71G.シープクラウド ウォッチドッグス

.


 宇宙を旅する船の群れ、『ノマド』の発生は国家権力への反発に端を発するとわれている。

 爛熟する巨大で古い惑星国家においては、際限なく自己の権限と国民に対する強制力を肥大化させてゆくのが必然的な流れだ。

 国体と秩序維持の名目の下、その絶対的な権力と暴力を以って、あらゆる制約を国民に課す。

 主張、表現、信条、信仰、食事、娯楽、文化、家庭、感情、生存、あらゆる分野にだ。

 歴史の長さと比例し法的規制は増え続け、社会は柔軟性を失い動脈硬化を起こす。

 そこでは国家の従順な下僕か、思考停止した社会のパーツだけが安寧を得られるのだ。


 そして、権力による束縛が一定の閾値を超えた時、そこからハミ出す人間が出るのもまた必然の流れだったのだろう。


 ただし『ローグ』という船団ノマドは、それにしたってハメを外し過ぎという話である。


                  ◇


 分厚い丸みのある重装甲を被せた船首に、主翼のようにブースターエンジンを配置してある船尾の左右。両舷側に張り出した半円筒形の格納庫と、縦長の船体側面いっぱいに並ぶ居住ブロック。

 分類としては貨客船に該当するが、それは俗に『労働者船』と呼ばれる大規模改造船だった。

 デブリ帯など障害物の多い危険な場所を潜り抜け、資源採集の労働者を送り届けるか、あるいは生活の場その物とする為の船である。


 労働者船『ローグ』950メートルクラス。

 ローグ船団115隻の中心となる旗船だ。


「――――――――そりゃ願ったりだがね、その後はどうする? アンタ等はそのご大層な船をどうする気だ? 売っ払うのか」


「オマエらは言われた通りにすりゃいいんだよ。余計な詮索は命取りだって事すら分からないかい? それだけがチンピラの取り柄だろうが」


「あ”ぁ?」


 機械類のステータスランプと窓の外の星だけが瞬く、暗闇の空間。

 そこでは10人以上の男女が密談していたが、およそ友好的とはいえないギスギスとした雰囲気だった。

 ただでさえローグ船団の乗員は協調性に乏しいのに、そんなところにキナ臭い余所者が加わって来た為である。


「今回のローグ船団の協力には、我々も非常に感謝している。だが、仕事の内容は知らないほうが良い。キミ達の為にもな。

 不満だというなら、報酬を上積みしてもいいが? キミ達の貢献はクライアントにも伝えておこう」


 ところが、そんな殺伐極まる空気が、ある男が口を開くと凍り付くのだ。

 その口調は決して威圧的でも冷淡でもない、むしろ穏やかで丁寧とさえ言える。

 だというのに、ひとつ受け答えを間違えただけで命に関わりそうな危機感を覚えるのは、どういう事か。

 男の纏う普通ではない空気に、言葉が持つカリスマ性。

 チンピラ呼ばわりされたローグ船団を仕切る者達は、当然この男が好きではない。

 だとしても、完全に敵対するには躊躇いを禁じえない相手だった。


「それでそちらの指導者、司祭様は今回の件、どう思ってらっしゃるのか。全てキミに任されてはいるようだが」


「…………バカどもがバカ騒ぎする纏め役ってだけだ、問題無い。『G』も理解しているさ。自分は運営には口を出す立場じゃないってな」


「しかし実際に船団では大きな影響力を持つと聞いたが……。まぁいい、キミらが船団を掌握しているのなら、確かに何も問題は無いのだろう」


 自分がホッとしている事に、内心で舌打ちするローグ船団の船員。

 怖いモノなどないと根拠なく豪語できる男たちをしても、この相手の対応には慎重を期してしまう。

 ローグ船団に乗り込んできた傷面の男には、そうさせる何かがあるのだ。


 誰かが遠隔操作リモートで壁面のシャッターを上げると、忙しなく変化する色とりどりの光が室内に飛び込んでくる。

 窓の下には、狭い空間いっぱいに敷き詰められた薄汚れた設備と、どこからか漏洩して漂う水蒸気にボヤける照明、それらの隙間で揺れる生き物のシルエット、といった景色が広がっていた。


