4th distance.ローグ

82G.本能的故に野蛮でたのし

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 無人機に任せればよろしいがな、という意見は当然あった。

 だが、赤毛娘の村瀬唯理むらせゆいりは、せっかくだから自分でお魚を獲りに行きたかったのだ。

 特に、漁猟が好き、などという趣味は地球在住の頃にも無かったと思うが、何せ自然が貴重な宇宙空間のド真ん中である。

 地球にんでいる頃は思いもしなかったが、やはり自分も地上育ちという事なのだろうか。


 軽装のスーツ姿で海中に潜り、原始的なモリなど使って魚を串刺しにして来た唯理は、そのような事を思うのだ。


「ふぅ…………無くして分かるかけがえ・・・・のなさ、ってヤツなのかね?」


「そりゃまぁ別にいいんだけど、オマエその格好………………何故着た」


 そんな浜辺の赤毛娘は、サイズに問題有りでピチピチになってしまっている水中活動用スーツ――――『ゆいり』名札付きスクール水着(黒)――――という格好だった。


 生地が伸びた分薄くなり水に濡れると透けてしまい、肉感的なカラダ付きと大きく張り出した部分の素肌があらわになっている。

 かと思えば、その手には魚をブッ刺したモリというエグいオプションを装備。


 もはやどこからツッコミを入れて良いか、ツリ目オペ娘のフィスには見当もつかず。

 ピクピクと死にかけな魚とエロ過ぎる赤毛娘の対比に、視線の置き場が分からずにいた。

 見た目スゴい美少女なのだから、もっとそこのところに気を遣いやがれ、と心の底から思うものである。


 なお、赤毛の少女を『おソロの水着がイイのに』とウソ泣きで落とした褐色肌の双子は、エログラビアのようになってしまったその光景を激写中(無許可)。

 なれど背後にいるのが権力者のお姉さんなので、取り締まりも不可能だった。


               ◇


 無明の宇宙を往く、約60万隻にも及ぶ宇宙船の群れ。

 それは、ノマド『キングダム』船団とターミナス恒星系の難民船団、加えてそれらを護衛するという名目で派遣された銀河先進三大国ビッグ3オブギャラクシーがひとつ、共和国の本星艦隊だ。


