63G.パイルバンカー ウッドペッカー

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 銀河最辺縁ペルシス流域ライン、共和国圏ターミナス恒星系本星、テールターミナス宙域。

 この、至近距離に鈍い銅色の惑星を臨む宇宙空間は、現在大混乱の戦場となっていた。

 放浪民ノマドの船団、避難民が乗り込む無数の船、半壊した共和国の艦隊、これら併せて30万隻にも近い宇宙船が統制も何も無くデタラメに動き回り、連邦中央軍の艦隊6,000隻が超絶火力のレーザー兵器で滅多打ちにされている。

 宙域の共有通信帯ではディラン船団長が攻撃中止を叫んでいるが、誰もそんなの聞いていやしない。

 燃え盛って手に負えない、ヒトの意志を燃焼促進剤にした宇宙の大火災であった。


「おいおい連邦の連中皆殺しにしちまうぞ、ありゃ…………。ユイリこっちは全然収集がつかねぇ、連携した行動とか無理だわコレ」


『まぁこんな事になるんじゃないかとは思ったよ……こっちで頭押さえなきゃダメか』


 高速貨物船『パンナコッタ』の船首船橋ブリッジでは、船団全体が右往左往しているのをオペ娘のフィスが呆れ顔でモニターしていた。

 もともと、集団としての纏まりなど求めるべくもない急造の寄せ集め船団だ。

 それが、連邦艦隊に一発喰らって混乱に拍車がかかり、もはや収拾がつかない状態に。


 唯理が恐れていた状況だ。

 あるいはもっと悪い。

 混乱した連邦艦隊と恐慌状態に陥った船団が互いに攻撃しては撃ち返されてまた反射的に撃ち返す、という悪循環に入っている。

 今はまだ、雑――――――電子妨害ECM対電子妨害ECCMが用いられない―――――な狙いで威嚇発砲のような砲撃を繰り返している状態だ。

 だが、このままでは早晩オペ娘の危惧する通りの大惨事となりかねなかった。


『フィス、連邦の旗艦を押さえる。ロケーターの設定と突入支援よろしく』


「お前はまたそんな無茶をー…………イリーガル相手にするのとはワケが違うんだぞ分かってんのか分かってねーんだろうなー!!」


 やけくそ気味に言うフィスに真面目くさった顔で敬礼して見せる唯理。誤魔化しやがった。

 文句を言いつつも仕事はするオペ娘さんは、赤毛娘のエイムへ連邦艦隊旗艦までの突入進路を転送。

 進路と言ったって、どうやっても6,000隻の艦隊のど真ん中へ突っ込ませる事に変わりはないのだ。もう泣きたかった。


「フィスちゃん、全船団のアクティブステルス能力をフルに使ってカムフラージュ、ユイリちゃん達のダミーデータを展開しましょう。他のレイダーの子にも手伝ってもらってちょうだい」


「それくらいしかねーかー……。この状態で電子戦の性能まで晒したくねーんだけど」


 船長のお姉さんも赤毛娘を止めはせず、サポートする方向で考える。連邦艦隊を潰して連邦と全面戦争になるか否かの瀬戸際、というこの状況では唯理の作戦(?)を支持するしかないのだった。

 個人技能頼み、というのが戦術的には既に終わっているが、この際どうにか出来るのなら贅沢も言えない。


「というワケで第2クォーターだ。前衛艦隊のヘヴィーチャージを突破しゲームゾーンの内側に突入、カウンターメジャー及びインターセプターを排除しゴールポストを直接押さえる。

 わたしグラップリング・メテオははじめてだ」


『連邦艦隊相手にグラップリングとかジョークのつもりか全然笑えねーぞ!?』

『タイチョーの下に回されてからこんな仕事ばっかだよ!』


 エイム間の共有通信では非難と阿鼻叫喚の嵐が。

 唯理なりに気を遣って人気スポーツの用語を例えに用いたのだが、お気に召さなかったようである。


 とはいえ、エイム乗り達に対しても同情の余地はあった。

 素人だてらに多少腕が立つばかりに特攻チームへ組み込まれ、ここしばらくは星系艦隊と交戦したり共和国艦隊と交戦したり所属不明艦隊と交戦したり正体不明の自律兵器群と交戦したりと、ロクな目に遭っていない。

