93G.無自覚シスコン独走オブセッション

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 姉が妹の事をどれだけ理解していたか怪しいものだが、スカイ本人は別にそれでも構わなかった。

 姉のマリーンは、脇目も振らず目的の為にギラギラしているのが、とてもよく似合っていたのだから。

 姉の優秀さは、誰よりも近くにいる自分が一番わかっている。

 だからこそ、言われるがまま働く事にも異存はなかった。


 オンナ遊びの酷さには閉口したが。


               ◇


 共和国中央本星首都『グローリーラダー』。

 開発中途区画、貧民窟スラム


「『今のボス』っていうのは? 『アマナジオ』で連邦の増援が急に向きを変えて来たのも、そいつ・・・の仕込み?」


「そういうのはどっちかと言うと姉さんの得意技よね? あれ真似しようと思っても普通出来ないから。状況と相手を読み違えるとメチャクチャになっちゃうし。ていうか一度したし。

 『アマナジオ』の時のは多分偶然よ。都合良かったから利用したけどね」


 連邦と共和国は、常にどこかしらの星系で小競り合いを繰り広げている。

 『アマナジオ』と呼ばれる星系での紛争も、そのひとつに過ぎなかった。

 ところが、ありふれたいさかいであったはずのそれは、複数方向からの連邦の増援により、圧倒的戦力差による共和国艦隊の撤退戦へと姿を変えてしまう。


 マリーンの妹、スカイはその折に死んだはずだったが。


「考えてみると、おかしなところも多かったわね。唐突で不自然な機密保護命令、アナタらしくない無謀な継続戦闘。もっと前から、死を偽装する準備は出来ていたのね」


「今それに気付くなんて、姉さん本当に鈍った? まぁノマドなんかじゃ大して腕を振るう機会なんて無いだろうし、仕方ないか」


「でも、それで裏方・・に回るメリットが分からないわね。アナタの性格的に向いているとは思えないけど?」


「…………それは姉さんには関係ない事よ」


 目を細めて怒りを滲ませる姉に、ばつが悪そうにそっぽ向く妹。

 今までマリーンがどんな思いをしていたか考えれば、腹が立つのも当然の事だろう。策略家を気取りながら、まんまと騙された自分にも腹が立つが。


 しかし、解せないのはその動機だ。

 死を偽装する理由など、死人にしかできない仕事をする為に決まっている。

 元の自分の身分を消し、誰でもない透明人間として企業の裏の仕事に従事する為だ。

 死んだフリは、その古典的手法である。

 当然、それまでの全ての生活を捨て別人として生きるのは大きなリスクとなるが。

 そして、マリーンには妹がそこまでする利点を見出せなかった。


「カンパニーに弱みを握られた、とかじゃないわよね? その辺は対処していたもの。隙なんか作った事は無いはず」


「だからわたしの都合だってば。今もその為に働いている。姉さんを連れて来いって命令でね」


 スカイが手を上げクルクルと指を回すと、周囲に控えていた黒服達がマリーンの方を囲む。

 マリーンも何度か使った覚えがある、企業の保安部などに属する私兵たちだ。いずれも大柄で、中には機械サイボーグ化した者の姿も見られる。大半はマリーンを捕える為と言うより、護衛らしい。

