21G.パンドラ ディザスター



 星系艦隊の戦闘艦『ミスティカ』250メートルクラスは、辛うじて自力で生き残りの艦隊と合流した。

 重力制御だけでノロノロ移動し、散発的なメナスの攻撃でシールドが減衰、回復、減衰、回復する中、半分になった艦体でどうにか生存。

 元々行動を共にしていた小艦隊は全滅した。

 辿り着いた本艦隊も、既に旗艦と指揮命令系統が機能していないという混乱ぶり。

 今は寄り集まった戦闘艦の集団が、四方八方にレーザーを撃ちまくりメナスから身を守っていた。

 それも、後何分持つかという状況であるのに変わりもない。


『ラーニア三尉! そちらの相対270度、マイナス33度に救難艇がいます! エスコートしてください!!』

『チャリエント02了解! ジーマ! イコロス! 援護しろよ!!』

『急げ急げ急げ! 嬲り殺しだぞ!!』


 すっかり装甲の煤けたヒト型機動兵器、『ターミナルフェン』を駆るラーニア三尉は、同型の僚機を率い救難艇の救出へ向かう。

 隙間500メートルも無いほど密集した戦闘艦、その数8,300隻。

 光線と光弾が交差し、爆発した艦のデブリが無数に漂う地獄のような空間を、ターミナルフェン3機は真っ直ぐ降下していく。


『このままじゃ全滅だ! なんで艦は逃げないんだ!?』

『中央のクソどもが! 連邦なんざ滅んじまえ!!』

『応援は来ないのか!?』


 宙域には絶望に塗れた通信が飛び交っていた。

 残存艦体は、10万以上の母船型メナスに囲まれている。小型メナスは、その10倍以上だ。

 星系の防衛艦隊は、もはやその体を成していない。逃げる場所も無く、もはや全滅を待つだけだ。

 その次は、星系全体がメナスに覆い尽くされる事となるだろう。

 そうしてまた、星系の存在と起こった事実そのモノが、連邦によって隠蔽されるというワケだ。


『進行右30度方向からメナス5機! 突破するぞ!!』


 爆発する戦闘艦の陰から、楔形の敵影が飛び出して来る。

 すぐさまレーザーとレールガンで応戦するエイム3機だが、うち1機にメナスの荷電粒子弾が集中し、シールドを撃ち抜かれた。


『ジーマ!?』

『うわぁああああ! クソッ! クソッ!!』 


 腕部マニピュレーターと脚部を吹き飛ばされたが、辛うじて致命傷を避けるターミナルフェン。

 しかし、戦闘継続はどう見ても不可能だった。

 至近距離を高速で擦り抜けていくメナスは、勢いを殺さず大きく旋回して戻ってくる。

 その間にも、母船型のメナスから攻撃を受け、真っ二つになる300メートル級のフリゲート。

 これでまた、数百人が宇宙の暗闇に消えたのだろう。


 損傷した味方機を庇い、メナスに応戦しながらラーニア三尉は思う。

 戦闘艦が落ちる度に1,000人に近い人数が死に、惑星も失われようとしている今、救難艇の数人を助けたところでどうなるというのか。

 自分も、まず助かるまい。

 胸に去来するのは、惑星にいるであろう家族や恋人の事、死の恐怖、敵や味方であった・・・者へ対する憤り。

 だが、一軍人一エイム乗りに過ぎないラーニア三尉に出来る事はなく、全てを忘れるように戦闘に没頭し、


『ジーマ、イコロス散開! わしてケツから叩くぞ!!』

『クソッ! ブースターが……!?』

『ダメだラーニア! うぉああああ!!』


 自分達に猛攻をかけてきたメナスの集団が、無数のレーザーに薙ぎ払われるのを目の当たりにした。


 全天に広がる青い光。

 エイムのセンサーが自動で光量を補正すると、次に広がっていたのは信じ難い光景だ。

 それは、艦隊規模のレーザー砲による総攻撃だった。

 宇宙を貫く無数の光がメナスを撃ち抜き、一度に数百という数を消し飛ばす。

 母船タイプのメナスが持つ強固なシールドも、油で出来た気泡のように易々とブチ抜かれていた。


『何だ今の!? 応援か!!?』

『青いレーザー砲なんて見た事ないぞ!』

『中央の連中が戻ってきたのか!?』

『レーダーには艦隊なんて映ってないぞ!? どこからの攻撃だ!?』

『あ……!? ち、宙域基準点より113度、マイナス5度に大型の艦影! 惑星の稜線上!!』

『さっき飛んできた船だ! IFFに応答しないヤツ!!』


 メナスを殲滅する凄まじい火力。

 明らかに艦隊戦力の規模だが、それがどこからの攻撃か、星系艦隊の人間は少しの間分からなかった。

 しかしレーダーを見ると、艦隊の代わりにやたら大きな艦影が一隻のみ、戦闘宙域に接近して来るのが分かる。

 レーザーによる掃射も、起点はその船だった。


『こちら「ファルシオン」より救援要請を送って来た連邦艦隊へ。今からそちらの救援活動に入る。自走できる救難艇は本艦両舷から格納庫に入ってくれ。自走不可能な救難艇はエイムで曳航する』