 死ぬのも契約の内なPFCOじゃないんだから、そろそろ雇用条件について再交渉したかった。


 などと泣き言を言うオペレーターのオヤジや桃色髪のケンカ屋だが、遺憾な事に行かないという選択肢も有り得ない。

 自分の家である船団を守る為には是非も無い事なのだから。

 結論のところが変わらないのなら、後はプロセスの問題だと唯理は思う。


『キングダムコントロールより、ECMコントロールをパンナコッタへ委譲します!』

『トゥーフィンガーズ、アクティブセンサーモジュールをパンナコッタと同期ぃ!』

『ヴィーンコールヴのECMシステムをパンナコッタへ接続』

『パンナコッタコントロールへ本船のECMトリガー同期!』

『マークホーガンよりパンナコッタへコントロールを預ける!』


 パンナコッタからのリクエストに応じ、船団内でも電子妨害ECM能力の高い船が電子戦システムのコントロールを移管する。

 複数の船の電子攻撃を束ねて一気に放出し、連邦艦隊のセンサーを封じ込める戦術だ。

 そのECMの一括制御を行うのは言うまでも無く、船団トップのシステムオペレーター兼ウェイブネット・レイダーのサーフィスである。


『ユイリ、アクティブシステムのパワーに物言わせて連邦艦隊のECMとセンサーを黙らせるからな! つってもアルゴリズムは多分速攻で対応されるから基本ジャミングだって思っとけ! 5分以上は保証できねーからな!』


「それだけあれば……十分!」


 パンナコッタと同期した船団が一斉に電子妨害ECM信号シグナルを発信。その桁外れな出力により、連邦艦隊のセンサーシステムが一斉にかく乱された。

 レーダー画面上ではノマドのエイムが数千機に増え、でたらめな数値を反映している。

 この時点で、センサーに連動した射撃指揮装置イルミネーターや自動照準システム等々の機器は使い物にならないか、信頼性を著しく減じていた。

 ほぼ全てのデータ収集と環境観測を光学映像など受動的パッシブなセンサーのみに頼らなければならない為、艦隊運動さえ満足に出来ない。


 そんな状態の連邦艦隊へ、ノマド側からのレーザー砲撃と平行して灰白色のエイムと5機の僚機が殴り込んだ。


 10秒で約9,000km/hまで加速したヒト型機動兵器に、艦隊前衛の2,000隻から真紅の光線が殺到。

 しかし、照準の自動追尾も火力の集中も出来ていないレーザー砲は、回避運動を取るエイムチームを捉え切れない。

 一発当たり30メガワットにもなるレーザーが約7,000も乱舞する中を飛ぶのはオペレーターの寿命を縮めたが。


「常に位置高さ速度軌道を変えろ! 単発なら喰らったってシールドがある! ハイスペリオンよりマシだこの程度!」

『比較対象おかしいってー!?』


 どの辺がマシなのかさっぱり分からない、と悲鳴をあげるエイム乗り達。唯理の方にも説明している時間は無い。

 その上、艦隊旗艦方面からは残存する全てと思われるヒト型機動兵器が出てくる。その数、約410機。

 数こそ、ハイスペリオンで交戦した共和国の無人機スクワイヤ部隊より少ない。今回は味方からの強力な電子妨害ECMの支援もある。

 が、今にも致命的な事態を引き起こしそうな素人だらけの船団を背負い、錬度の高い正規軍のエイム乗り達を相手取っている状況で一切の余裕が無いのに変りも無い。


「こりゃ出し惜しみしている場合じゃないやね、エイミー!」

『ヤダよー!!』


 だというのに、赤毛娘からの要請を光の速度で拒否するメガネのエンジニア嬢。


 故あって、唯理が本気を出すにはエイミーの許可が必要となっていた。担当エンジニアとして乗機の性能に制限を設けてあるのだ。

 これを解除すると機動力は跳ね上がるが、同時に重力制御機の反応速度も超えてしまう為、オペレーターに尋常ではない慣性重量がかかる事になる。

 そして、唯理はその辺に全く頓着しない。正確には、優先順位が低く後回しにする傾向があった。健康には気を遣うし身体も鍛えるが、それも道具を手入れするようなもの。必要となればいくらでも遣い潰そうとする。

