141G.テンプレに収まらない少女たちとテンプレ職人芸
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天の川銀河、ノーマ・
第6惑星『ソライア501』。
装甲の端から真っ白な筋雲を引き、ヒト型機動兵器が大気中を猛スピードで飛翔していた。
その空気の壁を突き破り、翼を背負うエイムは背面と脚部のブースターを燃やし、甲高い音を響かせ光の輪へと飛び込んでいく。
『チーム「ソフィスカヤ・メディカ・EC」、リバースラインのもたつきを挽回するような高加速。オペレーターのルル・ベルフィールドの、力の入るオペレーション』
『ソフィスカヤ製薬は毎回レギュレーションに触れない耐Gインジェクションを用いた挑戦をしており、これは同社のプロモーションも兼ねていますねー。
ですがコース飛行を行う大気圏内ではエイムの加速もあまり伸びませんー。本命は宇宙空間の競技からでしょうか』
『大気圏内のコース飛行は空力をどう処理するか、技術スタッフとの連携つまりチーム全体のコンセンサスが試されるところです。
ここで「ソフィスカヤメディアEC」ベルフィールド機、最後のチェックポイントを通過ー。
チーム記録はー……僅かに更新、チームの
『リバースポイントのゲートをスムーズに通過していれば大きく伸びていましたねー。これは残念。ソフィスカヤメディカECは後続に望みを繋ぎます』
大スクリーンの表示が、コース飛行のライブ映像から録画されたハイライト場面へと代わっていた。
映像の中では、落ち着いたふたりの男性が解説を続けている。
はるか遠くの大地に巨大建造物が霞んで見える惑星の空。
短い腕部マニュピレーター、翼のようなモノを履いた脚部ランディングギア、そのような大気圏内セッティングを施されたエイムが、複雑に設定された空のコースを猛スピードで蛇行していた。
『では次の出走、本大会からの初出場となるチーム「聖エヴァンジェイル学園騎乗部」ふたり目のコース飛行となります』
『第一走、
『「聖エヴァンジェイル学園」は公開練習を行っていませんが、大会委員会に申告された参考ステータスに偽りは無いということでしょう。
第二走はチームリーダーのクラウディア・ヴォービスです、エイムがスタートポジションに入りました。
いまー…………スタートですッ』
映像は再び騎乗競技会場、コース飛行の行われる惑星大気圏内のライブに。
レーザーで区切られる立方体の枠の中には、角の取れた装甲に大型の頭部センサーアレイを装備したヒト型機動兵器、『メイヴ』が
搭乗オペレーターは、ほっそり華奢な金髪少女、騎乗部部長のクラウディアである。
そこに入る外部からの通信。
『チェックポイントの配置もそれほどタイトなモノにはなりませんでしたね。難しいコースでもないと思います。
既にシミュレーションでもレクチャーしましたが、惑星内の大気は加速を阻む障害物であるのと同時に、空気抵抗を利用した足場にもなり得ますから、軌道偏向に上手く使ってください。
練習通りにやれば問題ありませんよ』
ついにはじまった、エイム乗り(志望)としての力を試される舞台。
観戦する無数のヒトの目、他のチームの競技、大気圏から真空の宇宙に広がる会場を覆い尽くすような熱気。そういったモノを肌で感じるクラウディアは、心臓を爆動させ頭の中を真っ白にしていた。
通信では赤毛のヤツが涼しい顔で気楽なことを言ってくれるが、そりゃ貴女はそうでしょうよ、と恨み言を言いたくもなる部長である。
◇
走り出しこそぎこちないクラウディア部長であったが、コース飛行では比較的優秀なタイムを叩き出していた。
出場者は全体で903人、個人成績においてクラウディアは403位に付けている。
技量的にはもう少し上にいるのだが、競技会経験者は無駄の無いコース飛行で着実にタイムを縮めてくるという、年季の差が大きいようだった。
ほかの部員、長身の王子様女子、エルルーンは見た目を裏切らない華麗な飛行でミスなくチェックポイントを通過し、155位でコース飛行競技を終える。
片目隠れメーラーのフローズンは、速度より手堅いチェックポイントの通過を心がけた為か、部長に近い395位という結果に。
無邪気な天才的外ハネ、ナイトメアであるが、懸念材料のムラっ気が祟りチェックポイントの通過でミスを連発した為、240位。
そして、最後に競技へ挑んだ茶髪イノシシのサキは、とにかく加速するという飛び方で237位になっていた。
なお、
やる気の無い一名を除けば、チームは事前の想定より上の順位に入っていた。
「あははー、上行ったり下行ったりするとリングを見失うことがあるよねー」
「闇雲に飛ばすからよ、ナイトメアさん」
「他の方のことを言えませんサキ様」
「宇宙と違い風に乗るあの感覚は楽しいね。少し故郷に戻りたくなったよ」
「中間より、少し上か…………」
出場者用の
既に競技を終えたチームの映像と、そのスコアボードだ。
エヴァンジェイル学園チームの競技の様子も流されており、外ハネ少女が自身の無駄な高機動を見て照れ笑いし、それを
