16G.シヴィライゼーション オブ リバーズ
惑星レインエアの首都、『バルキスト』。
そこは一辺が57キロメートルもある、巨大な六角形のクレーターに築かれた摩天楼だ。
中心に行くほど地面が低くなっており、また中央ほど高い建造物が集中している。
六角形のひとつの縁には、また別の六角形の都市部が隣接していた。
ほんわかお姉さん船長のマリーンに訊くと、その都市構造は
気象、大気状態、原生生物、微生物。そういった諸々から、都市と住民を守る為に必要だったという事だろう。
都市を広げようと思ったら、先に作られている区画に接触する形で広げていくと、こういうワケだ。
赤毛の少女、
衛星軌道上から地表へ降りてくる時にも驚かされたが、都市部のど真ん中に立つと、流石に唯理も圧倒される。
地球のどこにも見られなかった、超巨大な高層ビル群。
幾何学的に整理された都市の区画。
長大で上下に入り組んだ空中道路。
かと思えば、植物が多く配置された地上。
それに、クルマが浮いているのには感動した。
唯理個人としてはともかく、人類が大昔から夢見て21世紀では実現していなかった空飛ぶクルマを見るのは、何やら感慨深い物があった。実際には30センチほど路面から浮いているだけだが。
「どお? チキュウとは結構違う?」
初めて惑星に降りた地球の少女は、いったいどんな感想を持っているのか。
唯理の隣に座るエンジニアのエイミーが興味深げに訊いてくる。
「それは……多分。最大の都市でもここまでじゃなかった、気がする」
「連邦圏の星としては、まぁ大きい方だな。サージェンタラス・ライン内側だからメナスとかドミネイターの被害も少ない。中央本星と直通のワープゲートも近くにあるから安全と
「実際には違うんですか?」
「ドミネイターは知らんけど、メナスが銀河の外から来てるってのはいまいち根拠が無いし、どの国もメナス対応には熱心じゃないからなー。まぁこの辺の星系でメナスをあんまり見ないってのは事実だけどな」
技術水準的に地球の都市とは比べ物にならないのも当然だが、オペレーターのフィス曰く、この星も特別発展しているという事でもないという。
高性能な宇宙船、高度なテクノロジーに続いて、これも未来では当たり前に見られる光景という事なのだろう。
パンナコッタの面々は、現在レンタルしたクルマ――――――ワゴンのようだがやはり浮いている――――――に乗って都市内を移動中だった。
運転は無口で小さな少女のスノー。治安が良いので、メカニックのダナは船で留守番である。出不精な双子も同様。
その車中、エイミーやフィスから解説を聞く唯理だが、やはりまだまだ知らない事が多いと実感していた。
この銀河は渦を巻いた構造をしており、中心から外に向かって複数の流れがあった。
大きな流れは、『スキュータム・ライン』、『ペルシス・ライン』、『サージェンタラス・ライン』、『ノーマ・ライン』、『オライオン・ライン』、などがある。その他、小さなラインも複数存在している。
クレッシェン恒星系は、サージェンタラス・ラインの銀河中心寄り半分の場所に位置していた。
つまり、銀河の外から来る脅威に対しては、比較的距離があるという事だ。
とはいえ、宇宙は限りなく広く、防衛の為の宇宙艦艇は数が限られている。
連邦、共和国、皇国に代表される各惑星国家は、加盟する惑星と周辺宙域を支配するのが精一杯というのが実情だ。
その為、連邦宙域、共和国宙域、皇国宙域、などと言っても、その大半が纏まらず、全銀河の中でバラバラに点在する。
ある星系の隣がもう別の勢力、というのは当然よくある話であり、単純な範囲だけ見れば、そのほとんどがエクストラ・テリトリーだった。
先進三大国が最も規模の大きい軍事力を持っているのも事実だが。
そんな三大国の勢力図が固まったのは、ここ200年から300年の事。
それ以前は例によって飽きる事無く理由を見つけては争っていた人類だが、共通の敵に対して団結するのも、例によって例の如くだった。
