66G.スイムスーツ着用必須のスペースオーシャンビュー
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漆黒の空間で、無数の塵が光を返し輝いている。
上も下も分からない、重力の影響が極めて小さい身軽な環境。
そこは、果てなく広がる無限の宇宙、ではない。
21世紀生まれの元
◇
規格外宇宙船、『剣の艦隊』における環境播種防衛艦、ヴィーンゴールヴ
全体的なシルエットとしては、艦首方向に行くほど狭くなる楔型の形状をしていた。クレイモアやバーゼラルドといった同種の船と同様に、飾り気が無くシンプルで洗練された外装となっている。
天の川銀河にある宇宙船としては、珍しくない形状だった。
コロニー
また、その詳細も
ヴィーンゴールヴ級は
すなわち、最も全長部分が大きく艦首方向へ張り出している上層ブロック。
両舷側にシールド発生ユニットを備え、かつ艦首部分が上下に比べ短く引っ込んでいるなど堅牢な構造をしている中央ブロック。
そして、全高に占める割合が最も大きい、下層ブロック。
それぞれが独立した宇宙船としても機能し、また異なる役割をひとつの目的の下に纏めた超巨大宇宙戦闘艦。
それが、戦闘を主目的としないながらも、ある意味で艦隊の中心的な存在でもあったヴィーンゴールヴ級という船だ。
現在、ヴィーンゴールヴ級、仮称『アルプス』には1億人もの難民が身を寄せている。
◇
アルプス、下層ブロック。
人工海洋エリア大水槽。
要するに海である。
ヴィーンゴールヴ級アルプスの下層ブロックには、見渡す限りの海が広がっていた。
黒水晶のように黒く透き通った海水と、波が寄せては返す白い砂浜。
見上げれば青空が広がり、遠い
頂点にある太陽の光で、全てがキラキラと輝いていた。
当然だが、本物ではない。科学技術によって人工的に再現された巨大プールの海に過ぎなかった。
だとしても、そのあまりに馬鹿馬鹿しくも壮大な機械仕掛けに、訪れた者たちは圧倒されている。
こんな船、銀河のどこを探したって他にあるワケが無い、と思うのが当然であった。実際には同型艦が結構な数眠っているのだが。
「ギャーなんだこいつ!? 変な生き物がいるぞ!!?」
「やー何これー!?」
「攻撃!? 攻撃態勢なの!!? アーマー値高そうだよお姉ちゃん!!」
そんな人工海の浜辺で大騒ぎしている、とある少女たちの姿があった。
キングダム船団所属の高速貨物船、パンナコッタの船員たちである。
砂の上を歩く小さな生物を発見し悲鳴を上げたのは、長い紫のストレートヘアにツリ目の少女、フィスだ。
普段は
髪と同色の紫の縁どりに、白のビキニだ。
本人のスタイルとしては、年頃の少女平均な胸とお尻に、スッキリしたスレンダーなカラダつき。
実は水着を着るのに相当抵抗したという経緯があったが、最終的に赤毛娘とのあれこれを船長にチラつかされて、降伏勧告を受け入れている。
次に、砂上の多脚生物を見て逃げ出したのが、海に映える小麦色の肌をした小柄な美少女の双子だ。
その服装は普段の露出型メイド服ではなく、数千年前のプロエリウムが纏っていたと云われる由緒正しきワンピース型水中活動用スーツであった。
色は黒から紺の中間。胸の部分に個人識別がし易くなるようネームタグを貼り付ける事になっている。
非常に機能的であると言えよう。
それを見ていた21世紀出身の赤毛JKは、『それスクール水……』という喉から出かかった名称を飲み込んだ。
恐らくこの時代に継いではならない
「ああ、これはブラチューラの一種かしら? さっきはリトルネック種らしき生物まで砂の中にいたし…………」
そんな落ち付きの無い小娘どもに混じって、好奇心に満ちた目で小さな生物を見つめている熟年女性。
この場に集まった面子の中で、ひとりだけ水着ではない。作業用のような生地の厚い水色のジャケットを着た、少し癖のある長いブルネットヘアの人物がいた。
その他女性陣は、
ほんわかした笑みのグラマー船長が、布面積少な目ワンピース水着、上からパーカー。
筋肉質かつダイナマイトバデの姐御は、ヒモを何重にも巻き付けたかのようなデザインのビキニ。
ちょっとだけプニプニなのを気にするお下げ髪にメガネの少女は、オフショルダービキニと胸部周りヴェール。
といった格好で、砂浜から人工の海を観察している。
見た目と違って遊びに来ているのではない。飽くまでも仕事だ。
そして最後に、
「あ。もーやっと出てきたー。ユイリ大丈夫ー?」
身を案じるプニプニエイミーの呼びかけに、海から浜に上がって来た赤毛の少女が手を上げて応える。