 強力な助けが来たと通信で聞き、湧き上がる艦隊の兵士達。

 ところが、段々と輪郭を明らかにする戦艦を見て、通信の声に動揺と驚愕が混じる。


 全長3キロにも及ぶ、連邦の艦とは異なる多面的な形状の艦体。

 装甲と一体化したアレイから放たれるのは、屈折する未知のレーザー兵器。

 メナスの総攻撃に小揺るぎもしない、大型の外付けブレードから発生する強力な防御シールド。

 静かに重力推進の光を放つ、艦尾の大型ブースターノズル。

 大きいだけの輸送艦や推進力の付いたプラットホームなどではない。

 明らかに高度な戦闘能力を設計段階からデザインされた、規格違いの超高性能戦艦だった。


『どこのどいつだか知らんが運が向いてきたぞ!』

『ここまで来て死んでたまるか! 行け行け!!』


 母艦を失い損傷したエイム、孤立した救難艇が次々と巨大戦艦へ向かう。

 推進力を無くした救難艇やエイムは、巨大戦艦から飛んできた灰色と青のエイムが直接艦内へ運び込んだ。新装備のワイヤーアンカーが早速役に立っていた。

 だが、収容の間はシールドを切らなければならない。近づく救難艇まで弾き飛ばしてしまう。

 巨大戦艦は桁違いの大火力でメナスを近づけさせないが、荷電粒子弾はどうしても飛んで来る。

 ここで、救助されている友軍を守る為にも、戦闘継続可能な星系軍の戦艦が力を振り絞った。


『ファルシオンを中心に艦列を立て直せ! 防御陣形!』

『残存するエイムは小隊を臨時編成し友軍の避退を援護せよ!』

『救難艇には最優先で進路を開けろ! 艦の配置は本艦が担当する!』

『「コルビヌスメーカー」よりファルシオン管制へ、戦術データリンクを要請!』


 巨大戦艦と周囲の艦が、連携を取りメナスの迎撃を開始。青いレーザーが戦闘艦の間を縫って屈折する。

 戦闘艦による攻撃が絶大な効果を上げ、味方が無事に収容されはじめると、艦隊とエイム部隊の士気も上がった。


 そして、巨大戦艦『ファルシオン』(仮)の艦橋ブリッジはというと、


『フィスちゃん、フリゲートの「グリージア」がデータリンクを要請してる!』

『へーいへいへいへいちょっと待てちょっと待て! 今別の割り当て設定してる! IFF設定から位置情報取得して向こうとイルミネーターを連動!!』

『了解、射撃指揮装置にデータ連動します。主口径レーザー砲3番、斉射限界。冷却開始』

『そっちの攻撃は連邦の艦に割り当てろ! 副砲30番から40番でシエラ群を攻撃! レーザーが150門とかどうなってるんだこの船は!?』

『外壁側23区、43区のエネルギーはカットして! 19区は隔離してダメージコントロールは保留!』


 パンナコッタの皆が、必死になって戦艦の操作をしていた。

 何せ貨物船とはサイズが60倍も違う上に、何もかもが大規模過ぎて手に負えない。

 マリーン船長は無数に入ってくる通信を捌く為、久々に前職の本気モード。

 鬼のように高度なシステムを管理するフィスは、是非もなくプライドを捨てて管制AIを利用する。

 元特殊戦のダナは、経験が生きてるんだか生きてないんだか分からない兵装操作でメナスを攻撃。

 エイミーは艦内のエネルギーとシステムを管理していた。

 船医のユージンは、格納庫内を怪我人の治療の為に飛び回っている。やる気がなさそうだが医者としては真面目だ。リリスとリリアは手伝いに専念していた。

 唯理は貧血やら内出血でゼーゼー言いながら、エイムに乗り戦場を飛び回っている。マリーン船長に釘を刺されるまでもなく、流石に戦闘はもう無理だった。


                       ◇


 操艦に七転八倒したが、巨大戦艦ファルシオン(仮)は最終的に十万人に近い要救助者を艦内に収容できた。

 とはいえ、いくら大きな戦艦でもその辺りが収容人数の限界であり、全体数からすると微々たるものだったが。


 巨大戦艦が真価を発揮したのは、やはり攻撃面である。

 本来の半分ほどしか性能を発揮できないとはいえ、大小合わせ計170門というバカげた数のレーザー砲。先進三大国の主力戦艦だって、この10分の1だろう。

 しかも、威力も性質も普通ではない。

 重力レンズによる屈折効果は、タレットとは比べものにならない速度でレーザーに攻撃角度を変えさせる。

 その一撃は、『副口径』とされる1メートル径のレーザーでさえ、母船タイプのメナスをブチ抜いて見せた。

 対電子戦機能ECM対対電子戦機能ECCMの性能も恐ろしく高い。

 狙われたメナスは逃げる事も抗う事も許されず、文字通り光の速度で粉砕されてしまった。


 にもかかわらず、十万体以上の母船型メナスは、全く攻勢を緩めない。

 ファルシオン(仮)と星系艦隊の残存戦力、約一万隻は、これに対して全力で応戦する。


『目標群リマ22、フリゲート「コルビヌスメーカー」へ攻撃開始。目標アルファ09、接近中。警告、艦尾右舷145区に被弾。気密警報。隔壁を自動閉鎖します』

『リマ22群を副砲80番から90番で手の空いているのに攻撃させろ! シエラ5への攻撃はどうなった!?』

『副口径レーザー砲、目標群リマ22、斉射開始。主口径レーザー砲12番、目標シエラ05、砲撃開始』

『隔壁付近のヒト達は内側に避難させて! ジェネレーターは!?』

『ECCMアルゴリズム変更しろ! 対応されてんぞ!!』

『145区に避難警報。ジェネレーター出力65%、48%、40%、40%、40%。ECCM変調パターン変更。副口径レーザー砲、1番から25番、冷却終了、攻撃スタンバイ』


