140G.ワイルドアームズ へヴィーメタルアニマルズ

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 天の川銀河、ノーマ・流域ライン。

 アルベンピルスク星系。

 第6惑星ソライア501、近傍宙域。


 円盤のような船首を付けた長い船体の大型宇宙船、ノマド『エクスプローラー』の旗船フラグシップが100隻近い宇宙船と共にゆっくりと進んでいる。

 命より好奇心の方を優先する粋狂者ばかりが所属する自由船団ノマドであり、好奇心を満たす為なら三大国ビッグ3とでも平気でぶつかるトチ狂った船団だと、ある意味有名な船団であった。

 それで存続していられるのは、研究者の集団としてバカにならない実績を上げているノマドでもあるからだとか。

 少し先を横切る船団を見て、キングダム船団でそんな話を聞いたなぁ、と思い出す赤毛娘である。


 白い大地の広がる南北の極点、緑に覆われる赤道直下の大陸、赤茶けた大地の地方、地表の全域を繋ぐ青い海。

 ソライア501という惑星は、自然の色も豊かな星であった。

 完全に惑星改良テラフォームの完了した惑星であるが、季節変動の大きな環境は今や保全の対象となっており、ヒトの出入りは強く制限されている。

 施設の建設や居住施設の建造などは、原則として地下や空中にのみ許可されていた。

 惑星全体が巨大な自然公園とでも言うべき存在、それがソライア501だ。


 エクスプローラー船団だけではない、多くの船が宙域を行き来している。レーダー画面には、常時数百もの機影が確認できた。

 ソライア501、そしてアルベンピルスク本星は、現在は祭り時のように賑やかになっている。


「騎乗競技会の参加者もたくさん混じっているんでしょうね……。そう考えるとなんかこう、胸の奥から震えてくる感じがする」


「競技会の方はデブリスイーパーほどの危険はありませんよ、クラウディアさん。技術を評価する大会ですから」


「分かってます。怖いとかそういうことではなくて、待ち遠しいようなれるような、なんだかそんな気持ちになっているだけ、です」


「あら」


 聖エヴァンジェイル学園騎乗部の宇宙船、『ディアーラピス』の船首船橋ブリッジでは、ほっそり華奢な金髪女子が舷窓モニターを睨んでいた。

 騎乗部部長のクラウディアである。


 そんな部長、どうやら恐怖に震えているのではなく武者震いを起こしているようで、今までにない不敵な強気に赤毛の少女が目を丸くしていた。

 ここまで同行してきた臨時船団を襲ったトラップ付き流星群、その危機を乗り越えた事が、クラウディアの自信となった様子。

 表情にも微かな笑みが浮かんでいるようだった。


 直後に出鼻をくじかれることになるのだが。


               ◇


 第6惑星ソライア501、静止衛星軌道。

 ノーマ・流域ラインアルベンピルスク星系域騎乗競技会会場。


 傘の上下に尖塔を立てたような巨大構造物。その傘を囲むように配置される、複数の円環トーラスの形をした中規模構造体。

 それらは、別の星系で廃棄されたコロニーを再利用したモノだった。

 