『ドミネイター』。
メナスと同様、人類の脅威である。
ただしこのドミネイター、500年前までは強大な一大勢力だったが、連邦の前身である『連合』と当時から存在する皇国が銀河系の人類を纏め上げた事で、返り討ちに遭い壊滅状態となっている。
以降、ドミネイターが集団として動きを見せたという報告は無い。
時折メナスの目撃報告に混じってそれらしい宇宙船や機動兵器が確認されているが、三大国も他の惑星国家も、これといった対策を見せていなかった。
その原因も、メナスの存在にある。
かつては銀河の謎として、目撃すれば大発見とさえ言われた、機械とも生物とも判然としない正体不明の存在、メナス。
ところが、そのメナスはここ15年から20年の間に激増。
三大国は隠蔽しているが、既に複数の星系国家がメナスの大群に飲まれている。
メナスは特に文明の発達した場所を狙い、圧倒的な数で雪崩れ込むと、あらゆる物を破壊していくのだ。
無論、生命体も例外ではない。
三大国は加盟国をメナスから守ると確約しているが、実際の政策では本星など特定の惑星にばかり戦力が割り振られ、加盟国の防衛が蔑ろにされているという現実がある。
しかし、それを理由にした独立の動きなど、連邦も共和国も皇国も絶対に許しはしない。
そんな事になれば、すぐさま治安維持などを名目にした艦隊を差し向けていた。
恐るべき外敵から目を逸らし、体制維持と弾圧の為に人々へ向けられる砲火。
そして、いざメナスの大群が現れても、軍と政府の動きは鈍く、積極的に対応しようとしない。
結果、更に加盟国で不満が高まり、三大国から離脱の動きが出ると。
「そういえば、パンナコッタはどこかに本拠地とかあるんですか?」
以上のような背景を聞いた後、唯理はフとした疑問を抱く。
船に来て一週間と少しだが、パンナコッタや船員の皆がどこかに「帰る」とかいう話を聞いた覚えが無い。
三大国か独立した星系国家か、どこかに所属するのかと思ったが。
しかし、これを問われたパンナコッタの面々は、ニコニコしていたり車外の景色を見たり言葉に迷ったりと、様々な反応を見せていた。
「わたし達『ノマド』は、連邦や皇国のヒトに言わせれば宇宙の放浪者って事になっているわね。間違ってはいないんだけど」
「ついでに海賊とか強盗と同じ扱いをされる事もあるな。フォーサーどもより100倍マシだっつーの」
にこやか船長とやさぐれオペ娘が言うには、パンナコッタは国には所属しない船であるとの事だった。
何故ならば、船長のマリーンも他の誰も、いかなる惑星国家にも国籍を持っていないからだ。
そうした人種は、この宇宙には一定数いるらしい。
通称『ノマド』。
様々な理由で国を捨て、国を追われ、どこかに定住する事なく宇宙を旅する人々がこのように呼ばれている。
ノマドという名で括られはしても、それは特に定められた集団というワケでもないし、厳密に定義されてもいない。
国に属さず宇宙で暮していれば、それだけでノマド的な生き方という事になっている。
その一方で、メナス、ドミネイター、海賊、それに権力と、様々な危険が存在する宇宙を旅する者達は、時に集団となり自然と互いに助け合った。
それが、『船団』。
もしくはノマド船団と呼ばれている、宇宙船の群れだ。
これもまた、明確な組織などではない。
ノマド船団は自然と生まれ、宇宙船は自由に合流し、また自由に去っていく。
その船団の気風も様々あり、水と空気の合う者同士の集団となるのも、また必然だった。
重力制御、生命維持設備、資源に対して圧倒的な自由を与えてくれるT・F・M。
なるほどそれらの技術があれば、ヒトは宇宙でも生きていけるのだろう。
だが、国家に属さないという選択肢が生まれた事は、国家側からすればさぞ気に入らないだろうなぁ、と唯理は思った。社会的な保障や生活環境で、国民を縛り付ける効果が小さくなるからだ。
とはいえ、それは国家の庇護を受けられないという意味でもあり、時として敵対する事にもなりかねない。