 当然、荒事が不得意な女性にどうにか出来る相手ではなく、マリーンも無駄な抵抗はしなかった。


「あ、そうだ。どうせ向こうでも聞かれるんだろうけど、わたしも姉さんに聞きたかったんだ」


 音も無く滑り込んで来た、SUVに似た10台ほどの大型高級車の列。

 その内の1台にマリーンが押し込まれる直前、スカイは思い出したかのように声を上げる。


 そうして、無邪気な好奇心に満ちた目で、まるで手品のタネでも聞きたがるように、


「姉さんがカンパニーを抜けてあのノマドに加わったのは、はじめから『千年王国の艦隊ミレニアムフリート』が目的だったの?」


 姉に顔を寄せ、ささやくように問いかける妹。

 マリーンは何も答えず、スカイの向こうにいる人物を見透かして、厳しい目を向けていた。


「…………ま、いいわ。話をする時間は十分取れるだろうし。行きなさい」


 無表情になるスカイは、姉から目線を外し配下の黒服に命令する。

 タイヤの無い大型車は、僅かに地面から浮き上がると滑らかに加速し、薄汚れた貧民窟スラムから出る方へ向かっていた。

 そしてスカイは姉を乗せた車両を見送ると、かつての自分たちが始まった部屋を一瞥してから、自身もクルマに乗り込んだ。


               ◇


 最初に大きな失敗をしたのは、カンパニーの100次だか200次だか下に存在する、下請け企業に入って間もない頃の事だった。

 貧民窟スラムの抗争とは次元の異なる企業の暴力に、スカイはあっさり膝を屈する事となる。

 最下層とはいえ企業の持つ武力・・は桁が異なり、ドローンやサイボーグ相手に多少敏捷はしこく勘の良いだけの子供など、ケンカ相手にすらならなかったのだ。


「どうせ企業の飼い犬だろう、金にもならんしさっさと処分・・しないのか?」


「まぁ待てよ。例え『毛玉』のクソにだって売買の窓口ってのはあるもんだ。プロエリウムのメスなら、それよりは高く売れるだろ」


「その手間で費用対効果がマイナスにならなきゃいいがな」


 一応営業所らしき汚い建物の一室で、スカイは廃材を纏めるテープでグルグル巻きにされていた。扱いもそれに準ずる。

 スカイの処理を任された底辺企業の社員ふたりは、特にその方法を指定されなかった事を幸いに、小遣い稼ぎをするつもりらしい。

 全く身動きできない少女本人の見聞きしている前で、具体的な売買方法を話し合う底辺社員ふたり。


 その末に、社員がどこかと通信を交わすと、スカイはどこぞの特権階級の玩具となる事が決まっていた。


「おいおいおい結構な値が付いたなこんなガキに。大丈夫か?」


「大丈夫だろ? いちおうウチの系列のトップの幹部様だし。コイツ雇っていた会社の情報も処理してくれるっていうからな。報酬はボーナス扱いで怪しいところもない。ラッキーだったかもな」


 思わぬ臨時収入に喜び、浮足立つ社員たち。

 逆に、交渉内容を全て聞くハメになったスカイは、全力で足掻いていた。

 『毛玉』という動物を捕まえて切り裂くように、自分まで生きたまま解体されて遊ばれるとか、冗談ではない。


『こちらはグラダーセキュリティーである! 都市安全保障法に基づきただいまより全室の強制捜査を行う! 捜査妨害に対しては強制排除措置も取り得る事を警告する! 繰り返す、こちらはグラダーセキュリティーである!!』


 そして、そんなところに突っ込んで来たのが、首都のシティー治安組織セキュリティーであった。


「はぁ!? なんでセキュリティーがこんなところにまで!?」

「ユルド本社がセキュリティーを黙らせるんじゃなかったのかよ!!?」


 想定外の事態に慌てる社員。そして勝手に起動する、部屋の外に置いてあった警備用ドローン。

 底辺社員が泡を吹くいとまも無く、ドローンは治安組織へ勝手に攻撃を仕掛け、建物の内外はアッという間に戦闘状態となった。


 急な展開に、芋虫状態だったスカイはワケが分からない。

 都市の治安組織が大企業の意向を優先するのは、共和国に住む人間なら子供でも知っている事だ。

 そしてスカイを購入したのは、44社の支配企業ビッグブラザーの幹部社員だという。

 ならば、企業の言いなりの治安組織が、たかが底辺企業で働く子供など助けるワケがないのだが。


「スカイ、まだ生きてる?」


 その理由も、床下からパネルを持ち上げて顔を出した姉の姿に、大凡おおよその見当が付いた妹であった。


 姉のマリーンは、妹が捕まって間もなく建物に忍び込み、この部屋の床下に潜んでいたらしい。

 そこで通信回線を確保したり警備ドローンを乗っ取ったりと下準備にいそしんでいたが、決定的なのがスカイをユルド・コンクエスト社の幹部が購入した、という事実の確認だったという。