 会場にある桟橋や搭乗橋ブリッジのある停泊所バースは宇宙船でいっぱいだ。競技会の参加者や観戦客たちの船である。

 傘の形の構造体から見て上の宇宙空間が競技エリア、下側が宇宙船の進入エリアだ。

 船が頻繁に出入りするすぐ隣では、ヒト型の機動兵器が公開練習を行っていた。


 鮮やかな青い機体が渦を巻くような動きで突き進み、次々とテンポ良く先頭を入れ替えていく。

 フォーメーション、スパイラル。

 高機動を維持したままで、5機の連携を乱さないポジションチェンジ。

 高難易度の編隊飛行だ。


 また、レーザーで区切られている別のフィールドでは、金色のエイムチームが無人機スクワイヤ相手に模擬戦を披露していた。

 無人機と戦う際の定石セオリーである電子妨害ECMを展開していないのか、スクワイヤは人間とは違う耐G限界に縛られない戦闘機動コンバットマニューバを見せている。

 黄金のエイムチームは、これを連携した射撃で撃墜。

 囲むようなレーザーでスクワイヤの動きを制限したところに、本命の一撃をピンポイントで直撃させていた。


 傘の最外縁にあたる、展望台の観覧席。宇宙を見渡せる壁一面の窓を兼ねたディスプレイには、公開練習の様子が映されている。

 素人目にも分かりやすい派手なアクションに、声を上げる観客。

 一方で、聖エヴァンジェイル学園騎乗部の部長は、深刻な顔をしていた。

 あれ? なんだか随分競技のレベルが高いな。


「ウェイトコントロールが上手ですね。機体のシステム任せにはできないアートな分野ですから、オペレーターのスキルが分かりやすく出ています」


「上手いだけですわ。そもそも40Gまで攻めることも出来ないんじゃ実戦では単なるマトですもの。

 あの程度なら10秒以内にまとめて撃墜できるのではなくて?」


 ところが、隣で見ていた赤毛とドリル金髪からすると、それほどでもなさそうな評価。

 デブリの中にキネティック兵器が混ざっていた大ピンチを切り抜けた今、競技会のレベルならもしかして楽勝なんじゃないか、などと調子に乗っていたクラウディアである。

 たった今目が覚めたワケだが。


               ◇


 競技会の本戦開始は20時間後。

 それ以前に集まる出場チームは、身体を休め、機体を整備し、あるいは公開練習で本番ギリギリまで錬度を高めている。

 聖エヴァンジェイル学園騎乗部は時間の関係上公開練習は行わず、最後の準備に取り掛かっていた。

 ブリーフィングだ。


「アルベンピルスクでの選考競技会に出場するのは、わたし達を含め155チーム。上位10チームが『全ノーマライン競技会』に、1位のチームはその一段上のランクとなる『ギャラクシー・アクエストリン』への出場が認められるそうです。

 とはいえわたし達は初出場となりますからね。学園でもお話しした通り、10位入賞を目標とするべきでしょう」


 一般観戦者用区画の上、出場者用に割り当てられた一室では、騎乗部と創作部の面々、それに引率役の若いシスターが地味な長卓を囲んでいる。

 進行役の赤毛、村雨ゆりムラセユイリが卓上を指で叩くと、そこに会場一帯の簡易ホログラム映像が投影された。

 その中では、先刻までの他チームの練習の様子や、関連した細かい情報もテキストで表示されている。


「うぅ~……。あ、あの障害物練習していたチーム、完全にリトルビッグワークスのエイムのままでしたよ!?

