4G.バトルフィールド ゼログラヴィティー



 ある少女達の混乱を他所に、一キロ四方の大きさを持つ巨大プラントは重力に引かれて惑星へ落ち続けていた。

 地表からの攻撃で剥離した部分は、早い物では大気圏に突入して火の玉と化している。


 プラントからの遭難信号を受け、クーリオ星系11M:Fの宙域には、連邦宇宙軍のパトロール艦艇が急行していた。

 ところが、そのパトロール艦はワープアウト直後、惑星の地表から高度を上げて来る巨大な艦影をレーダーに捉え、急遽臨戦態勢に入る。

 プラント内からは警備部隊の艦艇やヒト型機動兵器も脱出していたが、そちらの方は何が起こっているのか分からず、宙域を右往左往していた。


『こちらは連邦宇宙軍クーリオ星系域パトロール艦隊所属「ロビーテンダー」。11M:F惑星上を離脱中の航宙艦は所属を明らかにせよ。繰り返す、こちらは連邦宇宙軍クーリオ星系域パトロール「ロビーテンダー」だ。惑星上から離脱中の航宙艦は所属を明らかにせよ。連邦宙域を航行する船は全て船籍と航海目的を明らかにするのが航宙法により義務付けられている、直ちに報告せよ。勧告を受け入れない場合は実力で船を確保する。繰り返す、こちら――――――――――』


 300メートルクラスのパトロール艦『ロビーテンダー』は、惑星上から上がって来る全長3キロもの船影に対し、出来る限りの威圧を行なっていた。

 全長3キロといえば、連邦中央軍の旗艦クラスすら完全に上回るサイズ。しかも、11M:Fの2Gという重力圏から脱出してくる船となれば、大きいだけの輸送船とは比べ物にならない性能と推測できる。

