110G.リビルディング マスターピース

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 共和国中央星系『フロンティア』、本星『プロスペクティヴァ』衛星『ユリアナ』地表面。

 ノマド『キングダム』船団。


 鋭くも優美な白い船、高速貨物船『パンナコッタ2nd』の下部格納庫内にて。

 メガネにお下げ髪の少女、専属エンジニアのエイミーは、全高15メートルのヒト型機動兵器の前にいた。


 スーパープロミネンスMk.53改。


 連邦軍でも数多く同シリーズが採用された実績のある、旧型の高性能機。

 比較的スマートな中型の基礎骨格ベースフレームに、実用本位の強固な装甲、重力圏の内外を問わないパワーのある駆動部アクチュエーター、余裕を持たせた主機関ジェネレーター出力と、非常にバランスに優れる優秀な機体だった。

 それを、最新の技術とパーツでチューンナップしたモノだ。


 そんな傑作機が、見るも無残な姿で立ち尽くしている。


 両腕マニュピレーターは喪失。

 胴体左側はコクピット近くまで大きく破損しており、装甲は無傷な箇所が見られないほどえぐられたあとが無数にあった。

 外見だけではなく、内側にも山ほど問題が出ている。

 関節の接合部などはガタガタ、電送系は過負荷で全滅、ブースターの排気口ノズルは周囲を巻き込み爆発していた。

 更に、主機関ジェネレーターの出力や同調システムネザーズの感応係数にも異常が見られている。


 全ての動力と機能が停止され、機械の巨人は死んだように動かない。

 実際、今の状態では再起動など到底不可能であり、修理してどうにかなるというレベルでもなかった。

 一通り状態を診た技術者陣も、正直途方に暮れている。


 エイミーはボロボロになったエイムを見つめ、哀しげに肩を落としていた。

 最後までオペレーターを守り通した機体ではあるが、その有様がどうしても赤毛の少女を連想させるのだ。


「これは……もうリペア不能と判定した方がいいでしょう。全バラしで部品交換するなら、ほぼ総取替えになりますし。

 新しい機をベースにカスタムした方が合理的ですね」


「旗艦艦橋ブリッジは最高のエイムを作れと言ってますがね。現実的に考えれば、共和国のハイエンド機を調達して改造した方が確実でしょうし」


「このスクラップを使うとなると信頼性にも問題が出るしなぁ。それに重力環境と無重量環境のどちらでも運用できるとかになると、コストも手間も倍以上になるし…………」


 そんな哀愁のエイミーをヨソに、整備データを見ながらアレやコレや話しているエンジニア集団。

 キングダム船団内部から集められた、各船の技術者である。


 赤毛のエイムオペレーター、村瀬唯理むらせゆいり機体エイムは、デリジェント星系グループでの戦闘で限界を超え酷使された末に大破寸前までいった。

 しかし、船団中最高のオペレーターである唯理の搭乗機は、最優先で用意されなければならない。

 その為、エンジニア達がパンナコッタⅡに赴き、現在の赤毛娘のエイムを前に検討中というワケだ。


 そして今のところ、損傷著しいスーパープロミネンスMk.53は、廃棄という方針で話が進んでいる。

 次の機体は、ローグ大隊の『ボムフロッグ』かそれ以上の性能を持つエイムの改造機、という案が現在の最有力だった。



 赤毛の少女の専属エンジニアは、それで納得は出来ないのだが。



「…………仮に『クーローン』や『クラウン』みたいなハイエンド機を改造しても、メナス特機ほどの性能は得られませんよ。

 どの程度の機体を用意できるか、ではなくて、飽くまでも要求スペックありきで考えるべきだと思います」


「『メナス特機』と同レベル……と。それは理想ではそうなるんでしょうが、メナス自体ほとんどのテクノロジーが解明できてない上に、特機になるとほぼ『アノマリー』存在ですし」


