115G.アグリーかつエレガントなアンダーグラウンド

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 共和国本星系『フロンティア』外縁部。

 ノマド『ユートピア』船団、保養船『ヤシャドパレス』。

 アスピレーションホール『アプサラス』。


 照明の制限された薄暗い空間の中、あられもない格好の美女たちがスポットの光を浴びて動き回っていた。

 その足下の床には、穴のようにくり貫かれたスペースが幾つも存在している。

 それは、通路より低い高さに作られた客席だった。

 客席の四方にしつらえられた最高級のソファからは、裸体を妖しく飾る美女たちを見上げる形になる。

 そういう趣向なのだ。


 危ういよそおいの女性たちは、この店のサービススタッフである。

 客席を回り、利用客の要望に応え、魅力的な肢体で場を飾るのが仕事だ。

 そして、利用客の要望には、全て応えなければならない。

 それが雇用契約における労働者側の条件だ。


 客席同士はほとんど視線が通らず、利用客はその半閉鎖空間内で、思うがまま欲望を爆発させることができる。

 宇宙を行く自由船団の中では、通常の惑星国家の法や規制は意味をなさなかった。

 本来は許されない欲求や願望、己だけの密かな嗜好を抑え付けるモノも少ない。

 ましてやここは、そういう望みを満たす為に作られた場所。

 穴倉のような各客席では、精神に変調を起こすタバコのような煙を愉しむ者、一切の規制がかかっていないVRゲームに没頭する者、好みのサービススタッフを捉まえ禁忌タブーのない肉欲の捌け口にする者、と。

 腹の底に溜め込んだ欲望をぶちまける先、その為に莫大な資金をかけて建造された船。

 保養船『ヤシャドパレス』は、そのような宇宙船である。


「――――ひゃんッ!?」


 アスピレーションホール『アプサラス』の最奥にある、一際広いVIP席。

 局部しか隠していないグラマーな美女が、持ってきたドリンクのタンブラーをフロートテーブルに置こうとしていた。

 そうして屈んで突き出していたお尻を、肉の付いた無遠慮な手の平が引っ叩く。


「ふんッ、公衆美観貢献違反、普遍的倫理遵守違反、ハラスメント配慮義務違反! 相も変らずやりたい放題だなぁこの連邦の寄生虫船団は」


 かく言う蛮行の主だが、この人物にとって法などは自分以外の他者を追い詰める為の道具いいがかりに過ぎない。


「フフッ……ここは三大国法圏外ですよ、三等佐殿。それにグループオーダーなど、守らなければならない者だけが守っていればよいのです」


 同席する者も、法や規則は特権階級には適用されないモノだと、当然のように笑っていた。


 軍服の前を開けてソファにふんぞり返り、逃げていく女性の弾むお尻を、嘲笑と共に見送る肥満体の男。

 それに、育ちの良さそうな身形に、立派な体格をした金髪の男。

 中央連邦軍戦術史調査編纂局局長、サイーギ・ホーリー三等佐と、ユートピア船団長のフランシス・アヘッドである。


 それと、このVIP席に同席しているのは、もうひとり。


「アヘッド船団長…………最外縁軌道の内側は共和国の法圏内です。

 船団が進入すれば、基本的に・・・・ここで行われている全てが非合法となります。お忘れなく」


 常に浮かべていた社交的な笑みを消し、冷めた表情でふたりを見ているのは、共和国支配企業ビッグブラザーのフリートマネージャー、ギルダン・ウェルスであった。


               ◇


 共和国本星系『フロンティア』外縁部。

 ノマド『ユートピア』船団、本船『ラ・ソラーレ』。 


「R311前進、通路確保。317はバックアップ。OOP、キングダムコントロール、ローグ第3中隊、左舷コマンドデッキに到着。今から予備管制機能を抑える」


『キングダム管制了解しました。お気をつけて』


 大きく分厚い隔壁が左右に開くと、赤毛の少女がハンドサインを振り、部隊に命令を出した。

 すると、周囲の兵士はレーザーライフルを正面へ向け構え、速やかに前進する。


 わざわざ非常用の気圧調整室エアロックに船を着け、宇宙船の外壁に接する区画を通り、村瀬唯理むらせゆいりとローグ大隊第3中隊は船の重要区画バイタルパートに進入していた。