 私的艦隊組織PFC『スカーフェイス』による船団旗艦『フォルテッツァ』の強奪未遂から、約170時間が経過していた。

 乱れ飛ぶ小惑星群の罠ブレイクショットエフェクトに少なくない損害を被ったキングダム船団であるが、現在は破損した船の修理をしながら航行を続けている。

 元々新品揃いの船団というワケでもなかったが、先に立ち寄ったターミナス星系以来、どの船も傷だらけだ。

 そして、常に危険と自由をはかりにかける自由船団ノマドというのは、おおむねこういった存在モノだった。


 ノマド『キングダム』船団は、共和国の中央本星系『フロンティア』を目指している。

 ターミナス恒星系でのメナス自律兵器群の攻撃により、抱える事となった難民と避難船団を引き渡す為だ。

 恐らく、それだけでは終わらないというのがキングダム船団上層部の考えだが。


               ◇


 キングダム船団は通常の航行体制に戻りつつあった。

 私的艦隊組織PFC『スカーフェイス』による騒ぎも落ち付き、先日は船団内を活気付けるちょっとしたイベント事も執り行われている。


 そのイベントに関連し、唯理とパンナコッタは破損した船の修理など手伝うかたわら、特別な仕事に従事していた。

 それは、この時代の人間には難しい、ある失われた技術と文化の復興だ。

 一応、魚の入手も、その一環である。


 全長50キロメートルにも及ぶ超巨大宇宙船、環境播種防衛艦ヴィーンゴールヴ級『アルプス』。

 その内部で開始された地球環境における生物の育成は、順調に推移していた。


 半分野生化していた上部ブロック内は整備され、作業用ヒト型機械ワーカーボットを手足とした全自動の環境調整オーガナイザーシステムが、植生や小動物の個体数を管理する。

 遺伝子サンプルから再生された動物が自然に近い放し飼いにされ、エリア毎に区切られた植物が無数に栽培されていた。


 下層ブロックの海洋エリアでは、人工海流により洋の遠近を問わない魚類が養殖されている。

 人工岩礁には小魚が棲み着き、砂の中には貝類や甲殻類が繁殖していた。

 作業用の小舟型無人機ドローンがのんびり動き回り、帆柱マストのように突き出たセンサーポールの上に海鳥たちが止まっている。


 アルプスは冷たい宇宙の中にあって、砂漠のオアシスのような存在となっていた。

 常に危険と隣り合わせな閉鎖環境に置かれる人々は、潜在的にストレスを抱え易い。宇宙航海者の宿命でもある。

 その緩和策というのは常に付きまとう課題であるが、アルプス艦内の地上に居るかの如き自然環境は、大勢の宇宙船乗りにひと時の安らぎをもたらしていた。

 おかげで中層にある居住区は、入居希望者が絶えないという事態だ。


 もっとも、アルプスという巨大な船が銀河における台風の目となるのは、これからの話であるが。


 実験飼育中の物、という事にはなっているが、赤毛の少女は大量の収穫物を持って自分の母船パンナコッタに帰ってきた。

 当然、サイズの小さい水着は脱いで環境EVRスーツといつものジャンパーに着替えている。惜しい、とは誰の本音だったのか。


 船体下部の格納庫から向かう先は、船尾上部の後方に突き出ているダイニングキッチンだ。

 元宙域観測室なので非常に見晴らしが良く、機材を取っ払ったので広々している。

 パンナコッタと併走する宇宙船団の航跡光ウェーキーが、無数の流れ星のように淡く輝いて見えた。


「さーて……何からはじめようかな」


「とりあえず工程踏むごとにスキャンすればいい?」


 キッチンテーブルの上には全てが揃っていた。

 刃物や器、皿、その他調理器具。当然、肉と魚、野菜に果物、穀物や調味料といった食材も。

 それらは21世紀では当たり前に普及していた物だが、個人が料理するという習慣が消えた現代において、いずれもが特別に調達しなければならなかった品々だ。

 ヘタをすると古代の資料にだけその存在を留めている、歴史の発掘品扱いに近い物もあった。


 そんな原始的かつ野蛮極まりない道具を用い、非常に暴力的な行為に没頭している赤毛の少女。

 何かと言うと、調理用ナイフで魚介類をさばいているのである。


「うわー…………そんな簡単に取れちゃうんだ。ウッ!? あー、外しちゃったー…………」


 その手際と技術を横で記録していたメガネの少女、それに見物していた他のお嬢様方は、揃って目を丸くしていた。


 手の平サイズの大振りなエビの脚をむしり取ると、腹側から刃物の切っ先を入れて簡単に殻を剥いてしまう。

 それをザルいっぱいに用意したかと思うと、次はタイの内蔵を取り頭を落としうろこを削り皮を剥いで昆布で絞めていた。

 葉物野菜から芯を切り取り、根菜の皮を剥きボールの中の水に浮かべ、パンの焼き具合を見て炊き立ての米をかき回す。


 以前のお菓子作りとは全く違う、生き物をダイレクトに加工するという作業。

 この時代、生物を素手で解体するなど嫌悪感が先立ちそうだが、もはや職人芸を通り越して達人芸と化している調理工程は、洗練された一種のパフォーマンスにも見える。

 赤毛娘の行為が確かな技術に裏打ちされているのは一見して明らかであり、見物人としても感心する他なかった。


                ◇


 それから1時間30分後。


 パンナコッタのダイニングキッチンには、キングダム船団のお歴々が集まっていた。

 どうして本船のキングダムや旗艦のフォルテッツァではなくパンナコッタなのかというと、本件の機密性の高さ故だ。

 内容は新しいフードレーションの試食会なのだが。


「コース料理とはいきませんが、とりあえず手に入った素材で作れるだけ作ってみました」


 と言う赤毛娘は、胸元と背中を大きく開いたエプロンドレスという格好だった。当たり前のようにスカート丈も超ギリギリで、少し屈むともうパンツとお尻が見えてしまう。「ゆいり」のネームプレートや小道具のお盆と、芸が細かい。