 騎乗競技は自作エイムってルールなのにぃ…………」


「規則上は禁止していないんですよね。ただ当然『育成調教・・・・』の項目で点を得ることはできないでしょうね」


「正直、エイムの性能がそれほど問題になるとは思いませんわね。仮に高性能な機体を使っていても、オペレーターが限界性能を引き出せないんですもの。

 私たちなら、そこらへんのチームには負けませんわよ」


 単眼少女のアルマは見学した他チームの練習風景を思い出し、卓に半分突っ伏して子犬のようにうなっていた。

 騎乗競技は使用するエイムを自作するのが基本・・だが、軍用エイムをそのまま競技に持ち込んでいるチームがいたのだ。

 とはいえ、ロボ娘のドルチェが言うように、それ自体は別にルール違反でもなかったりする。

 ただし、その分野を評価するポイントは、当然ながら採点不能という扱い。『育成調教』という項目名は、実際の馬を使っていた時代の名残だった。

 つまらなそうに頬杖を突くエリザベートは、それ以前の問題だと言うが。


「ロゼッタさん、今のわたし達と他チームの最新のパラメーターを比較して見てどうでしょう?」


「えー? んー……そういう数字の分析はランコさんやドルチェさんの方が得意かと思いますけどー」


「あ、やりますやります」


 おかっぱ猫目のプロエリウム、ランコ・ムーが情報端末インフォギアから室内のシステムを操作すると、全員の前に154行のデータの列が表示される。

 それは、聖エヴァンジェイル学園騎乗部と、他の競技会出場チームの能力を比較した数値の一覧だった。

 テンプレートがあるとはいえ、ごく短時間で分かりやすくまとめているのは流石の技術系女子。155チーム内での聖エヴァンジェイル学園チームの位置も確認できる。


 それに目を通した限り、先日までの予測よりやや不利という分析結果を見て取ることが出来た。


「データだけで見ると、わたし達は30位。公開練習で手の内を全て見せているとは思えませんから、もう少し下になりますね」


「優勝するには30組抜きかー」


『わたし達を抜いて29組ですよ。それと、目標は10位入賞ですよね?』


 赤毛娘の推測に対し、ちょっとしたボケを披露する外跳ね元気少女のナイトメア。学園の成績は優秀。

 無限ショートメール少女の指摘には、恥ずかしそうに頭をかいていた。

 そして、10位入賞などではなく優勝する気な本音を漏らしていた。


「正直、ユリくんの練習はやり過ぎではないかと思ったこともあったけど、いざ他のチームを見るととてもレベルが高いね。

 わたしの国からすると、信じられないほどの手練てだればかりだよ」


「……なんだか今日の公開練習見ていると、10位に入るどころか30位に入れるかも怪しく感じるんですけど。

 みっともない結果にならないか怖くなってきた……」


「先ほどは30位と言いましたが、これは単純な数値を比較した場合ですね。

 本騎乗部の練習は、模擬戦を中心にしたスキルの習得を組み立ててきました。

 模擬戦の公開練習はほとんどありませんでしたし、数値だけで実力差は測れませんよ」


 なごやかに言う王子様に対し、隣の芝を見て目が死んでいる部長。

 これに関しては、実のところ練習内容を偏らせた赤毛のコーチにも責任があったりする。

 言ってしまえば、唯理は騎乗競技も模擬戦以外の競技種目も、重視してはいないのだ。

 赤毛の潜入生が目的としたのは、騎乗部の少女達にエイムの実戦技術を習得させておくこと。

 騎乗部も競技会も、その為の手段として有効であったに過ぎない。

 