ノマドが徒党を組んで自己防衛するというのも、分かる話である。
「わたし達も少し前まで『キングダム』船団にいたんだけどね、ワープアウトした時に狙ったようにデブリ流が来ちゃって大騒ぎになったの」
「シールドは瞬間的な衝撃には強いけど、継続的な圧力にはなぁ……。よっぽど大容量のコンデンサか専用のジェネレーターが無いと。ウチの船はその辺かなり気を使ってるし、他所の船よりはマシだったんだろうけど」
しかし、今のパンナコッタは前にいた船団を離れ、単独で旅をしていた。
エンジニアとオペ娘が言うには、事前に
小規模と言っても、秒速8,000メートル近いレールガンのような速度で岩の塊が無数に飛んで来るのだ。
250隻ばかりで構成されていたキングダム船団は、大混乱に。
バラバラに避退行動を取る中で、運悪く大きな損害を被ったパンナコッタは応急修理の後にクーリオ星系に辿り着き、あの騒ぎである。
それで唯理が拾われたのだから、だだっ広い宇宙とはいえ、どんな出会いがあるか分からなかった。
◇
移動の車中で現代と銀河の座学をしながら、一行は空中道路から商業ビルのひとつに入る。
商業ビルと言っても、地球一番の高層ビルを平気で超えて来る物件だが。
しかも、他の高層ビルに埋もれている。
更に、同じ目線の高さでクルマが走っているのだ。
地球にいたころはそれなりに最先端科学に触れていた――――――と思う――――――唯理だが、流石に付いて行けなかった。
「そんなに珍しいもんかね?」
「わたしの前にいた時代じゃ重力制御なんて……
「『ガソリン』エンジンて何だ?」
呆然と、壁一面の窓から外を眺める赤毛娘に、オペレーターの少女が何となくを装い話を訊いてみる。
いかんせん半分くらいは理解出来なかった模様。
そんな唯理が現在いる店は、宇宙船のディーラーだった。クルマとか言うレベルじゃない。
この時代では、大抵の物がウェイブ・ネットワークのショッピングで手に入る。
にもかかわらず足を運んでいるというのは、ネットワーク越しではなく、直接顔を合わせる方が信頼できるからだ。
生産技術が大きく進歩し、資源に占めるコストの割合が大きく下がり、それこそ21世紀でいう大型トラックや漁船並みの価値基準で宇宙船が手に入るとはいえ、高価な資産である事に変わりもない。
購入に際しては、その商品を売る側が信頼出来るか否かも、重要な要素となるだろう。
どれほど科学と文明が発達を見せても、普遍的な物事は存在するという事だ。
「どうかしら? アイドロップV303」
「クルーザークラス、ですか? 良いと思うけど…………」
「こちらの売りは軍用艦並みの独立シールドユニットですね。メナス被害も増えてますから、最近はこういった装備をお求めのお客様が大変多くなっております」
「えー……? 『軍用艦並み』? かなぁ? 普通のシールドジェネレーターを増設しただけのような…………」
「V606などはよりハイグレードなモデルとなっておりますね。ジェネレーターのアウトプットはこのクラスでは初のΕ5000/s、重力制御の反応時間もこれまでで最高となっております。またこのモデルですとオプションで大容量コンデンサと焦点倍率20倍率のレーザー砲、コラプションブースターをお選びいただけますが」
「ですって。どう、エイミーちゃん?」
「イプシロンで秒間5,000なんて出たんだ。わぁ!? 値段が10倍違う!」
そして、商品を選ぶお客と営業担当のセールストークも、世紀を跨いであまり変化はしていなかった。
カタログ上の船の性能を精査するのは、担当エンジニアであるエイミーのお仕事だ。
非常に生真面目そうなオールバックとスーツ姿の営業マンが、自社メーカーの船を淡々と売り込んでいる。一般ユーザーよりも業務用向けの店舗らしい。
空中に浮かぶカタログ画像には、船首の左右にエンジンナセルを付け、後部が大型の貨物庫となっている、全長100メートルのクルーザー級が映し出されていた。