 エイミーは、唯理が必要と判断するなら死ぬ事すら厭わないようで怖いのだ。

 それでも、船団にせよ連邦軍にせよ大勢の命に関わる事態である以上は、結局承諾せざるを得なかったが。


 灰白色に青のエイム、あるいはそのオペレーターが持つ規格外の性能を抑えるリミッタが、遠隔操作リモートで外される。

 主機関ジェネレーター推進機関ブースターの出力、超伝導モーターや共有結合シリンダーといった駆動部アクチュエーターのパワーが跳ね上がり、搭乗者の負荷を完全に度外視したスペックを剥き出しにした。


 うねるような高機動の中、フットアームを微かに何度か踏み馴らしてブースターの反応を見る唯理。

 ガヒュン……ガヒュン……、とブースターノズルの燃焼が大きくなり、自分にかかる荷重や速度の上昇を感じ取ると、


 思いっきりペダルを踏み込み加速度を50G490m/s2に乗せた。


 一瞬で置いてきぼりにされる僚機、及び連邦軍機。

 そして、十字編隊で対向していたエイム分隊が、ほぼ同時にふたつ弾け飛ぶ。

 見えたのは、螺旋を描く青白いブースターの尾とレールガンの発砲と思しき紫電、それに発振点が分からないほど乱れ飛ぶ赤いレーザー光だけだ。


『ッ――――――――散開! 逃げろぉ!!』

『スケア21、22、26ダウン! バルストック01、11、12ダウン! スケア第2とバルストック小隊は後退を――――――――!!』

『キューブフォーメーション! 全周警戒! 散布界を最大に敵を近づゲッ!?』

『スケア01被弾!? スケア小隊は指揮を引き継ぎ後退! フラッジ小隊は援護を!!』


 ド派手なブースター炎を背負ったエイムに突っ込まれ、固まっていた連邦の部隊がボーリングのピンの如く蹴散らされる。弾け飛ぶ瞬間に閃いたのは、四振りのビームブレイドだ。


「先行して敵を撹乱、数を減らす! そっちはわたしの軌道をトレースして後方から来るエイム部隊を足止めしろ!!」

『えーこんな中で!?』

「ヤバそうになったら艦隊後方へ抜けて船団と合流する事! 指揮はラヴが執れ! 以上状況を開始!!」


 胸部ブースターを吹かし急減速する唯理は、僚機が追い付いて来るのを待って自機のカバーに回るよう指示。桃髪の喧嘩屋からは上ずった声で聞き返されたが、黒髪クールレディはいつも通り平坦な口調で「了解」と即答だ。