「アレと同水準の性能を求めるのは現実的ではないのでは?」


 エンジニアの矜持プライド以上に、エイミーは次の機体に妥協ができなかった。

 唯理は戦場に出る、これはもう仕方がない。本人の意思だし周囲もそれを望む以上、エイミーは自分にできる事で助けていくほかないのだ。

 ならば、もう二度と性能面で敵に劣る事など許容できない。


 とはいえ、要求が高過ぎる、という他のエンジニアの意見はもっともな話だ。

 ただでさえメナスは人類のヒト型機動兵器より基本性能が高い。しかも数が多いので銀河先進ビッグ3オブ三大国ギャラクシーすら押されている状況だ。

 それらメナス自律兵器群の中において最強と恐れられる特殊機体は、単体でも星系艦隊10万隻を殲滅しかねない、もはや理解不能な脅威メナスである。

 そんな異常存在アノマリーと同等の機体など、作れるものなら三大国ビッグ3も苦労しないという話だった。


 常識でいえば当然そうなるのだが、今回ばかりはエイミーも要求値の為の手段を問うつもりはないのだ。


「オペレーターに合わせて交差距離での攻撃性能を強化、負担を減らし継戦能力を引き上げましょう。この機体データを元に負荷のかかっている部分を分散配置、トータルでの推力、防御容量もアップします。アッドアームズのコンセプトを強化して、機体の標準装備としても加えたいと思います。

 それに…………メナス特機のような高レベルの敵性存在に対抗できる、新しい兵器システムも」


 憂いを消しエンジニア嬢が顔を上げると、空中に図面を広げ必要データを放り込んでいく。

 スーパープロミネンスMk.53を背景に、次々と付け足される構成要素。

 付随する予想数値を見て、他のエンジニア達は目を剥いていた。


「これッ……!? 無茶苦茶でしょう!? とても実現可能な要求値とは言えません! トップメーカーのコンセプト機だってこんなスペック設定しやしませんよ!!」


「エイミーさんじゃなかったら子供の妄想としか言えませんね……。確かにこれなら、メナス特機クラスと言えなくもないが……」


「でも具体性が皆無です。仮にビッグ3の最新鋭機をかき集めても、この数値にはなりませんよ? モーションスピードひとつ実現させるにしても、制御系、駆動系、パーツ剛性、素材、全てを自前で開発しないと」


「実験データひと揃えするだけでも死ぬなこりゃぁ」


「オペレーターの能力と仮想敵のデータから必要な数字を出すと、実際これくらいはなるだろうけど…………」


「『新しい兵器システム』ってなんです? アッドアームズの基本装備化とは違うの??」


 目の据わったエンジニア娘の仕様書には、正気を疑う内容が記されていた。


 ヒト型機動兵器『エイム』は、基本的に単機ではなく複数機での運用を想定してある。

 その機動性、運動性、火力、防御力は既存の兵器に比べて非常に高レベルではあるが、それでも集団の中の個人として著しく逸脱するようなモノではない。

 オペレーターの能力として扱いきれない上に、ある程度より高い戦力を求める場合は、個の性能ではなく集団としての向上を試みる方が効率も良いからだ。


 ところが、エイミーの創り上げようとしている代物は、その基本を無視してとことん単体性能を突き詰めようとしている。

 重力制御システムの限界として頭打ちな加速性能はともかく、増設される機動マニューバブースターによる運動性能、搭載兵器に求められる火力の高さ、必要とされる動力機関ジェネレーターに各種エネルギー出力と、そのいずれもが現在の水準からは過剰としか言いようがなかった。


