80G.ファイア アンドヘルファイア

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 私的艦隊組織PFCスカーフェイスの母艦『ハングドマン』は、連鎖衝突を繰り返す小惑星帯の中を星系中心方面へと全速力で逃走している。

 ノマド『キングダム』船団の火力は、中核となる100隻程度で一星系艦隊の約10万隻を上回るほど強大なモノだ。

 今は乱れ飛ぶブレイクショット小惑星・エフェクトから逃げるのに手間を取られているが、落ち着けば強襲揚陸艦の一隻くらい小惑星帯ごと消し飛ばして見せるだろう。

 それが現実となる前に星系内へ超光速航行スクワッシュドライブで逃げ込みたいところだが、追撃を受けている最中ではそれも覚束ない。空間の圧縮回廊の出口がズレると大事となる為だ。


 キングダム船団に先行し追撃して来たのは、たった5機のヒト型機動兵器だった。

 ところが、この5機がスカーフェイスの歴戦の兵士と五分に撃ち合える手練てだれ揃い。

 その反応の速さや機動力からも、専門の精鋭部隊と思われた。


「ランツ達を抑えるたぁいったいどういう連中なんだか!? バカみたいにECM強度が高いからデータリンクに頼るんじゃないよ! 必ずエレメント以上で対応し確実に敵を落としな!!」


 ここで、強襲揚陸艦から新たに9機のエイムが出撃してくる。スカーフェイスのナンバー2、『カナン』が直接指揮を執る部隊だ。

 普段は理性的な副官だが、今は大分機嫌が悪い。

 自ら秘蔵の兵器に乗り込み、直接ノマドの追撃部隊を叩き返す勢いだった。


『サラさん! 敵艦から先行機と同型のが8! 正体不明の大型機が1!!』


「向こうの迎撃態勢の方が早かったみたいですね。全機撤退。203、102は連携して撤退支援を――――――――」


 ラビットファイアの副隊長、保母を兼業するサラも、強襲揚陸艦の方から急接近してくる機影を捉えていた。

 最初に相手をしていた5機だけでも手一杯だったというのに、この上増援にまで出てこられては、戦力差は決定的となる。

 既に最重要目標を叩く機会も逸していたので、後は被害を最小限に抑えるべきだとサラは判断していた。


『R101より201へ、こっちは追い付くまで110秒。敵防衛戦力を排除し母艦を直接叩く。チームBは私の後方支援を。102と103の指揮も引き続き任せる。バーテックスフォーメーション』


 そんな戦闘宙域に高速侵入してくる、一機のヒト型機動兵器がいた。

 小惑星の狭間を強引に突っ切りエネルギーシールドで破片を弾き飛ばし、時速約10万キロからなおも加速をかけて来る、彗星の様な灰白色に青の重武装汎用機。それに、後方から追尾しているエイムよりやや小型なふたつの機影。

 即応展開部隊ラビットファイアの隊長機、『スーパープロミネンスMk.53改』と21世紀から来た赤毛JKである。


『カナン、キングダム船団側から増援! だが……たった3機!? それに、後ろのはガンボート?』


「前衛と入れ替わる……単機で出てくる連邦製の機体! 『メナス・スレイヤー』のトップエースってヤツか!?」


 先発の5機を退がらせ猛スピードで突出してくるエイムに、スカーフェイスの兵士は心当たりがあった。

 事前に寄越された情報に含まれていた、メナス自律兵器群と正面切って殴り合うというエイムオペレーターに結び付けて考えるのは、不自然な事ではあるまい。


「各機ジーンラッシュ! 徹底して正面に出るんじゃないよ! 交差射撃時はバディの位置に留意! 向こうはカミカゼエイム並みに飛ばしてくるからね!!」


 カナンの命令でスカーフェイスの後続部隊も全機前線へ上がってきた。

 鎧のエイムは2機エレメントごとに灰白色のエイムへ接近。常に敵機を中心に収めるよう互いの機動を合わせる。

 それを8機4編隊にて連続で仕掛けてくるのだ。

 螺旋を描き回り込むのは無重力戦闘での基本機動だが、それを複数機で同時に行い、すり抜けざまに敵機を滅多打ちにするのが『ジーンラッシュ』と呼ばれる戦術機動である。

 当然、僚機との高度な連携が求められた。


 赤毛のオペレーターはすぐに対応しようとするが、距離を詰めようとブースターを吹かすと、即座に同じだけ相手に距離を取られる。

 その40Gを超える加速度に付いて来るだけでも、今まで相手にした連邦軍や非合法組織のエイム乗りとは物が違った。

 連邦のオペレーターは戦術を徹底させるが、スカーフェイスには個人としての強さを感じる。

 