 部下に後を任せると、唯理は再度ブースターを爆発させて単機で先行。真空中でドリフトするように軌道を捻じ曲げ、連邦のエイム集団へ突撃する。

 レーザー弾幕の中を超高加速状態のまま右に左にと鋭利に切り返し、灰白色と青のエイムは敵の密度が高い所を狙いブチ抜いて征った。


              ◇


 赤毛娘の宣言通り、散々にやられて動きが乱れる連邦のエイム部隊。

 灰白色の敵機エイムが旗艦へ向かったと知るや即座に反転するが、背中を向けた途端にノマドのエイム部隊から攻撃を受けた。


『チッ!? 損害を受けた小隊は後退! フラッジ小隊マッドスキン小隊はボギー2から6を迎撃しろ! 残りは艦隊直掩機とボギー1を挟み討ちにするぞ! 続け!!』


 露骨な足止めに、連邦軍のオペレーターが苛立ちを募らせる。

 とはいえ、連邦中央軍の兵士ともなれば年中訓練しているので、状況にどう対応すれば良いかは心得たもの。実戦経験は少なくともだ。

 隊長機を引き継いだオペレーターは、シミュレーション通り部下に命令を飛ばし、自身もまた機械的にそれに則った。


 一方で、素人に毛が生えた程度なノマドのエイム乗り達は必死だ。

 隊長機が無茶苦茶な突っ込みをしているので、連邦のエイム部隊は大分散らされている。

 それでも、未だ300機強のエイムを展開する連邦軍とノマドでは勝負にならない。

 正面からの戦闘は断固回避。体勢を立て直して戦力を集中される前に叩くべし。気を抜くと一瞬で落とされかねない。


『連邦艦隊を後方に抜けつつ隊長を援護。撃墜より自機の生存と敵機の牽制を優先…………』

『チクショウやってやるよぉ!!』

『生きて帰ったらエイム降りるからな俺!!』


 赤毛隊長からの指示を、指揮を任されたハニービーマイ=ラヴはチームの皆へ再確認。その乗機エイムである黒と紫の重装甲重火力機は、背負う大口径レーザー砲を連邦の部隊へ向け発振した。