 それはいわゆる、ウェイトレスと呼ばれる職種の制服であった。

 唯理の役どころを考えればシェフの制服が相当なのだが、そこは可愛さを優先した双子やメガネや船長のフルチョイスだ。

 オマケに赤毛、ポニーテールである。


 そしてテーブルの上には、アルプスで収穫し赤毛のシェフが調理した成果物が並んでいた。

 統一感の無いメニュー内容だが、先のイベントと異なりデザートより主菜や副菜が多い。

 今までは材料も調理器具も限られていたが、ここにきてようやく妥協の無い料理が出来る様になった、と唯理は思っている。


「これはまた……凄まじいな。この前のイベントでもあれだけの種類のレーションを作っていただろ?」


「アレはほぼ全てスナックやお菓子といったカテゴリーの物でしたから。今回作ったのは、基本的に主食や主菜が対象になりますね」


「いったいどう違うんだいそりゃ?」


 この品評会に集まっているのは、船団長の褐色白髪、ディラン=ボルゾイをはじめとしたキングダム船団の主な船長と、船団事務局の局長など。

 先日のイベント前の試食会と、ほぼ同じ面子である。


「例のフェスティバル、評判はかなり良かった。アレを真似てレーションを自作する者が大勢いるらしい。思った通り、リソースの需要量も急増している。

 少し近所・・がうるさいが、フロンティアへ入る前に資源の補給が必要か?」


「避難民を抱える関係上、資源貯蔵量はかなり多く見積もっていましたが……。フロンティアに到着してからの事も不透明ですし、出来るうちに補充しておいた方がいいでしょうね。

 消費が増えている理由も、それだけではありませんが」


「なんでもイイが、もう食っていいのか? この前食ったパテのスティック、ありゃあ良かった」


 プロエリウム、現行人類の祖が地球を旅立ち、2,000年以上の時が経っている。

 この間に、食事は効率化が進み単なる作業におとしめられ、食料とは身体に栄養や刺激という信号を送るだけの味も素っ気も無い保守素材と化していた。

 そんな現状に一石をぶん投げたのが、21世紀出身の赤毛ポニテ、村瀬唯理と、出自不明の超大型宇宙船が一隻、ヴィーンゴールヴ級である。

 奇抜な味の化学物質ペーストがとことん肌に合わなかった唯理は、ヴィーンゴールヴ内に保存されていた動植物サンプルから21世紀の食べ物を再現し、これに成功していた。


 それらフードレーションは先のイベントで船団中に無料で提供され、乗員の間で大きな話題となってきている。

 ただ、個々人が自身の割り当て資源リソース量をいっぱいに用いて同じ物を作ろうするので、船団全体の資源備蓄量が微妙に圧迫されているとか。

 深刻ではないが対処は必要か、と言う船団長に対し、メガネの事務局長は別の件に顔をしかめていた。

 恰幅の良い砲艦の船長は、さっさと料理に手を付けていたが。


               ◇


「ウニとコンソメジュレの冷製スープです。トゲのある海洋生物の卵巣と、10種類以上の食用植物の抽出エキスを半分固めたモノとなります。

 ウニの身の濃厚な甘さと、しっかりしたコンソメの旨みが溶け合う一品です」


 新鮮なウニの身は、綺麗なオレンジ色で身崩れも無く、宝石のようなジュレの中央に堂々と鎮座していた。

 しかし上品なオールバックの中年船長は、赤毛娘から説明を受けて、僅かに鼻白んだ顔となる。

 とはいえ、それは見た目にも美しい一皿であり、またスキャナーにも人体には無害と出ていたので、意を決してひとさじすくってみる事とした。


「エビとタイのカルパッチョとサラダのバケットになります。海に棲む甲殻類と白身の魚類を表面だけ火を通して下味を付けたモノで、葉物野菜と一緒にパンで食べてください。

 淡白で歯ごたえの良い具材とサクサクのパンの食べ合わせが美味しいですよ」


「コレ植物? え!? この状態のまま食べるの!!?」


 筋肉質な女性船長は、薄く切ったパンの上に乗っているネタに、目を白黒させていた。

 栄養素を合成して摂取する、という食事に慣れ切った人類としては、生き物を食べるのは野生生物の所業であるし、植物を食べるのは食物連鎖の下位の行いだという知識・・がある。

 つまり『サラダ』とは何ぞやという話なのだが、見目麗しい赤毛の美少女が毒見のように食べて見せるので、豪腕で鳴らす船長も度胸を見せなければならなかった。


「ロブスターをローストしたモノのブールブランソースがけ。海洋甲殻類の炙り焼きにバター、塩、白ワインのソースをかけたものです。

 焼く事でロブスターの旨みが強くなり香ばしさも出ます。風味の良いソースで更に美味しさが引き立っていますね」


「…………ユイリ隊長、貴女の事は信頼してますが……この、ほぼ原形を残しているのは、こういう物なのでしょうか…………?」


 常に冷静沈着なゴルディア人の若い艦長だが、皿のド真ん中を占領する真っ赤な巨大エビの姿には、少々顔を引きらせていた。 

 あまりに立派なロブスターだったので姿のまま調理したが、唯理は若干反省した。


「フォアグラと牛ヒレ肉のステーキ、赤ワインソース仕立てです。牛肉の柔らかい部位とよく肥えたガチョウの肝を焼いたモノになります。ソースはバター、赤ワイン、塩、ニンニクですね。

