オッティリア


 ハラダは急に饒舌となった。まるで溜め込んでいた物を吐き出すように。


「先生! どうした!? かかって来いよ! もう勝負は始まってんだぜ!」


 ゆらゆら胸と上半身を揺らすハラダに立ち向かう。私は深呼吸しながら間合いをキープし、気合いを入れ直して唇を真一文字に結んだ。もう周囲の声援は、ほとんど聞こえなくなってきた。


「柔道の両手刈りで来るか?! 言っとくけど、レスリングのタックルを甘く見るなよ!」


「ああ! スピードでは負けるだろうな」


「オレのタックルを味わってみたいか?! かつての光速タックルを見せてやるぜ!」


 おそらく勝負は一瞬で決まるだろう。長引くとスタミナ面で不利となる。レスリングに柔道の寝技がどこまで通用するかも不明だ。


「ほら! 来いよ! どうした?! 怖じ気付いたか、チトマス先生!」


 お互い一定距離を保ったまま、ぐるぐると伸ばす腕を激しく弾き合い牽制する。全く隙が無い、フェイントもあまり通じない、かなりできる奴だな。ハラダはとても嬉しそうだった。紅潮してとことん勝負を楽しんでいるようだ。

 5分を経過しても勝負は膠着状態だった。緊張の糸が張り詰めて今にも切れそうになる。


「きゃあぁ――! 頑張れ~!」


 バンガーターとヘス、更にはアマクリンとシェッツ、ローレンスの声援が不意に意識の中に飛び込んでくる。


「はぁっ! ハアッ! ハッ!」

 

 次第に息が切れそうになる。間合いが若干詰まってきたようだ。ハラダの胸元にのぞく薔薇のタトゥーが、やけに気になるなぁ。首から上に視線を移すと、真剣勝負中なのに彼女の表情はほころんでいた。


「ハラダ! お前、結構可愛いな! 先生の好みだよ!」


「!!」


 明らかに引いた。その瞬間を私は決して見逃さなかったのは言うまでもない。


「どりゃああああああああああ!」


 電光石火の瞬発力を発揮し、ハラダに左腕を伸ばした。だが、それは見せかけであり、右手でハラダのベージュ色したブラのカップをワイヤーごとしっかりと逆手で掴み取った。


「何ぃ!」


 ひるんだ隙に今度は左手で、ハラダの二の腕下のぜい肉を鷲掴みにした。


「や、やめぇ……!」


 彼女は重心を移して逃げようとしたが、一瞬遅れた。もう、すでに手遅れだ。


「せいやぁぁぁぁぁあああああああああああああああっ!!」


 軸足下の畳は凄まじい足裏との摩擦で白煙を上げた! ハラダの肉体は、まるで瞬時に重力を失ったかのように弧を描きながら私の背で浮かび上がったのだ!

 次の瞬間、衝撃で道場の埃が全て舞い上がり視界が霞む! 畳の表面は耐え難いショックで弾け切れ、緩衝材が剥き出しとなって周囲に飛び散る!

 

 ……超危険な究極の荒技、チトマス流秘技・大山鳴動奥義ブラ背負い投げが道場に雷撃のごとく炸裂した瞬間だった。


 ハラダは受け身の姿勢が取れていた。さすがアスリートだな。ブラジャーの背ホックは外れ、丸出しとなった胸がナタデココ入りパンナコッタのように揺れた。心を失ったような彼女は、両肩を畳から起こしても無言のままである。


「ハラダ、君が巨乳で本当に助かったよ。ブラのサイドベルトが厚くしっかりしているので、掴み投げる事ができた。もしローレンスのような細い紐だと、ぶち切れて投げる時に体重を支えきれなかっただろう……」


「何ですって! どうして私のブラがBカップの細いタイプだと分かったのですか?!」


 委員長は急に立ち上がると、珍しく冷静さを失ったように憤慨したのである。



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