 挙句にプラントを崩壊させるほどの火力まで持つとあっては、ロビーテンダー単艦でどうにかなるか分からなかった。


「アレが……!? アレが遺跡船! スゴイ、本当に飛んでいる…………」


 プラントから個人用ボートで逃げ出した若い主任科学者は、惑星上を映し出した映像を見て大興奮だった。

 モニターに映し出されていたのは、前後に長い艦体とエンジンブロックに、艦尾の左右から短い翼か剣のつばのように何かが突き出るシルエット。

 偽装プラントの研究施設が、何百年も研究を続けて起動しようとしていた巨大戦艦。

 それが、今まさに稼動状態にあった。


 だがしかし。


「何があったんだ……? 彼女を助けに動き出したんじゃないのか……??」


 一時は散発的にレーザーを撃ち放っていた巨大戦艦だが、今はジリジリと高度を上げるばかりで、派手な動きは見せていなかった。

 もっと暴れる姿が見たいと、自分の興味優先で他への迷惑など埒外なエゴ科学者。

 そこに、予想外の相手から通信が入る。


『レオ! あの船を押さえろ! 木っ端のパトロールどもなんぞに俺の船を渡してたまるか!!』

「あ、ホーリー統括官」


 生きてたんですか、という科白セリフはギリギリで飲み込んでいた。

 立場上、プラントでの研究を取り仕切っていた小デブの連邦軍人、サイーギ=ホーリー。

 巨大戦艦を動かす鍵である赤毛の少女に固執していた強欲デブは、結局は自分の命を優先してプラントから脱出していたらしい。

 それでも、まだ自分の手柄を諦めず手を伸ばそうとしているようだが。


「統括官、船は起動していますが僕……我々がコントロールを握ったワケではありませんよ? 迂闊に近づけばプラントを貫通するほどのレーザー砲で撃たれかねませんが」

『知るか! 何を暢気な事を言っているんだお前は!? あの船を部外者の目に晒しただけで軍事法廷物なんだぞ! 氷漬けにされたくなければ今すぐどうにかしろ!!』


 諦めていない上に、具体的にどうするかは人任せである。

 軍事法廷に引きずり出されて困るのはどちらですかね、と言いたいが、万が一を考えて、余計な事は言わなかった。

 このまま大人しく処分されるような可愛げのあるデブではない。何かの間違いで首を繋ぐ可能性もある。

 だからではないが、主任科学者のレオもどうにか船にアクセスできないかを考えていた。

 考えるのだが、その前に事態の方が動いてしまう。


 レーダーが捉える新たな反応。

 惑星の近くに突如現れる、特異な重力異常。

 それはワープアウト時に見られる空間の湾曲だったが、こんな惑星に近いところにワープ回廊を繋げるなど、普通の人間はやらなかった。


 つまり、相手はまともじゃない人間か、



 あるいは、そもそも人類ですらないか。



「『メナス』だと!? こんなところに……!!? 全艦警戒態勢! 星系司令部に応援を要請!!」


 パトロール艦ロビーテンダーの艦長が教本通りの対応を指示した直後、重力異常があった地点に新たな反応が出現する。

 すぐさま、パトロール艦の通信オペレーターが対象を解析。光学、熱、電波、導波干渉儀の反響を艦のメインフレームが照合し、結果をオペレーターの脳に直接送った。


「対象確認! 150メータークラス、キャリアータイプ1、トルーパータイプ4、未確認タイプ1! 先頭は約30Gにて接近中! 距離約8万! 敵攻撃可能距離まで約800秒を想定!」

「『未確認』だと!? 特機か!!?」 


 報告を受けた艦長の額に汗が浮ぶ。


 連邦、共和国、皇国といった三大国、そして法の外であるエクストラ・テリトリーのいずれの勢力にも属さない、機械か生命体かも判然としない、その全貌も不明である謎の戦闘兵器群、


 通称、『メナス』。


 全知的生命体の敵とも言えるこの存在について、現在までに判明している事は多くない。

 分かっているのは、高度な自律兵器である事。

 それに、性能が異なる複数の種類がいるという事。

 そして、全文明圏で被害が拡大し続けているらしい・・・という事実くらいだ。


 代表的な『トルーパー』、ワープ機能を持ち数体から数千体もの個体を運搬する『キャリアー』、高速突撃型『スティンガー』、高火力砲撃型『ガンナー』、電子戦特化型『ジャマー』、近接特化型『リッパー』、『グラップラー』、強固なシールドを持つ『ディフェンダー』、等がいるが、ここまでは雑兵の部類。

 問題は、しばしばこれらの個体に混じって現れる、『特機』と呼称する規格外の存在だ。


 ただでさえ『メナス』は凄まじい戦闘性能と物量を持つ、恐ろしい脅威メナスだった。

 これに『特機』が加わり、数万隻から成る主力艦隊のひとつが一瞬のうちに壊滅した事すらある。

 艦長の想像通りなら、絶望的な状況だ。


「既存の亜種じゃないのか!? センサーをフォーカス! 解析しろ!」

「アイサー! 干渉儀を……メナスからECM! ECCM作動! センサー精度低下!」


 望みをかけて艦橋ブリッジの部下に命令を出す艦長だが、その前にメナスから電子走査を妨害される。

 メナスはトルーパータイプでさえ、ある程度の電子戦能力を持っていた。

 電子妨害ECM環境下では、電波の反射を使ったアクティブなセンサー類や通信の類は、著しく機能が制限される。

 火器管制システムの目標追尾能力や、誘導兵器の誘導能力、無人機の遠隔操作も同様。

 兵器により高い信頼性を求めるならば、そこでは光学目視や手動という旧態依然アナログな手段が確実視されていた。


「……司令部からの応答は!?」

「ECMの妨害前にパケットデータを送信しています。現在の受信は難しいと考えますが…………」

「エイムを本艦の直掩にあてろ! 艦首回頭左110、上げ30、砲撃準備! 少しでも足止めしろ!」

「艦長、プラントの要救助者は!?」

「収容している時間は無い! 向こうのエイムには独自に迎撃行動を取るように言え!! 本艦は惑星軌道上に沿って後退! 時間を稼ぐぞ!! 全兵装立ち上げ!!」

「アイサー、レーザー砲、主、副砲展開、ランチャー起動、ブロッカー装填」

「ディレイウェポン立ち上げ、攻撃指揮装置はネザーコントロールに限定。照準システムに同期」

「シールド展開準備、ジェネレーター全力運転開始」

「ECM、ECCMパワーアップ。電子戦闘開始」

「エイム各機、ハービー小隊は出撃位置へ、出撃スタンバイ」


 艦長は特機の事を頭から追い払う。考えても無駄だ。

 パトロールの軽戦艦一隻では、トルーパー4体を相手するだけで、沈められる可能性がある。

 今は目の前の敵に集中しなければならない。


 命令が出た直後、四角い艦体の上下左右にエンジンナセルを接続しているパトロール艦、『ロビーテンダー』は艦首を敵に向けた。併せて、艦体各所のレーザータレットも、砲口を攻撃目標へ合わせる。

