き心地は最高であった。見ただけで肉付が良いのは知っていたが、直接触れると詰まっている感じが他に類を見ない心地良さ。

 特に枕にしているオッパイの柔らかさは尋常ではなく、どこまでも沈み込みそうなのにクラウディアの顔をしっとり包み込むように迎えてくれる。

 極上の肌触りと感触に、思わずグリグリ顔を擦り付け深呼吸までしまうルームメイトであった。


 そんなこの世のヘヴンに浸っていたクラウディアだが、フと目を開けたところで、真っ赤な顔で見下ろしているマシュマロ少女と目が合ってしまう。


 ボケていた騎乗部部長の脳が急速に覚醒。

 慣れない環境で忘れていたが、自由に使える部屋がひとつだけだったので、19名全員がここで就寝していたのだ。

 そして今の自分がどんな風に見られていたかを考えると、物凄くスタイルの良い赤毛の超美少女に甘えた声出してベタベタ甘えているのを騎乗部と創作部の仲間たちに恥じらいも無くフルオープンしている我が身という。


「違うよ!!?」


 飛び起きて叫ぶや、クラウディア部長は赤毛のルームメイトをベッドから突き落とした。

 気が付けば、上気した顔で見ていたのはマシュマロのプリマだけではなく、基本的に部の全員。

 ネコ目がトロンと溶けているおかっぱ、耳から湯気が出ているロボ子、大きな目が充血している単眼など。

 皆が今まで無言で、赤毛の少女と華奢な金髪娘の全年齢対象ベッドシーンを観賞されていたワケだ。


「違うってぇ! だってちょっとなんか寝ていて気付かないところでたまたま抱き付くのに良さそうなのがあったからさぁ!