 一方で、必要性を考えれば納得せざるを得ない、というエンジニアもいるのだが。


「それで……シミュレーターでは予測達成率30%切ってるけど、ここからどうデータ集めます?」


 しかし問題は、その仕様の実現方法だ。

 大抵の物は演算フレームに要求すれば設計データを導き出せるが、新たな物を作るには、それをシミュレーションする為の基礎データを得る必要がある。

 エイミーが作ろうとしているのは、現代の水準を飛び出したエイムだった。

 エンジニアのひとりが旗艦のフォルテッツァ主要演算メインフレームにお伺いを立てたところ、要求値に対してデータがまるで足りてないですよ、というお答えだったらしい。


「新型機はユイリ……R001の専用機になるから、そちらとのマッチングを最優先に考えます。データの絞り込みにもなりますし。

 彼女との相性も考えて、初期値はこのスーパープロミネンスに設定。バランスのいい汎用機だから、サンプルとしても理想的でしょう。

 この機体を実証実験機にして、新型機に必要な性能を満たすデータを徹底的に集めます」


「……完全にイチからの製造になりますねー」


「『モーリアン』にいる時ならともかく、ノマドに来て本格的なエイム開発をするとは思わなかった」


「いやでもこれ……プロミネンスとは仕様数値が開き過ぎでしょ。予測される費用が……え? これ大丈夫??」


「…………メインブリッジもえらい予算出したと思ったけど、これ足りてないし」


 エンジニアのお嬢様は、正攻法で新型機に必要な技術とデータを得るつもりだった。

 即ち、仮説を立て実験を行い実証する、その繰り返し。

 その為に、大破寸前なスーパープロミネンスMk.53も廃棄せず、あらゆる実験の素体として利用する事になる。


 恐らく、相当な数の実験部材の製造とテストが行われると予想され、エンジニア達は今から途方もない気分を味わっていた。

 とはいえ、今回の新型機製造は、決定権がエイミー嬢にあったりする。

 オペレーターの赤毛娘が、最も信頼するエンジニアであるからだ。それに、控え目に言って天才でもあるゆえだ。


 旗艦艦橋メインブリッジの要請を受けた他のエンジニア達に、それ以上反対の弁無し。

 それに、正直なところ超高性能な汎用機開発というのも、面白そうな仕事ではある。


 ローグ大隊及び即応展開部隊ラビットファイア隊長機開発計画。

 これをして『フレースヴェルグ』プランというコードを付けられた計画は、その実験素体としてスーパープロミネンスMk.53のフルレストアと、アップデートからはじめる事に。

 既に性能の限界が見えていた旧式機だが、これまで唯理が駆ってきたという点で、改修後とのデータ差を知るのに大きな意味があった。


 シリーズ最新型のプロミネンス・バーストMk.3や、ライセンス生産された同型の共和国製『フレアType-D6』の部材、そしてエイミーたちエンジニアが独自に開発するパーツに、ひっそりと継続して搭載される異常を抱えた主機関部ジェネレーター

 それらが基礎骨格ベースフレームと共に組み上げられ、黄泉返りつつあるSプロミネンスMk.53。


 ある少女の執念を表すように、その『紅炎プロミネンス』には新たに『鬼火イルリヒト』の開発コードが与えられる事となる。


               ◇


 エイミーが格納庫で気炎を上げている一方、赤毛のオペレーター村瀬唯理むらせゆいりも、乗機と同じく修理をしている最中だった。

 先の戦闘による負傷と、限界を無視した身体への過負荷。

 合わせ技で瀕死の重症となり、戦闘直後は集中治療を受けていたりする。


「とりあえず臓器損傷は粗方治ったわね。内出血箇所も無し。もうナノマシン排出をはじめて大丈夫でしょう」


「助かりますドクター」


 医務室に据え置かれた医療用のベッド、クレイドルの上で身を起こす赤毛の少女。

 そのカラダにタバコ入れシガーケースのような平たい物体をかざしているのは、船医のユージーンだ。

 実際にそれはタバコに似た吸入インヘルスティックのケースであり、同時にハンディスキャナーであり、ついでに情報機器インフォギアも兼ねる複合デバイスであった。


「でも、治療の度にナノマシンの除去が必要なら、治療の方も一度にできると有り難いんですけど……」


「『ハンドラー』で複数個所同時に異なる治療をするのは難しいのよ。治療範囲が重なると、出来る治療は一種類に限られるし。一度にやろうとすると、その分治療時間が延びる割に効率は良くないから。

