113G.バッドローズ カラミティネイル

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 共和国本星系『フロンティア』外縁部で待機していたノマド『キングダム』船団は、現在ユートピア船団と交戦状態にあった。

 問うても答えが返って来ないので、攻撃の理由は不明だ。


 船数の上ではキングダム船団の6倍強というユートピア船団だが、戦力という点ではキングダム側に遠く及ばない。

 キングダム船団の旗艦『フォルテッツァ』をはじめとする超高性能戦艦26隻の火力は、銀河先進ビッグ3オブ三大国ギャラクシーが各星系に駐留させる防衛艦隊以上だ。

 ユートピアは半数の船が護衛用の戦闘艦艇だが、現実的なモノの見方ができる者は、正面から戦って勝負になるとは考えていなかった。


 故に、不幸にも・・・・居合わせた・・・・・輸送業者の船団に、キングダム船団との仲立ちをしてもらっている。

 要するに、壁だ。


 これによりキングダム船団は絶大な火力を封じられる事となり、攻防は艦載機を用いた機動戦力同士の戦いへ。

 ここでもユートピアは経済力にモノを言わせ、非常に高価かつ高性能なヒト型機動兵器の大部隊を差し向けてくる。

 しかしこれは、赤毛のJKオペレーター村瀬唯理むらせゆいり乗機エイム、スーパープロミネンスMk.53を全面改修した『イルリヒト』が単機にて殲滅中であった。


               ◇


 多連装レーザー砲がバラバラに真空中を薙ぎ払い、超高加速度のエイムを追い込むように追尾する。

 だが、相手は確実に直撃を避けてくる上に、エネルギーシールドと物理シールドも使い光線を防ぎ、同時に反撃を繰り出し攻撃側を返り討ちに。

 灰白色に青のエイムは、エイム・フォーミュラーの最後の一機もデブリへ変え、その加速度のまま軽快に戦場を飛ばしていた。


「フィス、ラスいちダウン。無人機スクワイヤのコントロールは?」


『全部押さえたぜー。てかコイツらゲートキーパーをノーマルで使ってやがる、素人が……。オートコントロールの設定も、セカンダリマスターの指定も無し。自動迎撃プロトコルも無し。何考えてんだ?』


「やっぱり単なる素人だったって事じゃないかな? 向こうからの通信は?」


『そっちも全然ねー。こっちの射線塞いでいる「FTR」船団との通信だけな。まーどうせ撃てないと思って足元見てやがるんだろうぜ』


『イルリヒトのブースト負荷は安全値内、アクチュエイターの稼動にも問題なし……だけど、ユイリ仮組みだってこと忘れてない!? データ取り前なんだから無茶しないのよ!!』


