32G.ブラックボックスガールズバス

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 帰って早々男と女の水面下バトルに勤しんでいるマリーン船長と、キングダム船団の船団長。

 その頃、21世紀産赤毛娘の村瀬唯理むらせゆいりとパンナコッタの皆は、買い物を終わらせ自分たちの船に戻っていた。

 大量の物資やらガラクタ――――――――もとい中古の機材やらを運び込むと、いよいよ本格的な船の整備に入る。


 本来パンナコッタⅡとなるはずだった武装貨物船は、大して手を入れないまま永久に未整備となってしまった。

 返す返すも悲しい別れだった。あるいは初代パンナコッタより悲しい別離だったと言えよう。

 それは置いといて。


「ラックはAの12に運んで。バイオスキャナも同じよ」

「オレのフレキシブル・ディスプレイは全部A-1なー。ナーブルは……自分で持ってくからいいや」

「エイムカテゴリの物は全部C-1よー。組立作業は指示するまで待機だからねー」

「コントロール、船のメカニックプロトコルにワーカーボットをリンクしろ。実際の作業指示はこっちで出す」

『チーフメカニックの命令を確認。整備プロトコルと整備ドローンをデータリンク。コントロール系にオーバーライド開始』

「やったー! 念願の自分専用オムニだー!!」

「やったー! NSヴィジョン見放題だー!!」


 船と船を繋ぐ渡河橋ボールディングブリッジを、姦しく渡っていく乙女の一団。その後方には、大量の荷物を持たされたヒト型ロボットがゾロゾロと付いて来ている。

 ロボットはともかく、つい先ごろも見たような光景だと最後尾の赤毛娘は思った。そこはかとなく不吉である。


 必要な物は概ね揃い、中古の機材がタダ同然で手に入ったりと、探し物の成果は悪くなかった。

 輸送船キングダムの作業用ロボットワーカーボット50体も借りて来たので、船の整備も一気呵成に終わらせる算段だ。


 他にも、船員それぞれが自分専用の道具を購入。

 気だるげな船医は診察に必要なセンサーを、紫髪に吊り目のオペ娘はシート回りを一新するインターフェイス機材を、メガネでお下げ髪のエンジニア嬢は工作用機材を、とそれぞれ入手した。

 小柄な双子の少女は、今まで部屋に入れられなかった全感覚シミュレーションシステム『オムニ』を入手しご満悦だ。

 何に使うのかというと、要するにエロ関係である。これに関しては別に双子の業務の必須用品というワケでもない。


 唯理もまた、船橋A-1にほど近い場所A-6に自分の部屋を宛がわれていた。

 ひとり部屋なのでエイミーが若干寂しそうにしていたが、どうせ隣の部屋A-7なので勝手に入り浸ると思われる。

 赤毛娘本人は部屋に何を持ち込むでもなかったが、エイミーは世話焼きお姉さん気分で色々と持って来ていた。

 なお、『A-1』や『C-1』というのは船におけるブロック表記だ。


 船橋ブリッジに近いA群の部屋は、いわゆる上級船員の私室となる。一部屋15平方メートル前後と、宇宙船における個人の部屋としては非常に広い。

 その直下には、4部屋分はありそうな更に広いキャビンが有る。

 重ね重ね贅沢な空間の使い方をする船だと、唯理や双子以外の全員が思っていた。

 客船でもない限り、基本的に宇宙船は住環境よりも機能性重視で、空間も目一杯機能的に使うものだ。

 小さな船だと、ヒトがひとり寝転ぶ程度のプライベート空間しか与えられない、というのもザラだった。


 だというのに、キャビンと同じフロアには、大浴場まである始末。


 当初、この謎の空間は未来の宇宙に生きる乙女達を大いに困惑させる事となった。

 薄々そんな事ではないか、と予想していた21世紀ガールの唯理にとっては、案の定な事態。

 空間と水――――――量ではなく処理システムの負荷が大きい――――――が貴重な宇宙での生活において、文字通り湯水の如く湯水を使う大浴場など、無駄以外の何物でもないのである。