「実用性を考えアグレッシブなマニューバーの訓練に終始したのは事実ですが、皆さんには間違いなく一流のオペレーションを習得してもらっています。

 コース飛行、障害射撃、編隊飛行は30位前後で無難に順位を維持し、模擬戦で他を突き放すことができるでしょう」


「正直そこが一番不安なんですけど……」


 ニッコリ笑っていう赤毛に、恨めしそうな半眼になるルームメイト部長。

 とはいえ実際問題として、不安になったとしてもいまさら何かをできるような時間も無い。


 聖エヴァンジェイル学園騎乗部は、最後に対戦相手の姿を自分の目で見ておこうと、展覧会場にもなっている駐機エリアへと赴くことにした。


               ◇


 騎乗競技の会場である以上、その注目の的となるのはヒト型機動兵器『エイム』と、搭乗者であるオペレーターとなる。

 競技会本戦開始前には、会場の大ホールに割り当てられたスペースにて、製作してきたエイムのお披露目をすることになっていた。


 聖エヴァンジェイル学園騎乗部のエイムも、宇宙船から出て会場で展示されている。


「でもこれは違いますよね?」


「えーと、多目的戦術対応プラットフォーム、だそうですね。装備の換装で進攻にも防衛にも使える多目的兵器、だそうです」


「それが何故ここに?」


「さぁそこまでは…………」


 エイム以外にも、会場の中央付近には複数の兵器が展示されていた。

 翼の無い大型航空機に短い脚を生やしたようなダークグリーンの機動兵器も、そのひとつだ。

 こういった兵器を来場客にセールスするのも、競技会の目的らしい。会場警備のヒト型警備機セキュリティボットも商品だとか。

 赤毛や柿色メガネ少女、スレンダー部長は、重力制御で浮いている大型兵器を何となく見上げていた。


 円形の展示会場、その壁際には非常に個性豊かなヒト型機動兵器が立ち並んでいる。

 155の競技会出場チーム全てが一堂に会するのは、壮観な光景だ。

 色、形、特徴、その全てが異なる競技用エイム。

 実機の前には公開練習の映像やスペックの一部なども投影されており、他の出場チームがそれらを目を皿にして見ている姿も確認できた。

 聖エヴァンジェイル学園創作部の女子たちも同様だったが。


「グラヴィティーブースターを付けているエイムが多いですねー……。少しでも反応速度を稼ぐ為でしょうけど」


「確か重力制御機を増やすだけでは、機動力的にもオペレーターの保護にもあまり意味が無いという事でしたね?」


「は、はい、重力制御には反応速度と出力がありますけど、速度の方はGCSの演算能力に依存して、今はどのシステムもあまり性能に違いは無いと言われています。

 オプションという形で重力制御機を増設しても、コストやウェイトから見てそれほど効果的でもないと思うんですけど……。

 それでも取り付けるのは、複数の制御素子に重力制御の方向を割り当てて、制御方向の切り返しを早くする為……かなぁ? と」


 単眼モノアイ娘が気になったのは、用意されたエイムの多くが箱型や翼型といった外付けの重力制御機を装備している点だとか。

 それは、ハイエンドな重力制御システムを使う事のできない手製エイムである為か、あるいはギリギリまで制御速度を上げて身体保護能力を高める為ではないか、というのがアルマの予想だった。

 ブースター出力、重力制御による慣性制御能力、これらに大きな差が無い現在、エイムの機動力において最大のネックとなるのがオペレーターに圧し掛かる慣性質量だ。

 どのチームも、その対策に必死であるというのが見て取れる装備構成と言える。


「わ、なんじゃコレ!? 失礼……なんだかスゴイですねこのエイム」


いさぎよいですね。いっそ美しくさえあります。嫌いではありません」


「見た目は極めてシンプルですが、スペックを見る限り装甲と駆動速度以外はメイヴにも負けてませんよ。競技に必要なだけの機能を纏め上げて他を削り切る、と。これ相当高度な機体なのでは……?」


 黒ウサギ少女と紫グラマーは、あるチームのエイムを見上げていた。

 頭部の無い流線型の胴体、細長い四肢、縦横2対の小さな重力制御機翼だけが特色、というエイムの最小構成のような機体である。

 腕などはほとんど、ただの角材。足部の緩衝装置は、工業機械そのままな有様だ。外装は薄く、隙間から可動部分が見えている。

 しかし、メカ少女の中のヒトいわく、貧相な見た目と違い性能面では高いものがあるらしい。


「あはは……カッコ悪いでしょ? 予算ギリギリでやっているんで、見た目にまで気を遣えなくて……」


 と恥ずかしそうに笑うのは、そんな極シンプルなエイムを製作したチーム、『カマロシティ・ハイムーバー』のオペレーターだ。

 騎乗部のように女性のみで構成されており、ノーマ・流域ラインのとある惑星、そこにあるカマロシティという都市を拠点に活動するクラブだとか。

 エイム好きが集まる個人の集団、とのことだった。特定の組織に所属しているワケではない。

 騎乗競技会への参加は、今回が初。

 活動資金は個々人の自腹ということで、活動数年目にしてようやくの出場、という苦労人だった。

 予算は潤沢だが当初見た目にこだわり性能を上げられなかった創作部としては、少々後ろめたい話である。


「……丸い、わね」


「丸いですわね」


「ホントだこりゃ丸い」


 茶髪のイノシシ娘、ドリルお嬢様、柿色メガネの3人が唖然として見上げているのは、丸いエイムだった。

 全高13メートル台と平均からしてやや小型だが、横幅があるので小さな印象は無い。

 ヒト型ではあるが頭部や腕部、脚部は楕円形で構成されており、胴体も非常に丸っこい形となっていた。


「この機体……ブースターがありませんよ? 完全重力制御のエイムなんですねー。時々出てきますね、このタイプ」


「重力制御推進のみでは加速に問題が出るのですよね?」


「そうですねー、複数方向の重力制御の偏向はシステムの負荷も大きくなりますし、ブースターの方が構造がシンプルで加速力が高いですからねー。

 反面、爆発という現象を利用するブースターエンジンはどうしても危険かつ消耗品という側面が強くて、燃焼触媒も有限ですからね。機動方向もブースターノズルの位置に限定されますし。