(リアクションがかなり早い。手馴れてるな。この連携は……機械任せなヤツじゃこう・・はいかないと思うけど)


 赤毛の少女はペダルを踏み込み、一瞬だけブースターを最大に近い出力で吹かす。

 50Gの加速力で跳ね上がるヒト型機動兵器は、粉砕機ディスポーザーのように回転しながら迫る光の刃を紙一重で擦り抜けて回避。なおも追撃して来るレーザーを、急加速と急減速の落差の激しい機動でわして見せる。

 同時にアサルトライフル型レールガンを連射。砲口初速5,000メートル/秒に設定された数十発の弾体が、敵機の予測位置へ向け偏差射撃で射出された。


 しかし、スカーフェイスの鎧のエイムも、シールドに掠らせる事なく加速しながら回避機動へ移行。

 鋭い弧を描き軌道を変える機体の一方、相棒バディである僚機も鏡合わせのような真逆の軌道を取っていた。


「いい集中力だ……! でもちょとせっかち過ぎやせんかね!?」


 コクピットの赤毛娘は、普段なら同じ船の仲間には見せない凶暴な笑みを浮かべている。猫を被っていない時はこんな感じだ。

 赤毛の少女は、スカーフェイスに対して今までにない手応えを感じていた。危険な相手だし生かして帰せないのだが、決して嫌いではないと思う。

 それでも、持ってきた手札を切るほどではない、とも考えていた。


 まだ腕の差で落とせる相手だ。


 両方のペダルを踏み分け左右のブーストでステップを刻むと、灰白色のエイムはレーザーを躱わしながら敵機の鼻先へレールガンを発砲。

 当然鎧のエイムは敏感に反応するのだが、そこに合わせて赤毛の少女はレールガンを狙い打った。

 リズムを外した攻撃に、狙われたエイムは咄嗟の軌道変更を行う。


 その機動が乱れた瞬間に、灰白色に青のエイムはブースターを最大に燃やし距離を詰めていた。


「なんッ――――――――!?」


 赤毛娘に曰く、反応が素直過ぎて思った通りに相手が動いてくれるのだ、とか。


 レールガンを撃ちっ放しで突っ込んでくる敵機の動きに、虚を突かれた鎧のエイムは100発近い弾体の直撃を浴びシールドがダウン。

 そのまま、灰白色のエイムが持つ物理シールドユニットに加速を付けて殴り飛ばされる。


 直後に後方からレーザーで撃たれる赤毛娘だが、空中側転のような機動でこれを回避。

 予測通りの・・・・・位置にいたもう一機の正面へ、急旋回すると同時にレールガンの弾体を面にして叩き込んだ。

 射線を散らされ、鎧のエイムは中途半端な回避運動を取った末に直撃を受け中破する。


「集中が切れてる。機械が高性能でも、扱う人間がこれじゃ意味が無いな」


 つぶやく赤毛の少女は、手足を潰した敵機を一瞥すると、自分のエイムの進行方向を反転させた。

 他の編隊は味方機の援護に入ろうとブースターを燃やすが、その進路は広範囲へのレーザー攻撃により遮られる。

 灰白色と青のエイムの後方に位置する、黒と紫の重火力機からの砲撃だ。

 電子戦機からの電子妨害ECMも健在であり、スカーフェイス側に数の有利はほぼ存在しなかった。


「全機私の援護に回りな! ノマドの後方部隊を警戒! あの機体は私がやるからね!!」


 更に別のエイムが撃ち抜かれたところで、それら鎧を着たようなエイムとは全く異なるタイプの機体が前面に突出して来た。


 全高は17メートル台の、大型フレーム機。

 その上、全身に着膨れしているのかと言うほどの重装甲を重ねている。胸部などは、強引に装甲板を張り付けているのも見られた。