 だというのに、何故に集団でお湯に浸かるような設備が、よりによって宇宙船内に存在してしまうのか。

 しかも、各部屋にもユニットバスのようなバスタブとシャワーまで付いているという、豪華客船にも劣らない仕様。

 小首を傾げる現代人を他所に、これは確かに地球人の感覚だな、と唯理は懐かしい思いをしていた。


 この時代、湯船に湯を溜めて浸かる事自体、浄化システムや生命維持システムを気にせず生きられる人種の贅沢だった。

 宇宙で生きる者は、ヒトひとりが立って入れる程度のスチームバスで済ませるのが当たり前。それも、ひとつの船で共用となる場合がほとんどだ。

 それが当たり前であるが故に、水と空間を贅沢に使う以外にも、パンナコッタの乙女達にはもうひとつ理解不能な事がある。

 つまり何かというと、


『おかしいだろ、他の奴の前で素っ裸になるなんざ』


 という、不信感極まるオペ娘の科白セリフに、全てが集約されていた。


 裸の付き合い、などという文化や習慣は存在しない時代なのだ。全裸になるのは基本的に配偶者や恋人の前だけという、ある意味健全な話。

 さもなくば、特殊なサービス業や権力者のみの道楽、あるいはナチュラルセンス・ヴィジョンNSV(違法)の中だけのフィクションな世界となる。


「ホントにユイリは、その…………アレに、は、ハダカで?」

「この船に来る前は、割と知り合い同士で一緒にお風呂に入っていた……と思うんだけど。どうだったかな?」


 各人の部屋の整理や船の整備を一通り終えた後、キャビンに集まったパンナコッタの乙女達の間で、唯一扱いに困るスペースの話となった。


 少し赤い顔ながら、密かな期待を込めて赤毛娘に確認するエンジニアのエイミー。メガネ型情報機器インフォギアが曇っている。

 その内心は、何て素晴らしい一般風俗なんだ、と猛り狂って鼻血を噴かんばかりだ。


 相変わらず記憶が曖昧な赤毛娘の方は、自身の常識に照らして自信無さげに答えていた。

 自分は過去にどんな相手とお風呂に入っていたのか、それを思い出そうとすると、何やらお尻がくすぐったくなるのだが。


 オペ娘のフィスは、吊り目をジト目に変えて「有り得ねぇ……」と呻いている。

 お前が裸で入っていたのはよく分からん調整槽か何かだっただろうが、という科白セリフが口から出かけたが、そこは堪えた。言って良い事と悪い事が有る。


「……ハイソサエティーズのシークレット・コミュニティーなどではそういうパーティーもあると聞いたが……噂話程度だな」

「マジかよダナ…………。いやでもそんなハイソサエティーズの変態みたいなアブノーマルな真似をあたしらがする事もねーだろうよ…………。どういう船なんだよ実際。金持ちの道楽船かこの船は」

「分からんが……そんな悪趣味な物でもないだろう。思うに、この船が作られた頃はそれが普通だったんじゃないか? 過去の文化や他の星系には、共用バスルームというものが在った、と聞いた事もある」