背中が大きく開き、ビキニラインの角度も激しい競泳水着――――――オレンジと黒――――――を着た水を弾くメリハリボディー。
同性から見ても非常に性的なカラダ付きであると言わざるを得ない、健全エロ娘の村瀬唯理であった。
「オマエ……よくこんな微生物だらけの中に入っていけるな。中調べるならドローンでいいだろ」
「せっかく用意してもらった水着だし……。自分の目でも確認したいじゃないの」
砂上の小生物から逃げ切ったフィスが、ずぶ濡れになった唯理を見て溜息混じりに言う。魅力的な格好をしているのに、と潔癖症の気があるインドア娘は、非常に残念に思うものであった。
事前にセンサーで調べ、海水に問題が無いのは分かっていたが。
一方で、濡れる事に全く頓着しない赤毛は、髪をかき上げ顔から水気を拭っている。
水着の素材は普段着る
傍で見ているツリ目としては心配で仕方がない。特に、後ろから見て水着スーツが喰い込みまくっているお尻が。
なお、海での展開を見越して水着を用意した主犯4名には、唯理が言うような実用を目的とした意図は無かった模様である。
◇
パンナコッタの面々(+1)がアルプスに来たのは、現状においてこの巨大な宇宙戦闘艦が本来の用途で使用出来るか否かを確認する為だった。
ヴィーンゴールヴ級という宇宙船は、かつて種と自然環境の保存を目的に運用された船であったらしい。初期調査で艦内のメインフレームから吸い出した情報で判明した事だ。
結局はそれらシステムの概要とデータベースだけで、唯理の過去に繋がる記録などは確認できなかったのだが。
その辺りは、1億人が無秩序に缶詰状態な現状を鑑み保留しておくしかない。
ヴィーンゴールヴ級は、その内部に『テラリウム』というシステムを構築している。ある程度大型の宇宙船なら大抵搭載している生命維持環境システム、『ライブスフィア』を更に推し進めた物であるらしい。
あるいはライブスフィア環境システムの方がテラリウムの劣化版である可能性もあるが、その辺りも今は重要ではないので置いておく。
ライブスフィアとは、閉鎖環境における生命維持機能の全般を受け持つシステムだ。水、空気、温度といった生存に必須な条件を整えるのはもちろんだが、メンタル面など心理状態にまで配慮した住環境を整えるのを最終的な目的としていた。
これに対してテラリウム・システムというのは、人間を生かすのみならず生態系その物を作る事を目的としていた。
早い話が、箱庭である。
言うなればライブスフィアは、理屈はどうであれ船員を生かしておけさえすれば良い。水も空気も光熱も、とりあえず供給できれば要を成す。
テラリウムはある意味逆だ。生存環境は提供するので後は生きようが死のうが知った事ではない。生物は限りなく自然そのままに近い生き方をする事になる。
惑星環境を宇宙船内にそのまま再現するなど、あまりにもリソースを無駄に費やした暴挙だと言う者もいるだろう。
だが、それこそが『テラリウム・システム』の存在意義。
今パンナコッタの女性陣の前に広がっている現実だ。
◇
「中に普通に魚とかいましたけど、これ昨日今日放流したって話じゃないですよね? 一度食物連鎖のシステムが出来れば、後は維持にリソース使わないでも勝手に循環するものですか?」
「流石にそれは無いわね。この船には他の船と違って、システムを維持する独立した制御系とパワーソースがあるみたい。
ただそれも、恐らくはシステムの保守と動力の供給程度だったはず。
どれだけ眠っていたか知らないけど、この中では管理されてない起源惑星の動植物が、独自の生態系を形作っていたのでしょうね」
喰い込み濡れ水着のまま、赤毛の少女はブルネットの熟女に海中を見て来た所感を述べる。
ヴィーンゴールヴ級と他24隻の規格外戦闘艦は、1週間と少し前に再起動を果たしたばかりのはずだった。実際には唯理が目覚めた時点で予備起動に入っていたが、それにしたってたかだか数ヶ月前の事だ。
宇宙に放置されていた宇宙船内で、生物が食物連鎖のシステムを一から積み上げるには時間が足りな過ぎるだろう。
故に、生態系の成立と食物連鎖は遥か以前から艦内で行われていたのだ、とブルネットの熟女は推測する。
メレディス=ヘインズロー。
観測船『オリジンツリー』の船長だが、少し変わった経歴の持ち主でもあった。
「それで、ここはどう運用するべきかしら、ドクターメレディス? 難民を避難させておくなら、ただの容器で十分? それとも、テラリウム環境下で運用を?」
ボリュームあるお尻を向けしゃがみ込んでいたマリーン船長が、手の平から砂をこぼしながら問いかける。