 灰白色に青のフルカスタム機、プロミネンス・イルリヒトが何個目かの弾倉を交換する。

 レールガンの4連装砲身が回転し、過熱していない砲身が発射位置へ。

 過熱状態オーバーヒートの砲身は上部のカバーが持ち上がり、そこから冷却材が白煙となり吹き出ていた。


 突発的な性能テストとなったが、全面改修フルカスタムされた赤毛娘の専用機イルリヒトは、十分な戦闘力を発揮している。

 とりあえず機体は組んだのみ、操作系は未調整で、性能としては想定の5割といったところか。


 そんな状態の機体エイムでも、素人ばかり数ばかり揃えた烏合の衆ではあるが、3,300機を一方的に無力化。

 攻撃による直接の死者、ゼロ。

 高価な特殊エイムエイムフォーミュラーは派手に粉砕されたように見えるが、これは手足や武装を狙って撃ち抜いた為だ。

 胸部のコクピット部分は、ほぼ無傷で放置されていた。


 1,000機ほど数を減らした無人機スクワイヤ群は、今はツリ目のオペレーター、フィスの管制コントロール下にある。

 こちらも、雑なシステムセキュリティにより、簡単に乗っ取れたという話だ。強引に侵入する必要すらなかったとか。


 ユートピア船団の先行部隊3rdエンカウンターは、全滅。

 キングダム船団に損害らしい損害も無い。

 輸送業者FTRの船団を盾にされているとはいえ、キングダム側も手をこまねいている理由はなかった。

 威嚇にド派手なレーザーの斉射砲撃を行い、ユートピア船団側に再度の警告を行う。

 クレイモア級フォルテッツァと同じ超高性能戦闘艦、ファルシオン級『フラミンゴウッド』ら2隻を含む小船団を側面に回り込ませ、目に見える攻撃態勢を取らせていた。


 ここでユートピア側は、予想通り新たな行動に出る。


 ユートピア護衛艦隊の旗艦、シンプルな双胴型の大型宇宙船艦、『ナイトウィング・オブ・ケルディム』。

 全長1,250メートル、全幅は500メートルと他の戦艦クラスの倍以上。

 やはり過積載と言えるほどの武装を搭載し、数より質を追求した要塞に近い宇宙船であった。

 なお、搭載火器の数に関しては、責任者である艦長の意向ではないとか。


 舷側や艦上の発着デッキゲートから、新たなヒト型機動兵器が大量に飛び出してくる。

 他の艦船からも同じようにエイムが発艦し、その数は約2,500機。

 先行してきた部隊よりは少数だが、エイム・フォーミュラーとは異なる通常の軍用機で編成されていた。

 この状況で、無意味に戦力を逐次投入しただけとは、誰も思いはしない。


『連邦の「フェデラルアームズ」に「アビーファイア」製、共和国系では「ディープスペース」製と、その他……。まぁ中身は知らんけど今度は普通の軍用エイムだわ。

 制御信号らしいシグナル検出、こっちもスクワイヤを僚機にしているな。有人機は1割ってとこか?』


「こっちが本命だろうね。それじゃ――――」


 新手のエイム部隊の解析情報が、オペ娘から赤毛娘の機体に送信される。

 出てきたタイミングもそうだが、使用装備や構成からも、生温い相手ではないのが一目瞭然だ。


 先行してきた部隊、サード・エンカウンターが主力でないことは、最初から分かっていた。

 趣味的なエイム・フォーミュラー、無意味な重武装、そして25Gも超えられない低加速度に、戦術性の欠片も無い機動、攻撃の雑な手際。

 唯理でなくとも、それが囮か嚙ませイヌのたぐいだとは容易に予測できただろう。


 故に、キングダム側も主力は待機させてある。


「――――R001よりローグ大隊、全機発進、ユートピア船団から出たブラヴォー群をインターセプトしろ。こっちは素人じゃないぞ、舐めてかかるな。ラビットファイアはこちらに合流。

 キングダムコントロール、R001迎撃する」


 赤毛の大隊長から命令が下ると、キングダム船団旗艦フォルテッツァより、ダークグリーンのエイム部隊が出撃した。

 やや低い頭身ながら、バランスの良い堅実な軍用エイム。

 ローグ大隊の主力兵器、ボムフロッグC.G.R-AR113だ。


 灰白色に青の隊長機が敵集団へライフルを向けると、その周囲をローグ大隊のエイムが突っ切っていく。

 鍛え抜かれたキングダム船団の番犬は、45G超えの常識外れな高加速度で、ユートピア船団へ向け直進。

 突っ込んで行きながら、短連射パルスレーザーによる統制の取れた一斉射撃を開始した。


 これに対し、ユートピア船団護衛艦隊安全保障部隊、『ディサイブ・フォース』は速やかに防御体制を取る。

 強力なエネルギーシールドと物理シールドユニットを併用した機体を前列に立て、その肩越しにローグ大隊へ反撃していた。

 行動に迷いがなく動きもよい。展開速度も速い。手練てだれ揃いである。

 大昔の特殊部隊を思わせる相手に、赤毛娘も思わず「ほう?」と肩眉を跳ねさせていた。


 機動力と攻撃力に優れながら、未だ荒削りなローグ大隊のチンピラ兵士。

 一方で、洗練された守りの堅さと的確な応射を見せるディサイブ・フォース。

 これはちょっと梃子摺てこずるかも、と思いながら、前線の少し後方から睥睨していた赤毛の古参兵だったが、


『ユイリ、ユートピア船団側、敵部隊の後方から高速で上がってくる新手の敵!』


 オペ娘の警告にレーダー画面を開くと、明らかに自分の方へ直進してくる、50G490m/s2に近い加速度の機影を確認した。


               ◇


 どこぞのお坊ちゃま部隊と違い、ローグ大隊は赤毛の隊長の教育により、情報共有が徹底されている。

 部隊の兵士は単独で戦うのを基本としながら、分隊から大隊、如何なる単位でも一個の戦闘集団として戦えるよう鍛え込まれるのだ。

 故に、ユートピア船団側から赤毛の大隊長並みの突っ込みをしてくる新たな敵機の存在も、すぐに全隊で把握していた。


『なんだよまたか!? 軟弱な金持ち船団が、ウチのボスみたいなの量産しやがって!!?』

「落ち着けバラバ! メナスほどじゃねぇ! 噛み付いて来ないだけマシだ!