 とはいえ、公衆浴場という文化が一般にはほぼ存在しない事実に変わりもなく。個人の料理同様、滅んでしまっていた。

 実はパンナコッタⅡの中には、ダイニングの他にキッチンも標準で存在している。

 だがこちらは、唯理が不完全ながら料理文化の復権に乗り出したので、他の乙女達からも有用性を認知されていた。今のところスナック菓子のみの存在意義ではあるが。


                ◇


 本当にワケが分からない船だと、渋い顔のフィスは思う。

 謎仕様の船の性能や内装もそうだが、制御中枢であるメインフレーム内のデータに関してもだ。


 パンナコッタⅡ、このバーゼラルドクラスという宇宙船を手に入れた当初の事。

 キングダム船団に向かう道すがら、赤毛娘の唯理とオペ娘のフィスは、遂に問題の核心に触れようとしていた。

 つまり、記憶喪失気味な赤毛の少女と、その唯理を知っているらしい船との関係についてだ。

 それは取りも直さず、村瀬唯理という少女の正体を知る重要な手掛かりになる、と思われた。


 ところがどっこい、そうは問屋が卸してくれなかったりする。


 遠い昔に建造された船は、その記憶領域に膨大な過去ログを蓄積している。

 それは謎を解く貴重な情報となるはずだったが、一体全体どういうワケが、管制AIがそれらの情報を開示しようとしないのである。

 最高権限Lv.10持ちである、唯理の命令でさえ受け付けない。

 曰く、プライベートデータに関してはクリアランスの例外的に、本人かその直属の管理者でなければ参照できない、とこう言うのだ。

 故に、航海日誌に該当するデータも、過去に船長であった作成者の当人か、船長を任命した唯理の前任者・・・の許可が無ければアクセス出来ないとの事。

 では、『前任者とは?』と唯理は質問したが、そうしたならば管制AIは、しばし沈黙してしまった。


 これはおかしな事だ、とオペレーターのフィスは言う。

 人工知能AIが命令を拒否するのでもなく、またその理由を答えるのでもなく、沈黙するとは。思考アルゴリズムに沿って結果を出力するだけのシステムには有り得ない事である。

 そうして、ややあって管制AIが口を開くと、「唯理Lv.10が知らないはずがない」というワケの分からない答えを返された。


 管制AIに曰く。

 最高権限者Lv.10は唯一『リップルパターン』が該当する資格者・・・故に、艦隊の全権限を持つ。

 ならば、知っていて当然だ、と。


 似たような理由で、管制AIは唯理に関する情報など持っていなかった。

 ただ、『唯理はその資格を持つ』と、それだけである。クリアランス情報も、唯理の『リップルパターン』とやらが認証された後に、新規に生成された物だった。

 つまり、艦隊の『ダーククラウドネットワーク』が唯理を最初に認識したのは、ファルシオンに接触した時点でという事になる。


 では『最高権限者Lv.10の資格とは何か』、と質問をしたら、『それは村瀬唯理のリップルパターンである』という回答をされた。

 堂々巡りだ。

 『リップルパターン』というのも、個人を識別するのに用いる情報だ、という答えしか得られない。それが実際どういうものなのかも、答えが無かった。


 結局、唯理の情報を得るという目論見は外れた。

 しかし、ここまで管制AIと話したフィスは、どうにもこの人工知能AIも普通ではないという感想を持つ。

 抑揚無く必要な事しか話さず融通が利かない。

 つまりそれは人工知能の特徴そのままだったが、システム系エンジニアの端くれとしては、どうにも推測されるアルゴリズムに違和感を感じるのだ。

 何というかまるで、現在では強く開発が規制されている能動的思考型人工知能であるかのような。

 今のところ、確実な確証が有るワケでもない。

 だが、まともな性能ではない来歴もまともではない背景も尋常ではない普通ではない船である。

 この上何が出てきても、おかしくはなかった。


 一方、メインフレーム内の航海日誌やプライベートデータは参照できなかったが、その他一般データベースへのアクセスは可能だった。

 このデータがまた、とんでもない曲者だったりする。

 まず量自体が膨大な上に、フィスのようなこの時代の人間には理解出来ない天然の暗号のような内容が多い。

 かと思えば、銀河における全知的生命体の天敵『メナス』を『上位領域敵性端末体Enemy unit of the over region』と呼称したり、出自不明の文明圏の敵である『ドミネイター』を『ロゴス・アンドロメダ銀河帝国』と呼んだり、どうにも現代には無い常識を持つようだ。