 いちいちナノマシンを排出する手間を考えても、複数回に分けた方が良い、というのが船医としての判断よ」


 医者の方針に文句付ける、赤毛の不良患者。

 船医のユージーンはというと、いつも通り気だるげな様子で、そんな素人意見を一蹴。

 身体の内側や重要な器官からの、段階的な治療を続ける予定を変更するつもりはなかった。

 時間はかかるが、徹底的にやれと船長をはじめとしてあちこちからそのように念押しされている。

 現在はまだ治療の初期段階であり、骨折や骨のヒビ、筋組織の損傷といったところは治療していなかった。

 ナノマシンを用いた高度な医療を実現しているとはいえ、万能薬などと言うほどではないのだ。


「まぁ半年……ハーフラインくらい全治に時間がかかるところを、800時間程度で済むからいいんですが。

 おかげで今の状態でも大分動けるようになりましたし」


「だから動くんじゃないの」


 だというのに、肩や首を回してコキコキならす、赤毛の重傷者。

 こいつ話聞いていたのか、と呆れ果てた船医から、速やかなツッコミも入った。

 そうでなくても絶対安静が必要な治療の前後にも事後処理で動き回ろうとし、エンジニアの少女を泣かせるわシスオペのツリ目を怒らせるわで散々叱られたのに。

 反省してるのかはなはだ疑問である。


 そんな赤毛のモンスター患者にお灸を据えるべきか、という建前で、船医の中にムクムクと持ち上がるイタズラ心が。


「……そもそもユイリ、あなた全身の75%の筋繊維にダメージ残してるんだから、大して力入らないでしょう?」


「わッ!?」


 おもむろに立ち上がると、赤毛娘の肩を押しクレイドルに寝かせるユージーン。

 案の定、唯理は簡単に押し倒されてしまった。

 しかも、下着に包まれただけの赤毛の美少女の柔らかな膨らみを、白衣姿のお姉さんが下から掬うように寄せて上げて弄ぶ。

 突然の事に、赤毛の方も二度ビックリだ。


「そうなの……そんなに早く動けるようになりたいなら、今すぐナノマシンの排泄もしちゃいましょうか。スノー、手伝って」


「……は? え!? ちょっとまってドクターまさかここで!!? イヤですよトイレ行ってします!!!」


 次いで船医の口から出て来た『医療行為』に、仰天して逃げようとする唯理。

 ところが、カラダが弱った今の状態では、上から圧し掛かってくる美人を跳ね除けるのも難しかった。

 医者的には、そら見た事か、である。


 医療用ナノマシンというのは、基本的に使い捨ての道具だ。

 血液を通して体内に入れられ、外部の誘導機ハンドラーからの信号で操作され治療を行う。

 そうして用を終えたナノマシンは体外に排出されるのだが、具体的にどうするのかというと、トイレで一緒に出してしまうのが最も簡単で一般的だった。

 確かにクレイドルはそういう事態にも対応しているが、問題はそこじゃない。


「スノー、この頭のリミッタ外れているムスメの上に乗りなさい。一刻も早いナノマシン処置の終了がお望みだから、ここで使い終わった分出させちゃうわ」


「だからそれは自分でトイレ行きますから! ってスノー先生!? うわッ……!!? え!? いやあのお、お尻が! ぅわ柔らか……!!?」


 赤毛娘の絶叫など知ったことではなく、船医の指示通りにお腹の上に跨ってくるのは、口数少ない操舵手の少女スノーだ。

 唯理に背を向け後ろ向きに座ったので、下着姿な可愛い小尻が目の前に。


 最近まで赤毛の少女も知らなかったのだが、スノーは定期的に船医に体調を診てもらっているとの事だった。

 とはいえ、シフト外に医務室へ入り浸っているのは、それだけが理由ではないとか。

 ただ、現在スノーのポンチョの下が下着なのは、ユージーンのせいだ。


「ほ、本当にダメですってばドクター! 見られながら……とか出来ませんから!!」


 操舵手の少女が視界と動きを封じたところで、エロ船医が唯理の下着を剥ぎにかかる。

 赤毛の患者も治療中という事で、いつもの環境EVRスーツやショートジャンパーは着ていない。

 今はブラとパンツのほか、負傷箇所だけを覆う部分スーツのようなモノを着けていた。

 そんなただでさえ頼りないよそおいだというのに、一番大事なパーツを奪われてしまうという。

 真っ赤になった唯理は脚を閉じて膝を立て抵抗するが、圧倒的有利な位置にいる船医のお姉さんは全く意に介さず。


「ふぅん? スノー、こういうのも興奮する? フフ……後でね。

 脚を持ち上げておいて。ユイリはこのまましちゃいなさい」


