61G.セーフモード ミニマム.sys
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超高性能戦艦クレイモア
1千万というメナス自立兵器群の襲撃による、ターミナス恒星系存亡の危機。
そこから生き残り安全を確保した以上、次は自分たちの優位性を確保しなくてはならない。
一致団結して難局を乗り切った後は、中断していた争いが再開されるだけなのだ。
いや、困難な状況であればこそ、より自分たちは優勢でなくてはならない。さもなくば、敵対勢力が自分たちの自由と権利を掌握してしまうのだから。
共和国中央派遣艦隊、ターミナス恒星系艦隊、惑星テールターミナス市民や星系各星の住民組織。
あまり表には出さないが、それら勢力が注目するのはキングダム船団の保有する桁ハズレの超高性能戦艦だ。
キングダム船団さえ取り込めば、圧倒的に優位に立てる。連邦艦隊が接近しているというが、それすら問題にはならない。
故に、軍は武力や軍事力で、市民たちは権利を声高に訴え、この大船団の中で確固たる地位を得るべく声を張り上げていた。
ところがだ、
「キングダム船団船団長のディラン=ボルゾイだ! 我々はノマドであり、連邦だろうが何だろうが命令に従う謂れは無い!
当船団は自治権を守る為の自衛行動に入る! キングダム船団並びにターミナスグループからの避難船は即時発進! 連邦艦隊が強行手段に出た場合は自衛権を行使する! 以上だ!!」
突如立ち上がった船団長は、
それをすかさず、鼻で笑い飛ばし水を差そうとした共和国艦隊の幹部士官。艦隊の全員で、そんな宣言は戯言に過ぎない、という空気を作るのが狙いだった。
ところが、ブルゾリア社と社長が同調する動きを見せたので、目を剥いて食ってかかる。
「おい勝手な事はしないでもらおう、ミスターブラウニング! 連邦艦隊には我々で対処する! 間も無く更迭されるキミにそんな権限は無い!!」
「まだ辞令は受け取っていないのでね。それに職を下りるまでは社の事は私に責任がある、口出ししないでもらおうか。私がキミたち艦隊の運用に口を出せないようにね」
にべもなく突き放す恰幅の良い紳士に、気圧されそうになる若い士官。社長の意趣返し含む。
それを見て他の仕官も動こうとしたが、もはや流れは止められなかった。
船団長の指示で船団は今にも動き出そうとしている。既にメインストリームは出来てしまったのだ。それも、最も強力な戦力を保有する主流派だ。後は他の者も合流していくだけだろう。
「俺だ、連邦艦隊の動きはどうなってる」
ディラン船団長は司令官席に座り直すと、席の
立ち尽くす共和国艦隊の軍人を無視し、キングダム船団やブルゾリア社に関わる避難住民がそれぞれの配置へと走っていく。
『連邦艦隊は半包囲陣形のまま速度を上げました。既に接触距離、輸送艇と護衛機が先行しています。1分以内に接触』
「制圧部隊だな。シールド展開、火器も起動して脅してやれ。全船団に通達。だがまだ撃つなよ、威嚇のセンサーロックだけだ」
それまで3G程度で接近していた特務艦隊が前触れ無く速度を上げたと言うのは、たった今のディラン船団長の宣言を聞き、連邦側が急いだ為だろう。威圧から即制圧に慌てて切り替えたワケだ。
つまり、船団内に情報提供者がいる。別に不思議ともなんとも思わない。情報管理などできる状況ではないのだから、10人や100人そういうのも混ざっているだろう。
今まさに全長10キロもの戦艦に取り付こうとしていたヒト型機動兵器の編隊は、展開されたエネルギーシールドに行く手を阻まれ急制動をかけていた。
反抗されてホーリー三等佐がキレまくりヒステリーを起こしていたが、そこは割愛する。特務艦隊の艦長はご愁傷様だ。
クレイモア
キングダム船団の約200隻がそれに追従し、ワンテンポ遅れてブルゾリア社関連の宇宙船数万隻が続き、止むを得ず個人所有の宇宙船と共和国艦隊の戦闘艦が追いかけた。
『ゴミどもがぁ! 逃げられるとでも思ってるのか! 構わん多少船が傷付いても良い、攻撃しろ! ノマドどもが我々に攻撃などできるものかよ、どうせブラフだ!