 火器管制に砲手が就いた事で、管制AI任せにするより細かく無駄のない適当な火力での攻撃が可能となった。

 壁のように迫るメナスの群れを、170の青い光線がゴッソリと抉り取っていく。

 甲虫のようなメナス艦の装甲が、レーザーに切り裂かれて赤い断面を晒していた。

 強力な荷電粒子砲の一撃も、巨大戦艦のシールドを貫く事は出来ない。

 15万体のメナス艦は次々と落され、小型のメナスも薙ぎ払われる。

 人類を圧倒する力を持つ、『メナス』と呼ばれる存在。

 逆にそれを駆逐する興奮に、星系艦隊も狂ったような勢いで攻撃を続けた。


                  ◇


 そして14時間後。

 既に惑星レインエアへ下りてしまった少数を除き、宙域に押し寄せていたメナス群は残らず殲滅された。

 レーザーの光は止み、元は恐ろしい敵だった無数の漂流物デブリが惑星の軌道上を漂っている。

 最終的に生存した星系艦隊の戦闘艦は、散っていた小艦隊を併せて約1万5,000。

 幸運にもメナスに襲われなかった艦以外は大破か中破しているという、甚大な被害状況となっていた。

 だが、『ファルシオン』を名乗る巨大戦艦に助けられなければ、恐らくは全滅していただろう。

 星系艦隊は改めて、損傷した艦を応急修理し、生存者や死者を回収し、態勢の立て直しを急いでいた。


 巨大戦艦ファルシオン(仮)の中は、未だに戦場だ。

 何せロクに生命維持システムも働いていない艦内に、10万人近い負傷者や要救助者が放り込まれているのだ。

 気密はしっかりしていたので、酸素に関しては艦内のT・F・Mに救難艇の残骸を突っ込み精製できた。

 治療の方は、一緒に脱出して来た艦の軍医にセルフでお任せしている。


 艦橋ブリッジの皆はグッタリしていた。

 14時間ほぼぶっ続けで働いていたのだから、死にそうにもなる。

 管制AIだけは、艦の自動修復や兵装の戦闘待機をマイペースに継続していた。

 メナスの後続に対する警戒もしているが、導波干渉儀を含むアトモスフィア・レーダーシステムに、それらしいコンタクトは無い。


『艦内、気体充填80%。呼吸可能状態です。艦体機能復元中。ジェネレーター6番再起動。周囲50億キロに敵影無し。臨戦態勢を解除し艦橋構造体アイランドを通常位置へリフトアップしますか?』