 珍しい事に、灰白色のエイムと同様に物理シールドユニットを腕部に装備。ただし形状は全く異なり、着膨れ装甲エイムが持つのはタワーシールドのような長方形となっている。

 逆側の右腕マニピュレーターは、単砲身のショットガンか長砲身のグレネードランチャーのような太い・・火器を握っていた。


「なんかスゴい……タフそうなのが来たな。あっちもバトリング機かグラップリングのヘヴィーチャージでも実戦配備してんのかね?」


『いや……ありゃ「ガードプラウワー」タイプだ! 局地戦強行突入機!? スーサイドクロウラーって自殺志願者用エイムだぞ!!』


 その威容から自分の部隊ラビットファイアにもいる競技用バトリングカスタム機を連想する赤毛だったが、パンナコッタの船橋ブリッジにいるオペ娘の解析結果は全く異なる。

 それは、法執行機関において要人警護などに用いられる特殊護衛機。攻撃から逃げるのではなく自身を防壁として受け止めるのを目的とした、別名『自殺機』とも呼ばれる分類の機体だった。

 ちなみに、法執行機関の護衛機という名目ではあるが、同類の機体が死刑囚などを載せ帰還率の極端に低い作戦へ投入される事が多い。


『重装甲と高出力シールド任せでダメージ度外視で突っ込むのがまともな運用、って頭おかしい機体だ! ハッタリじゃなきゃオペレーターもイカれてるぞ!!』


「…………まぁ普通は接近前に落とされるわな。わたしが言えた事じゃないけどさ」


 直撃を喰らう事を前提にした機体など搭乗する者の正気を疑う、とオペ娘の声も裏返っていた。

 一番の問題は、そんな敵機と妹みたいな赤毛娘がカチ合ってしまった事だ。

 そして唯理はというと、何となく相手に他人事ではないモノを感じて、フィスの科白セリフを後ろめたく思うものである。


「オマエは放っておけないようだねぇ! 行くよ!!」


 そんな同類相哀れむべき着膨れ重装甲機、スカーフェイスのナンバー2、カナンの駆る『アイヴァンホー』が背面や脇部、大腿部の装甲を展開。中からブースターノズルを押し出し燃焼させた。

 殴り込む先は、灰白色に青のエイム。放っておけば母艦であるハングドマンまで危うくしかねない脅威だ。


 いくら接近戦上等な戦い方をするとはいえ、何も赤毛娘とて無闇にリスクを冒すような趣味も無い。

 灰白色のエイムは2連装レールガンの砲身バレルの上下をガシャコン! と回転させ、加熱している電磁レールと低温のレールの位置を入れ替え。

 敵機が接近するのを待つ事もせず、問答無用でブッ放す。


 双方の間合いは、僅か数100メートル。

 その間を秒速8,000メートルという速度で、55.5ミリ弾が何十発と乱れ飛んだ。

 回避する素振りもせず直撃を受けた着膨れ重装機は、シールドを破られるも物理盾で弾体を止め、それ以上揺らぎもせず突っ込んで来る。

 接近しながら着膨れ機は、携行火器を灰白色のエイムへ向け発砲。

 ふた筋のレーザー光をエネルギーシールドで曲げながら、赤毛の少女は機体を高速で上昇Y軸へと向けた。


「なるほど、被弾前提の装甲、高出力のディフレクターシールド、それに――――――」(――――――コイツ喰らう時に打点をズラして来てる)


 着膨れ重装甲機アイヴァンホーは防御性能もさることながら、何より直撃を恐れていない。

 装甲の丸み、機体をオフセットさせて衝撃を逃がす工夫、そして被弾箇所を意図的に絞りダメージをコントロールするなど、それらの技術と度胸が今までのエイム乗りと違い過ぎた。