 33ファーストより33メトロ、そっちは任せる! 331はチャーリー群を迎撃するぞ! 付いて来い!!」


 新手の予想進路上にいたローグ大隊第3中隊第3小隊第1分隊は、それを叩くべく自ら接敵。

 真正面に割り込むと、敵集団へ向けレーザーライフルを発砲する。

 相対加速度は100G近く、相対速度は時速80万キロオーバー。

 双方撃ち合いながら、チキンレースの如き戦いとなっていたが、


「ッ……!? マジかコイツ――――――ぐぁあああ!!?」


 敵機の方は全く退く様子を見せず、311分隊と隊長機が一方的に進路上から蹴散らされる事となってしまった。

 あまりの速度に、エイムのシステムで支援された高速の認知速度があっても、反応しきれない。

 咄嗟に構えた物理シールドごと、バラバラに破壊される左腕マニュピレーターと、その周辺。

 何をされたのかまるで分からず、311分隊の隊長は赤い敵機を見送る他なかった。


               ◇


 レーダー画面上では、新たな敵機を阻止しようとするローグ大隊のアイコンが、次々と弾き飛ばされていた。

 隊の通信でも、チンピラ兵士どもの怒号が響いている。

 しかも、戦列が崩された事でディサイブ・フォースの攻勢が強まり、前線がキングダム側へ後退してきた。


『クソがー! R141後退すんぞ! 222遅れんなよ置いてくぞ!!』

『セオのヤツはなにやってんだ!? 素通ししてんじゃねーか!?』

『なんかヤバイ! 正面に立つなよ! ウチの隊長レベルを想定しろ!!』

『R121! 12ファースト、ホダイは側面から狙え! 131はレールガンをバラ撒いて足を止めろ!!』


 ローグ大隊のボムフロッグは速力を目一杯に活かし、高機動を以ってディサイブ・フォースを牽制しつつ、新手の高速機に火力を集中。

 ところが、どれほど撃っても敵機の侵攻速度は全く変わらない。

 フリーになったディサイブ・フォースのエイム群からは、数千という光線がローグ大隊のエイムを薙ぎ払いに来る。

 これらの回避を強いられている間にも、謎の高速機は弾丸の如くローグ大隊を貫こうと迫り、



 激突の寸前、進路に飛び込む灰白色に青のエイムが、物理シールドユニットを斜めに叩き付け相手の突進を受け流した。



 鈍器と鈍器が派手にぶつかり火花を散らす。

 衝撃で双方のエイムが弾き飛ばされ、灰白色の機体は流れに逆らわず弧を描く軌道で体勢を立て直し、バラ色の機体は宙返りするように勢いを逃がしていた。


『うぉおおお! たいちょー!!』

『おいおいアレをブッ飛ばしたぞ!? バケモンが!!』


 敵に回すと死ぬが、味方と思えばこれほど心強い赤毛もいない。

 そんな思いに沸き立つローグ大隊だが、それを喜ぶような暇も戦場にはなかった。


「グースは131をまとめて後退! ローガンはダメージを負った機体を退げて戦列を立て直せ! こっちは私がやる!!」


 味方機を横に並べた編隊で前進するディサイブ・フォースは、隙を与えない勢いで深紅の弾幕を形成。ローグ大隊を押し込みにかかる。

 大隊の方は隊長の命令通り、損傷した機体を逃がしながら防御態勢を取り後退に徹した。

 ローグ大隊は、ただ攻めるしか能のない戦闘集団ではない。攻防どちらでも展開できるよう、赤毛の隊長が仕込んである。


 そして、灰白色に青のエイムは、命令を出した直後にレールガンを発砲。バラのように赤い敵機へ、秒間50発という弾体を叩き込んだ。

 ところが、バラの敵機は回避するどころか、これの直撃を防いでみせる。

 完全に集弾された射撃となれば、よほど高出力のエネルギーシールドでなければ耐える事は不可能だ。

 実際、バラ色のエイムもレールガンを防いだのはエネルギーシールドではなく、その腕部マニュピレーターに保持したイカつい武装によってである。


『……なんだアレ? 武器か??』


 唯理のエイムが捉えた映像を見て、パンナコッタの船橋ブリッジにいたフィスも思わずこぼしていた。


 中型機と思しきスマートな基礎骨格ベースフレームに、隙間なく組み合わされた大型の重装甲。

 肩部装甲に内蔵され前後と側面3方向へ向けられた、機動マニューバブースターのノズル。

 腰部と背面に接続される、増設型の2連ブースターユニット。

 そして、手にしているのは螺旋をかたどる鋭い金属のかたまり、エイムの半分以上の大きさを持つドリルヘッドだった。


 光速の30万メートル/秒という単位が基準になる時代、接近戦をやる者は非常に少ない。

 ましてや、金属ドリルである。