「とにかく……だ。いいかげんココもゴチャゴチャし過ぎなんだよ。お上品なキングダム船団なら、もうちょっとゆったり過ごせそうなもんだ」


 赤から青へと変化する光により、室内の者たちが顔の半分を浮き彫りにされる。

 当たり前のヒトの顔に、明らかにそうではない者、険のある中年の女、人相の悪い連中。

 それに、物腰柔らかな中に凄みを滲ませる、大きな傷が斜めに走る男の顔。


 いずれ劣らぬ銀河のハイエナ、ないし寄生虫どもであり、これから始まる狩りとその獲物を思い、陰惨な微笑を浮かべていた。


                  ◇


 天の川銀河、サージェンタラス・流域ライン

 銀河三大国法圏外エクストラテリトリー、エドラゾン恒星系グループ近傍宙域。


 大戦剣の如き形状の巨大戦艦、クレイモア級『フォルテッツァ』10キロメートルクラスが、艦砲レーザーを一斉に発振。

 艦体各所に装備する300門もの砲口から青い屈光が放たれ、0.03秒後に1万キロ先の目標群を撃ち抜いた。

 キングダム船団を攻撃していた艦隊の内側で、無数の爆光が発生する。


『メインフレームが効果測定中。大破判定110、中破判定40!』

『ドミネイター艦隊に動き、空母らしき最大大型艦が後退。中型艦は前進』

『敵艦レーザーが「シーボーズ」に集中、シールドダウン、隔壁ブロックに貫通、ダメージコントロール!』

『救助が必要なら近くの船にやらせておけ! 必要なら支援を付けると伝えろ!』

『ドミネイター艦隊前衛が斉射開始、船団後方に着弾、被害計測中』

『高速艦タイプ群が上舷側へ移動中! 艦載機射出を確認!!』

『敵ECM強度上昇、ECCM出力容量88%、ゲインアップ』

『敵艦隊砲撃精度ダウンします』


 共和国圏ターミナス恒星系の難民を抱えたキングダム船団は、その受け入れ先を探して共和国系の星系国家を回っていた。

 当然だが、10億人規模の難民受け入れなど簡単な話ではない。しかも天の川銀河の情勢は非常に悪い時期であり、そんな余裕のある星系があるかどうかも分からない状況だ。


 だというのに、キングダム船団は所属不明勢力である『ドミネイター』艦隊とまで遭遇するハメに。

 30万隻もの宇宙船を抱える船団は、逃げる事もできず交戦を余儀なくされていた。


 前後に長い全翼機のような、300メートルクラスの戦闘艦。

 または中央に向かって山なりに傾斜している、500メートルクラスの戦闘艦。

 それら『ドミネイター』と呼ばれる戦闘艦の艦隊、約30,000隻からキングダム船団は攻撃を受けていた。

 艦隊から発振される無数のレーザーにより、キングダム船団は後方から攻められている。

 喰らい付いて離れないドミネイターの艦隊は、まるで草食動物の群れに襲い掛かる野犬のようだ。


 しかし、今のキングダム船団には強力な番犬が存在していた。

 クレイモア級『フォルテッツァ』をはじめとする、26隻の超高性能戦闘艦。

 それらは圧倒的な機動力を以って30万隻もの大船団の周囲を飛び回り、桁違いの高火力で襲撃者たちを返り討ちにしている。

 現在の船団は多くの非戦闘船を抱え、戦闘に関しても錬度不足だが、それでもドミネイター艦隊に対して優勢に戦闘を進めていた。


『後退中の空母、及び艦隊中盤から小型機更に多数射出。恐らく艦載機。数2,000……3,500、増加中。機種確認、「ホロネス」タイプ多数』


 とはいえ、やられっ放しでいるはずもない。