 目的は、ユートピア旗船フラグシップの持つ指揮管制能力の無力化だ。


 ユートピア船団の防衛は専門の護衛艦隊が担っているが、そちらの方は旗艦の『ナイトウィング・オブ・ケルディム』を抑えたことで9割方完了している。

 しかし、船団旗船フラグシップの『ラ・ソラーレ』にも十分な指揮管制機能が備わっており、ユートピアを完全に武装解除させるには、こちらの方も抑えておく必要があった。


 ところが、そのようにキングダム船団から勧告を受けたユートピア船団船橋ブリッジからの返答は、『拒否する』という非常にシンプルで分かり易いモノであったという。


 キングダムに戦闘吹っ掛けておいて降伏したユートピアに、そんなことを決める権利があるはずもない。

 という当然の理屈で再度の勧告を行うも、ユートピア側の返事は『一切を拒否』するという、話にならない一点張り。

 よって、遠隔操作リモートでも管制機能を抑えられない以上、直接乗り込んでシステムを掌握してやろうという話になり、ローグ大隊がお仕事中とこういう流れである。


「R001から第3中隊。障害があったら殺さない分には派手に排除して構わんぞ。船団長も喜ぶ」


『そうは言ってもボス、連中金にモノを言わせてマシンヘッドやサイボーグをゾロゾロ並べてるんじゃないスか?』


「だからなんだ。そんなもんに梃子摺てこずるようなら1から再訓練だ」


 広く白く美しく清潔、それに観葉植物が整然と並ぶ通路を、ローグの部隊が警戒体勢で進んでいる。

 その列を外れて歩く赤毛の少女と、直属の部下である5人の女性。

 明らかに統制の取れている戦闘集団の姿に、旗船ラ・ソラーレ乗員クルーは驚いた様子で通路の端や適当な室内に避けていた。


               ◇


 このような実力行使に出る前に、キングダム船団長のディランはユートピア船団長と戦後処理の交渉を行っている。

 つまり、ユートピア側の愚行に対し、キングダム側へどれくらいの支払いをするか、という話だ。

 だというのに、ユートピアはまるで逆の立場にいるように交渉を進めようとした。

 どういういう事かというと、ユートピアを親船団としてキングダム船団に合流しろ、と要求してきたのである。

 それは、実質的なキングダム船団の吸収だ。


 当然、苦労人の若白髪船団長、ブチぎれた。

 負けたことが分かっていないのなら、もっと分かりやすく船に大穴開けてやろうか? と。

 そんなディラン船団長に対し、ユートピアのアヘッド船団長は、足元を見るような薄ら笑いで言う。

 同じノマドに対し、無抵抗にもかかわらず攻撃を加えるのかと。

 噴飯ものの言い分でしかないだろう。

 ユートピアが『同じノマド』であるという主張も、攻撃を仕掛けてきたユートピア側から停戦を求めながら火器管制システムFCSを明け渡していない事実も、その主張からかけ離れ過ぎているのだから。