 防御シールドの出力以上の砲撃から、全力で逃げる連邦軍機。それを、両腕部に短機関銃SMGを接続した赤と白のエイムが撃ちまくりながら追い立てる。

 チームBのエイム3機も重力制御の緩衝範囲を超える高機動に耐え、速力で連邦軍機を寄せ付けない。


              ◇


 そんな味方の活躍を機体後方のセンサーで確認しつつ、唯理の駆る灰白色に青のエイムは連邦艦隊の本隊へプレッシャーをかけ続けていた。自分に攻撃を集める為だ。

 相対速度にして時速20万キロを優に超える砲弾が至近距離を突き抜けるが、そのエイムは全く減速せず加速を続ける。

 スピードスケートのように機体を左右に振る唯理は、そのまま右脚部のブースターで真空を蹴りバレルロール。回転しながらも敵機を中心軸に捉えて射撃を繰り返した。


 そうしてまたひとつの防衛線を突破した直後、真横を擦り抜けられた連邦のエイムが爆発する。


『ダメだ手に負えない!? 退がれ退がれ退がれ!!』

『瞬間最大加速は50Gを超えるぞ!? なんで潰れないんだ!!?』

『ECMを集中しろ! 無人機なら止まる!!』

『攻撃を継続! 回避運動でオペレーターの体力を削れ!!』


 しかし、連邦のエイム部隊は後退する一方ながら、陣形は崩さず徹底して迎撃に専念していた。

 その粘り強さは、実のところ確実に灰白色のエイムの侵攻速度を抑えている。唯理の方にも連戦での疲労があったかもしれない。

 他に取り得る選択肢も無かった、という事もあるが、エイム部隊は愚直とも言えるほど定石セオリー通りに遅滞行動を続け、敵機に消耗を強いつつ機会が訪れるのを待つ構え。

 単純で堅実な戦術は、いつの時代も不変という事だ。


 そして成果は現れる。


『オプション:RCCWM-RG5000RED・MODEL_Ver10155、コントロールエラー、コードFC000011、MT000002』

『火器管制システム監視、警告、右腕マニピュレーター接続の攻撃火器に異常加熱を感知』


「おや?」


 全面ディスプレイ張りとなっているエイムのコクピット内、唯理から見て右側に赤い警告表示が現れていた。

 曰く、ここまで容赦なく連邦軍機を撃ち抜いていたアサルトライフル型レールガンに、トラブルが起こったらしい。


「大変!? 耐久限界超えちゃった!!?」


 と、パンナコッタの船首船橋ブリッジでは担当エンジニアが青くなっていたが、これはエイミーのせいではない。メンテナンスはメカニックの姐御と丁寧にやっていたのだから。

 誰のせいかといえば、装備を酷使する赤毛娘のせいである。

 あるいは、ここまでの連戦を想定されていない兵器の仕様が原因か。


『弾切れ!? いやマシントラブルか!』

『火力落ちてるぞ! ルビコン01より各機、陣形をエレメントに変更! 2機連携で多角方向から接敵しろ!!』

『ボギーの武装に集中攻撃! 丸裸にしてやれ!!』


 灰白色のエイムの主武装が沈黙したのを見て、連邦の隊長機はすぐに勘付いた。

 まだ左腕部にレーザー砲が残っていたが、こちらは攻撃速度こそ早いものの打撃力に欠ける――――――と唯理は思っている――――――ので基本的に牽制用だ。


 優勢と見たのか、連邦のエイム部隊は動きが良くなっていた。軽快な加速で灰白色のエイムを取り囲むように散開している。

 灰白色のエイムは依然として攻撃を掠らせない程の高機動を維持するが、連邦の部隊も僚機を盾にし絶えず前後を入れ替えながら距離を潰す戦法に出た。

 短連射のパルスモードではほとんどダメージを累積出来ない為か、灰白色のエイムはレーザー砲を1秒発振のブーストモードに切り替え。

 しかし、更に攻撃の手数が減った事で連邦のエイムオペレーターは勝利を確信する。

 先頭を切る連邦軍機は、クルクルと射線から逃げ惑う灰白色のエイムを攻撃しながら追い詰め、



 相手が縦軸Y方向へ急加速をかけ見失ったと思った瞬間、弧を描くような宙返りから直上を取られカカト落としを喰らっていた。



『――――――なぁああ!!?』

『キャントン!? フラッジ03が!?』

『体当たり!? いや蹴っただと!!?』


 連邦艦隊の共有通信に戸惑いに満ちた悲鳴が轟く。

 大質量と慣性重量の蹴りを喰らった連邦のエイムは、シールドが消滅した直後にビームブレイドで四肢と頭部を斬り飛ばされた。

 間髪入れずに僚機が救出に向かうが、ここに来て灰白色のエイムは左右の大腿部に接続していた短機関銃SMGを持ち出し迎撃。

 無防備に突っ込んだ別のエイムは、集弾された射撃をモロに喰らい中破していた。

 小口径かつ低加速なので一撃必殺とはならなかったが、全身穴だらけにされては慰めにもならない。


 つまり、追い詰められ逃げ回って見せたのは、敵の接近戦を誘うインスタントな罠である。


「いい銃だね、借りておくわ。フィス」


『お前は敵から武器を分捕らないと気が済まんのか…………?』


 引っ掛かった用済みの獲物を蹴り飛ばす唯理は、後に残され真空中を漂うメインウェポンを鹵獲。

 砲身が縦に2本連なっている、多連装アサルトライフル型レールガンだ。

 ちなみに、上下の砲口から分けて砲弾を射出するのではなく、用いられるのはその時点での上の砲身のみ。加速レールが熱を持ったら、台座を回転させて砲身の上下を入れ替えるというシステムだった。


 先だってアサルトライフルが壊れたのは、砲身の冷却システムが動作不良を起こしたまま唯理が気付かず――――――センサー不良で安全装置が働かなかった――――――発砲を続けた為だ。

 レールガンはその性質上、弾体とレールが接触しておらねばならず、加速時の摩擦による過熱は避けられない問題となる。

 そこでどう冷却するかが各製造メーカーの課題となるのだが、多連装砲身型もその解答のひとつというワケだ。基本的には素材の性質と冷却システムで対応するが。


 例によってオペ娘に機体の識別ID認証を外させ、新たな武器も得た灰白色のエイムは悪夢のような再侵攻を開始。

 もはや遠距離から攻めて良いのか距離を詰めて攻撃すれば良いのか分からず、連邦のエイム部隊は手立てが無いままひたすら後退を強いられる。捨て身で止められないなら、もう出来るのは逃げる事だけだ。