 ドミネイター艦隊からは、10メートルから20メートル大の搭載機動兵器が機関銃の如く大量にバラ撒かれる。

 ガランドウな見てくれから『ホロネス』と呼称されるそれらは、間も無く軌道を変えるとキングダム船団へ向け一斉に加速を開始した。

 フォルテッツァ艦橋ブリッジのディスプレイに、大量の光点ブリップが加わる。

 情報は同時に船団全体で共有され、迎撃に参加している全ての船へ攻撃目標が割り当てられた。


『「アルプス」を船団前方に避退させておけ。「フォルテッツァ」はこの位置を維持。「アレンベルト」の状況は』

『進行左舷35度、敵エコー037群は後退し主力に合流の模様。「アレンベルト」問題ありません』

『こっちに回せ。「バウンサー」、「ゴールドドリーム」をそれぞれ両翼にやりヴィジランテを振り分けろ』

『「ラプターヘッズ」、「トゥーフィンガーズ」戦隊先行します。縦舷に展開。敵艦隊が迎撃を開始』

『こっちの迎撃機は上がってるな。自衛戦力くらい共和国艦隊に出し惜しみさせないよう徹底させろ。一般船には無理をさせるな。そっちに進路を取った敵機は最優先で叩き落せ』


 文字通り戦場のような騒ぎのフォルテッツァ艦隊指令艦橋では、船団長のディランが宙域の立体画像を睨んでいた。

 単色で表現された宇宙船の画像が忙しなく動き回り、戦況をリアルタイムで再現している。


 キングダム船団30万隻とは言うが、うち23万隻は戦闘艦ではない民間船で構成されていた。自衛火力としてメガワット出力のレーザーを持っていれば良い方だ。

 7万隻は旧ターミナス星系艦隊の共和国軍であるが、これの指揮権はキングダム船団側には無い。難民船団を形成している間の協力体制と相互支援を確認している程度だった。

 キングダム船団本体の戦力をあてにしているので、必要以上のリスクを取りたがらない素振りも見せている。共和国らしい。


 そして頼りのキングダム船団であるが、30万隻の全船団に対して130隻程度である為、当然の如く全体の防衛まで手が回らない。

 必然、各船に自衛行動を取らせて26隻の超高性能艦は支援に駆けずり回る形になっていた。

 つまり、機動戦闘以外やりようがないのである。

 故に、全長10キロもの巨大戦艦が35Gという加速度とフリゲート並みの機動力で戦場を支配するという。

 これにファルシオン級、グラディウス級という同種の艦も加わる事で、実質的に26隻で30,000隻のドミネイター艦隊を相手取っていた。

 ドミネイターの艦載機による攻勢は、逆転を狙う一手というワケだ。


 1キロメートルクラス以上の超高性能艦が、船団の左右と後方に付きタイミングを合わせ艦載レーザーを一斉射。攻撃火器を持つ一般船と共和国艦隊もこれに追従し、実に100万に近い光線がドミネイター艦隊を飲み込んだ。

 ドミネイター側は全てが高水準な戦闘艦。それも600メートルを超える重巡洋艦クラス以上が多数。

 並のレーザー砲程度は容易に受け流すが、それもフォルテッツァやファルシオン級にシールドを吹き飛ばされた直後では、無数の直撃を受けてしまう。

 5,000隻から成る前衛艦列は一撃でほぼ壊滅、防御能力の高い艦を前面に押し出し守りに入った。


 また同時に、ドミネイターのヒト型機動兵器、またはガンボートがキングダム船団に肉薄。自身の質量と戦闘艦の比ではない高機動という、エネルギーシールドに対して有効な武器を最大限に活かし攻撃をしかけてくる。

