ペルセフォネ
アマクリンと委員長を交えて廊下でアホな会話をしていると、騒ぎを聞きつけたシェッツが教室から出てきて我々の方に近付いてくるのが見える。取り込み中なので、サインなら後にして欲しいのだが。
「先生、もう放課後の時間ですよ。何かお忘れでは?」
くりくりの髪の毛を揺らせてシェッツが、にっこりとした。怪我していても痛々しくない奴だな。
うーん、何だっけ? 昼食に食堂で
委員長のローレンスが手の平を拳で叩いて叫んだ。
「先生、ハラダさんとの約束ですよ。ほら、朝にトラブルがあったじゃないですか。それで放課後、体育館に来いっていう……ああ、恐ろしい」
彼女は自分の両肩を抱き竦めて、プルプルと震え始めた。そんなに怖い奴なのだろうか。
シェッツの方はというと、自分とは無関係のように平然としゃべる。
「ハラダさんは元レスリング部で高校生最強の称号を持つ方です。いくら先生でも捻り潰されちゃうかもしれませんよ~www」
アマクリンと委員長が心配そうに私の方を見るが何を不安がっているのだろう。
「なあに、先生は柔道部の顧問をしていたほどの手練れだ。高校生に負けるような事はないよ」
自信満々の私にシェッツは人差し指で頬をポリポリし、首を傾げるような仕草を見せた。
「ルール無用の異種格闘技戦にどこまで通用しますかね~。……いわゆる喧嘩勝負なんですよ!?」
「面白い! 受けて立とうじゃないか。久々に燃えてきたぞ!」
私がスーツのジャケットを脱ぐと、アマクリンが興奮ぎみに無断で抱きつき、更に密着してくる。振り解こうとすると背中にまで、さささと回った。
「チトマス先生、カッコいい! 頑張って下さい、私も応援に行きますから!」
面倒な事になったが、学生達の気持ちを受け止めてやりたい。ハラダとがっぷり四つに組み合いたい。そもそも生徒を叱る事は愛情なのである。しっかり怒ってやる事も必要だ。はっきりと目を見て怒る事は、そいつと正面から向き合っている証拠だと思う。本当に嫌いならば無視するだけなのだから。
☆☆☆
放課後の体育館前は、なぜか人の気配がせず、皺くちゃの丸まった新聞紙が風に吹かれて転がっていくだけだった。こりゃあ、ハラダが人払いでもしたのかな。
私を先頭にアマクリン、委員長、シェッツがゾロゾロと一列で付いてくる。
かなり大きな体育館は、年期の割には綺麗に保たれており、入り口から覗いてみるとスペースが二つに分けられている構造。右ドア側にバスケとバレーのコート、左ドア側に柔道部の道場があったのだ。左の方から腕組みしたバンガーターとヘスが順番に声をかけてきた。
「随分と遅くなったね、先生! もう来ないのかと思ったのに」
「生徒を待たせるなんて教師失格だね! さっさと帰宅して逃げ出した方がよかったんじゃないの?!」
私が微笑むと、二人は短いスカートから延びる脚を一歩引いて表情を曇らせた。アマクリンは私の影に隠れ、委員長のローレンスは小柄なシェッツの影に隠れたままだ。私の声は、まんま道場破りのようで、静かな体育館に響いた。
「ハラダに謝っといて! いやぁ、今日はトイレに行く暇もないぐらい忙しかったんだ!」
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