 ユートピア船団はどこまで行っても、一方的に攻撃を仕掛けてきた末に返り討ちにあった加害者の船団である事実に代わりはない。


 とはいえ、ユートピア船団長の詭弁にも、一応の筋は通ってしまう。

 既に攻撃を停止したユートピア船団へ攻撃し大勢の死者を出すのは、キングダム側としても望むところではない。船団の評判にも関わるだろう。


 よって現在も交渉中ではあるが、最低限の武装解除だけは同時並行で進めており、唯理がガサ入れの陣頭指揮を執っているのだ。

 いっそ相手が暴力を以って抵抗してくれれば、船団長も喜んで攻撃命令を出すだろう、と思われる。


               ◇


「戦闘管制室はクリアランスを持つ乗員以外は入れません。直ちに退去してください」


 目的地である重要区画バイタルパート管制室コントロールまでは、何事もなく到着した。

 しかし、管制室前の戦闘車両が入れそうな幅広の通路には、個人用の小さな防壁やレーザーの銃座タレットが置かれ、ゴツいサイボーグ兵士やヒト型戦闘機械コンバットボットが防御陣地を構築している。

 訓練通り、通路入り口の左右から銃列を形成し、レーザーライフルの銃口を向けるローグ第3中隊。

 赤毛の少女は待機を命じると、自身は両者が睨み合う中央へ平然と歩いていった。


「キングダム船団ローグ大隊だ。ユートピア船団の降伏受諾により戦闘管制機能をこちらの管理下におく。管制室を開け武装解除しろ。この警告を受け入れない場合は、こっちで勝手にやるだけだが?」


「戦闘管制室はクリアランスを持つ乗員以外は入れません。直ちに退去してください」


 責任者らしき黒い肌の超大型サイボーグは、直立不動のまま赤毛娘の方も見ずにそう繰り返す。サイボーグならではの自動再生機能かも知れない。

 サイボーグには全く耳を貸す様子が見られず、飽くまでも忠実に命令に従い、ローグ大隊を阻止するつもりなのが窺えた。

 かと思えば、


「ハイソサエティーズにケツを振りたいなら場所を間違ってるぜ、お嬢ちゃん。メスは保養船、貧乏人ベガーが身売りしたいならプロモートオフィスに行くんだな。同じ死ぬにしても、ここよりは金になるぜ。

 それとも今すぐケツから突っ込んで・・・・・欲しいか? 売女バイタ


 ニヤリとわらい、ゲスな物言いで挑発するサイボーグ。

 サングラスの奥の目も、唯理を見下みくだ嘲笑あざわらっている。


 舐めきった相手のセリフに、無言のまま殺気立つローグ大隊のチンピラ兵と、それを感じ戦闘態勢に入る防御陣地。

 そして直接侮辱された赤毛はというと、ちょっと驚いたように目を見開いた後、溜息を吐きながら背後へと振り返り、



 踏み込みの力を乗せ、後ろ向きの体勢から身体ごと叩き付ける、右の掌底、左肩、左肘、左の裏拳の、超高速4連撃。



 全長3メートルはある大型サイボーグは、一瞬で内側をボコボコに破壊されながら管制室の大扉の方へ吹っ飛び、そこに激突して床に落ちた。

 何が起こったのか全く理解できず、唖然として瀕死な鉄屑を見下みおろす防衛陣地側の人員。


「ファン、ドアを開けて。ラビットファイアと323はR006のエスコート、355、356、357はここの安全を確保しろ。ボーっとするな、中隊長、31ファースト、命令を出せ」