 これらに関しては、少しずつ精査していく他やりようが無かった。

 ちなみに、先の船団を襲ったドミネイター艦隊の情報も、ここから得られたものである。


 船のメインフレームやシステム周りはオペレーターのフィスの担当であり、今後の仕事量を思うとうんざりするのも仕方がない話。

 それに比べればバスルームなんて可愛い物だ。実はヒト一倍恥ずかしがりなオペ娘は、絶対に利用しないと心に誓っていたが。


                  ◇


 謎が謎を呼ぶ船に渋面で考え込むオペ娘だが、他の皆は新たな船を自分色に染めるのを愉しんでいる様子だった。

 この船は仮宿だってみんな覚えてんのか、とこれまたフィスは何とも言えない気持ちになる。

 そんな所に戻って来たのが、船長のマリーンだ。

 皆が寛ぐキャビンを見回すと、その和やかさに普段通りの微笑みを浮かべていた。

 広々として開放的で、壁面は船外の様子や映像を映し出すディスプレイとなってる。

 実際の所、いまさら仮宿とするのが惜しくてしょうがないほど良い船であった。


「おかえりーマリーン姉さん」

「せんちょー!」

「船長お帰りなさい」


 キャビン備え付けのフードディスペンサーを操作すると、船長はホットドリンクを一杯用意する。

 それを持って皆の輪の中に入り、備え付けたばかりのソファーに腰掛けた。

 統一感に欠けたインテリアだが、そこもまたパンナコッタという船らしいと思う。


「整備の方はどう?」

「えーと、新しい武装の方は取り付け終わりました。後はテストするだけです」

「元々あった武装の方は、アレだ……。基本的に全てR.M.Mで出来ているからな……放っておいても勝手に最適化される。船体の方も一通りチェック入れたが、機能に・・・問題は無い」

「調達したサブフレームやら何やらは全部システムに接続したぜー。とりあえず全部使える。問題無し。でも船自体の限界がまだ分からないから、もうちょい様子見になるんじゃねーの?」

「バイオスキャナーとリジェネーターが使えるから、ようやくまともな医務室になったわ。全員この後メディカルチェックよ。特にユイリ、あなた」

「はい了解です…………。エイムの方はエイミーとダナさんが修理を進めてくれてます。動かそうと思えば今すぐに動けますけど」


 そんな個性的な面々、エイミー、ダナ、フィス、ユージン、それに唯理から船長へ報告が上がる。


 高性能ではあるが最低限の機能しか持たなかったパンナコッタⅡは、クルーの乙女たちの手により改修されていた。

 目立つ主兵装の代わりに一般的な武装が搭載され、不足していた整備の機材や生命維持設備が据え付けられている。

 元々船に有った機材に関しては、基本的な船体構造以外は通常の材質であった為、長い時間を経て劣化していた。

 使い勝手も現代の物の方が良かった為に、残念ながら古い機器は廃棄するか、珍しい物は倉庫で保管されている。


 こうして普通の・・・宇宙船としての体裁を整えつつあるパンナコッタⅡだが、その化けの皮の下にはとんでもない怪物が潜む事実に変わりも無かった。


「みんなお疲れ様ね。それでー…………船の事はどこまで分かったかしら?」


 それまでと違い、少し声を押さえて口を開くマリーン船長。

 パンナコッタⅡ=バーゼラルドを手に入れてから船の全容把握に努めて来た一同だが、知れば知るほどその異常性が浮き彫りになっていた。

 

「さっきも言ったが……この船は基本フレーム構造と外殻、ジェネレーター、ブースターエンジン、環境システム、主要演算フレーム、あと元々付いていた武装……とにかくその辺のアーキテクチャが全て『R.M.M』製だ。

