5G.リブーテッド ソルジャー



 七転八倒した末、乙女三人の乗ったヒト型機動兵器『エイム』は、惑星上に落下するプラントから宇宙空間へと脱出した。

 成り行きでエイムのオペレーターとなった全裸の少女は、本職の兵士でさえやらないような高機動で機体を駆ると、襲って来るメナス3体を撃墜して見せる。

 本体の片側を大きく抉られ、構造材と気体を撒き散らす敵の機体。

 灰色のエイムが動かなくなった相手を蹴飛ばし距離を取ると、間もなくメナスは爆発四散し真空中のデブリと消えた。


                 ◇


 そうして話は、冒頭に戻る。


 コクピット内で全裸娘の脚にしがみ付くふたりの少女、エイミーとフィスは、爆光を見て呆然としていた。

 同乗者を顧みない高機動で振り回されたのにも堪えたが、何より度肝を抜かれたのは、並のエイムオペレーターでは撃墜すら出来ないメナスを相手取った、そのやり方だ。


 赤毛の少女がやったのは、単純な事だ。

 自分に振るわれたメナスのアームを掴んで・・・受け止めると同時に、相手の正面を強引に抉じ開け、ゼロ距離から腕部のビームブレイドを叩き込む。

 それを、双方が激突する一瞬の間にやってのけた。

 エイムの基本装備であるビームブレイドは、飽くまでも非常用の予備兵装サイドアームだ。

 最大で30G程度、相対で倍にもなるエイムの超高速戦闘で、ビームブレイドの交差距離に入る事はまず無い。

 だと言うのに、この赤毛の少女は50Gもの加速の中で、よりにもよってメナスと接近戦をやったワケだ。

 尋常な腕ではないし、まともな精神構造をしているとも思えない所業である。


 九死に一生、またはリアルタイムの危機一髪体験を消化し切れず、オペレーターとエンジニアの娘は思考停止に陥っていた。

 赤毛の少女としては、そろそろ脚を放してもらいたいのだが。

 そんな全裸娘も、ヒト型機動兵器のコクピットから改めて周囲の状況を観察する。

 戦闘状況が発生している事は分かる。敵味方は不明だが、襲われる以上は戦う必要があると思う。何故だかやり方も分かっているし、自分が搭乗しているヒト型機動兵器も妙に馴染んでいる。