 ユルド社相手に、治安組織が動く事は無い。通報しても無視されるだけだろう。


 だが、ライバル企業のカンパニー社が動くなら、話は別だ。


 共和国を支配する44社ビッグBrosは、決して固い信頼関係で結ばれた仲間などではない。基本的にお互いを出し抜こうとする競争相手である。

 マリーンは通信内容を直接カンパニーに流し、ユルド社に対して有利な材料を得ようとしたカンパニーは、その狙い通り治安組織に働きかけた。

 同じ支配企業の影響力でも、建前上だけでも違法行為を働いたユルド社の幹部では、微妙に弱かったのだろう。

 最終的に治安組織は、カンパニーの要請に従い摘発に動いたというワケだ。


 ちなみに、マリーンにしてみれば、別に治安組織でもカンパニーの保安部でも、騒ぎを起こしてくれればどちらでも良かったが。


「スカイ……わたし相手の情報を丸裸にするまで待てって言ったよね? 企業はどんなに弱小でも本社から保安基準を決められてるから危ないって言ったよね? なのにレーザーだけ持って乗り込むとかアホなの? 護身用レーザーなんかサイボーグどころかドローンにも効かないとか想像出来ないの? 本当に頭の中脳みそ入ってるの?」


 戦場となった建物をどさくさに紛れ抜け出した後、姉妹は大急ぎでその場から離れていた。

 縄張りである開発区画へ戻る間は、マリーンからスカイへの説教タイムである。

 一見して清楚なお嬢様風の姉だが、その相貌は使い物にならない動作不良の機械ポンコツを見下ろすが如し。

 助けられた上に勝手に動いたのはスカイなので返す言葉も無いが、さりとて姉に対して素直に謝るほど殊勝でもなかった。


「だってぇ……マリーン・・・・っていつもどうでもいい事まで調べるじゃん。時間の無駄だよ。相手の上司とか系列けーれつ企業とか契約物件とか使ってるシステムとかさー……ほとんど役に立たないし……」


「あんたその『役立たない』情報でさっきは助かったんだからね? 運も良かったわよ。ユルドの大物が買い手だったから良かったようなものの、外の・・バイヤーだったりしたら二度と戻って来られないんだから」


 口を尖らせるスカイだったが、実際には姉が凄い事をしていると分かってはいた。

 幼いなりに、玄人の仕事をしているのだと。


 その後、姉の言う通りに動くようになったスカイだが、やはり失敗はほとんど無かった。

 詳細な情報と綿密な計画、そして実行力。

 これらを備えた姉妹は次々と大きな仕事を成功させ、共和国の権力の階段を駆け上がる。


 姉と働くのは楽しかった。一切手抜きをしない姉だからこそ、安心して命を預けられた。

 だが、ある日ふと気が付くのだ。

 いつの間にか自分は、姉の下で満足していた事に。

 スカイにとって、マリーンは庇護者や保護者ではない、幼い頃から唯一対等で信頼できる存在だった。


 なのに、『腹心の部下』という立場に安心している自分がいる。


 貧民窟スラム出身者には、過ぎた望みなのかもしれない。

 しかし、同じ立場の姉の方は、いつだって上を見ていた。現状に満足せず、挑戦を恐れなかった。

 なのに、自分は艦隊司令の姉の部下という立場に満足してしまって良いのだろうか。


 置いて行かれるような、見捨てられるような、得体のしれない恐怖に襲われたのが、その時だ。


 だから、ライバル企業であり妙な因縁を持ったユルド・コンクエスト社、そこの幹部社員ギルダン=ウェルスの誘いに乗り、裏舞台のエージェントとなった。

 能力、立場共に姉と対等になり、更に上を姉と一緒に目指す為に。


               ◇


 かと思えば、姉が自分の死後(偽装)にカンパニーの地位を放り出し、共和国から出て行ったのには驚かされたが。

 この時はスカイも大分混乱したし、考えさせられた。正直、オンナをとっかえひっかえしている姉にとって、自分は部下以上に重要な存在ではないと思っていたのだ。


 姉という最大の目標を失い、スカイは少しの間無気力にもなった。

 仕事にも身が入らなかったが、それを責められる事は無かった。ギルダン=ウェルスが自分を引き抜いた本当の目的は、姉を釣り上げる事だと分かっていたのだ。

 スカイは利用出来るのなら、それでも構わないと思っていた。思わぬ人物と関係が築けたのも、ある意味で狙い通りだったろう。


 そして今、姉はカンパニーにいた頃とは比べ物にならないスケールの野望を抱いて、ここに帰って来た。

 同時にスカイも復活した。

 やはり姉は姉だった。経緯などどうでもいい。先ほどの質問の時に、姉が見せた目の色で、スカイは確信を得ていたのだ。

 雇い主は自分にマリーンを押さえさせ『艦隊』への足がかりにするつもりだろうが、そうはいかない。



 それを手に入れるのは、自分と姉なのだから。


 

