デュクローザ
私は開かれた道場の入り口からハラダの姿を探した。グリーンの畳が敷かれた部屋には懐かしい汗の臭いが感じられる。自然とアドレナリンが分泌されるのか、交感神経が優位となり感覚が研ぎ澄まされてくるのだ。
「ハラダはアマチュアレスリングの選手だったというが、なぜ柔道場に私を呼んだのだろうか?」
側にいた茶髪のバンガーターに質問をしたが、彼女は黙ったまま首を横に振るだけだった。
「……それは先生にハンデを与えてやったんだよ」
不意に私よりハスキーなハラダの声がした。死角からゆっくりと現れた彼女は、制服の上着とシャツにスパッツをはいたミニスカートの格好だった。
私は気合いの入ったレスリング用のシングレットを着てくるだろうと勝手に予想していたのだが、裏切られたというか拍子抜けしてしまった。
誰もいない柔道場でハラダは腰に手を置き、首を柔軟に回すと同時に片足ずつアキレス腱を伸ばす。すでに準備運動で体を温め終わったようだ。整ってはいるが、ニキビの目立つスッピン顔をこちらに向けた。
「柔道着は持ってきてないのか? スーツのまま戦う気か? ならオレと条件は一緒だね」
道場の中央に歩み寄り、紅い畳の四角い区切りを越えると、ハラダは腰をローリングしたり軽く飛び跳ねた後、ヘスの方をチラリと見た。
「ル、ルールは簡単よ! 畳の上で先に両肩を付けた方が負け。ただそれだけよ。殴る蹴るもアリだけど、もちろん先生はそんな事しないよね」
ヘスはバンガーターと一緒に遠慮がちに説明した。
「ハラダさんが勝ったら、今後一切教室で自由にしていても文句は言わない事。逆に先生が勝負に勝てば……」
「私の言う事を聞いてくれるという事だな!」
いつもの強気な態度はどうしたというのだ。この二人のちょうど反対側、道場の隅っこにシェッツが正座して座った。その後ろに委員長とアマクリンが並んだが、最後尾の色白娘が立ち上がって精一杯の小声で叫んだ。
「……チトマス先生! ふぁいと――! ここで私が見守っていますから……」
「フフッ!」
腕に掛けていたジャケットを丸めて数メートル先にいたアマクリンの方に投げると、彼女の頭にバサッと見事に被さった。嬉しそうに悶絶する彼女を尻目にネクタイを片手で取り去り、各ボタンも外して緩める。
ストレッチを開始した私に対してハラダは俯き加減に畳の目を読んでいたが、不敵な笑みを浮かべると上目遣いで宣言した。
「先生、オレにもハンデをつけてくれよ」
そう言うのが早いかハラダは上着を脱ぎ去り、乱暴に制服シャツを引っ張ってボタンを飛ばした。唖然とする周囲に目もくれず、あっという間に上半身裸になったのだ。
……胸元にある薔薇のタトゥーが目立ったが、ハラダは私と同じくらいの巨乳だった。神聖なる試合場にふくよかな乳房をぎゅうぎゅうに収めたブラを曝け出したのだ。
「上衣が無ければ組み手も崩しもできまい! 使える技が大幅に限定されるぞ! さあ、先生! どう戦う? 柔道敗れたり!」
ハラダは腰を屈めてレスリングのファイティングポ-ズを取ると、熟れた果実のような胸の谷間を見せ付けたのだ。
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