 フォアグラの滑らかさ、甘み、風味、肉の柔らかさと歯応えと旨みを併せてお楽しみください」


「ほーう……二種類の動物の部位を重ね味わうのか。面白い」


 茶褐色のモノと、焦げ目が付いた乳白色のモノ、船団長はふたつの塊を興味深そうに観察している。

 外見から素材を連想し辛いという事もあるが、集まった面子の中では比較的若いにも関わらず、動じた様子は無かった。


 適当に選んだ料理の説明を赤毛の少女から受け、慎重に、あるいは恐る恐る手を付ける船長会議の面々。

 何せ、生まれて初めて自然に近い食材を口にする者も多い。

 筋繊維や内蔵器官、あるいは生物の原型を残した物体を口に入れるのに、躊躇するのも当然の話ではある。


 だが、それも僅かな間だけの事。

 ハンディスキャナーで、人体に害が無い事は確認できた。

 その料理に添付された素材と栄養素の構成、または料理工程などの記録データも精査した。

 そしてシェフによる味わい方補足に興味を引かれると、自らもその体験をしてみようという気にもなる。


 結果、例によって退化した舌が理解するのに少々時間を要したが、誰もが21世紀の美味に心を囚われていた。

 ある意味で、二度と通常のレーションが食べられなくなるという不幸にも見舞われているワケだが。

 見方によっては文化の汚染である。


「しかし前にも思ったが、今まで我々は何を食べて来たんだって言いたくなるな。

 単純に動物から切り取って来た組織が、信じられないほど味覚を刺激する」


 奥深い肉の旨味に覚醒した船団長は、今までとこれからの食生活に思いを馳せて心中複雑だ。

 21世紀流に言うならば、パンドラの箱を開けた思いか。


「いずれの処理工程を見ても、それほど単純でもないようですが。材料を最適な方法で処理しなければ、ここまで個々人の味覚には適合しないのでしょう。

 私としては、特定の味が複数人に共通して受け入れられる幅を持つ事が不思議に思えますが」


 ゴルディア人、ソロモン船長は料理という古の作業自体に注視しているが、その手は絶えずエビの爪から身をほじくり出している。こちらの味も、とことん追求する気らしい。

 そして中盤でソースを食べ尽くした事を悔やんでいる。


「なぁリード船長…………お前さんそればっかり食ってるが、気に入ったのか?」


「ワケが分からんなんだいこりゃぁ!!?」


 横幅のある筋肉、ウォーダン船長は骨付きソーセージを食べていたが、隣のリード船長の様子に引き気味だった。

 凄みのある老女が一心不乱にかっ喰らっているのは、ビーフカレーライス(中辛)である。


 ハロウィンフェスの際は、唯理も意図的に素材の原型が残らない調理を主とした。

 一方で今回の品々は、素材本来の風味と形を活かした物が多い。

 何せ善し悪しを判断する品評会なので悪評上等だと思ったのだが、意外なほど「受け入れられない」という意見は出なかった。


「前に無償提供されたレーションのデータも好評だ。日々の食事が楽しみになるなど想像もしなかったが、何にしても船団内は活気付いている。

 ターミナスで激増した船団人口やその後アクシデントで乗員にも強いストレスがかかったはずだが、その緩和に大きく貢献しているだろうな」


「事務局としても有り難いですよ。船団の特色にもなりますし、特異な産業は交易の上で入国審査にもプラスに働きますから。

 ただ個人での作成はデータがあってもリソースのロスが大きいようですね。需要が計算できるなら、供給ルートはある程度一本化したいところです」


「供給といってもどうするの? フードディスペンサー任せのマテリアルじゃこの味は出ないでしょう? かと言って、どれだけアルプスが大きくても全船団の要求量を満たすほどの生産力は無いわよ?」