「うーん……ジェネレーターは増設できるし、もっと拡張性の高い船の方が良いかも」
「それでしたら、こちらのオットゴータF500はいかがでしょうか。ドーニング星系の軍ではB500というこちらの軍用モデルが採用されておりまして、改修の幅広さが高く評価されております」
実用ベースで今後の運用も見越し、購入する船を検討するお下げ髪のエンジニア嬢。
高価な買い物だけあって、簡単には決まりそうもない。
シンプルな直方体型、ブーメランのような変形三角錐型、縦長の骨組みにジェネレーターやブースターエンジンが付いた型など。
多様な宇宙船のカタログを見て、いつか自分も宇宙船の入手を考えるのだろうかと、唯理はそんな事を思っていた。
◇
クレッシェン星系は連邦に加盟する星系国家であり、その防衛体制は連邦宇宙軍サージェンタラス方面軍第519艦隊と、当事国である星系宙域軍艦隊の両軍艦隊で構成される。
連邦軍は連邦加盟の各国それぞれの軍から成る合同軍で、その総数は宇宙軍だけで約230京人、艦艇数約1,533兆隻と言われているが、これは予想数であり実態は不明だ。
しかし、実働数は一割に満たないとされても、その一割で兵員数23京人、艦艇数153兆隻の規模を持つ事になる。
銀河の三割弱を支配する超巨大組織、シルバロウ・エスペラント惑星国家連邦。
それは、銀河最大の組織でもあった。
現在クレッシェン星系は、サージェンタラス方面第519艦隊の35,000隻と、星系艦隊の24,000隻が防衛していた。
約59,000の艦艇が、実に数億キロの広範囲へ部隊ごとに散らばり、警戒を行なっている。
水素星雲域、暗黒星雲領域、銀河中央超重力圏、アステロイド帯、または謎の重力異常域と、並みの宇宙船では入り込めない宙域も存在するが、それを除いても基本的に宇宙の防衛はザルだ。
なにせ、何も無い空間が多過ぎる。
惑星間の最短距離となる星間航路や、安全かつ合理的な航行コース、重力波の静かな
そんな無限の海をパトロールする、艦隊のひとつ。
550メートルクラスの巡洋艦、旗艦『リップクロージャー』率いる100隻の艦隊は、惑星レインエアの隣にあるスピアランエア惑星宙域に向けて、今まさに加速を開始しようとしていた。
宇宙での警戒活動は、導波干渉儀など各種のセンサーで星系全域を
今は、仄かに光を灯す艦尾のエンジンノズルが、各戦闘艦を強く押し出していた。
重力制御による慣性制御航行が実用化されても、爆発力を用いた反動推進は今もなお強力である。
随伴艦である星系艦隊のクルーザー、『ミスティカ』250メートルクラス。
その艦載機であるヒト型機動兵器、エイム。
クレッシェン星系軍で用いられる『ターミナルフェン』に搭乗するラーニア三尉は、母艦と併走して哨戒飛行の任に就いていた。
連邦圏らしいスタンダードなヒト型のエイムが、艦隊直上で光の尾を引いている。艦隊と同じく、17Gで加速中だ。
上も下もない無重力空間だが、ラーニア三尉からは100隻の艦隊を見下ろす形となっている。
扁平な菱形の艦体で、その艦首から前方に向けて武装の集中した構造体が伸びている、連邦の誇る最新鋭巡洋艦、リップクロージャー。
これを中心として、やや先端の細い直方体の艦体に、艦尾に2基ないし4基のエンジンナセルを持つ艦が数十隻、旗艦の周囲を固める。連邦圏の標準的な戦闘艦艇だ。
そして、六角柱型の艦体に、上部に
それは星系艦隊主力となる、連邦だけではない他の独立星系国家でも採用されているコストパフォーマンスに優れたクルーザーだった。
幾何学的な陣形を組んで動く艦隊は、見ているだけで揺るぎない力強さを感じる。
艦隊の規模としては大した事ないが、それでも強大な戦力である事には違いない。
皇国が身勝手な主張を繰り返し、共和国が傲慢な侵略行為を続け、メナスの被害が増加しているとしても、いざ戦いになれば自分たちが勝つという自信がラーニア三尉にはあった。