 旗艦が近づき直掩機も上がって来るが、砲身の冷却時間が大幅に短縮された灰白色のエイムはアサルトライフルを撃ちっ放しに。

 進路上の障害物エイムは立て続けに薙ぎ倒され、あるいは擦り抜けざまにビームブレイドでバラバラにされていた。


 その先に、100機以上ものヒト型機動兵器に守られている連邦中央軍の戦闘艦がいる。

 下向きに傾斜している艦首。前後に長い艦体が横に並んで繋がっている、双胴型の大型艦。

 連邦中央軍艦隊でも同型が用いられている、この全長約1,000メートルの戦艦クラスが統合戦略部所属の艦隊旗艦フラグシップだ。

 艦名を、『ドラガニックシア』という。


「フィアズ01、02――――――フィアズ小隊壊滅! サラマンディ05ダウン! サラマンディ小隊損耗50%超えました継戦能力喪失!」

「ボギー1が最終ラインを突破! 防衛ユニットありません! 接触まで20秒!」

「ブロッカー突破されました! ディレイWSが迎撃中! ですがECM強くイルミネーターが追い切れません!!」

「シールドコントロールをマニュアルに変更! ジェネレーター出力最大!!」


 旗艦の艦橋ブリッジは、遂に灰白色のエイムの接触距離に捉われる段となり、大騒ぎとなっていた。ノマド程度に脅かされるなど、1時間前には考えもしなかったのに。

 オペレーター達は訓練通りに打てる手を打つが、凄まじい勢いで侵攻する敵機を全く阻止できない。

 落ち付いているのは艦長だけだ。


「何をやっているんだ何をぉ! 貴様らそれでも中央軍の軍人か!? 方面軍の三流どもだってもう少しまともな働きが出来るぞ愚図どもが!!?」


 それに、年中落ち着きの無い肥満体が約一名。システムオペレーターの肩を掴み、怒鳴りながら揺さぶっているサイーギ=ホーリー三等佐だ。邪魔しかしていない。


「桁外れの手練だな…………。だがエイム単独の火力で戦艦のシールドは抜けんだろう。どうする気だ…………?」


 時折敵機ボギー1が映されるモニターを睨み、誰に聞かせるでもなく独り言ちる直毛ヒゲの艦長。

 灰白色に青のエイムは、奪ったアサルトライフルに短機関銃SMGが2挺、レーザー砲1挺、マルチランチャー2基、ビームブレイド4振りと、一般的な軍用エイムよりは多くの火器を携行している。

 しかし単発で見ると、どれも平均的な打撃力しか有していない。50メガワット以上もの火力を持つ主口径レーザー砲すら耐える戦艦のシールドを貫ける道理も無かった。


 無論、そんなのはこの時代に来て間もない唯理にすら理解出来る事だが。


 憐れなのは、たまたま良い位置にいたばっかりに目を付けられたエイムの一機だ。

 応戦むなしく一方的に撃たれて防御シールドを吹き飛ばされた連邦軍機は、灰白色のエイムに捕まり腕部マニピュレーターを支点にして何十回転と振り回され、遠心加速も十分に旗艦へとぶん投げられた。

 重力制御機が軽減できる範囲を軽く超え、コクピット内で側面に押し潰されたオペレーターは一瞬で失神。

 唯理は連邦軍機を旗艦のシールドに激突させると、自身はその背面に飛び蹴りを入れ、エイムのブースターを推力の限界まで燃焼させる。

 ついでとばかりに、ゼロ距離から戦艦のシールドにレールガンも撃ち込んでいた。


「し、シールド過負荷50! 80!? シールドジェネレーター緊急停止!! サブジェネレーターに切り替え――――――――!!」


 15メートル台のヒト型機動兵器一機分の質量に、壊れ性能のブースターによる推進力。

 これらの負荷により、極短時間で戦艦のシールドジェネレーターは落とされてしまった。

 球形に白んでいた斥力場が消滅すると、破城槌扱いされていた連邦のエイムが旗艦の外殻に衝突。

 戦艦のブリッジオペレーターはシールドを再展開しようとしたが、あまりにあっさり突破されたので間に合わず。

 赤毛娘の駆る灰白色のエイムは、双胴型の戦艦中央、艦全体では後部に位置するエンジンブロックとの境に接触していた。


 艦橋ブリッジの真上である。




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