学園の王子様は涼しげに笑っている一方、スレンダーな部長は微妙な戦績に難しい顔である。
単眼少女ら創作部の技術陣は、センサー
整備ステーションの各所にあるセンサーヘッドがレーザーを照射し、メカ娘や黒ウサ耳が
まだ第一競技種目で消耗は全く無いと言ってよかったが、出撃毎に整備するのは機動兵器の基本だった。
「やはりこの辺大きくは抜け出せませんね。どのチームも確実にポイントを稼ぎに来ています。
次の編隊飛行までは、どこまで失点を抑えられるかが重要なのでしょう。ポイントを伸ばして差が出始めるのは、障害回避射撃からですね」
と言う赤毛のジャーマネも、
「まだ準備運動の段階ですが、総合点ではどの競技も均等に25パーセントを占めるので気を抜かないでください。
特にナイトメアさん、集中してフォーメーションを維持すれば問題無く高いスコアを取得出来るはずですよ。
ですから……落ち付いて」
「あーはは…………」
身体を
ここでポイントを稼げば、本命の障害回避射撃と模擬戦での追い上げが楽になる、と村雨ユリ様は続けていた。
そんなにプレッシャーをかけなくてもいいのではないか、という意見も部長や王子様からも出たのだが、ナイトメアのようなタイプはこの程度では委縮しないしお尻を叩いた方が効果的だと知っている。
才能もあるので、いっそ素の状態で某チンピラどものようにしごき上げたくなる赤毛であった。
◇
壁一面の透過金属製の窓スレスレを、三機ずつふたつの三角を形作るエイムチームが高速で突っ切って行く。
第二種目の編隊飛行は、宇宙空間、静止衛星軌道上にある競技会場の観覧席間近で行われていた。
この競技では、フォーメーションの形の美しさ、フォーメーションを切り替える際の動きが洗練されているか、またはその難易度が評価される。
だがそれら通常の評価項目とは別に、観客を楽しませる演出ができているかも隠された評価ポイントであるのが公然の秘密だった。
「おおー、凄いなー」
「ねぇアレはなんてフォーメーション?」
「こうして見ると宇宙の模様みたいだな」
高速で遠ざかるエイム編隊の姿が、窓の中で映像として枠に切り抜かれ拡大される。
歓声を上げて人々が見ているのは、エイムの最小構成とでも言うべき細い機体だった。
見た目と違い編隊飛行の方は早くスムーズであり、シンプルな機体が逆に動きの美しさを際立たせているようだった。
『3連続4連続のフォーム変更こーれは高度な技術です、シンメトリーに乱れもありませんー』
『チームが大きく軌道偏向しながら内側と外側のポジションチェンジにもズレがありません。これはカマロシティ・ハイムーバー、エイムの外見に合わず、失礼、今大会の注目株かもしれませんよー』
『素体そのままのような機体構成も戦略の内かもしれませんねー。カマロシティ・ハイムーバー、次の障害射撃が楽しみです』
解説のおじさんふたりからも、カマロシティ・ハイムーバーの評価は高い。
機体の簡素さも計画的なモノでは、と買い被られていたが。
それが単に貧乏していた為だと、当人から赤毛たちエヴァンジェイル学園の皆は聞いている。
その後も多くのチームが編隊飛行を行ったが、特に目を引いたのは黒いエイムで構成されたチームだ。
他にも黒を基調としたエイムは多くいたが、その6機は明らかに特別だった。
細部にまで意志の行き届いた造形、五体のバランスの良さ、洗練された各部パーツ、と。
ラーキングオブシディアン。
連邦軍の、ある星系艦隊。その下部組織となる軍学校に属する騎乗チーム。
用いるエイムは、ホワイトグレー、ダークグレー、ブラック、という軍事色が強く出たモノで、纏う装甲も今すぐ実戦に投入できそうな物々しさだった。
『さー競技会常連でありますラーキングオブシディアン、今大会からはオペレーターを一新したとの情報ですが――――』
『ラーキングオブシディアンいきなりの時間差スパイラルからのー……サリッサフォーメーション。出入りのタイミングも動きも完璧です』
『流石は連邦軍付属の軍事教練校、オペレーターの入れ替わりも杞憂でした。派手さではなく地力から格の違いを見せ付けてきます。
ここでフォーメーションの端の機体から一気に減速ー、アローフォーメーション』
『観覧席の目の前ピッタリですねー。多くのチームがスピードをアピールするのに対して、逆に視認しやすくする演出。悠々とした王者の行進もかくやです』
厳しい訓練を繰り返しているであろう、軍系学校チームの他とは一線を画す実力。
編隊飛行も、出来ることをやっているだけ、といった様子で、他のチームのように連続したフォーメーション変更や急機動といった派手なことをやる気は
結果として順位もそれほど伸びないが、競技内容からしてそれほど力を入れていないのは明らかだ。
にもかかわらず、評価点は決して悪くなかった。
ペンギンそっくりなスフィニク人チームや黄金一色のエイムのチームなどが編隊飛行を終え、競技会は順調に日程を消化していく。