「り、了解しましたー!」

「了解です」


「サーイエッサー! ミッドナイト! ストロンガー! コイツらを黙らせとけ! 動こうとしたらブッ殺せ!!」


「333、ドアが開いたら突入するぞ。334は援護。集中しろキープフォーカス、スタンバイ」


 そして何事もなかったかのように赤毛の大隊長が命令を出すと、即応展開部隊ラビットファイアとローグ第3中隊が弾かれたかのように動き出す。

 致命的に隙だらけだった防衛側は、全く対応できない。

 ロリ巨乳の電子戦担当が扉にアクセスすると、セキュリティシステムとの1分程度の綱引きの末、管制室の最後の守りも陥落。

 室内には大した戦力もなく、唯理と第3中隊は無傷でコントロールを掌握した。


               ◇


 ノマド『キングダム』船団、旗艦『フォルテッツァ』。

 格納庫隔離区画。


 赤毛の大隊長がユートピア旗船フラグシップに突入している、同時刻。

 危険物を厳重に保管しておく頑丈で殺伐とした区画に、来客があった。

 灰と鉛色の空間、コンテナが積まれ、保護カバーが何かを覆い、ヒト型重機械マシンヘッドや運搬用ヴィークルが静かに眠っている。


 コツン、コツン、と足音だけが響く区画内、透過金属クリアメタル製のケージ型コンテナに閉じ込められた金髪縦ロールの少女は、その音に気付かなかった。

 自由に動けない以外には、待遇は悪くなかったのだ。

 制限、検閲付ではあるが、船団のローカルネットワークを介し全銀河のウェイブネットにもアクセスできる。

 キングダム船団の名物という、デリカレーションの数々も好きなように注文できた。現在までの制覇率は8%といったところ。

 船団の交戦記録を閲覧しながら、次はどんな物を食べてみようか、と思えば、時間の経過はそれほど気にならない。


 どうやってここから脱出するか、次に自分を撃墜したエイム乗りに遭遇したらどうしてくれようか、という思いは常に付いて回ったが。


 だが本当に考えなければならないのは、ただひとつ。

 銀河外縁のダークゾーンで『女帝』と名高いエリザベートの母、ブラックスター海賊艦隊の提督閣下に、なんと申し開きすれば良いのやら。

 そんな大問題から現実逃避するかのように、ベッド上でゴロゴロしながら、デリカレストランのメニュー表を死んだ目で眺めていたソフト縦ロールだったが、


 そこに、コンコン、とコンテナを叩く音が。


 おやまた素人が尋問ごっこにやってきたか、と思った。

 若くして幾つもの修羅場を越え、危険な橋を渡ってきたエリザベートにしてみれば、軍人でも専門家でもないノマドの取調べなど、ぬる過ぎて欠伸が出てしまう。

 とはいえ、どの道この鳥篭の中からは逃げようもないのだ。

 せいぜい暇潰しの相手になってもらおうか、と身を起こして相手の顔を見ようとしたならば、


 透明な壁の向こうにいたのは、シルクのように滑らかな金髪を後ろで纏め上げている、気位の高そうな美女。

 エリザベートの母だった。


「お…………? お、おぉ、お、お、お、ぉお、おが、おがあざま!?」


 それまでの余裕がブッ飛び、今にも漏らしそうな顔でガクガクブルブル震えはじめる縦ロール。

 艶然と自分を見下ろす瞳、芸術的に整った美貌、豊満にして男女を問わずに目を惹き付ける肢体。

 全力で目の前の現実を否定したいエリザベートだったが、どこからどう見ても自分の母である。


「余暇を愉しんでいるようね、エリィ。良い事だわ。

 私達のような世界の人間には、このような事はこれからの人生でいくらでもありえるのだから。

 常に余裕を持って機会を待つのは、とても大切な事よ、エリィ」


「はい、お母様」


 という返答は、半ば条件反射である。

 自分の母に対して、これ以外の答えは必要ないのだから。

 これまでの人生で何千回と発したセリフが、舌に染み付くのは当然であろう。