準一佐、キッチリ共和国の連中に睨みを利かせておいてくださいよぉ!? 邪魔なんてされたら冗談じゃないからな!!!』
連邦の通信周波数でデブの仕官が喚き散らし、エイム部隊に攻撃命令を出す。ちなみに指揮権は特務艦隊側にあるので越権行為だ。
しかし艦長が命令を追認した事で、エイム部隊はクレイモア
大質量体であるヒト型機動兵器がシールドに接触した事で、クレイモア
「やっぱり際どいな……もう少し時間が欲しかったが」
『船団長、シールドジェネレーター出力が低下中です、現在99.7%。3時間程度はもちますが』
話には聞いていたが、途方もないジェネレーター出力に呆れ果てる船団長。
通常、中隊規模のエイムに負荷をかけられ続ければ、主力戦艦だって他を犠牲にして10分から15分程度シールドを維持するのが精一杯だろう。
それを、3時間。コロニー
が、まさか延々とエイムと連邦艦隊を貼り付けたまま移動するワケにもいかない。相手が攻撃を激化させる可能性もあるし、他の船に手を出されては面倒な事になる。
(どうにかこの場を凌いで態勢を整えたいな……。そうなると交戦するしかないが、艦艇はともかくエイムの方は艦砲じゃオーバーキルになりかねない、か……。と言ってもヴィジランテで連邦特務のエイムを押し返すのは――――――――)
ここに至り、一戦交えないワケにもいかないか、と判断する船団長。
逃げるにもクレイモア
そんなところで、船団長の思考に閃くものが。
(いや……いやいやいやできれば彼女は出したくない。確かにトップクラスのオペレーターだが、艦隊の鍵をそんな事で危険に晒すワケには…………)
現在のキングダム船団におけるトップオペレーター、あの赤毛の少女の存在が頭をチラつく。
メナスの特機という恐るべき存在と単騎で渡り合える少女なら、連邦のエイム部隊を撃退するのも難しくはなかった。
とはいえそれは、金の卵を産む雌鳥を闘鶏に出すようなもの。合理的に考えればありえない。
「マリーン……彼女は今どうしている」
『ユイリちゃんならとっくに出撃しちゃったわよ。そちらの指示を待ってるわ』
だってのにどうしてもう出ているかなぁもぉおおお、とディランは悶絶したくなった。
一応出撃できるかどうかだけ確認しようとパンナコッタの船長に通信してみたら、既に赤毛娘の
マリーンだって唯理の重要性は分かっているはずだ。当然止めただろう。いや止めようとしたら既に出撃されていたのかもしれない。今の船団長のように。
少し前に唯理は聞いたのだ、船団長にエイムオペレーター個人へ命令を出す権限は無いと。
ならば自分の判断で勝手にやるだけである。剣の艦隊(仮)の
そんな赤毛娘の思惑を察し、ディランは迷わず唯理のチームへの増員を決定していた。
◇
十数分前、高速貨物船パンナコッタ船内。
連邦軍の急接近を受け、唯理とオペ娘、それにエンジニアの少女は大急ぎで自分たちの船に戻っていた。
その
「ダメだこりゃ」
というのは、赤毛の少女の一言。
それは、同じようにディスプレイを見ていた乙女たちに共通する感想だった。
「せっかく助けに来たのに……なんかもうメチャクチャ」
「こんなもんだろう。山場を越えれば今度は手柄だ責任だを奪い合ったり押し付けあったりするもんだ。持ち帰った船の事もあるからな。どいつもこいつも躍起だろう」
「いや山場も何も今まさに連邦のブタ野郎がこっちに向かってやがるんだけどな」
醜い怒鳴り合いの光景に、メガネエンジニアのエイミーはしょんぼりしている。感謝されたかったワケでもないが、何の為に苦労したのかという想いが強い。
一方でメカニックの姐御は、特に驚きも動揺も気落ちもしていなかった。たとえ死にそうになっていても、あるいはその状況さえ利用して見返りを得ようとするのが人間だと知っているからだ。気分は良くなかったが。
そして吊り目なオペ娘が言う通り、言い争っている場合ではない。
唯理と超高性能戦艦を知る連邦の軍人、サイーギ=ホーリーと6,000の戦闘艦が接近している。
このままではクレッシェン星系の時の二の舞だが、今回は逃げ出すという事も出来ないし、船も渡せないのだ。
「船団長が一番大事な船の指揮権を握ったんだから、後はもうブラウニング社長あたりが担いで主要派閥を作る事になるんだろうけど……ちょっと時間が問題ねぇ」