 が、それ以外がさっぱり全く全然これっぽっちも分からない。


 いったい何故、どうしてこんな事になっているのか。

 頭の中で?マークが乱舞している赤毛の少女だったが、そこに通信が入り、エイムのコクピットに繋がった。


『――――――エイミー! フィス! 生きてるか!? 返事しろ!!』

「ダナ!?」

「ダナさん! ここ……いまエイムに乗っています! わたしもフィスも無事です!!」


 『NMCCS-U5137D-N、コネクト』。

 コクピットの全周型モニターが、送信波の出所を映像で拡大した。

 映し出されたのは、つい数分前に赤毛の少女が敵を誘導してぶつけようとした古い貨物宇宙船である。ぶつけると言うのは比喩的表現だが。

 全裸娘も寝覚めでいきなりの戦場ど真ん中で必死だったのだ。緊急事態でもあったし、結果として歯止めはかけたのだから許してもらいたい。


『「エイム」って……そのプロミネンスか!? お前らエイムで脱出したのか!? 誰が操縦しているんだ!』

「それは~~~~話すと長いんだよ! それより船は無事か!? 何でメナスなんているんだよ!?」

『そんなものはメナスにでも聞け! こっちは襲われたらひとたまりもないんだぞ! 逃げるからさっさと戻れ!!』


 通信内容を脇で聞いていて、赤毛の娘も同乗者ふたりがその船の乗組員であるのを察した。

 貨物船『パンナコッタ』が、少女3人の乗るエイムの方へ船首を傾け加速する。

 同時に、残るメナスのトルーパータイプ一体と母船タイプも動き出すが、これを側面から攻撃する戦闘艦がいた。

 メナスが灰色のエイムと交戦している間に態勢を立て直した、連邦軍のパトロール艦『ロビーテンダー』だ。


「艦首回頭275! メナスのキャリアーに集中砲火しろ! 向こうに引き付けられている今がチャンスだ!!」


 艦長の命令により、幾筋ものレーザーがパトロール艦からメナスの母船へ伸びる。

 だが、メナスの母船も強力な荷電粒子砲で応射。

 ECM環境下で命中率は3割を切っていたが、至近弾がシールドを掠り、削り合いになった。


 赤毛の少女は接近するメナスの個体と撃ち合いながら、貨物船パンナコッタを守り宙域からの脱出軌道に入る。

 ECMが効いているとは思えないほどエイム側の命中精度は高く、追い縋るメナスも最終的にはシールドを撃ち抜かれて返り討ちに。

 爆発する敵機を背に、灰色のエイムはブースターを吹かしてその場を離脱して行った。


 赤毛の少女が遠ざかると、惑星上に浮上していた巨大戦艦も降下していく。

 単なる墜落ではなく、制御された静かな接地だ。

 長い時を経て再起動した巨大戦艦は、休眠モードから待機状態へと機能回復を開始。プラントを撃ち抜いた時とは比べ物にならない性能を取り戻しつつあった。

 かつて役割を終え、しかし過去から現在へ、未来の為に遺された無数の剣。

 『ファルシオン級』と分類された巨大戦艦は、他の数十億の艦隊と同様、再び主に呼ばれるその時まで短い眠りにつく事になる。


                ◇


 プラントに偽装していた研究施設は、その本体が炎の塊と化して大気圏に突入していた。

 広域の通信に混じり、施設の責任者だった小デブ統括官の怒鳴り声が拡散している。

 連邦の極秘研究施設は崩壊し、全銀河に散っている遺跡のような大艦隊を目覚めさせる鍵も失われた、かに思われた。

 しかし、一度は全銀河最強の力に指がかかったのだ。

 強欲で傲慢な統括官が、こんな事で諦めるワケがないのは当然。若い主任科学者も、自分の・・・研究を当たり前のように続けると決めている。

 それに、そもそもの研究を進めていた連邦も、今回の事態で新たな動きを起こす可能性が高かった。

 同様の研究を行い、他勢力の動きに目を光らせている共和国、皇国も、連邦宇宙域クーリオ星系G第11番惑星Mで起こった異変に気付くだろう。

 その原因・・に辿り着くのも、時間の問題だった。


 メナスの母艦と撃ち合っていた宙域パトロール艦『ロビーテンダー』は大破した。

 善戦した方ではあるが、やはりメナスの母艦と単艦で戦うのは分が悪く、死人を出さずに乗員が退艦出来たのは不幸中の幸いと言える。 

 一方、多少の損害を受けたメナスの母艦は、ロビーテンダーにトドメを刺さず進路を変更。クーリオG11M:Fからの離脱コースに入った。

 そして、最後まで動かず戦場を睥睨していたメナスの特機、長い椀部を持つヒト型の個体は、灰色のエイムが消えた先を、いつまでも見つめ続けていた。



 そして、これが全てのはじまりとなった。

 赤毛の少女、村瀬唯理むらせゆいりがこの時代で目覚めた事により、あらゆる勢力がそれぞれの思惑に従い動き始める。

 連邦、共和国、皇国という三大勢力に、エクストラ・テリトリーの有象無象、全人類の天敵となるメナス、天の川銀河の外の文明、この宇宙より上位領域の存在。

 宇宙は混沌としており、発達した科学も、人類に安寧をもたらしはしなかった。

 それでも、人々はこの時代でも生きている。

 では、遠い過去に生きていた赤毛の少女は、どうして今、ここにいるのか。

 それを知るのも当面先の話となるが、それまでは新たな仲間と、この宇宙を飛び回る事となった。


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