(とりあえず姉さんには逢えた。一応ギルダンに引き渡すとして、その後は…………まぁ姉さんとふたりがかりならどうにかなるかな。

 できればその前に姉さんから具体的な計画を聞いておきたいところだけど、多分筒抜けになるだろうしなー……。船団の中で接触出来ていれば……でも警戒されただろうし、仕方ないか)


 後部座席の上等なシートに背中から沈み込み、窓の外に目線を投げて考え込むポニーテールの少女。

 運転席と助手席には、一応部下という事になっている黒服の大男たちがいる。

 だが、味方ではない。

 スカイには姉以外に味方はいない。ユルド社の幹部や社員も、利用し利用される間柄でしかないのだ。


(にしても、狙い通り釣り出せたとはいえ、姉さんちょっと無防備過ぎやしなかった? 前に拉致された時なんか、用意していた爆弾で自爆覚悟だったのに。

 姉さんがなんの備えも無くひとりでグラダーに降りて来るなんて、そんな事――――――――)


 色々と外には出せない思惑はあるが、まずは姉と合流できた事を喜ぶスカイ。

 だが同時に、疑問も出てくる。万事に慎重を期す姉が、抵抗もせずに随分あっさり捕まったものだな、と。

 身体検査・・・・はしたが、これといった所持品は無し。基本的な情報機器インフォギアと護身用のレーザー銃くらいの物だが、これらは既に無力化処理している。


 実際、これはスカイの買い被りだった。この事態に、マリーンは何の備えも持っていなかったのだ。

 死んだはずの妹の亡霊を見てうろたえた挙句に、この体たらくである。

 マリーンは、無駄な抵抗は出来ないし、していない。



 ただ、貧民窟スラムで妹を見た直後に、母船パンナコッタⅡへ発信した緊急連絡がどんな事態を引き起こすかくらいは、考えるべきだっただろう。



「『ソアラ』オフィサー!? 本社から……いえ全市に警報が!!」


「『警報』? って、なんの??」


 自らの思考に耽溺していたスカイ――――ソアラは偽名――――だが、部下の黒服の声で我に返る。

 いったい何事かと、怪訝な顔のポニテ少女は情報機器インフォギアでネットワークにアクセスし周辺状況を拾う。



 それにより、マリーンと自分が乗る車列の直上から、剣のように切っ先鋭い宇宙船が迫っているのに気付く事となった。



「…………ハァッッ!? 降下艇、じゃない大き過ぎる! 降下能力持ちの宇宙船!? て言うか姉さんの『パンナコッタ』!!?」


 直線と多面体で構成される、洗練されたホワイトグレイの船影シルエット

 それは、マリーンに関連する資料で何度も見たキングダム船団所属の宇宙船、『パンナコッタ2nd』である。


 だがスカイが目を剥いたのは、知っている船だから、などという理由ではない。

 ここは天の川銀河に冠たる共和国の中央本星、その首都なのだ。

 そんなところに武装した戦闘艦が降下して来るなど、大問題になって然り。

 案の定、治安組織セキュリティー戦闘艇ガンボートが何機も併走しながら、パンナコッタⅡへレーザーを発砲していた。エネルギーシールドが赤い光線を捻じ曲げているが。


「何考えてるの!? いくら高性能って言っても問答無用で落とされるわよ!!?」


 既に警告の段階は終わっているらしい。このままでは治安組織セキュリティーだけではなく、惑星を守る軌道上の艦隊もヒト型機動兵器を差し向けてくるだろう。


 しかし、パンナコッタの乗員クルーが何を考えているかは、明らかだ。


「コマーストリート側に入って! 下層口からジオハイウェイに乗って本社に戻るから! あと本社に援護を要請!!」

「り、了解しましたオフィサー!!」


 ソアラオフィサーことスカイの命令で、SUVに似たクルマの列が一気に速度を上げた。片道10車線もある空中高速道路エアハイウェイを、センターライン無視で流れるように左車線へと移っていく。