 露出した内部フレームに装甲を被せただけの、あからさまに必要最低限に構成された12メートル級ヒト型機動兵器。

 ところがそんな見た目に似合わず、ドミネイターのエイムは共和国製の主力級に劣らない性能を見せていた。

 船団のエイムが23G平均であるのに対し、30Gを上回る高加速度。

 母艦、ないし母船の直掩ガードに出ていた自警組織ヴィジランテのヒト型機動兵器が、船の援護を受けてもなおレーザーを浴び押し込まれている。


『こいつらポンコツみたいななり・・で…………!?』

『クソッ!? シールド落ちた! 「アイアンネイル」へ後退する!』

『3機編隊12個が更に接近中! 「ワイルドフライ」より「フォルテッツァ」コントロールへ援護要請!!』

『連携が切れない!? ECMの効き悪いぞ! やっぱり無人機じゃない!!』

『護衛機が全部やられた! 「フラミンゴウッド」より「フォルテッツァ」へ増援求む!!』


 船団の共有通信帯では苦境を知らせる内容が飛び交っていた。

 各宇宙船からレーザーや遅滞防御兵装ディレイWSといった対空砲火も撃ち上げているが、ドミネイター機の電子妨害ECMと機動力で射撃指揮装置イルミネーターが的を絞れずにいる。

 一瞬だけ捉えたとしても、火力が集中できなければエネルギーシールドを撃ち抜けない。

 頼みの26隻も艦隊の相手で手が離せず、船団の被害は拡大し続ける、


 かと思われた。


『R101よりフォルテッツァコントロール、グリッド037アルト48クリア、敵性無し。次の指示を求む』


 フォルテッツァの艦隊指令艦橋へ通信が入ると同時に、ドミネイターのエイムが弾け飛ぶ。

 ブースターの尾を引き、船団のど真ん中を高速で突っ切る6つの機影。

 その射界に捉われた敵機は、強力な電子攻撃ECMにセンサーを潰され、高出力レーザーを叩き込まれ、アサルトライフルやサブマシガンの集中砲火を受け、慣性質量の乗った打撃武器で叩き潰されていた。

 接近を察知しドミネイターの機動兵器も迎撃に入るが、6機のエイムは即座に散開。

 攻撃を仕掛けようにも、その前に怒涛の連撃でドミネイター側が吹き飛ばされる始末だった。

 圧倒的な突破力を見せる6機の部隊名が映像に表示され、誰ともなくその名を口にする。


「ラビットファイア……!? 重巡もいる戦隊を5分で片付けたのか!」


 高い機動力で船団を脅かした、3隻の高速重巡と艦載機で構成されるドミネイターの特殊戦隊。それを、僅か6機のエイムと1隻の高速艦艇で撃退する部隊がいた。

 21世紀出身の赤毛女子高生JK村瀬唯理むらせゆいりの率いる即応展開部隊、『ラビットファイア』だ。

 唯理の護衛というのが本来の役割であるが、本人が我先に突撃するので、今は殴り込み部隊して錬成されている真っ最中だった。


 しかし訓練途中の初陣でこれか、と。呆れ半分で唸るディラン船団長である。


「まぁこの際ありがたいがな……。ラビットファイアを本艦後方に回せ。防御容量を超える船から優先して支援させろ」


「了解、フォルテッツァコントロールよりR101。グリッド405アルト0に位置し救援要請に――――――――」

「レーダーコンタクト! 本艦正面方位355下30距離15,000、最大サイズの船より機動兵器らしき移動体が31.5Gで接近加速中! 管制AIは対象を目標群エクスレイ02としてマーク!!」