 パニくっていたのも一瞬の事。今のエリザベートは淑女然とした澄まし顔で、平静を装いベッドに腰掛けている。

 内心では、何故ここに、どうやってここに、あと借りた機体エイムをブッ壊して捕まった失態をどう言いワケしよう、という思いでいっぱいだったが。


「でもそろそろ帰っていらっしゃい、エリィ。久しぶりにこちら側に来たけど、思ったよりずっと面白いことになっているようね。

 貴女からの報告も聞きたいわ。共和国の企業よりこちらを優先して、ローズマテリアまで使い捨てにしたのですもの。

 きっと、さぞ有益な情報を得ているのでしょうね?」


 母の微笑に、ひぎぃ、という悲鳴を喉の奥で押し留めるユル縦ロール美少女。ちょっと漏れた。

 現状から脱出しなければならないのは当然なのだが、今だけは見張りでも巡回でもなんでも来て母を退散させてくれないものか。

 そんな儚い願いが溢れんばかりの縦ロールだったが、一方でこの母がそんなミスをするとは思っていない。

 どうせ何もかも手を打っているのだろうと、遺憾ながら確信を持っていた。


 そうして予想通り、エリザベートは自分を捕らえるケージごと、旗艦『フォルテッツァ』からアッと言う間に持ち去られる。

 完全にしてやられた船団は、またしても警備体制を見直す必要に迫られるのだが、いったいどうやって重要参考人エリザベートを持って行かれたのかまるで分からず、対応に苦慮する事となった。


               ◇


 ノマド『ユートピア』船団、保養船『ヤシャドパレス』。


 ヤシャドパレスはユートピア船団の中でも代表的な宇宙船だ。

 全長は約1キロと、標準的な戦艦級と同サイズ。

 しかし戦闘などの荒事とは全く無縁な船であり、外装は優美な宮殿のような円の傘を多用した意匠となっていた。

 白亜の船体色に、ところどころの大きな舷窓から漏れる、宝石のような無数のきらめき。

 それはまさに、宇宙の宮殿と呼ぶのに相応しい、絢爛豪華な宇宙船である。


 だが、ユートピア船団における代表的な存在である理由は、その外見が理由ではない。

 用途の為だ。


 ヤシャドパレスは最も大きな中央船体の上下左右、そして後方に小型の船体が繋がっている。

 離宮、と呼称され、それ自体が独立した宇宙船としても機能していた。

 保養船ヤシャドパレスは文字通り、船団の乗員や来船客が心身を休ませることができるよう、専用の設備が充実している。

 宿泊施設は当然のこと、この時代では珍しくなった公衆浴場やサウナ、プール、メディカルヒーリングサービスといった癒しのアクティビティ、VRやARゲーム、音楽等のイベント、各種スポーツ、芸術活動の共用ホール、交流を愉しむサロン、と。

 同様の施設は船団の他の船にも存在しているが、ユートピア船団に求められる役割の全てが集中しているヤシャドパレスは、本船『ラ・ソラーレ』以上に船団の象徴として相応しいと言えよう。


 そして、中央船体と繋がる離宮船には、それらとはまた別の役割があった。


「おっほー!!」

「おいおいおいコレはアレだちょっとなんだなぁおい!!」

「いい趣味してるなぁコイツぁ……」


 ヤシャドパレス上部離宮内、アメフトの競技場フィールドほどの広さがある、無重量の空間。

 その周囲に設けられた満員御礼な客席から、ローグ大隊のチンピラ諸兄も宙を見上げて歓声を上げていた。

 現在、同スタジアムではシューティング・メテオの試合が行われている。


 シューティング・メテオとは、フィールド上でボールを奪い合いゴールポストに叩き込み、それで得るポイントを競うというスポーツだ。

 平面ではなく立体の空間内で行うというのが、21世紀に行われていたアメリカンフットボールとの違いだろう。

 なお、生身で行うシューティング・メテオより、ヒト型機動兵器を用いるグラップリング・メテオの方が圧倒的に人気があり、全銀河の人類圏でグループリーグが開催されている。