 土木工事すらプラズマ重機を使う昨今、その硬く重々しい物体がいったい何なのか、現代の人間には察することすら難しいと思われた。


 そんなドリル兵器の威力は、すぐに実演されることとなったが。


「ッ……フゥッ!?」


 バラのエイムが、前触れなくブースターに点火。

 ドリルの先端を唯理に向け、炎を背負いぶつかってくる。


 敏感に反応する赤毛娘は、コクピットのフットペダルを全力でベタ踏み。

 灰白色のエイムが脚部と胸部の制動リバースブースターを爆発させ、後退しつつ物理シールドを構えた。

 大質量かつ鋭い突進攻撃に、エネルギーシールドが一瞬で破られる。

 だが、受けるのではなく流してドリルをやり過ごす唯理は、脚部プラットフォームに内蔵してあったビームブレイドを引き抜き、ガラ空きの敵機側面へと振り下ろした。


 ところがそれを、肩の機動マニューバブースターを吹かしギリギリで回避するバラ色の機体。

 即座にアサルトライフルを左腕に持ち替えた赤毛の少女は、両脚部のサブマシンガンと併せて斉射し追撃をかける。

 バラの機体は更にブースターを激しく燃焼させ、唯理に劣らない高速の回避運動で弾幕をかわし切って見せた。


 ここで、唯理のレールガンがオーバーヒート。

 その隙間を埋めるべく、随伴する即応展開部隊ラビットファイアが攻撃に入ろうとするが、こちらにはバラ色の機体の僚機が妨害に出た。

 連邦や共和国の軍用機を改造した機体、それらにドクロやデスマスクの塗装を施した機体といった5機のエイムが発砲してくる。

 重火力機や電子戦機を加えた、ラビットファイアに近い特殊戦編成だ。

 真っ向殴り合いになる2機の大型格闘機に、対艦レーザー砲の撃ち合いになる砲撃機同士、見えない力比べを展開するパピヨン熱帯魚オーロラビーターの電子戦機。


 そんな味方機を一瞥もせず、灰白色に青の機体から目を離さないバラの機体は、螺旋の兵器を槍兵のように真上へ向けていた。


『流石……この機体にも付いてこれますのね。ノマドにこれほどのつかい手がいるとは、思いもしませんでしたわ』


 不意に、救助要請にも使われる公開帯域で通信が入る。

 発信元は、唯理の前方にいるバラのエイムだ。

 歌うような音色の、若い女の声。

 喜悦を滲ませるが、どことなく育ちのよい傲慢さも垣間見させる。


 いずれにせよ、唯理には聞き覚えが無いし、相手のセリフにしたってどうでもよいことではあった。


「ユートピア船団所属機へ、こちらはキングダム船団、PFCローグ大隊だ。後退してメインブリッジに武装解除するように伝えろ。

 攻撃が続くようなら、こっちはキングダム船団の安全を優先せざるを得ない。意味は分かるな」


 唯理は船団を、パンナコッタを守る為にやるべき事をやるだけだ。

 この戦いは、そもそもユートピア船団が突然攻撃して来た事に端を発する。

 ユートピア側が攻撃を停止するなら、赤毛の大隊長とローグ大隊が戦闘を続ける理由も無い。

 しかし続けるなら、唯理はユートピア船団の殲滅も視野に入れなければならないのだ。

 キングダム船団の持つ火力を知っていれば、それが不可能でないのは分かるはずである。


 バラのエイムのオペレーターは、唯理の警告に応じるつもりはないようだったが。


『アナタが落ちれば、キングダム船団の旗艦までわたくし達を止められる者はいない。ユートピアのお歴々には、そう説明してありますわ。まぁ事実でしょう。

 でも、わたくしとしても、アナタ相手に退いたままではいられない、という事情もありますわ。

 …………お母様に叱られてしまいますもの』


 相手のセリフに「どんな家庭の事情だ」、と思う赤毛娘だが、そこにツッコミを入れるいとまも無く。

 ドリルを正面に構えなおすバラの機体は、再びブースターを燃やし唯理の側面へと一瞬で滑り込んでくる。

 胸部制動リバースブースターを吹かし背中側から旋回すると、灰白色に青の機体はバラの機体の動きに合わせて、ビームブレイドを横一文字。



 その青白い荷電粒子ビームの刃が、高速回転するバラのドリルに打ち砕かれる。





【ヒストリカルアーカイヴ】


・FTR(フェデラルトランスポートロジスティクス)

 銀河最大の巨大輸送企業。連邦域外へも輸送を行っている。

 星間輸送業者は、超大型輸送船を用い船団を形成して大量輸送を実現する人類文明の生命線とも言えるが、メナス被害拡大と共に活動が制限されている。




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