 品評会もメインからデザートへ移る頃には、古典料理フードレーションを船団内で安定供給する事が規定路線となっていた。議論さえ起こりやしない。


 ウェイトレスに徹する唯理は、特に何も意見しなかった。

 船団の食事事情が充実すれば言うまでもなく21世紀出身の少女は助かるが、その具体的な方法について自分が何か口に出す立場にない。

 船団ノマドにも事情というモノがある。


 元素変換融合機トラスフュージョンマテリアライザーで利用できる資源リソースの使用量と製造機アセンブラの占有時間は、個人ごとに定められている。この辺の調整は船団の運営サイドの裁量だ。

 そして、基本的に合成ではない天然の食材は、味の深みが違う。人気が出るのも当然であり、この辺をどう供給するかも船団上層部の判断となる。

 21世紀の料理の作成データを無償で使用出来るようにしたものの、製造システムアセンブラ任せにしては味が単調で薄っぺらくなり、天然物とは比べるべくもない。

 手動マニュアルならば多少マシになるが、それも正しく調理できる事が前提であり、そんな技術を持つ者もこの時代には非常に少なかった。


 需要があれども供給に多々問題があり、結果として浪費される物理的時間的資源リソース量も馬鹿にならない以上、何らかの合理的な仕組み作りが必要と考えられている。


「ベーコンソーセージがいつでも食えるようになるなら、ワシは何でもええがのう。このポーションも悪くない。なんじゃ交互に食べると味が鮮明になるような、それでいて混じり合うような気もするのう」


「アルコール類に関しては専門外なので、お好きな方から意見を聞きたいところです。

 とりあえず組成と手法に関しては完全にオリジナルと同じなはずですが、やっぱり前にいたのとは大分違いますしね」


「そうなのか? え? これ以上美味しくなる??」


 そんな真面目な打ち合わせのかたわら、古参なのに話し合いへ参加する気が無いロアド人の船長。

 パンチの効いた骨付きソーセージと厚切りベーコンとアスパラガスのオイル仕立てを味わうのに忙しいようである。また、見た通りの酒好きであった。

 それを、少々申し訳なく思う赤毛ウェイトレス。


 酒というのは、その道のたくみが研鑽と仕込みに十分過ぎる時間を費やした末にしか作り出されない代物だ。

 流石に唯理も酒造りに手を出した事はない。今回もサンプルデータを元に、覚えている限り近い物を作るだけだった。

 未成年だった赤毛女子高生がどうして酒の味を知っているのかは、黙秘する。


 以上のような経緯で、キングダム船団内における天然素材を用いた、あるいはそれを模したフードレーションの提供事業の開始が本決まりとなった。

 当面は、提供形態や商品の製作も手探りとなる為、試験運用という形になる。


 なお、アルコール類の開発に関しては、唯理のあずかり知らぬところで秘密クラブが結成される事となった。

 秘密にしたのは特に意味は無い。発起人達の遊びだが、中には今後の惑星交易や赤毛娘に知られずに話し合いをもつ場としての利用を考えた者もいたようだ。


 この時代の酒類、アルコールポーションというドリンク類は、21世紀の飲料とは大分おもむきの異なった存在である。

 現在のアルコールポーションは、摂取により気分高揚や酩酊といった身体の変調を楽しむ物だった。成分によっては、また口に出来ないほど特殊な精神状態を味わえるとか。


 そこに来て21世紀のアルコールはというと、原材料や熟成容器により異なる味わいと香りを楽しむ物だ。これが、その道の愛好家達に非常な感銘を与えたらしい。

 だというのに、コレに関しては赤毛娘があまり頼りにならない、と。

 故に、船団長や砲艦の艦長など酒好きどもが独自の研究開発に乗り出す事にした、という話である。


 後に銀河全域でネットワークを形成する地下組織、『アンダーバー』の誕生であった。


 そして、これら飲食物の具体的な提供方法に関して赤毛娘が恥を晒す事になるが、極めて小さな事である。





【ヒストリカル・アーカイヴ】


・ゴルディア/ロアド

 地球由来人類プロエリウムとは異なる惑星を起源とする人類。

 ゴルディア人は知性に優れ、頭に様々な形のツノがあるのが特徴。

 ロアド人は高重力に適応した人種で背が低い半面筋力は非常に強い。


・水中活動用スーツ

 21世紀の極東アジア地域の一部で用いられた水中用スーツ。黒か紺色が主で、肌に密着し首から下と下半身までを覆う形になっている。

 水に濡れると肌が透けて見えてしまう場合があるのでサイズには注意の事。

 なお、通常は環境EVRスーツでも水中での活動に支障は無い。




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