 灰白色のエイムが、二連のレーザーを引き込むような螺旋軌道で回避。相手の防御性能お構い無しでレールガンを撃ち続ける。

 超高速の55.5ミリ弾体は、確実に着膨れた重装甲を削っていた。

 しかし戦況を見れば、今の赤毛娘は相手に退かされている、とも言える。母艦を追撃したい唯理としては上手くない状況だ。

 隊の仲間ラビットファイアもスカーフェイスの増援を抑え続けてはいるが、攻めるような余裕も無い様子だった。


(このまま狙い通り時間を稼がれるのもな……殺す事になるかもしれないけど――――――)「――――――是非も無い!」


 ここで灰白色に青のエイムが後退機動から反転。後方宙返りと同時にブースターを爆発させ、一気に前に出る。

 それに先行させて、両肩後部の箱型ランチャーからキネティック弾――――――いわゆるミサイル――――――を一斉発射。

 のたうつ様に高速で飛ぶ12発の飛翔体は、レーザーで迎撃され、あるいはエネルギーシールドに触れ連鎖的に爆発した。

 着膨れエイム、アイヴァンホーのコクピットが激震に揺れる。


「ぬぅッ……!? コンデンサをサブに切り替え! シールドが無くたってリパルジョンレイヤーアーマーなら、物理衝撃は――――――!!」


 しかし、機体に致命的なダメージは入っていない。エネルギーシールドが落ち至近爆発もあったが、装甲の下に仕込まれた緩衝機能がそれを跳ね除けていた。

 コクピットで歯を剥き出す女は、シールドを再展開すると敵機に火器を向け、


「――――――なんッ……!!?」


 爆発に合わせて肉薄した灰白色のエイムが、左腕のシールドユニットで斜め下からカチ上げる。

 仰け反って姿勢が崩れた着膨れエイムと、面食らうカナンに生まれる一瞬の隙。



 そこを、赤毛の少女がビームブレイドで袈裟懸けに一閃。



 そして、着膨れエイムの装甲を中ほどまで溶解させたところで、ブレイドのビームの収束が散らされてしまった。



「なんと……!?」

「やっぱり直接仕掛けに来たなぁあああ!!」


 カチ上げられた態勢から、カナンが携行火器を変形させる。

 2連レーザーライフルと思われていたそれは、砲身が握りグリップ側から先端方向へと持ち上がり、その反対側に超高熱を伴う光が収束していた。

 咄嗟に胸部ブースターを爆発させ、急速後退をかける赤毛の少女。

 だが、それより一瞬早く咆哮を上げたカナンが、近接専用の打撃武器、プラズマスレッジハンマーを振り下ろす。


「フゥッ!!?」


 エネルギーシールドが攻撃を止めるが、着膨れエイムがブースターを最大に燃やして灰白色のエイムへ突撃。

 過負荷により斥力場が消失するも、赤毛の少女はギリギリのところで物理シールドをかざし、叩き付けられた高熱源体プラズマスパイクを受け止めた。

 灰白色のエイムは着膨れエイムの腹を蹴り、足裏のブースターを爆発させて距離を取る。

 楔形の物理シールドユニットには、淵が熔け赤熱している大穴が穿たれていた。


「チッ!? あそこで止めるかよ! 情報通りキレた腕してやがるねぇ!!」


 すぐさま着膨れエイムから追撃が来る。

 赤毛の少女も目を丸くしてばかりではない。即、腰部アーマーのハードポイントに収めてある予備と、腕部に固定してあるビームブレイドを展開し4刀流の構え。

 機体にスピンをかけ打撃武器による攻撃を回避すると、ブースターを吹かし敵機の側面から強襲した。


 これを、着膨れ機は物理シールドを押し出し、後退しながら受け止める。

 物理シールドには一瞬で熔解した溝が刻まれ、腕部マニピュレーターにもビームによる切創が付くが、切断されるほど深いダメージも無い。

 ビームの出力に問題があるのか、着膨れ機の装甲特性なのか、ビームブレイドが奥まで食い込まないのだ。


「クッ……ソがぁ!? 出鱈目に振り回しやがってぇ!!?」

「ッ! この私が得物のせいで押し切れないなど…………無様な!!」


 しかし赤毛の少女は、桁違いの手数に物を言わせて猛攻を継続していた。


 それまでの鋭く無駄の無い機動から、ブースター出力任せの乱暴な動きで押し捲る灰白色のエイム。手を出せば届くような間合いに喰らい付き、右に左にと跳ね回りながら相手を滅多斬りにする。


 着膨れたエイムは全速力で退がりながら、ランダムな機動でビームの斬撃から逃げ回っていた。

 変形式のスレッジハンマーで不意を打ったものの、そこがカナンの限界である。

 赤毛の少女とは、根本的な接近戦闘の技量が違い過ぎたのだ。

 それでも、故国で修めた戦闘技術があるからこそ、どうにか盾で受ける事が出来ていた。

 