 無論それだけじゃなく、R.M.Mの制御オーガナイザーにも繋がっている。だからこそ自己修復なんて冗談のような機能が備わっているワケだ。

 全く、どれだけの価値があるのか見当も付かない」


 腕を組み、酷く深刻そうに言うメカニックの姉御。

 元素の構造、素材特性を自在に変えられる高性能マテリアル『R.M.M』は、当然の如く非常に高価な素材でもある。

 通常それは、R.M.Mでなければ作れない代替え不可能な部材に用いられ、間違っても船を丸ごと作る材料などにされる事はなかった。

 メカニックのダナ姉さんは、一箇所ずつ船の構造材を調べながら、もうここで終わってくれ、と祈るような思いだったという。

 残念な事に、船の主要部分は丸々R.M.M製だという結論に至ったが。


「恐らくこの船は、連邦の旗艦並の値が付くだろうな…………。いや、それ以上か?」

「少なくともジェネレーター出力は連邦中央の主力戦艦『ゼネラルサービス』タイプより上だよ」


 恐ろしく金のかかった船だとメカニックのダナはうめくが、それをエンジニアのメガネっ娘が補足する。

 同じ技術系として、エイミーも船内の装備を慎重に調べていた。

 その結果はエンジニアとして信じ難い物だったが、何度も測り直した数値に、疑いの余地も無かった。


「完全に規格から外れたジェネレーターだったけど、数値上の出力は『シータ』から『イオタ』に該当。ただ時間当たりの出力量が80万を超えてる…………」

「……桁おかしくないか? え? だって他のジェネレーターが秒あたり3,000とか4,000で安定とか前言ってなかったっけ?」

「だってセンサーで計ったらそうなってるんだもん…………」


 齢17前後と若いが、エイミーはエンジニアとしての自分に恥じない働きを心がけている。実際、能力は高い。

 だからこそ自分の仕事に自信を持つが、それにしてもジェネレーターの計測数値はデタラメもいいところだった。


 通常、『シータ』から『イオタ』の規格と言えば、大出力の砲艦か大型戦艦に搭載するジェネレーターだ。そんな物をクルーザークラスに載せるだけでもおかしいのに、80万/sなんていう出力量アウトプットを出すくらいなら、更に上の『ラムダ』規格の出力パワーにして、出力量アウトプットは押さえ目にした方が良い。常識で考えれば圧力高すぎでジェネレーターが吹っ飛ぶ。

 『ラムダ』規格のジェネレーターなど、もはやコロニーやプラットホームに設置するレベルの動力になってしまうが。

 しかも、そんな動力源がバーゼラルドには3基も積まれていた。やたら小型のジェネレーターだったので、積めてしまうのだ。

 おまけに、秒間80万というアウトプットは、安定動作域に限った話だ。最大出力はもっと上であるという。


 専門外のオペ娘でさえ、その辺の相場というものは知っている。

 故に『何だその頭悪い数値は』というツッコミが自然に出たが、専門家エイミーとしても返す言葉が無かった。


「コンデンサもビックリするほどコンパクトなのに、当たり前みたいにジェネレーターのバッファに対応したファジーコンタクト仕様…………。もうどうなってるんだろ?

 おかげで追加した装備の容量も、全然問題なさそうだけど」

「フィスちゃんの方は? アレから何か分かった?」

「ん? んー…………まー分かったような分からんような?」


 本格的に考え込んでしまったエイミーから、マリーン船長はシステムオペレーターの方へ話を振る。

 実のところ、オペ娘の方もメガネっ娘エンジニアの事を言えない。

 主にシステムの操作系を再構築していたフィスだが、ここでも謎の船の謎の仕様が顔を覗かせていた。


「ネザーインターフェイスの帯域幅と応答速度の限界が見えないもんで調べたら、ライン形成しているのが既存のナーブルとかじゃなくて全然別もんだった。

 何か知らんけど、インターフェイスとメインフレームを繋ぐラインが船のエネルギーバスとそっくり似てるんだわ、これが。

 別にそんな大出力通すようなもんじゃないのに、どうしてそんな無駄な作りしているんだかワケ分かんねー」


 船に限らず、あらゆるシステムを脳と意識から直接操作するのを可能とするインターフェイス、『ネザーズ』。

 そのシステムにおける命令伝達経路としては、いわゆる電線や光ファイバー回線に相当する導線ラインが当然の如く存在していた。

 通常、その役割は『ナーブル』と呼ばれるヒトの物より遥かに高速で大量の情報をやり取りできる人工神経束とでも言うべき部材が担当する。

 ところが、この常識を無視した船は、そんな当たり前の作りをしていなかったのだ。


 バーゼラルドパンナコッタⅡの情報伝達ラインは、ジェネレーターや各種兵装、重力制御システムなどを繋ぐ船のメインパワーバス同様の物が使われていた。

 それもただのパワーバスラインではない。これまた戦艦以上の大出力に耐える代物だ。

 理論上、パワーバスのラインもナーブル同様の機能は持つ。単に耐え得る出力の違いだけと言えるだろう。

 だがそれは、両側2車線で要を成す道路を片側2,000車線も用意するようなものだ。オペ娘が無駄だと思うのも当然。しかもこのメインパワーバス、船体の基本構造に埋め込まれている。