 普段はこんなことしないよだってこのほぼ裸だし!!!!」


「や、やっぱりふだんはハダカで抱き合ってたり…………するんです?」


「そこだけ拾うな! いや意外と攻めてくるなプリマさんは!!」


「なに恥らうことはない、クラウディア部長。仲の良いルームメイトは9割9分そういう仲なのは当然だよね」


「そんなワケないだろエロ王子がぁ! そりゃエルさんの願望だろ!!」


 クラウディアはお嬢さまを投げ捨て、メナス相手に防戦していた時以上に必死だった。あまりに絶望的な戦い。

 だが、どれだけ必死に潔白(?)を訴えても、その必死さがかえってふたりのただならぬ仲を証明しているようにも感じられてしまう。

 そうでなくても以前に似たような事があったのに、今回は甘々な場面まで大勢に目撃され、ちょっと言いわけ不能。

 半泣きのクラウディアも、その時の自分の甘えっぷりを思い返すと恥のあまり自爆できそうである。


 ベッドから突き落とされた赤毛はというと、艦橋ブリッジを任せたメイド部隊から通信が入ったので、嵐の部屋からそっと出て行った。


                ◇


 ノーマ・流域ライン、アクエリアス星系グループ

 アクエリアスG4R:F静止衛星軌道上、スコラ・コロニー近傍宙域。

 強襲揚陸艦アルケドアティス艦橋。


 有人惑星が存在せず、小さな恒星もギリギリその質量を維持しているような、寂しい星系。

 星系外縁には一般的な寄港用のプラットホームも無く、定期航路から外れる為に通常は訪れる者もない宙域。

 そのような立地条件の為に、隔離場所として適当とされ置かれているのが、白いタマゴ型のコロニー構造体ストラクチャ

 聖エヴァンジェイル学園のある、スコラ・コロニーである。


「帰って来たぁ…………帰ってきましたよぉ!」

「1,000時間も経っていないのに……ずいぶん長い旅をしてきたような気がするね。今までで一番長い旅だったかも…………」

「はー、ここに入れられた時は人生終わったくらいに思いましたけどねー。まさか帰って来て安心するとは…………」


 舷窓の拡大映像を見て、単眼娘がネコ目やマシュマロと抱き合い飛び跳ねていた。

 いつも涼しげな顔をした学園の王子さまも、今は大きく安堵のため息をついている。

 黒いウサ耳のロック女子は、ホケッと気の抜けた顔で脱力し猫背になっていた。


 片髪ロング少女や銀色ロボ子、紫肌の高身長女子といった他の面子も、口には出さないが万感胸に迫るとはこの事だった。

 以前は、何も無いどこにも行き場のない学園に辟易していたものだが。

 その感情の変化が、メナスの脅威によるモノか、いつの間にか芽生えた里心によるモノかは、誰にも分からない。


「ロゼ、コロニーのポートコントロール。船団の受け入れ準備と管制データリンク。ユーマ、メイファ、本艦は管制誘導に従い微速前進、コロニーに寄せろ。エル会長は全船団にアナウンスよろしく。

 ヨハンナ先生、学園とコロニー管制部に帰還の連絡をお願いします。ディーは騎乗部を指揮してエイムで出撃待機。ブレイズの部隊は直掩を継続」


 赤毛娘は、いつも通り背筋を伸ばして自分の仕事に集中していた。

 柿色メガネ少女、ロゼッタにはコロニーへの船団の受け入れ作業に専念させる。

 茶髪をツーテールにした愛嬌のあるメイドさん、ユーマ・ナインと、黒い長髪に赤いメッシュを入れているのんびりメイドさん、メイファ・ワンには操舵を任せていた。艦橋ブリッジ最前列の操舵席でレバーを握っている。

 王子さま生徒会長とシスターは、内と外への連絡担当。

 非常時に備えて騎乗部のエイムが発進待機しているのはいつもの事だが、現在は背の低い赤いエイム集団、『ブラッディトループ』が船外での警戒にあたっていた。


 惑星の軌道上に浮かぶタマゴのようなコロニーへ、3対のシールドブレードを翼のように広げた強襲揚陸艦を先頭に、88隻の宇宙船がゆっくりと近付いていく。

 その周囲から船団を追い抜き、進路を確保するヒト型機動兵器エイムの集団。

 本来ならば誘導灯が炊かれ宇宙船を歓迎するように光を放つコロニーも、現在はひっそりと沈黙したままだ。

 満身創痍の船団は、アルケドアティスの管制に従い最後まで歩調を合わせ航行を続ける。

 誰もが疲れ切り、静かに身を寄せているようだった。


 だがこれもまた、ひとつの航海の終わりに過ぎないのだと。

 赤毛の少女は次の展開を予想し、無表情のまま誰にも見られないように肩を鳴らしていた。


               ◇


 天の川銀河、ノーマ・流域ライン、アクエリアス星系グループ

 アクエリアスG4R:F静止衛星軌道上、スコラ・コロニー。

 港湾区画、格納庫。


 メナスに察知されるのを警戒し、入港の際も光などの信号は発信させなかったワケだが、一方で内部の方は大変な騒ぎになっていた。

 格納庫脇通路にある窓を、埋め尽くすような人混みの姿。

 その大半は揃いの制服を身に着けた、聖エヴァンジェイル学園の女子生徒たちであった。

 