 凶暴なカオでブレイドを振るい続ける赤毛の少女と、力を振り絞り耐える年増の女。

 相手を圧倒する唯理だが、この時の気分は最悪に近かった。

 何故なら、確実に斬り捨てていたはずなのに、相手の固さで刃が通らないのだから。

 要するに刀がなまくらなのだが、それならそれで技の方でどうにかするのは武人として当然の事。

 武器のせいで勝てませんでした、などとは死んでも言えないのだ。


 だというのに、こんな場面で更なる邪魔が入る。


 コクピットの全周ディスプレイと、同調した脳内に映し出される警告アラート表示。

 至近を薙ぎ払う艦砲クラスの光線に、灰白色のエイムは全速力で後退した。


『カナン……船に戻れ、これ以上は機体の方がもたん』

「殿下――――――あ、いやボス! 怪我は!?」

『処置済みだ。どうせ腕をやられただけだ、リジェネレーションできる』


 一方で着膨れしたエイムの方には、たった今援護射撃をした母艦から通信が入っていた。

 通話相手は、赤毛娘がレールガンで腕を飛ばしたスカーフェイスのリーダーだ。応急処置済みとの事である。


 スカーフェイスの母艦である強襲揚陸艦ハングドマンが戻って来てしまった。一刻も早く宙域から逃げなければならない状況では、あってはならない事だ。

 自分が苦戦していた為かと思うと歯噛みするしかないカナンだが、今は何より自分の主を守らなければならないと考える。


「敵のエイムを張り付けたままワープは出来ません! 私はここで殿しんがりを! ボスは他のエイムを連れて離脱してください!!」


『カナン、分かっているだろう。国を出た私には、もうお前たちしかいないのだと』


 強襲揚陸艦は180度回頭しながら艦砲を撃ち続けていた。

 しかし、エイムをいつまでも遠ざけてはいられない。キングダム船団の先行部隊ラビットファイアは、遺憾な事に腕が良かった。

 そして迎撃が出来ない以上、鎧のエイムベイメンは直掩に付き艦の防空能力と併せて防戦する以外に取れる手が無い。

 後は、星系内に逃げる途中で、どうにか突き放す機会を待つしかないのだ。


 もっとも、赤毛娘には逃がす気など全く無いのだが。


「アッドアームズコントロール! AAM-002にコンバージョン!!」

『はぁ!? ユイリおめ、アッドアームズはまだミラーモジュール出来てねーからウェポンキャリアーとして使う、って言ってたじゃねーか!?』

「機動に追従して来ない分はこっちで合わせる! 手伝って!!」

『オマエはまたそれか!』


 赤毛の少女、唯理がコクピットから後方の無人の小型機へ命令コマンドを送る。

 船団から引き連れて来た未完成の兵器だが、テストも兼ねて使う事にしたのだ。

 母船パンナコッタのツリ目オペ娘は、無茶振りをされ悲鳴を上げた。


「R101から各機! 船団長を足蹴にしてくれた連中をこのまま逃がすな! 二度と舐められないようレーザーでケツを焼いてやれ!!」

『に、201了解』

『102、了解しました』

『アハハハハ! 202了解ぃ!!』


 狂戦士モードの赤毛の隊長に気圧されながらも、命令通り先行するラビットファイアの5機。

 改造されているらしき足の早い強襲揚陸艦を追い、電子戦機が妨害いやがらせを仕掛け、重火力機が艦尾ケツ最大出力フルパワーで対艦レーザーを叩き込む。

 援護に回る中型エイムの2機も、撃てるだけのレールガンの弾体を固め撃ちしていた。

 容赦ない一斉集中攻撃である。


 とはいえ、スカーフェイスの母艦が展開する防御も強力だ。鎧のようなエイムの部隊も張り付いており、強襲揚陸艦ハングドマンに取り付くには至らない。当然、強力な艦載シールドも展開中だった。


『やはり火力が足りない……。右も使えれば多少マシなんでしょうけど』

『クッソ近づけねぇや!? 危ねッ!!?』

『203、ECMの状況は!?』

『秒間15のランダムパターンで電子走査ジャミング中です! 向こうはほぼマニュアル操作のはず……!!』


 30メガワットにも及ぶ出力のレーザーが真空中を薙ぎ払う。

 遅滞防御兵装ディレイWSのレールガンが弾体をバラ撒き、敵機を近づけさせない。

 だがラビットファイアも全く引かず、重火力機の対艦レーザーがエネルギーシールドを揺るがし、電子妨害ECMにより攻撃の的を絞らせなかった。


               ◇


 そんな激しい攻防が繰り広げられている一方、


『AAMS CV.ctrl:AAM-002_[mirror maneuver module] error』


「ミラーマニューバモジュールをオフに。マニュアルコントロールでコンタクト」


『そっちのローンチとこっちのフィックスのタイミングどーすんだよ!? それまでマニュアルで合わせるとか言わないだろうな! リモートでヒトが乗ったエイムコントロールとかオレ嫌だからな!!』 