 艦のセンサーは、真っ正面から人間の耐G限界を超える加速で接近して来るシルエットを確認。

 生物的な丸みを持つ三角錐の本体に、光の尾を引く後部の推進ユニット、左右二対の武装アームを備えた、全知的生命体の天敵が迫る。


「先頭を叩け! 主砲斉射開始!」

「主レーザー、副レーザー砲攻撃開始。第一斉射後、メナス進路上にブロッカー射出」

「了解、主砲照準、一番二番撃ち方はじめ」

「副レーザー砲射撃開始」


 メナスは既に射程距離内であり、艦長の命令でパトロール艦は攻撃を開始。

 艦の上下に搭載された砲塔から、大口径レーザー砲が撃ち放たれる。

 続けて、艦の全体に装備されたレーザータレットが光を放った。

 発振される赤い光線が、直進して来る目標を薙ぎ払う。

 文字通り光の速度。例え相手がどれほどの高速機動で回避しようとしても、理屈でいえば秒速約30万キロの熱線からは逃げられない。


 ところが現実には、レーザーはメナスに直撃しなかった。


 パトロール艦に突進しながら、メナスは上下左右に激しく動き光線を回避する。

 レーザーその物は確かに回避不能だが、ECM環境下では目標追尾能力や捕捉精度が著しく落ちる上に、砲塔までが光速で動くワケではない。

 更に、メナスも防御シールドを持ち、多少レーザーが掠ったところで本体にダメージは徹らなかった。

 挙句、メナスは装甲その物も非常に頑強だ。

 同様の技術は人類側も持っているとはいえ、常にメナスには一歩遅れをとっているのが現状だった。


「ボギー1、熱量増大! 敵攻撃態勢!」

「シールド、オートリアクション!」


 メナスの側面部にある溝が鈍い光を発し、左右のアームが真ん中から左右に割れた。

 そのアームからパトロール艦に撃ち込まれるのは、多くのメナスが共通して持つ指向性エネルギー、荷電粒子砲だ。

 莫大な熱量と亜光速の運動質量を持つエネルギー弾が、パトロール艦のシールドを大きく削る。

 衝突の衝撃は、艦の艦橋ブリッジにまで突き抜けていった。


「ッ……! 損害は!?」

「シールドジェネレーターに過負荷! 出力50%まで低下!」

「ボギー2から4まで攻撃態勢! 接近中!!」

「シールドそのまま! 回避運動開始! ECM強度上げろ! 撃たれ放題になるぞ! メナスの攻撃後ディレイで迎撃! エイム全機発艦準備!! 司令部から応答は!!?」


 全速力で後退しつつ、パトロール艦も艦体を上下左右に振りはじめる。

 のたくるような機動で迫るメナスは、立て続けにアームから荷電粒子砲を発射。

 回避しきれず、光弾にシールドを叩かれるパトロール艦。負荷限界を越え緊急停止するシールドジェネレーター。

 即座にパトロール艦は反撃に転じ、レーザーを撃ちまくりながらランチャーから質量弾頭を射出。弾頭は艦の目の前で破裂し、無数の子機をバラ撒く。

 これに反応してメナスは軌道を偏向するが、間に合わなかった個体が子機の中に突っ込み爆発に包まれた。

 爆炎の中から飛び出すメナスの個体に、パトロール艦は迎撃兵器であるレールガン、遅滞ディレイ防御システムによる分厚い弾幕を叩き付ける。


「ボギー3、軌道を変えます!」

「エイムを発艦させろ! シールドジェネレーターの再起動まで相手に攻撃させるな!!」

「主レーザー砲連射限界です! 強制冷却開始!!」


 メナスの攻勢に穴が空いたのを見逃さず、艦長は艦載機のエイム部隊に発艦を指示。

 パトロール艦の下部が迫り出し、発進カタパルトが宇宙空間へ口を開けた。


『ハービー01、発進する』

「ハービー01、エアボーン」

『ハービー03、出してくれ!』


 全長約17メートル、角ばった装甲で全身を覆い、各部にブースターノズルを備え、腕部マニピュレーターに攻撃火器を携えたヒト型機動兵器が、カタパルトより射出される。

 飛び出したエイムは重力制御により滑らかに進路を変え、後ろ向きに進む艦の正面に位置した。


「ハービー各機はボギー進路上でインターセプト。本艦から引き離してください」

『ハービー01、データリンク確認、ボギー1を捉えた、ハービー01交戦。各機はエレメントで対応。倒そうと思うな、艦を守れ』

『ハービー04、了解!』

『ハービー05、了解』


 ヒト型機動兵器6機はパトロール艦の周囲に展開。2機で一組の部隊最小単位エレメントでメナスの侵攻阻止に入る。