「敵艦隊左翼後方、本艦より20度方向大型母艦より新たな敵集団! 機動兵器部隊と思われます!!」

「レーダーコンタクト! 方位305距離17,500に機動兵器集団らしきブリップ! 目標群クエル06、マーク!!」

「ECMレベル上昇レーダー及びセンサー精度低下! 先頭集団エクスレイ群のECMと思われます。ECCM出力上昇!」


 船団の内側へ入り込んだ敵を排除させようと考えた船団長だが、間もなく来た報告により急遽取り止め。

 ラビットファイアは、新たに敵艦隊から出撃した複数の敵部隊へ対応させる事に。


「ユイリ、敵エイムの新手が3方から来る。ラビットファイアにはフォルテッツァ狙いの敵集団を頼みたい。数は30。だが他より少し早い。大丈夫か」


『R101ラビットファイア了解。インターセプトします』


 唯理の方は最初からそのつもりで、船団長の指示より前に部隊を新手の方へ向けていた。

 5倍という数は普通なら即座に逃げるべき戦力差だが、この赤毛娘にそういう常識は当てはまらないと船団長は理解している。

 レーダーで見る限り、正面の敵部隊は他の敵部隊より機動力が上だった。精鋭部隊か、何かしら特別な戦力である可能性はある。

 それでも唯理としては、自分の部隊に経験を積ませるにはちょうど良いくらいの考えだった。

 仮に拙い相手でも、何枚か切り札もある。


「R101より分隊各機、デュアルチームに切り替え。アローフォーメーション。チーム1が先行、チーム2は援護。ユーコピ?」


『R201了解しました』

『R102了解……』

『あ、R203了解です!』

『R103了解!!』

『R202ブチかますぜぇ!!』


 落ち着いた赤毛の隊長からの指示に、興奮したり緊張したりといった応答が返ってきた。

 何せ訓練中の不期遭遇戦だったので、慣れてないのも仕方がないとは唯理も思うが。


 船団を抜けると、6機のヒト型機動兵器は3機ずつ2班で前後に分かれる編隊に組み変えた。

 敵機の集団は既に視界内に捉えている。相対加速度で55G――――――毎秒毎に539mの増速――――――以上。

 3分もあれば交差距離に入り、レーザーは当てるだけなら射程内だ。


 灰白色に青のヒト型機動兵器、そのコクピット内に敵機の拡大映像が表示される。

 やはり特別なのか、他の機体と違って装甲が厚く装備面積も増え、機動制御用らしき排気口ノズルも肩や大腿部に増設されていた。

 腕部マニピュレーターと一体化しているレーザー砲は他と同じだが、接近中の機体は腰部にも長物の装備を携行している。

 一般機の重装バリエーションと推察された。


 多少強化された程度の性能では、ラビットファイアに対抗するには力不足だろうが。


 一際大きくブースターから炎を吐き、無骨で大雑把な大型機が単機で突出する。

 脚部、腕部をはじめ全体にシンプルな構造ながら、ひとつひとつのパーツが大きく分厚い。

 赤銅色と赤で塗り分けられ、メーカーの意匠でもある獣の面を胸部装甲で模した、殴り合いバトリング専用機の宇宙戦カスタム。

 『オーラン・ピグマエウスT46』である。


「こんなんで潰れるんじゃねーぞ!!」


 暴走ダンプカーのようなエイム、そのオペレーターである小型猛獣娘は、両肩部に装備する箱のようなサブマシンガンを撃ちまくり敵集団へ突撃。交戦距離に乗り込んだ。

 肩のサブマシンガンは、短砲身のレールガンだ。低速の上に集弾精度も良くはない。ほぼバラ撒くだけだが、大容量弾倉で弾数だけは確保してある。

 そんな雑過ぎる射撃をブースターを吹かして簡単に回避し、散開したドミネイター機はそのまま十字射撃で敵機を撃墜しようとした。


 それらドミネイターのヒト型機動兵器に、一斉にセンサー類がダウンするというトラブルが発生。


 機動兵器を用いる戦闘とは即ち、高速で変化し続ける状況との戦いでもあった。故に、戦闘支援システムに依存する部分は非常に大きい。センサーによる情報収集とその解析能力は必須となる。