 実に時速300キロを超える速度を出していたが、周囲のクルマは自動制御により整然とぶつからないよう避けていた。

 そして、四方八方からレーザーを喰らいながら、ピッタリ上を付いて来る白い剣の船。


 どれほど地上で飛ばしたところで、所詮宇宙船と速度の勝負などできない事は、スカイにも分かっていた。

 だが、ここは共和国の首都。巨大な都市である。超高層ビルが林立し、道路は無限に張り巡らされた超高密度の空間だ。

 宇宙船が自由に飛べるような空ではない。

 特に、車列が飛び込んだ『コマーストリート』は無制限自由商業地区であり、立体的に大小様々な建造物が密集している。

 スカイの車列は更に最下層へと下り、パンナコッタから距離を空けていた。


「ここなら、宇宙船どころかエイムだって入れない……! 地下ハイウェイに入れば、こっちの勝ち!!」


 有利な状況を作りながらも、ギリ……と音を立てポニーテールのオフィサーが奥歯を噛み締める。

 パンナコッタⅡがヒト型機動兵器を搭載している事は把握していた。

 姉を奪還するなら当然出してくるしかないが、スカイはそんな事を許すつもりは毛頭ない。


 白い宇宙船は信じられないほど狭い場所にも入り込み、しつこくスカイとマリーンを追って来ていた。

 人々が空を見上げ文字通り仰天していたが、そのすぐ横を企業の車列が安全速度無視で疾走する。

 相手は超高性能戦闘艦と、メナスを撃墜するほどの戦闘力を持つヒト型機動兵器だ。


 ドライバーの黒服が握るコントロールスティックにも力が入る。

 首都の地下区画入り口は、すぐそこ。

 企業権限で交差路の通行が禁止され、一般車両が停車する前を高速で通り過ぎると、高級車の列は先頭から横広のトンネルへと飛び込んでいった。


「よしッ! 逃げ切ったぞ!!」


「これで後は本社まで地下ジオを行くだけだ! いくら地上対応機だって流石に入って来れない――――――――!!」


 逃げ切りを確信した保安部の黒服たちが歓声を上げる。

 しかし、最後尾のクルマに乗るポニーテールのオフィサーは油断せず、断固たる決意を込めて上空の船を睨み続けていた。



 故に、その宇宙船から何かが降って来るのを、リアルタイムで目撃する事となった。


 

 そして、ゴバギャンッッ! と、車体の真ん中からひしゃげて跳ね上がる、すぐ目の前の車両。



「うわッ――――――――!!?」

「なんだ!? どうした!!?」

「緊急回避が!!?」


 スカイの乗るクルマは、突如発生した事故を回避するべく自動で大きく方向を変える。

 乗り心地より搭乗者の生命を優先した為、中の人間たちが大きく振り回されていた。


 そして、物凄い勢いで流れる景色の中、スカイは見た。

 空から降ってきた時代遅れレトロな二輪付きヴィークルが、踏み潰した車両を乗り越え先頭車両を追い爆走し始めるのを。


               ◇


 ウェイトレス姿の赤毛のライダーは、宙を舞っていた黒服のサングラスをキャッチすると、自分で装着。

 二輪車バイク型ヴィークルのモーター出力を最大に上げ、タイヤのエッジを利かせた鋭い動きで路面に弧を描いていた。

 深い赤と黒の機体は、甲高い駆動音を響かせながら時速を一気に400キロオーバーまで加速。

 ミニスカートを猛烈にはためかせる赤毛娘の村瀬唯理むらせゆいりは、全速力フルスピードでマリーン船長の奪還に挑む。





【ヒストリカル・アーカイヴ】


・下請け

 企業が自社で受けた仕事を委託する下位の会社。

 これを一次下請けとして、それを丸投げ、あるいは特定の業務のみを更に下位の企業に委託すると、これを二次下請けと呼ぶ。

 共和国の最上位企業が下請けに出すとなると、流れ流れて1000次下請けにまで及ぶ場合もある。


・裏方

 企業の裏の仕事を担う社員を示す隠語。

 正式な役職ではないが、ユルド・コンクエスト社ではオフィサーとも呼ばれ高い権限を有している。


千年王国の艦隊ミレニアムフリート

 剣の艦隊、封印艦隊、天の川銀河中に眠る100億隻の超高性能戦艦を指す呼称のひとつ。

 地球脱出後の人類の文明が安定するまで千年間の借用が許されていた事に由来する。




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