 だが、少女たちの様子を見ると、それは帰還した仲間を迎えるといったような明るい顔ではない。

 不安と戸惑い、それに僅かな期待を抱えた表情だった。


「普通生徒はバックヤード側に入れないだろ、校則で。ねぇシスター?」


「そ、そうですね……。シスター学園長が開放したのかも知れません。こういう状況ですし、もう授業どころではなくなっている、という事も以前に聞いていますから…………」


 聖エヴァンジェイル学園の校則において、生徒は基本的に学園の敷地内から出てはならないことになっている。

 平穏で穏やかで、美しく整えられた学び舎という舞台の上で、誰からも望まれる淑女として育てられる。

 それが、この学園のコンセプトだ。

 ましてや、学園のある上部居住エリア、その下部にある基幹エリア内に入ることなど許されないはずだった。


 実際には、生徒が自由に学園の下の港湾部まで入り込んでいたのだが。


 もはや学園側も、少女たちを統制出来ずにいるのは明らか。

 実は分かって聞いているロゼに対し、引率のシスターは戸惑いを隠せずにいた。


「騎乗部と創作部の子たちは降りていいでしょう。他の船の乗員は許可を取るまで待機をお願いします。

 エイク、船を任せる」


「かしこまりましたお嬢さま」


 ラベンダーグレイの髪と糸目のメイド長に留守番を頼み、赤毛と学園女子組はアルケドアティスを降りる事に。

 元々学園の生徒なので、入園許可の方も問題ない。

 だが、臨時船団のその他の乗員は、元々コロニー内に入る予定ではなかった為、当然ながら許可など無い。

 その辺りのことも、コロニーと学園の責任者に確認しなければならなかった。


                ◇


 タマゴを横倒しにした上半分、中心に人工河川が通り古風な街並みと綺麗な学園のある居住エリアと違い、下半分は機械設備の密集した殺風景で狭く複雑に入り組んだ区画となっている。

 しかし分かってしまえば、所詮ひとつのコロニーなのだ。上と下を行き来する通路は非常に多かった。

 軍施設でもないので、セキュリティーもそう硬くない。それこそ、赤毛の不良が学園を抜け出し頻繁に利用する程度には。


 大勢の生徒が使っているであろう主要通路を避け、唯理と騎乗部創作部の女子たちは、下層エリアから学園の中に直接出た。

 懐かしの、使われていないエイムが放置されていた整備用通路サービスルートだ。

 日の当たらない狭い道を出ると、そこはずいぶん懐かしく感じる学園の裏庭だった。

 当然だが、古風でシンプルな背の高い本校舎も、横に長い生活棟も、それに生徒が寝泊まりしている寮棟の姿も変わりがない。

 ただ以前と異なり、生徒の姿は全く見えず閑散としているようだ。

 その中を、赤毛とシスターを先頭とした一行は、中庭から本校舎を挟んで反対側に隠れるように存在する教育棟へと向かった。


「ああ、おかえりなさい皆さん! よく無事に戻って来てくれましたね。道中大変だったでしょう」


 他の建物に比べると、低く小ぢんまりとして目立たない外観。ただし、内装は時代相応のスマートで高機能なモノとなっている。

 そこの2階学園長室に、シスター・エレノワの姿はあった。

 平坦なよそおいの室内にあって、こちらは伝統的な黒い修道着の妙齢の美人シスターだ。

 厳しい学園長ではあるが、今は心からの微笑みで遠征に出ていた生徒たちの帰還を喜んでいた。


「ただいま戻りました、シスターエレノワ! 学園の方も無事で何よりでした!」


 引率者として長時間の緊張を強いられていた若いシスター、ヨハンナも学園長の前で涙声になっている。

 ひとまず、生徒たちを無事に学園に戻すという重圧から解放されたということだ。

 問題は解決しておらず、全銀河規模で安心できる状況ではないが、少なくとも今は頼もしい上司がいた。


「連邦の中央があのような状態になって、保護者と連絡の付かない生徒も多く出ています。迎えに来られる家族の方はほとんどいません。

 先行きを不安に思う生徒ばかりで、もはや授業どころではなくなっています……」


 とはいえその上司、いつも毅然として何事にも動じないシスター学園長としても、今の状況は手に余るようだ。

 なにせ事態は全銀河レベルの危機である。

 この最中さなかで学園と生徒を守る為に、自分の無力を感じながら力を尽くし続けるのは並大抵の精神力ではなかった。


「ここも安全とは言えないかも知れません。警備のPFCは契約相手の契約不履行を理由にここの警備を放棄しました。

 いつの間にかコロニーに常駐していた管理部のヒト達も消えています。

 酷いものですね……。大切な子供に最高の教育を施す為の重要な教育機関、などと偉そうに言っておきながら、結局は誰も本気でそんなことは思っていなかったのでしょう。

 彼等はコロニー内に戦艦クラスの船まで隠し持ち、この状況で自分たちだけ逃げ出したとか聞きました。それがあれば、多少なりとも生徒を脱出させられたかもしれないのに…………」