 突如耳目を塞がれた形となるドミネイターの機動兵器は、連携した機動が大きく乱れ、射撃の精度も大幅に落ちていた。

 その致命的な隙に、


「くたばりゃぁああ! オラオラオラオラオラオラぁああ!!」


 間合いを詰め切った大雑把エイムが、腕部マニピュレーターに装備していた兵装でぶん殴る。

 しかも、ただの打撃ではない。

 その兵器は、内部で触媒が爆発すると前部に収まっていた重金属製のバーが弾き出され、同時に後部からロケットブースターが噴出するという勢い余った兵器である。ちなみに秒間25発まで連打可能。

 オペレーターの猛獣女が、メガネのエンジニア少女に作らせた物だ。


 質量と速度の乗った打撃の連発で、ドミネイター機のエネルギーシールドが落ちる。

 守りを失えば、当然そのまま本体もベコベコにヘコむまで殴り壊される事となった。


 味方を助けるべく支援に入ろうとしたドミネイター機は、その直前に正面から高出力レーザーの直撃を喰らい、シールドが落ちた所にレールガンの集中砲火を受け爆散する。

 センサー精度が落ちていた為、回避行動に移る事すら出来ない。


 レーザー砲で前衛を援護射撃したのは、黒と紫にカラーリングされた大型エイムだ。

 分厚く膨らんだ丸みのある重装甲を施され、肩に装備した大口径レーザー砲を担ぐようにして構えている。

 単眼の砲撃機、『タワー・オブ・アイScene41』。

 オペレーターは、口数少ない大和撫子型の黒髪ストレート美人だ。


 近~中距離からサブマシンレールガンで味方をカバーするのは、赤と白にペイントされた軽量の中型機、『アポジハウンド20head』である。

 スタンダードなヒト型機で、両腕マニピュレーターに懸架する形で短砲身レールガンを装備。

 両肩部にも、予備の武器として手持ちするか、その状態からでも射撃できるサブマシンガン型のレールガンを搭載。

 予備弾倉も持てるだけ持って来るという、念の入った支援機仕様であった。

 オペレーターは、桃色の髪をした喧嘩屋の美女だ。


 攻撃も防御もままならないドミネイターの機動兵器部隊は、定石セオリーに従い一時後退。同時に、対電子防御ECCMの出力を上げ、機体の機能を取り戻そうとする。

 ところが、回復したと思ったセンサー類に、間も無く起こる再度の機能障害。

 今まさに敵機に照準を付けていたと思えば、射撃指揮装置イルミネーター追尾ロックが外され、あるいはレーダー上の敵機が増える、または消える、と撹乱され続けていた。

 これも、先行する味方機を強力な電子戦能力で援護していたエイムによるものだ。

 後頭部、腰部、背部に装備する小さな翼のようなプレートを広げた、細身の上にも華奢な軽量機。

 女性的な胴体部のシルエットに、ディフォルメされたキツネのようなセンサーヘッド。

 『オーロラビーター・スプレデンスF-7.29』。

 深い青に塗装された、電子戦能力に特化したヒト型機動兵器である。

 高い専門性を求められる機種であり、オペレーターも見た目こそ幼い少女であるが、通信と情報技術の玄人プロでもあった。


 電子戦闘で完全に優位性を失ったドミネイターの部隊は、レーザーを乱射し手数で押す戦法に出た。後方からは艦隊による艦砲支援も行われている。

 20機以上の重装機と戦闘艦の前衛が同時に発砲し、縦横無尽に宇宙を薙ぎ払う黄色の光線。

 十数メガワットという出力の熱線は掠るだけでデブリを溶かし、進行方向にある物を無差別に破壊せんばかりだった。


 その全てが幾何学的な軌道で回避され、逆に次々とドミネイターのヒト型機動兵器は撃墜されていたが。


 黄の光線を紙一重でわし、まったく減速せず突っ込んでくる灰白色に青のエイム。

 全高15メートルの汎用機ながら、ゴツい無骨な装甲が施され全体的にマッシブなシルエットとなっている。

 オペレーターの要求により、両肩後部にマルチランチャー、腰部の後ろにレーザー砲、腰部両側面にビームブレイド、両大腿部に副兵装のサブマシンレールガン、両腕マニピュレーターに固定型ビームブレイド、それに手持ち式のシールドユニットとアサルトライフル型レールガン、とフル装備だった。