『ドクターメレディス』は観測船の船長になる以前、連邦圏のとある惑星国家で生物学者のトップに上り詰めた、その道の権威だ。
故あって社会的地位のある連邦を離れ
特に今回は、専門家でなければ手に負えないのは明らかである。
「この船はこのまま……いえ保存
環境に合わせて変異したり、原生生物との交配で亜種になってしまう前のモノだとしたら、生物学的にも貴重だし幾つかの生物汚染での解決策にも成り得るはずよ」
その専門家は、物凄い勢いで船本来の機能の再稼動を主張。船の用途云々より自身の興味というか研究意欲が優先されやしないか、という気がしなくもないパンナコッタ勢である。
メレディス船長も、望んで前職を離れたワケではないという事なので。
「生物学上の意義は理解するけど、問題は今必要かどうかという事でしょう? ドクター。
避難民の保護に際して有用かどうか、最低限重要なのはココになるってお話ししたじゃない」
「1億近くの人間がそこらじゅうに散らばっているんだ。生き物の再生がどうのってより、単なるデカい生命維持システムじゃダメなのか? 再生した生き物が住民と遭遇したら危ないだろう」
「仮に植物の生態系だけを維持するにしても、船のシステムを使って強引に調整するより微生物や動植物の食物連鎖に委ねる方が負荷は少ないはずよ。そもそもこのヴィーンゴールヴという船種自体が、トータルで惑星環境を構築する事を前提にしているもの。
それに避難が長期化した場合、自然環境が存在する事は避難民のメンタルにとっても良い事のはずよ」
学者の利己心が出ているのではないかという疑念がいまいち晴れないマリーン船長に、既存のライブスフィア・システム同様に最低要件さえ満たせれば良いのではないかと言うダナ。
しかし、熱く語る生物学者の意志は固い模様。
「多脚戦車ウォータージェーッツ!!」
「積年の恨みとか何とかー! 濡れ濡れになっちゃえー!!」
「おまッ!? そんな雑菌だらけな水をオレの方にブチ撒けんじゃウヴォアー!!11」
そんなお姉さん方をよそに波打ち際では、海水をすくって撒き散らすスク水双子や、それを競泳水着の赤毛娘を盾にして逃げる回るツリ目ビキニ、熱心に特定個人を
「フィス……流石に恥ずかしいんだけども」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!? ちょ! ダメ!! ユイリの溢れちゃう溢れちゃう溢れそぅ…………いやいやいやいやいや!!?」
その結果として、
スク水――――――比喩的表現――――――で波打ち際をキャッキャウフフするあざとい褐色双子。
肩紐を背中から思いっ切りズリ下げられ、締め付けられ大きく歪む巨乳の先端に土俵際な赤毛娘の水着。
必死なあまり前傾姿勢でお尻を突き出し、ブラ下げた美乳を激しく揺らしている己の有様に気が付かないオペ娘。
秘密裏な行為と興奮しきった
ある意味で、海に相応しい光景ではあった。
◇
とはいえ、あまりはしゃいでいられる状況ではないのも事実。
砂浜から少し艦尾側に向かった先では、避難民の仮設テントが密集している。
ヴィーンゴールヴ級は中層ブロックが居住区となっているが、通常収容人数は1,000万人である。現在約1億人が避難中。乗船率1,000%。
カプセルホテルのような休憩用パーテーションを急ピッチで製造しているが、この対応にも限界があり居住区ではない上層と下層にも避難民が溢れていた。
「閉鎖環境では乗員のメンタルケアが特に重要になるわ。
宇宙では生命維持の為だけでも大きなコストが必要になるし、隔壁の一歩外は真空の空間という現実にストレスを感じるヒトもいる。後は、狭い船内でヒトが密集するのが耐えられないというケースも多いわね。
この船ほど大規模じゃないけど、オムニとかシミュレーターで惑星上の自然を再現するのも、それ程珍しい工夫じゃないのは知っているでしょう?」
そんな熟女生物学者の講義を聞きながら、唯理とパンナコッタの女性陣は艦内トラムで移動中だった。
当然だが着替えは済ませてある。
トラムとは大規模な人工構造体内部を移動する公共の交通インフラだ。地下鉄のような物だと考えて良い。
なにせ1億人を収容可能な、全長50キロメートルにも及ぶ超巨大宇宙船である。歩きで移動しようと思ったら、どれだけ時間がかかるか分かったものではないだろう。
トラムの
内部の搭乗スペースは四角く区切られており、その天井や床、左右に内蔵された
なお、定期運行もしているが、利用者の増加や上位クリアランスを持つ乗員からのリクエストに応じて臨時便が増発される。
21世紀の鉄道とは比べ物にならない柔軟性があり、高度な自動制御システムがそれを可能としていた。