ところが、その自信はいとも簡単に崩れてしまう。
前触れなく乱れ始める、艦隊の動き。
戸惑うようにバラバラに進路を変える、星系宙域軍の前衛艦隊。
一方、519艦隊の動きは落ち着いていたが、艦隊運動の乱れの原因は、まさにその連邦軍本隊にあった。
「ミスティカコントロール、チャリエント02より。何があった」
すぐに母艦へ確認を取るラーニア三尉だが、管制の方も事態を完全に把握しているワケではないらしく、通信越しに
ただ事実だけを述べれば、519艦隊が一方的に宙域からの離脱を宣言し、実際その通りに進路を変えたという事だった。
100隻中60隻が有無を言わさず外周の艦を押し退け、艦列が崩れる。
「こちらミスティカ、リップクロージャーへ、それは艦隊司令部からの命令なのか。こちらは命令の変更を受けていない。先の命令は現在も有効である。艦隊司令部からの命令はスピアランエア惑星域の巡視任務である。任務に従い艦隊に復帰せよ」
『リップクロージャーだ、こちらは連邦艦隊司令部より命令を受けている。本艦隊は直ちに現宙域を離脱。中央本星域へ向かう。旗艦は星系軍「スカンダルサッカー」に委譲する。そちらの命令に従え』
一方的に言い放ち、指揮系統も丸投げして飛び去っていく連邦艦隊。
しかも、星系内部では長距離ワープなど出来ないというのに、妙に急いで短距離ワープまで使い宙域を離れて行った。
レインエアの宙域には中央本星直通のワープゲートがあるが、それも使わない。『中央本星域へ向かう』と言ったにもかかわらず。
いったい何を急いで、どうして急に艦隊を離脱する必要があったのか。
残された星系艦隊の40隻と、哨戒に出ていたエイム部隊も戸惑うばかりだった。
だが、その答えは間もなく最悪の形で判明する事となる。
「…………あ? 艦長、ウェイブセンサーにコンタクト。重力収縮、スクワッシュドライブ反応を探知しました。距離2.5hd、艦隊9時マイナス50度、星系外方面からです。数…………ワープアウト反応多数、数約15万! 波形解析! メナスと確認!!」
「再確認しろ! こんな連邦宙域の内側に15万のメナスだと!? レーダーのゴーストじゃないのか!!?」
「艦隊司令部に確認しました! 同様の観測情報を確認!! 司令部よりエマー3発令! 全艦隊に非常迎撃態勢が発令されました! 艦長!!」
「中央の連中…………これで逃げたのか!!?」
旗艦を押し付けられた星系艦隊のクルーザー、『スカンダルサッカー』のレーダーが、一斉に宙域近くへ飛んで来る侵入者を捉えていた。
それも悪夢のような存在。15万ものメナスである。
そして、このタイミングに連邦軍の本体が離脱して行ったというのは、偶然と言うには都合が良すぎた。
守るべき物を守らず自分達だけ逃げた、と残された星系艦隊全体が怒りに染まるが、それに拘泥している暇もない。
メナスが出現したのは、惑星レインエア宙域から約3億7千万キロの地点。
短距離ワープで刻んで来れば、今すぐに遭遇してもおかしくなかった。
「メナス群の一部に再度スクワッシュドライブ反応! 本艦隊より距離約90! 予測接触時間1,200秒後!」
「連続してワープ出来るヤツがいるか……。全艦全兵装を立ち上げ! ワープアウトと同時に頭を押さえろ! 艦隊司令部に報告と応援要請!」
そして物事は悪い方へと転がり、レーダーオペレーターが艦隊の至近にメナスが飛んでくる兆候を察知。
間髪入れずに艦長が命令を出し、艦と、そしてヒト型機動兵器が迎撃体制に入る。
一斉に回頭する40隻の艦艇と、同時に艦首方向へと旋回するレーザー砲塔。
各艦から発進するヒト型機動兵器の編隊に、ラーニア三尉の機体も合流する。
僚機からの通信は、混乱と怯えに満ちていた。
連邦艦隊の敵前逃亡と、圧倒的な数のメナス群。
十数分前にはあった絶対の自信は、今のラーニア三尉には存在しない。
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