 『スーパープロミネンスMk.53改』。

 赤毛の少女が駆る、敵も数も戦局も選ばない高性能なエイムである。


 レーザーの集中攻撃が来る一瞬前に、灰白色のエイムは横軸回転サイドスピンをかけ鋭角に軌道を変更。紙一重で光の柱をわしつつレールガンによる射撃まで行い、ドミネイターの機体に直撃を喰らわせて見せた。

 攻防一体の戦術機動マニューバに対応できず、急速に距離を詰められるドミネイター機。

 灰白色のエイムは間合いに入るやビームブレイドを展開し、敵のレーザーを手持ちのシールドユニットで受けながらも、最大加速の踏み込みで正面から縦一文字に叩き斬った。


 電子戦機オーロラビータ重砲撃機タワー・オブ・アイ軽量支援機アポジハウンド重装甲格闘機Oピグマエウス、そして重装汎用機Sプロミネンス

 これに、後衛部隊チーム2を指揮する標準汎用機が加わる。

 副隊長機『カスタディオ・ウーノA-13』は、Sプロミネンスと異なり丸みのある簡素な装甲を纏うエイムだ。武装はアサルトライフルに予備のサブマシンガンのみ。

 攻撃力、機動力共に突出した物はないが、穴もなくバランスの良い機体であった。独立惑星国家では多く制式採用されている。

 オペレーターは虫も殺さないような物腰柔らかい元軍属の金髪美女だ。


 結局最後までドミネイターの重装部隊は『ラビットファイア』を阻止できず、数分で全滅の憂き目を見る事となる。


 そのまま別方面の敵部隊へ突っ込もうかという赤毛娘だったが、直前にドミネイター艦隊が急速に後退。一転して逃げの姿勢を見せた。

 当然、非戦闘船を多く抱えたキングダム船団に追撃の余地は無い。そもそもノマドなので積極的に戦おうという意志も無い。


 ドミネイターの艦隊は、退くとなるや破損した友軍機も漏れなく回収していった。

 その後も盛大な艦砲射撃で隙のない撤退を行い、纏まりも練度もない難民船団との違いを見せ付ける。


 戦術レベルでは終始優勢だったものの、戦略的にはほぼ敗北と言っていいだろうか。

 灰白色と青のエイムの中で、赤毛娘は難しい顔で腕組みし唸っていた。





【ヒストリカル・アーカイヴ】


・ディレイWS

 遅滞防御兵装。21世紀で言うCIWS、クローズインウェポンシステムに該当する。最接近した敵機を迎撃する最終手段と言える兵器。

 主に高い連射力を持つ火器により弾幕を形成し敵を阻止する。レールガンなどが用いられる。



・イルミネーター

 射撃指揮装置。レーダーやセンサーで収集したデータから敵機を捕捉、使用者に提示し、その後使用者の命令に基づきレーダー上の敵機を搭載火器に攻撃させる。情報と攻撃の総合的システム。

 21世紀の物よりパッケージ化されており、火器管制システムFCSやレーダーシステムを統括する場合が多い。



・ECM

 エレクトリックカウンターメジャー。本来は敵電子走査を妨害する装置を指す単語。転じて電子戦闘そのものを指す。

 これに対抗するのがECCM、これに対抗するのがECCCM、これまた更に対抗するのがECCCCM、以下略となる。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る