「そういうプレイならわたし抜きでおふたりだけでやってくださいよ! ってドクターそこダメ! そこは絶対触っちゃ――――もうヤダぁー!!」


 アブノーマルな処置を間近にして、興奮したスノーが唯理の上でお尻をモジモジさせていた。柔らかい感触がダイレクトにきて、唯理としても大変な事に。

 そこに追い討ちをかけるエロ船医は、赤毛娘の守りをあざ笑うかのように、もっとも秘めなければならない部分の触診・・をはじめてしまう。

 スノーに膝を抱えられ、赤毛の少女の形の良い美尻は全て丸出しに。

 そんなところで致命的な刺激に襲われる唯理は、無意識に下半身に力が入り、その結果。


 医務室の外に、赤毛の美少女の泣き声が混じった悲鳴と、なにやら水の流れるような音が漏れ聞こえていた。


               ◇


 パンナコッタ2ndのシステムオペレター、ツリ目少女のフィスは、シフト明けに医務室の方へ来ていた。

 唯理の負傷度合いは未だに重く、ナノマシン治療中に動けず暇しているようなら、様子でも見て行ってやろうと思った為である。


 メナス特機との戦闘と、その後は大変だった。

 まだ休めない、と重症なのにローグ大隊の機体ボムフロッグで出撃しようとする赤毛のバカを大人しくさせるのも大変だったが。

 どうせ今も、自分の体調も考えず早く仕事に戻りたいとか言ってやがるんだろう。

 いっそ船長への生贄に捧げてしばらく足腰立たなくしてやった方がいいかもしれない。


 そんな事を思っていたならば、医務室に到着するより前に、壁に身体を預けながらヨロヨロと歩く満身創痍な半裸の赤毛を発見した。


「ユイリー!? おまえどうしたー!!?」


 ビックリして慌てて駆け寄るツリ目の少女。頭の中にあった文句も吹っ飛ぶ。

 抱き抱えられる唯理は、完全に憔悴しょうすいしており、フィスにされるがままだった。

 スタイルの良い美少女の柔らかさに、オペ娘の顔も真っ赤に染まる。

 だが、それをただ堪能しているほど薄情でもない。


「ユイリ……ユージンのところで治療中だったろ? まだ動けないなら寝てりゃよかったじゃんか」


「……ムリ、あそこには居られないし」


 見ると、普段はクールな面構えの赤毛が、今は仄かに赤い顔で涙目になっている。フィス的には全然OKだが、話が進まないのでそれは置いておいて。


 何があったのか、と問うフィスに、唯理はただ『酷い目に遭った』と、一言。

 具体的なことなど言えるワケがない、とんでもない羞恥プレイであった。

 本来トイレで行うべき行為を医務室のベッドの上で、しかも船医のエロ姉さんと操舵手の無表情少女に見られながら。

 トドメに、ユージーンは感触から見た目から生理現象の内容まで、事細かに口に出して唯理を辱めやがるのだ。

 半分は、無表情ながら赤い顔をしたスノーに聞かせていたのだろうが。

 おねロリカップルのオモチャにされる方はたまったもんじゃないだろう。


 解放されたところで逃げ出してきたものの、もはや唯理は精神的にも這々ほうほうていである。

 あの医者絶対倫理的に問題がある、と思う赤毛だが、この時代のその辺の常識がどうなっているのかは、よく分からなかった。

 ただ、今後の治療はスキを見せないようにしようと思う。


 何が起こったのかは知らないが、なんにしてもフィスは唯理を自室に連れて行くことに。

 その途中、ふわりと良い匂いが漂ってきたのでつい鼻を鳴らしてしまったのだが、これに勘付いた赤毛娘のリアクションは、やたら激しかった。

 『なんか臭かった!?』と。

 フィスとしてはそういう事は一切なかったのだが、唯理はこの日念入りに身体を洗い、長風呂に入っていた。





【ヒストリカルアーカイヴ】


・クレイドル

 医療に必要な機能を多く搭載するベッド。個人で持つ者も多い。

 ナノマシンの操作機能や使用者の体調管理機能、生体スキャナー機能などを備える。

 重傷者用には寝たまま排泄が出来るような工夫もされている。


吸入インヘルスティック

 タバコに似た使い捨て薬品吸入器。

 精神の安定、集中力の向上、リラックス効果、興奮作用、などで軽い効果が得られる。

 嗜好品に近い。


誘導機ハンドラー

 ナノマシンの操作や制御信号を送受信する機械の総称。

 分子サイズのナノマシンに動力や制御機能を持たせる事はほぼ不可能である為、外部からこれらを操作する。

 医療用ベッド『クレイドル』の大半は、この機能を持つ。




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