 ナショナルリーグ、フリープラネットリーグ、そして頂点たるユニバースリーグの開催も近い。


 一番人気、と言うほどではないにせよ、シューティング・メテオの方も惑星内では頻繁に行われるスポーツだ。ミサイル以上の速度でブッ飛ぶエイムに、惑星上は少々狭い。

 惑星国家によってはスポーツが公営の賭け事ギャンブルの対象になるので、ライブストリーミングの視聴者数も多いコンテンツだ。


 もっとも、現在プレイ中のシューティング・メテオが盛り上がっているのは、女性選手が下着のような高露出の姿でフィールド上を飛び回っている為だったが。


 選手である美女たちは、ほぼ全員例外なくブルンブルンのゆっさゆさだ。空中で身を躍らせ、カラダを捻る度に物凄い勢いで揺れている。

 揺れる箇所に乏しい選手もいたが、恐らく需要の問題と思われた。スレンダーなのも良いのだろう。

 頭部と肩周りは船外活動EVAスーツのような装甲アーマーで守られているが、宙で跳ねるボールを奪い合う彼女らは、接触するたびに頼りないブラジャーやパンツに負荷がかかっていた。

 ラフプレイの後には高確率でズレている。その下が見えてしまうのも珍しくないようだ。


 つまり、そういう主旨なのだろう。

 21世紀にもレジェンダリーフットボール(旧ランジェリーフットボール)という下着姿に近いユニフォームで女性がプレイするアメフトが存在したが、こちらは完全に女性を見せることを目的としたショーのようである。


 テンション上げて席を立ち上がらんばかりな姿のチンピラ兵たちは、フと我に返り、恐る恐る背後を窺っていた。

 しかし、赤毛の大隊長が怒っている様子は無い。任務中になにやってんだ、とブッ飛ばされるかと思ったが。


 実際、大隊のチンピラどもの任務態度は後で矯正するとして、今の唯理は他のことに頭を使っていた。

 別にこの場で何かを判断するのは、赤毛の大隊長の仕事ではないのだが。

 ランジェリー・メテオに関しては、女性の半裸を見世物にしている、とも、選手本人が納得してのこと、とも判断する材料が無い。また唯理はそれを判断する立場にない。


 仮に問題にするとしても、それはこの後の船団上層部同士の交渉の席で、ということになるだろう。


 現在、赤毛の大隊長が部下を率いてこんな所に来ているのは、別に観光目的などではなく、仕事なのだ。

 ユートピア船団における戦闘能力を粗方制圧した後、ついでに船団内の査察を船団長から頼まれたのである。

 何かツツくネタを拾って来い、という意味だと思われる。


 船団長としても、本来ならば仕事を終えた唯理はすぐに戻したいところだが、かといってローグ大隊以外ではインドア戦をフォローできる戦力に乏しく、チンピラを現場で統制できるのが赤毛の大隊長だけなので仕方もなく。


 また、唯理としてもこれはよい機会ではあった。


「うーん……ファン、とりあえず選手の情報をメインフレームから収集、プロファイルから監視モニター映像まで選手の扱いに関するデータは取れるだけ取って。フィス、解析の方頼めるかな?」