「その前に連邦が来るだろ。エイム部隊と輸送のガンボート先行して来る、宙域基準点13度方向から加速3G、エイム150機、これエレメントじゃねーな……分隊編成か? ガンボートは15機、クレイモアが狙いなら接触まで15分。これ普通に間に合わなくね?」
船団長に面倒を丸投げしてきたマリーン船長の予想では、寄せ集まった船団の主要人物の中から、必然的に特定の集団が出来上がるだろう、との事。
その時に中心になるのは、旗艦の指揮権を握るディラン船団長になるのはもう当然の流れだ、とお姉さんは言う。
ただ、この様子ではそれがいつになるか分からない。
また、船団長の中心派閥が出来てから、実際に行動へ移るまでどれほどの時間がかかる事やら。
「……準備だけしておこうかね。エイミー、わたしの機体は出せる?」
「ユイリちゃん…………」
「ユイリはハイスペリオンから連戦だよ!? 無理しすぎだよ!!」
やや考えた唯理は、いつでも連邦艦隊の足止めに動けるようヒト型機動兵器で待機する事に。間に合わないようなら独断で仕掛ける気である。
これに、船長のお姉さんは悲しそうな顔で抗議していた。精神攻撃だ。赤毛娘に大ダメージ。
そしてメガネ少女が悲鳴を上げるのも当然で、唯理はハイスペリオン星系への殴り込みからターミナス星系でのメナス戦まで、ほぼ戦い通しだ。いくら鍛えているとはいえ、もう心配で仕方がない。
エイムの整備は自動システムもフル稼働でやっているが、オペレーターが壊れるとそうもいかないのだ。
「でも特殊艦の可変共振動レーザーで皆殺しにするワケにもいかんでしょう。船団のヴィジランテもほとんど壊滅状態だろうし、ハイスペリオンに連れて行ったこっちのチームしか動けないんじゃないかね」
「ナチュラルにアイツらを扱き使うなオマエも…………」
皆の心配も分からなくはないが、現状では他に選択肢も無いと唯理は考える。連邦と全面的に事を構える気も船団には無いだろう。
そうなると可能な限り穏便にお帰り願わなくてはならず、自惚れや過信抜きに、それが出来るのは自分とチームだけだと唯理は思っていた。
唯理に付けられたエイム乗り達も、キングダム船団ではトップクラスのオペレーターである。この際有効に使わせてもらおう。フィスにはジト目を向けられたが。
それに、唯理自身の疲労も大した問題ではない。パフォーマンスをフルに発揮できないのなら、現状のスペックを使い目的を達成するだけなのだから。実戦なんてだいたいそんな感じだ。いつも何かしら足りない。
マリーン船長としても唯理の判断に異を唱える事が出来ずに、出撃を許可せざるを得なかった。
最後まで唯理の出撃を渋っていたエイミーは、「お願いお姉ちゃん」と小首を傾げてお願いされたら「もー仕方ないなー!!」と即堕ちた。
武骨な装甲を纏うヒト型機動兵器、エイムの
唯理が発進チェックをしている間に、エイミーは何となくエイムの表面に指を這わせていた。
大事な娘が乗る機体だ。整備は十全に行っているし、全体にわたり改良も繰り返している。
それでも、装甲は細かな傷だらけだ。
「ユイリ…………ちゃんと帰って来てね?」
「まぁあの程度なら多分問題無いデスヨ。それよりはあっちの艦隊から攻撃された時に船団がパニックにならないかの方が心配――――――――」
「ユイリ…………ってば!!」
開けっ放しの胸部コクピットハッチ内へ身を乗り出し、
空中投影されたディスプレイから目を離さず、全くいつも通りな赤毛の様子に、逆にエイミーは不安を掻き立てられてしまった。
突然大声で叱られ、ビックリした唯理が目を丸くする。
「…………ユイリは船のクリアランス持っているの誰かに知られると大変な事になるし、エイムでも一番のオペレーターだからどうしても出撃が増えるし、負担が大き過ぎて心配だよ」
唯理に寄せられるエイミーの顔が、段々と涙目に涙声となってきた。
基本的に女の子を泣かせてしまったら敗北確定である。コクピット内に逃げ場は無く、唯理は往生した。赤毛の方も一応少女なのだが。
こんな時以前の自分はどうしていたっけかと、頼りない事この上ない過去の記憶に助けを求める唯理。