 ハービー小隊のエイムはメナスの軌道を予測し、携行装備のアサルトライフルを発砲。

 アサルトライフル、と言ってもそれは単なる伝統から来る通称で、7メートルという長い砲身には旋条ライフリングなど切られておらず、電磁加速に用いるレールとなっていた。

 中央の砲身を上下から分厚い冷却システムで挟んだ、55.5ミリ口径電磁レールガン。

 砲口初速、約1万メートル/秒。発射速度ファイアレート50発/秒。

 フェデラル・アームズ、エイム搭載型エレクトリックガン・システム。

 FAEGSファーガス-307AMHである。


『02、牽制射でボギーを足止めしろ。こっちは囮になる』

『02了解!』


 エイム各機はブースターを燃焼させ、メナスの側面を取る位置へ滑り込む。

 メナスは攻撃の目先をヒト型機動兵器へ向け、左右のアームから荷電粒子砲を連続発射。

 先行するエイムはブースターを更に吹かして加速。回避運動の直後にアサルトライフルで敵を狙う。

 一体のメナスに対し2機で交差射撃するが、メナスの運動性能は凄まじく、直角に近い軌道偏向でわされた。

 人類側の技術では慣性制御しきれない、エイムならオペレーターに命の危険を強いる急機動。

 しかし、命無きメナスはそれをやってのける。


『追い付けない!? ECCMパワー上げろ!』

『ハービー04! 2機行くぞ! 04は後退! 03は援護!!』


 ヒト型機動兵器は突っ込んで来る標的に、アサルトライフルの散布界を広げて対応する。

 だが、メナスはそれも転がるような機動で回避。かつ荷電粒子砲による反撃を実行。

 一方、エイムの方は回避し切れず、高エネルギー弾が直撃した。


『ッぜああああああ!!?』

『04!? 足を止めるな! 動き続けろ!!』


 エイムのシールドはジェネレーター出力も高くはなく、防御手段と言うより緊急回避の意味合いが強い。

 連続で荷電粒子砲を喰らったエイムは、動きを止められ逃げられないまま、3発目でシールドごと機体を撃ち抜かれて砕け散った。


『04!? ハービー04! タリア応答を! チクショウ!!』

『03はロビーテンダーまで後退しろ! ハービー各機は敵を引き付ければ良い! 回避に集中!!』

『重力直上から敵機接近! 仕掛けて来るぞ!!』


 他のエイムに対しても、直上から複数のメナスによる攻撃が降り注ぐ。

 シールドを張りつつ散開するハービー小隊だが、追撃するメナスは荷電粒子砲を集中砲火。

 一瞬でシールドの限界を超えたエイムが次々に撃墜された。


「ハービー小隊隊長機大破! 04応答なし! 02以外は中破以上です! 戦闘続行不能!」

「パワーは全てシールドと砲に回せ! 敵を艦に近づけるな!!」


 護衛のエイムがほとんど落とされ、パトロール艦は単独での防戦を強いられる事になる。

 しかし、メナス相手に艦の兵器だけでどうにかなるなら、はじめからエイムなど搭載する必要が無かった。

 メナスの機動を阻害する弾頭が全て発射され、短距離迎撃用のレールガンが質量弾の弾幕を張る。

 砲塔がレーザーで空間を薙ぎ払い、副砲が艦の全周へ赤いオーロラを作り出した。

 が、それほどの攻撃密度であっても、メナスには回避され一体も撃墜出来ない。

 それどころか、メナスの荷電粒子砲が容赦なく艦のシールドを叩き、ジェネレーターが今にも落ちようとしていた。


「シールドジェネレーター出力5%です!」

「パワーは全てシールドに振れ!」


 艦長は全動力をシールドの維持に回すが、それ以上打つ手が無かった。

 艦載機は一機を残して撃墜。パトロール艦程度の武装では、メナスの雑兵さえ落とせない。

 シールドは力を取り戻すが、それも一時凌ぎだ。攻撃が集中すれば、何分も持たないだろう。

 撃沈は免れないか。

 逃げる事も出来ない状況で、艦長が最後の決断を下そうとするが、



 その時、レーダーを見ていたオペレーターが、落ちゆくプラントから脱出してくる機影を捉えた。



 爆炎の煙を引いて、灰色のエイムが真空宙へと飛び出す。

 パトロール艦を襲っていたメナスの内2機が、プラントの残骸を蹴散らして出る新たな敵を感知し、そちらに軌道を偏向。

 三角錐の有機的な機体が、光の尾を引き荷電粒子砲のアームを開いた。