 強襲揚陸艦ハングドマン部隊の仲間ラビットファイアを追いかける灰白色のエイム、そのすぐ後方には徐々に接近する戦闘艇ガンボートらしき機影があった。

 機体その物の形状は21世紀で言う戦闘機に近いが、全体に比して主翼の位置にある翼は非常に小さい。

 尖鋭した機首で、両脇に大型の火器を併せて4機搭載、機体上部にはキネティック弾用のランチャーを装備している。


 エイムのコクピットでは、赤毛の少女が機体を高機動させながら追加装備の操作に追われていた。未完成のまま持って来たので、管制人工知能AIとの連携を含めスムーズに事が進まない。

 そんな足りない部分は、母船パンナコッタからオペ娘が支援サポートしていた。


『スクワイヤデータリンク、オンライン。アッドアームズシステム、オーバーライド』

『ドッキングポジション、ハードローンチガイダンス、レラティブスピード、800……300……150――――――――』

『ヴェロシティベクトル、シクロナイズド』

『AAM-002、トランスフォーム、ドッキング……レディ』


 灰白色のエイムを後ろから追いかけていた機体AAM-002が変形を開始。

 機首部分と直近の左右の武装が僅かに前へ迫り出すと、そこから前傾していく。

 外側の武装、大型レーザー砲はヒジを曲げた腕のように砲身だけを前に向け、懸架するように展開。

 機首部分のパーツは、両側に接続した武装共々機体の中心を軸に、真下からやや後方を向いて停止した。

 機体の最も外側に配置されていたブースターユニットは、僅かに外向きに開きエイムの受け入れ態勢に入る。


「ハードローンチを開放、AAM-000リリース、フィスにコントロールを引き継ぐ」

『AAM-000コントロールオンライン、セミオートコントロール』

『000にインターコネクト、ステータス確認、リキャプチャーの方はオートコントロールに設定』


 システムメッセージと後方の機体を一瞥する赤毛の少女は、同調する自分の機体にも必要な手順を取らせた。

 灰白色に青のエイムが、背面部に接続していたブースターユニットを切り離す。

 ブースターユニットが半自動で軌道を外れて飛んで行くと、入れ替わりに後方の機体が最接近。

 灰白色のエイムと変形した機体、双方が互いのドッキングアームを捉まえ、内側に引き込むように折り畳んだ。

 ゴグン、と緩衝機構ダンパーに固定された音がコクピット内にまで響き、物理ラインにより操作コントロール系も接続される。


『アッドアームズシステム、AAM-002オンライン、コントロールオープン』


 赤毛の少女が駆る灰白色に青のエイムは、新たな重武装型ブースターユニットに換装していた。

 肩後部のマルチランチャーは機種が異なるがほぼ同じ。

 腰部後方に予備の物理シールドユニットと、それに接続されたアサルトライフル型レールガンが2挺。

 そして、腰部の横から前へ突き出る、高出力対艦レーザー砲が2門。

 これらを稼動させる動力は、ブースター搭載のジェネレーターやシールドユニットに内蔵されている小型ジェネレーター、またはエイム本体のジェネレーター出力を柔軟に使い回せる仕組みになっている。


 これが、半自律補給支援兵器システム、『アッドアームズ』だ。

 変化する戦闘状況に対応する為の兵器換装、損耗した武装の補給、単独での戦闘支援などを目的として、パンナコッタのエンジニアが既存の技術の組み合わせのみで開発した物である。

 基本的に無茶をして武器を潰してくる赤毛娘専用装備だったが。


「さて、エイミーとフィスの組んでくれた新装備の性能、試そうか。ラビットファイア各機は第3攻勢ラインまで後退。

 R101、リ・インゲージ!」


 手応えを確かめるように、ブースターユニットに搭載された円筒形の推力偏向ノズルが身動みじろぎしていた。

 それらが一斉に火を吹くと、重火力機と化した灰白色に青のエイムが、強襲揚陸艦という大物へと襲いかかる。




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