 重力制御はGCS次第ですから、その辺はかなり自由度が高いんですが」


 おかっぱネコ目少女の解説を聞きながら、赤毛娘がその前を通り過ぎる。

 個人製作の機体となると、この様なチャレンジ精神の強いエイムが登場するのも騎乗競技の醍醐味であるようだった。

 その点、騎乗部の『メイヴ』は村雨ユリが標準的な汎用機を強く求めたので、面白味はそれほどでもない。


 現在、銀河の主な文明圏で認定された人類は、プロエリウムを含めて53種。

 しかし、人類とみなされていないだけで、知的生命体と認知され交流を持つ種族は存在する。

 その辺の境界も、実際には曖昧なモノだ。


「ぺ……ペンギン、の、方?」


「スフェニク人ですね。ラティン人の近縁種という話ですが、インサイド側でお目にかかるのは珍しいですね」


「うーん…………遺伝子的に近いと言われてもなぁ」


 地球の南極で見る白と黒のツートンカラー、丸々とした体型の飛べない鳥類、ペンギンの姿がそこにはあった。

 しかしれっきとした知的生命体で、ジャケットやヘッドセットを身に着けていたりする。

 それ以外は完全にペンギンそのままであり、種族的に近いとされる片髪だけを伸ばしたラティン人のヘヴィメタ少女は釈然としない顔をしていた。

 なお、チーム『シーウィングピープル』のエイムは、種族の特徴が出るのか寸胴のヒト型。

 競技会への出場は、原始的ラティン人という認識を全銀河的に覆し独立した種であるのを示す為の運動であるとか。


 そんな主義主張とは無関係に、ヨチヨチ歩くその姿に、ペンギン好きの赤毛の目は釘付けになっていた。

 