「あ、それ多分わたしのアルケドアティスです」


 悔しさに耐えかね、ついには普段絶対に言わない愚痴のようなモノまでこぼしてしまうシスター学園長。

 だったが、心労をかけてくれた原因のひとつが赤毛の問題児と聞き、タイミング悪くタガが外れていたこともあって、助走付けてドロップキックをぶちかましていた。

 在学生時代にルームメイト相手に鍛えた必殺技である。


               ◇


 シスター学園長から聞いた通り、タマゴの頂点に薄いカラのように張り付くコロニー管制部の本部は、空っぽだった。

 元々学園側と全く接触の無い人員が詰めていたそうだが、コロニーの制御は完全自動に設定されており、何年も放置されていた模様。

 清掃も自動で行われていた為、実際いつからそこが無人なのかは不明である。


 ついでに、学園運営の母体となる財団は連邦中央のサンクチュアリ星系に存在した為、当然ながら連絡がつかない。

 よって、今はスコラ・コロニーの舵取りも、当事者だけでやらなければならなかった。


「はぁ……? コロニー全体が星間文明時代以前のデザインになってんのか」


「うわー、こりゃ金かかってるぅ」


「で……でも全部無人なんですよね? もう凝ってるとか贅沢というレベルじゃなくて、ここまでくると病的ですよこれ!?」


 コロニー内へ降りる許可が出ると、宇宙船内に詰め込まれていた乗員や避難者が一斉に船外へ出てくる。

 そこで多くの人々が目にするように、PFC『ブラッディトループ』の揉み上げリーダー、ギザ歯ツーテール、デカい金髪女の三人も、コロニーの街並みを呆れ半分に見ていた。

 何せそこにあったのは、古風で小洒落ていて品も趣味も良い、空っぽな無数の家々の姿なのだから。

 だがこれが何の皮肉か、避難してきた人々の一時的な受け入れには実に好都合だったという。


 宿泊施設など無い、学園を収めておくことだけが存在意義のコロニーだ。

 それら映画のセットのような家に、寝具など最低限の家具を持ち込み、人々はようやく人心地ついていた。


 本来は背景に過ぎないはずのコロニーの街に、人工の空の照明が落とされ夜時間になると、生きた生活の明かりがともる。

 人口の増加、避けられない女子生徒と外から来た人々の交流、戦時下にあって緊張の中でにわかに賑やかになるコロニー内。

 一方で、赤毛の少女や学園長、それに臨時船団の主だった面子は、今後の行動を打ち合わせている。

 休む間もなく、次の航海は既にはじまっていた。





【ヒストリカル・アーカイヴ】


・アクエリアスG4R:F

 アクエリアス星系Gの中心となる恒星から数えて4番目の距離にある主に液体Rで構成される惑星、連邦F圏所属。という意味になる。

 個別の名称を付けるまでもない、とされる惑星は、その属性がそのまま登録名となる。


・スコラ・コロニー(ネイティブ)

 連邦中央のある財団を母体とし、ハイソサエティーズの子女を隔離、教育する為の学校機関を設置すべく建造された特別製コロニー構造体ストラクチャ

 国家の枠組みを越えた出資を募っており、星系政府の予算規模に匹敵する潤沢な資金で以って贅沢な設計仕様となっている。

 その最大の特徴は、コロニーの上半分を全て使った惑星上の環境を再現した居住区画。

 これには、聖エヴァンジェイル学園を名門とするアリバイ作りと、隔離される女子生徒らの大半が元はハイソサエティーズである事への配慮、といった理由がある。

 また上部居住区だけではない、下部に存在する基幹区画も非常に高性能な作りとなっている。

 あらゆるシステムが自動化、省力化されており、完全無人のまま数年は完璧に稼働するほどである。


・ドロップキック

 起源惑星における古代の超人、プロレスラーの基本的蹴り技にして奥義。

 飛び上がり、両足を揃えて膝を曲げ力を溜め、自重を乗せて敵に叩き付ける一連の攻撃的技術を言う。

 子供を守る聖職者の格闘術として、現代まで連綿とその精神と共に受け継がれている。




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