『んあ……? ああ、今ここ頭引っ込めてんのか。マリーンねえさーん?』

『……上げてちょうだい』


 戦闘も一段落し、後回しにされてきた艦内環境の維持機能も回復しつつあった。

 船外活動EVAスーツのバイザーを上げると、精製される気体に混じり微かなオゾン臭がする。

 戦闘艦の中には、戦闘状態に入ると艦橋構造体アイランドを保護する為に、艦内に収納するタイプの物があった。連邦の艦には特に多く、逆に皇国の艦にはほとんど無い。

 目の下にクマを作ったオペレーターが指示すると、艦橋ブリッジに微かな振動が走る。

 その後は、特に連続した振動も機械音も無く、滑らかに艦橋構造体アイランドが戦艦の上部に出た。

 舷窓を守るシャッターも上がり、外の景色を直接見る事が出来る。

 合成映像と大差なかったが、それでも実際に見るのとは、また違った。


「あ……!? ユイリはどこ!? どうなったの!!?」


 コンソールの前でぐったりしていたエイミーは、忙しさのあまり失念していた少女の事を思い出して飛び起きた。

 艦内にいたパンナコッタの面々と違い、唯理だけはエイムで外にいたはずだ。

 まさか撃墜されたのでは、と青くなるエイミーだが、


「さっき通信で、誰か外に残ってやしないか見てくるとか言ってたから、さっさと戻って来いって言っといた。でもあいつ、微妙に言う事聞かなそうなんだよなー……」


 嫌な予感を覚えるフィスも、改めて赤毛の鉄砲弾の位置をレーダー上で確認。

 そういえば少し前から識別信号が見えなかった気がする。

 だが確認する前に、問題の赤毛の少女は艦橋ブリッジに戻ってきた。


『マスター・コマンダーが艦橋ブリッジに入ります』

「戻りましたー。お疲れ様です」

「ユイリー!」

「お帰りなさい。お疲れ様」


 船長が労ってくれる一方で、何故かお怒り気味のエンジニア嬢。

 自分は何かしでかしたのだろうか、と唯理が怯える。実際物凄い事に巻き込んでいたので、心当たりは十分だったが。


 戦闘が終わってしばらくしてから戻ったのは、艦内の様子を見てきた為だ。

 格納庫はガラクタのような救難艇やヒト型機動兵器が密集し、通路や何かの部屋は例外なく野戦病院のようになっていた。

 四肢のどこかを失う者、出血に青い顔をしている者、もはや返事をしない者、ただ呆然としている者。

 一方で、戦友を力付け、励ましている者もいる。

 時代が変わり、戦場が変っても、武人の姿はいつも変らないな、と唯理は思った。


 そんな事を偉そうに思う自分は一体何なんだ、という疑問も出てくるが。

 いいかげん普通の高校生であったかどうか怪しい我が身である。


「このバカでかい船が病院船かよ…………。つーかこの船マジで何なんだ? 15万のメナスを逆に皆殺しなんて聞いた事ないぜ」

「……これだけの規模の襲撃をどうにか出来たら、どこの政府も大々的に政治宣伝に使うでしょうね」


 何万もの負傷者や要救助者を収容して、艦内環境を生命維持できる循環能力も凄まじいが、戦闘能力の方はどんな最新鋭艦の追随も許さない。