確かこんな時は、ひたすらご機嫌を取るくらいしか出来る事もなかったと思う。
でもどうやって。
「エイミー…………戻ったらあの背中丸出しのヤツ、着るから。股下が異常に短い何かの制服みたいなヤツとか」
「………………ホントに?」
「あとそんなに心配かけてたなら部屋の認証も入れておくから……なんなら様子見に来て、くれると嬉しい」
果たしてこれで良いのだろうか、と非常な疑問を持ちながら、メガネのエンジニア嬢が喜びそうな事を口にしてみる赤毛娘。
ハイスペリオン星系へ向かう際にバニー
部屋に関しては、放っておいてもどうせ勝手にアンロックして入ってくるのだが。
して、唯理が犠牲を払ってあやした、その泣く子はどうしたかというと。
「…………早く帰って来て」
「はい?」
「すぐ行ってすぐ帰って来て! 帰ったら唯理の部屋模様替えしてバックレス着てもらって一緒にタルト食べるの! すぐに! ゴーゴーゴー!!!」
「ら、ラジャー!!」
どういう精神的変遷を経たのか知らないが、唯理は非常に力強く送り出される事となった。既にエイミーの頭の中ではプランが出来ているらしい。何やら要求項目が増えていた気がするが、この際それは良いとして。
ヒト型機動兵器を囲っていた整備用の足場が動く。
整備ステーションのアーム類も全て引っ込むと、灰白色と青のエイムは僅かに浮き上がり微速前進。
格納庫内に急減圧が起こり、エイミーは
「ホントに……早く帰って来てねー」
その間際の呟きを、スーツの通信機能が拾う。
餌に吊られたからと言って、送り出すのに不安が無くなったワケもない。好きな娘を困らせたくないという小さなやせ我慢でしかないのだ。
会話を聞いていた船長は胸が痛く、オペ娘は妙な焦燥感を覚え首を傾げていた。
◇
大乱闘な艦隊司令艦橋におけるミーティングの結果、マリーン船長の予想通り、ディラン船団長をブラウニング社長が担いで中心となるグループを作る事で決着した。
船団長はその場で全船団へ即時行動を指示。当初の予定通り、銀河中心方面への移動を開始する。
連邦艦隊とホーリーという軍人の命令は全て拒否する方針だ。
半球形の包囲陣形で接近していた6,000隻の艦隊は、加速を強めて船団に急接近していると共有通信で報告があった。
もっとも、艦隊だけでは制圧など不可能だ。
故に、ヒト型機動兵器と制圧部隊を載せていると思しきガンボートを先行させている。
クレイモア
艦の外周がシールドの形状に白み、空間が震えていた。
『ユイリ、船団長が出ろってよ。…………メナスに比べりゃザコだろうが、向こうは6機編隊の分隊編成だ。一応、気をつけとけ』
『ユイリ、船団長だ。聞いた通り連邦のエイムは分隊の定数いっぱい2班6機編成で揃えて来ている。数を活かして連携して来る連邦軍は手強いぞ。
エイムチームは連邦の機動部隊を排除しろ。ただ殲滅はしなくていい。連邦軍を躍起にしたくない。面倒な注文だろうが、よろしく頼む』
オペ娘のフィスと船団長のディランから通信が入った。出撃命令だ。
灰白色と青のエイム、その僚機の2機と別チームの3機は、クレイモア
「唯理了解、シールド解除と同時に各機最大戦速、近場のエイムから叩き返すぞ。チームAがフォワード、Bはカバー、撃破ではなく機動力で打撃を与えるのを優先する。
フィス、目標管制指示よろしく。行って来るね」
『ぉ、おう…………』
引き締まった凛々しい
その変わり様に、ぶっきらぼうなオペ娘の心臓が跳ね上がった。
『か、く、クレイモアとシールドのタイミングを同期、カウントするぞ、10、9、8――――――』
カウントダウンが始まり、唯理が
エイム各機がブースターに火を灯す。ベクタードノズルが上下左右へ肩慣らしするように偏向していた。
各々が自機のマニピュレーターや
『――――――3、2、レディ、シールドオフ!!』
「チームA発進、Bも続け、出撃する!」
そして、カウントゼロでシールドが消失すると同時に、6機のヒト型機動兵器が下部格納庫から真空中へと飛び出した。
青白い炎の尾を引き
鎧袖一触に蹴散らすと、砲撃をはじめた巨大戦艦を背に敵集団へと殴り込む。
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