「んなぁッ!? なんでメナスがいんだよ!?」

「ウソ……!? パンナコッタは!?」


 レーダーに映る接近中の物体を見て、コクピットに詰め込まれている3人の少女の内ふたりが目を剥く。

 メガネにお下げ髪のエンジニア、エイミーに、気の強い紫髪の通信オペ娘、フィスだ。

 命からがらプラントから逃げて来たと思ったら、宇宙を往く者にとって最悪の存在が待ち構えていたのだから、それも仕方がないが。


 未だ事態が全く飲み込めない赤毛の全裸娘も、正体不明の相手が戦闘機動を取っているのは一目見て理解した。

 頭で考えるよりも、身体が勝手に迎撃態勢に入る。

 すぐさま、まるで慣れているかのように全センサーと同調すると、周辺状況を走査スキャニング

 目的の物を見つけると、機体をそちらに向けブースターを吹かした。


「ちょっと――――――――――!?」


 赤毛の少女が足のアームを踏み込むと、機体が追従して滑るように加速。その重力加速度により、他ふたりの息が詰まる。

 灰色のエイムの動きに合わせ、2体のメナスも軌道を変えて射撃しながら突っ込んで来た。

 レーダーから機体のシステムが接触予想時間を出し、赤毛の少女はブースターの出力を上げる。

 互いに加速し、急接近するヒト型起動兵器と生物のような機械。

 双方が交差するかと思われた寸前、エイムの方が一瞬早く、真空を漂っていた火器をマニピュレーターで掴み、駆け抜けた。

 それは、破壊されたエイムが装備していたアサルトライフルだ。

 しかし、


『オプション:FAEGS-307AMH-002α90953-SD、認証コード該当無し』


 コクピットの全周型モニターには、右腕部マニピュレーターに被る形で真っ赤な表示が。

 反転して来る敵機に対して砲口を向けるも、レールガンは撃てなかった。

 拾えば使えるというものでもないらしい。

 そんなトラブルの最中にもメナスは容赦なく荷電粒子砲を撃ち、赤毛の少女はステップを踏むような左右の動きで回避する。


「ふぃ……フィスぅ!?」

「そうだった! こいつIDが抹消されてたんだ! ちょっと待て!!」


 狭いコクピットで四肢を踏ん張る少女ふたりが思い出すのは、格納庫でエイムを動かそうとしていた時の事だ。

 解体を予定されていたこのエイムは、連邦軍――――――と思われる――――――の登録コードを抹消されていた。

 つまりどういう事かというと、登録が無い以上は敵味方識別IFFも承認されないし、プラントの施設を遠隔操作リモートコントロールで動かす事も出来なければ、拾った武器を使用するのも不可能なワケだ。

 とはいえそれも、一般的な常識での話。


「っし! セキュリティー外した!!」


 ウェイブネット・レイダーでもある通信オペレーターのフィスは、エイムを通して自分の端末インフォギアからアサルトライフルのシステムにアクセス。

 裏口・・を使い、システムに登録された認証コードを探り出した。

 フィスという少女にしてみれば朝飯前と言ったところだが、今は誇っても喜んでもいられない。

 右腕部とアサルトライフルに被る警告表示が消え、エイムの火器管制システムと武器のシステム、そしてオペレーターである赤毛の少女がリンクする。

 センサー情報、予測照準システム、何より赤毛の少女が相手の軌道を読み切り、メナスが自分の方を向く一瞬を狙い、解放アンロックされた兵器を発砲した。

 弾道が合成映像で補正され、目標への直撃をエイムのオペレーターに知らせる。

 シールドごと撃ち抜かれたメナスは、弾け飛んだ直後に爆発。

 それを確認する前に、赤毛の少女はブースターを吹かしてエイムに回避機動を取らせた。

 味方を落とされたメナスは、荷電粒子砲を撃ちながら螺旋を描いてヒト型機動兵器に急接近する。

 パトロール艦に纏わり付いていたメナスの一機も、灰色のエイムの方を危険とみなし反転。


 全方位真っ暗な中、ドーム状の全周型モニターに接近するふたつの機影が表示されていた。

 接触まで10秒。

 レーダー照射を受け、機体が警報アラートを出す。

 発砲するメナスに対し、赤毛の少女はエイムのブースター出力をアップし回避行動。

 Y軸方向に機体の軌道を捻じ曲げ、自ら敵に襲いかかる。


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