               ◇


 それからも順に参加チームの偵察をしていく聖エヴァンジェイル学園一行。


 全身黄金にツノ付きの機体エイム、ある惑星の守護者を自称する自警団チーム、『ガードロワイヤル』。


 細身で鋭利な印象の機体エイムを用いるチーム、フリーの技術者の集まりで、騎乗競技は技術検証の為に行っているという『ワンハンドテクニカ』。


 細身だが無骨で角ばっている軍用然とした機体エイム、しかし軍とも企業とも全く関係ない全寮制高度教育機関のエイムオペレーション同好会、『1919機甲小隊』。


 組織も立場も目的も様々な、全155チーム。

 その機体と公表スペックから実力を類推しつつ、聖エヴァンジェイル学園騎乗部は会場を一回りして自分たちの展示スペースに戻ってきた。

 あのヒト達と戦うんだ、という実感が湧いてきた部長は、顔色が悪くなっている。


 対照的に、観戦客たちの表情は明るい。

 この競技会は純粋な娯楽イベントとしての側面も持っており、子供連れの家族など大勢の人間が、前夜祭とでも言うべきこの展示を楽しんでいた。


「うわー、ここのもまたやっつけな……。強引な増設で機体のバランス崩してますって言っているようなもんでしょ」


「わざわざこんなぎのエイム持ってきて恥を晒さなくてもいいのにね。まぁさっきのオモチャみたいなアレ・・よりマシかもしれないけど」


「でもスペック盛り過ぎじゃない? ここ。こんなの軌道警備隊レベルだし」


「『聖エヴァンジェイル学園』……って、なーんだ軍系でもセキュリティ系でもないハイソサエティーズの温室校じゃん。お嬢様のご趣味ね」


 だがその無礼な連中は、観客ではなく騎乗部同様の敵情視察のようであるが。


 メイヴが展示されている前に、揃いの黒地に赤ラインの制服を纏う一団がいた。

 何やら友好的ではない感想や論評を小耳にし、思わず別チームのエイムの陰に隠れるエヴァンジェイルのお嬢様ども。行き交うヒトに変な目で見られる。


「やっぱり大したチームはなさそうね、レーン。こんな地方選なんか飛ばして、すぐに全銀河大会に出られればいいのに」


「その為のノーマライン選考会でしょう。そもそも、騎乗競技自体がはくを付けるくらいの意味合いしかないもの。実力のあるエイム乗りが出てくる事も、まずないわ。

 私だって特尉の命令じゃなかったら、艦隊演習の方に参加したかったのに…………」


 散々見下した事を言ってくれる、チームの少女たち。そのリーダーらしき女子はというと、騎乗競技そのものに興味が無い様子だ。

 制服から所属チームを調べてみると、それは『ラーキングオブシディアン』という軍学校のモノ。

 過去何度もグレードの高い競技会に出場している強豪であり、使用エイムと公開練習の評価を見ても、その名に恥じない実力を持っていた。


 本人不在のところでバカにされた聖エヴァンジェイル学園のお嬢様方は、揃って目付きが悪くなっていらしたが。


「なんなんですかあの失礼な方々は!? わたし達の心血注いだ可愛いメイヴを! 恥ずかしいところなんて何もありませんよ!!」


「本当に盛ったスペックかどうかは、実際に競技会で目に物見れば良いでしょう」


 我が子のようにエイムに手をかけていた単眼とロボ娘はお上品にキレていた。伊達に良いところのお嬢様ではない。

 時間があれば増設箇所を含めて外装も再設計したかった、というのも少々図星だったが。

 それでも、公開スペックに偽りなど無し。

 もはや一秒でも早く、競技会本選でメイヴの実力を見せつけてやりたいところだった。

 実際に見せ付けるのはエイムに搭乗するオペレーターたちだが。


「軍学校の生徒といっても、軍人としての振る舞いとは言えませんね。あのような教育しか受けていないのでしょうか」


 その補欠オペレーター、赤毛の少女は浮付いた雰囲気の軍学校の生徒へ冷たい目を向けている。元軍属なのでその辺は厳しい。

 唯理自身は不良軍人だったが。


「あそこのチーム、腕は素人より多少マシ程度ですけど、エイムが少し気になりましたわね。機動性、運動性、カタログスペック、攻撃能力、どれもハイエンド過ぎますもの。

 所属する軍の技術支援を受けているのではなくて?」


 密集してステルスする少女たちからひとり離れ、そのような事を言うドリル海賊。軍は天敵。

 その言い方はともかく、実力としては評価する部分もあるという話だった。


 一頻ひとしきりエヴァンジェイル学園の展示を冷やかした後、軍学校チームは黄色い声を振りまきながらその場を後にする。

 後に残ったのは、グルルル……と剣呑な唸り声を上げている野生のお嬢様どもである。


「ずいぶん自信がありそうだったけど……このクラブのメチャクチャさを知っているとは思えないし、対戦が楽しみね」


 と、危険な笑みのイノシシ娘。負けず嫌いの皇国出身者。


「あのヒト達って強いの? ユリさんやエリィさんのような感じはしないんだけど……まぁそれなら楽しみかな」


 舐められたのはそれほど気にならないが、強い相手は大好きな外跳ね天才少女。


「油断して大怪我とかしなければいいですけどねぇ……。仮にして・・もこちらで手当てできないのは残念ですねど……キヒヒ」


 小馬鹿にされたとか関係なく流血沙汰の予感に胸躍らせる保健委員、など。


 そんな想定外の場面に遭遇して変な気合も入る学園女子たちは、15時間後に競技会本番を迎えることになるのだ。





【ヒストリカル・アーカイヴ】


・グラヴィティー・ブースター

 エイムや宇宙船に増設するオプション装備。重力制御による機動や、オペレーターを加速時の荷重から保護する役割を持つ。

 技術的に成熟し切っており性能の向上は微々たるペース、と言われているが、一方で基本的な部材となる重力制御素子の原理が今現在も解明されていないという事実もある。

 重力制御素子はオリジナルをコピーし続けており、その姿は2500年間ほぼ変わっていない。


・スフィニク人

 起源惑星の南極点に生息する二足歩行鳥類に非常に似た姿をしている知的生命体。

 人類認定は受けていないが、星間文明レベルティアー1の技術水準を持ち、他の星系との交流を持つ。

 遺伝子的に近縁のラティン人より大分遅れて宇宙に進出しており、星間文明としては新参者とのこと。

 その愛らしい姿に人気が高まっているとか。




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