 設計した技術者が余程の阿呆なのか、それとも何かしら意味があるのか。

 優秀なパンナコッタの技術陣を以ってしても、さっぱり分からなかった。


「つまりー……ジェネレーターもネザーズもわたし達の規格と全然合わない、フルR.M.Mの船?」


 可愛らしく小首を傾げる船長のお姉さんであるが、そんな仕草に対して話の結論は非常にとんでもない。

 冗談と出鱈目を総動員した様な宇宙船である。

 現状、そんな船で生活せざるを得ないのだが。


 一方で、技術陣の結論としては、性能こそ滅茶苦茶だが普通に使う分には問題ない船である、との事だ。

 ここまで運用し、テストも重ねた結果、突然暴走したり爆発したりという可能性は非常に低い。

 一部未知の技術から成るレーザー砲や独自のネットワークシステムはあるが、はじめからそう・・と設計された船であるのは明確であり、マリーン船長が言うほど現在の規格的にもかけ離れてもいない。スペックは壊れてるが。

 事実、手順を踏めば改造も不可能ではなく、実際に武装や船内システムの増設も成功していた。


「なるほど……よく分かったわ。この際ありがたいかもしれないわね、船団も安全ではなさそうだし。落ち着いた頃に乗り換えられれば最良なんだけど」


 マリーン船長が船団長の白髪と話をしたところ、遺憾な事にパンナコッタへかける期待も大きそうだ。そうなると思ったから船の能力を見せたくなかったのに。

 とはいえ、こうなった以上は目立たない程度に船の性能を発揮し、パンナコッタとキングダム船団を守っていく他なさそうだった。

 嫌な綱渡りである。


「段階的に出力と推力にリミッタをかけましょうか。普通のジェネレーターをサブに増設して、もしトラブルが起こったらメインを落とすとか」

「ネザーズもそうすっか……。ナーブルをサブパスに接続しておいて、コントロールを並列2系統にしておく。デフォルトでもう3系統あるけど」

「船体の方はどうしようもないがな。せいぜい他所のヤツに知られないようにするしかない。武装に関しても小細工が必要だろう。普通のレーザーを付けたと言っても、出力任せに撃ちまくっていたら怪しまれるぞ」


 とりあえずの対策を講じる技術系乙女三人に、船の事は任せていいだろうと船長は思う。

 後は、何事も無い航海となるのを祈るばかりだった。

 クルーに告げられる次の目的地は、銀河外周部のペルシス・ラインにあって、サージェンタラス・ライン、スキュータム・ライン、ノーマ・ライン、これら平行した流れを貫くスポーク上の星域ポイント


 そこにある共和国圏の惑星国家、ターミナス恒星系グループ本星の、『テールターミナス』である。


 船長会議での話し合い如何となるが、その星でダメージを受けた船団の大規模補修を行う事になると思われた。


「それじゃ、難しいお話はこれくらいにしておいて。快適な船になりそうかしら? 生命維持系も大分余裕がありそうだものね?」

「今回は浄化システムを無理やり増設しなくていいし、T.F.Mからも直接供給出来るしね」

「おっきなバスルームがあるんだよーせんちょー!」

「みんなで一緒にハダカで入るんだってー! やーんエッチー!!」

「あらステキ、それじゃみんなで入ってみましょうか」

「ハァッッ!!?」


 船長が話題を住環境の事に変えると、場の空気が一転して明るく軽くなった。ほんわかしたマリーンのキャラクターに負うところも大きいだろう。

 物騒かつ難解な船ではあるが、さりとて新しい船での暮らしが全く楽しみでないかと言えば、さに非ず。ハイスペックな船ならば、尚更。

 そこで、水回りや件の大浴場の件が上げられるのだが、想定外な事に船長のお姉さんはこれの使用に意欲的だった。

 目を剥くオペ娘だが、気付いた時には船長と小悪魔系の双子に掴まり、逃走不能に。

 寄ってたかって服やら環境EVRスーツやらを剥ぎ取られ、悲鳴を上げるフィスの姿に唯理は懐かしいものを感じていた。

 他人事とは思えない。


 実は唯理もお風呂は得意でないのだが、他の者がパニックに陥ると、自分は冷静になれるものである。

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