 実質的な15万対1、小型メナスを加えれば数百万対1という戦力差をひっくり返す、巨大戦艦。

 宇宙のどこを探したって、こんな船は存在しないだろうと情報通のオペ娘は言う。

 当然、先進三大国もその他の星系国家もイリーガルな組織も、この船の存在を知れば手に入れようと躍起になるのは目に見えていた。

 マリーン船長が危惧するのはそこだ。


「ユイリちゃんは、この船の事は何か覚えている?」

「いえ全く」


 ブンブンと首を振る赤毛娘。そこの所は確信できる。

 しかし、戦艦の管制AIが唯理にLv.10の最上位権限マスターコマンドを認めているのは事実だ。

 そして、マリーン船長には、その事に心当たりがある。

 言うべきか否か、それよりこれからどうするか。

 流石に手に余る事態であり、船長も迷っていた。


「……は? インターコム? マリーン姉さん、収容した中にいた連邦艦隊の何とかって一佐が責任者と話したいって」


 そんな所に入って来る艦内通信インターコム

 相手は、救助した中にいたクレッシェン星系艦隊旗艦の艦長、ガルーディー一佐を名乗っていた。

 戦闘中は軍艦の常として艦橋ブリッジ周辺も通信も封鎖されていたので、今になってようやく連絡が付いたというワケである。


 さあ面倒な事になった。

 戦闘団の長が、救助された戦艦の責任者と面会を求めるのは当然の流れではある。

 だが、何か説明を求められたとして、一体何が説明できると言うのか。

 メナスに襲われて逃げて追い詰められて巨大戦艦が飛んで来て逃げ込んで生きる為に応戦しただけだ。

 実際にこの戦艦が何なのか、というのはまるで分かっていない。

 さりとて、無視も出来なかった。

 何故なら、この場において誰が責任者かといえば、それは間違いなく船長のマリーンなのだから。


「フィスちゃん、その一佐はどちらに?」

「えーと……艦内トラムのプラットホーム、ブリッジ前。ここのすぐ下。エレベーターが生きてるから直接降りられるけど……」

「それじゃ、ご挨拶と参りましょうか。ダナちゃん、付いて来てもらえる?」

「…………ああ」


 元特殊戦部隊の姐御に護衛を頼み、艦橋ブリッジを出るマリーン船長。穏やかな笑みを浮かべているが、妙に迫力がある。

 唯理も同行を申し出たが、船長からは艦橋ブリッジに留まるよう念押しされてしまった。

 恐らく、良くない状況になるのを想定しているのだと、唯理やフィス、エイミーも察する。

 ならば、護衛ひとり連れて行ったところでどうにもならない事も、船長は分かっているのだろう。


「…………フィスさん、エイミー」

「……前から言おうと思ったけど、オレに『さん』付けはいらねー」

「なに、ユイリ?」


 やや考えて、目の据わった唯理と元から釣り目のフィス、それにメガネに光を反射させたエイミーは、万が一に備えて準備を開始。

 残念な事に、その準備は役に立ってしまう。


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