様々な意匠のエイム、技術と演出を駆使した内容に、観覧席の盛り上がりも上々だ。
『はい次は競技会初出場となります「聖エヴァンジェイル学園騎乗部」の編隊飛行です』
『コース飛行では初出場とは思えないオペレーションを見せてくれましたこのチーム。実力のほどは疑うべくもありません。
この編隊飛行では特にチームワークがモノを言います。さぁここで再び上位陣に喰い込めるか』
『聖エヴァンジェイル学園騎乗部の6機が競技エリアに出ました。現在エリア内をフリー飛行中……。開始位置に着いて1分後にスタートです』
角の取れた印象のスタンダードなヒト型エイム、『メイヴ』の6機が競技会場を見下ろす待機エリアに入る。
ボール型機械の放つ緑のレーザーの手前に静止し、カウントダウンを待つコクピットの6人。
『ナイトメアさん動かないでよ!? カウントリセット3回で失格ですからね!!』
『んもー、さっきも聞いたよぉ、分かってるよぉ
『カウントだけに集中するのよ……余計なことを一切考えずただカウントに集中して0と同時に…………』
『サキくんはもう少し肩の力を抜いてもいいように思うね』
必死の形相でコントロールスティックを握る手も汗ばんでいる華奢な部長と、既に前しか見えていないイノシシ少女。
それに、いつも通りで緊張感皆無な天才外ハネ少女、いつも通り泰然としている王子さまである。
片目隠れメーラー少女も多少は緊張していたが、友人ふたりの通信を聞き肩の力が抜けていた。
我関せずなツインテドリルは呆れていた。
聖エヴァンジェイル学園の編隊飛行は、競技会場観覧席を大いに盛り上げる事となる。
なにせ、メチャクチャだったので。
ミスったのは、はやり髪も行動も飛び跳ねているナイトメアだった。エイムの管制システムによる案内より先に、フォーメーションを変更しようとした為である。
オペレーターが支援システムの指示を無視するのは、事態が極めて流動的に動く戦場では珍しくない。
だがこの娘は、頭の中にあるフォーメーション手順のみを頼りにして、段取りのチェックを怠った為にひとり突出。
編隊をブチ壊した。
ここで、赤毛のマネージャーが用意しておいた保険が発動。
ドリルツインテと王子様に、このような事態に備えてアドリブでフォーメーションを形成するようお願いしておいたのだ。
編隊の逆位置にいるエリザベートがナイトメアの動きに対応することで、フォーメーションの破綻を回避する。エルルーンはその補完だ。
結果、未知のフォーメーションが突然発生し、しかも軌道偏向が重なってドえらいアクロバティックな事になってしまった、と。
何がなんだかよく分からないがダイナミックで物凄い動きをしたぞ、と観客は認識し、非常に楽しんでもらえたようだ。
当然ながら評価点はよくなかったが。
「ナイトメアさーん!!!!」
「ふえぇえごめーん!」
「アレだけ言ったのに! バカな子! バカな子!!」
「いやまぁ完璧な連携を求めるには練習期間も短かったですが。リカバー出来たのは練習の成果だとも思ってますけども」
本来ならば赤毛のコーチが叱るところなのだが、先に部長がお仕置きを喰らわせていたようなので、自分はフォローに切り替えた。
練習する時間が足りなかった、というのも事実である。外ハネの迂闊だけを責められまい。
実際、高得点を求めるあまり、高機動の中で無理に高度なフォーメーションを試み失敗するというミスは珍しくなかった。
簡単にできるなら、競技として成立しないという話だ。
「コース飛行と編隊飛行の練習に比重を置かなかったのは、メニューを組んだわたしの判断でもあります。
この騎乗部の目的は競技会で実績を残して終わるのではなく、その後の実践に耐え得る技術を習得することです。
ナイトメアさんの得意分野もそこですからね。挽回を期待させてもらいましょう」
「はーいがんばるー」
「う……わたしはそっちが不安かも…………」
気の抜けた声で諸手を挙げ赤毛に応える、頬を赤くした外ハネの子。
一転して、
前ふたつの競技と違い、後ふたつの競技は戦闘機動の限界領域が求められる。
騎乗部内の実力順位的に、クラウディアは不安だった。
この部長も決して技量が低いワケではないのだが。
出場する155チームがコース飛行、編隊飛行を終え、この日の大会は終了。
騎乗部の総合成績は45位と、最終的にやや下げていた。
とはいえ、競技会的にも騎乗部の予定としても、本番は明日の競技。
反省すべきところは反省するとして、騎乗部と創作部の少女たちは船に戻り休む事とした。
そして翌日、競技会の様子もガラリと変わっていた。
【ヒストリカル・アーカイヴ】
・レジェティメイト・カレッジ
伝統的な教育機関全体を示す総称。明確な定義は無い。
・解説のおじさん
騎乗競技会の会場内ブロードキャストで一般来場者などに競技内容や見所を分かりやすく解説する役職のヒト。
単なる解説役に留まらず、そのキャラクターが名物となる人物もいる。
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