電車に似ているが遥かに乗り心地の良いトラム内には、唯理たちの他にも乗客がいる。大半は難民だ。未だにこの船は、まともに人員が配置されていない。
窓などは無いが、その代わり壁面に大きなディスプレイが貼り付けられていた。そこにはアルプス艦内の映像や艦の状況、現在の運行スケジュールが表示されており、閉塞感も少ない。これもメレディス船長の言う、メンタルに配慮した工夫、というヤツなのだろう。
「実際に運用するとなると…………全部システム任せに? マンパワーは必要ないんですか?」
「それは直に見てみないとなんとも……。でも今までだってサブのシステムだけで維持は出来ていたんだし、そこは大丈夫でしょうけど。
後は、保存されているサンプルから個体を再生するとなると、そこは人手が必要になるでしょうけどね」
「これだけの船だと専任のクルーの選定も大変そうねぇ……」
移動時間があるので、何となく今後の事を訊いてみる赤毛娘と、生真面目に応えてくれる熟女学者に、頭が痛くなる事を呻くお姉さん船長。
そんな雑談のような会話に興じる事、7分ほど。
一行は下層にある海洋エリアから、中層~上層ブロックの境にある最重要区画に入る。
そこは、超巨大戦闘艦アルプスの、もうひとつの中枢。
プロエリウムの起源惑星『地球』の、あらゆる動植物の遺伝子を含めたデータと、生体サンプルの
この一連の施設群は艦本体のシステムとは別に独立しており、環境調整機能の制御や生物化学プラントの制御も、この場所から行なえる。
ヴィーンゴールヴ級は、これらのシステムを守る為に存在していると言っても過言ではなかった。
そのデータ、その機能は、生物の研究者には堪らないモノがあるのだろう。
扇状に聳え立つ超大型ディスプレイに、シミュレーション結果を出力する
『プライマリーラボラトリ』。
表示された膨大なデータを見上げ、熟女の生物学者船長は熱に浮かされる少女のような顔になっていた。
「ああ……銀河史前の起源惑星の始祖生物、早く逢いたいわ。
ビッグ3を初めとして主にプロエリウムの生存圏となっている惑星には共通して生息が確認される生物種ないしその亜種がいる。ただ、どうして数HDから数光年も離れている惑星に、持ち込まれたワケでもないのに近似種がいるのか説明が出来なかった。最古の化石は入植時代以前の物よ?
でも、この船が数十世紀前の物でかつて各星系への移住に使われていた物だとするならば、プロエリウムの先祖がテラフォームか何かの理由で拡散させた可能性は十分にある。
その後弱い種は原生生物に駆逐されたのだろうけど、中には元の生態系を汚染してしまった強靭な侵略種も存在したの。
これらの生物を特定出来れば、ミッシングリンクを繋ぐだけではなく汚染を排除して元の惑星の生態系を再生する事だって可能かもしれないわ」
パンナコッタ勢置き去りで、早口で捲くし立てるメレディス船長。なにやら物凄い熱意は伝わる。
そして唯理は、このヒトここの責任者にして大丈夫かな? と少しばかり不安になってきた。
生物学者の視点で船を運営して欲しいと思いほぼ内定状態だったが、研究優先で本来の目的を外れた暴走などされても困るのである。
そういう科学者は、以前と同じように排除しなければならないのだから。
とはいえ、メレディス船長を選んだのは科学者に珍しいモラルのあるタイプであったから、というのも事実。さもなければ唯理は最初から候補から外している。お利口なばかりでヒトの迷惑を考えないバ科学者という存在には、過去幾度となくえらい目に遇わされてきたので。
長期の宇宙航行、缶詰にされる人々の心理的ストレスの緩和、その為の環境構築の重要性というメレディス船長の主張も間違ってはおらず、後の船団上層部との協議の結果、段階を置いて最終的に『アルプス』の全機能を復元する事が決まる。
これにより『アルプス』艦内の地球生物環境の再現が始まるのだが、それが船団の乗員へ向けたストレス緩和策に留まらなくなるというのは、現時点では誰ひとりとして知る由もなかった。
ある意味において、ヴィーンゴールヴ級アルプスという船は、この時代の宇宙と人々の生き方を引っ繰り返す事になるのである。
【ヒストリカル・アーカイヴ】
・オムニ
万能の名を冠するシミュレーター。この時代の基幹技術のひとつ。娯楽、技術習得、機械の動作テストなど利用範囲は多岐に渡る。
脳で同調するのみな簡易的な接続方式から、操り人形にされたが如く大量のワイヤーに吊るされる高度な接続方式が存在する。
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