「ローカルネットワークからシューティング・メテオ管理組織のシステムにアクセス。データ抽出。フィスさんに送りますね」


『大したコーディングしてねーしデータ弄ってるとも思えねーけど、まぁやっとくわ。タグ付けまくってインデックス作っとくな』


 そんな思惑や目論みはともかく、目の前のお仕事である。

 赤毛娘は部下のロリ巨乳と母船のツリ目オペ娘にデータ集めの方を頼むと、自身は宙で指を回すようにしてチンピラ兵たちに撤収命令を伝達。

 ローグ大隊は通信に頼らずとも、ハンドサインだけである程度の意思疎通ができるように訓練していた。


 少々名残惜しそうにしているローグの兵士たちは、それでも命令通り駆け足でシューティング・メテオのスタジアムを去る。

 空中でくんずほぐれつしている選手おねえさんたちを見上げていた唯理も、踵を返すと部隊の最後尾に付けその場を後にした。


 次の目的地は、ヤシャドパレス艦尾側離宮船内。

 アスピレーションホール、『アプサラス』である。


               ◇


 アスピレーションホールというのは、本来は惑星上で規制されるタバコ類を愉しむ為の場所であったらしい。

 しかし、長い歴史の中で他の娯楽も統合され、今となっては業種の名前だけが残ったという話。


「うわー、これは聞きしに勝る…………」


 実のところ、21世紀の地球生まれな赤毛の少女も、一般常識としてノマドの知識は得ていた。

 ユートピア船団に関してもだ。


 ノマドという、惑星国家の過剰な規制と強権的な体制に反対する、自由を求める人々の船団。

 そんなノマドの主旨とまるで違う、強権を振るい規制を押し付ける側の特権階級が作り出した、自分達だけが規制を逃れる為の楽園ユートピア


 そこまでして彼らのしたかったことが、唯理の目の前の光景であるらしい。


 床に半分埋まったような客席で、女性のサービススタッフ相手に行為へ及ぶ利用客たち。

 全てではないが、あちこちの席で同じようなことが行われており、唯理の視線に気付くと一層激しさを増すようなデブオヤジもいた。接客中のスタッフたち・・が大変そうである。


「ハッ……本当にいい趣味してやがるぜ。俺たちゃ合流する船団を完全に間違えた」


 横目でインモラルなプレイを眺めつつ、好色な目で舌なめずりをするチンピラ兵士のひとり。

 惑星上では倫理的に許されない行為に没頭するハイソサエティーズも、少し前まで怠惰極まる生活をしていたローグ船団の乗員も、中身は似たようなものなのだろう。

 それを軽蔑しようとは赤毛の少女も思わないが。

 育てたのは戦力たる兵士であり、紳士を育てた覚えもないのだ。


「これじゃオンラインで中が見られないワケだ。キングダム船団が利用するのも無理だな……。

 ラビットファイアはセンターシャフトまで後退し331と合流。337は先行してターミナルでもノードでも探して、クローズされたシステムにアクセスできそうな端末を見つけろ」


「隊長、これくらいのことで気後れしたりしませんよ?」


「んだな、何もオボコい小娘じゃねーんだから」


 自分もヒトのことは言えないが、若い娘さんが居ていい場所じゃないか。

 そう思い唯理はラビットファイアを離宮船の外に出そうとしたが、元軍の仕官である金髪保母さんや小さなマッシブ娘さんは、気遣い無用と言う。

 無表情クールさんや髪を外跳ねさせている姉さん、ロリ巨乳の電子戦担当も気マズそうにしてはいるが、強くショックを受けた様子などもない。

 どっちかというと興味深そうにしている。


 赤毛娘は見ず知らずの他人の性行為などに関心はないので、さっさと仕事を終わらせ船尾離宮から出ることにした。

 手を二回軽く振ると、ローグの兵士が2列になり通路を駆け足して前進する。

 何事かと、サービススタッフを上に乗せたまま座席から身を乗り出す利用客。

 唯理もラビットファイアを引き連れ、淫靡な行為が行われているド真ん中を通り過ぎていくが、



「見つけたぞ、モルモットがぁ……」



 アスピレーションホールの奥、VIP席に接した通路の下から、黒い髪を短く刈り込む肥満体が赤毛の少女を睨み付けていた。





【ヒストリカルアーカイヴ】


・アスピレーションホール

 多くの惑星国家の法において規制される娯楽を堪能する空間。

 タバコなど自己責任であっても健康を害するとされるもの、人格形成的に不健全とされる娯楽コンテンツ、倫理的に許されないとされる無制限の性行為などを自由に愉しむ場所とされる。


・グループオーダー

 各星系における法律。上位に三大国法、下位に各惑星や惑星内の自治体のローカルルールが存在する。

 三大国圏内の場合は基本的に、連邦法、共和国法、皇国法を遵守することになる。


・ダークゾーン

 天の川銀河外縁の、人類圏とされる領域よりさらに外側。人類未踏の暗黒領域を指す。

 国家が公式に調査した記録はないが、非合法組織や指名手配された犯罪者、惑星を追われた政治犯などが逃げ込み、独自のコミュニティーを形成しているという噂がある。




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