ウィルヘルミナ
【~底辺高校赴任編~】
明日は、いよいよ私の教員デビューの日だ。教育実習の時もそうだったけど、今から緊張するなあ。
とてつもなく狭き門であるオーミモリヤマ市の教員採用試験に一発合格した秀才の私でも、緊張するモノは緊張するのである。それもそのはず、指定された赴任先は悪名高き
最初その学校名を目にした瞬間、目を見開き愕然としたものだ。というのもオーミモリヤマ市民なら知らない人はいないほどの最悪を絵に描いたような学校だったからである。
まず立地条件が悪い……ビワ湖近くの旧奴隷訓練所近隣に存在し、平和な市内でも例外的に治安が悪い。昼間っから酒を飲んだり博打にのめり込んでいる元B級奴隷いや、お世辞にも上品とは言えないような男性陣が薄暗い街道を当てもなくウロウロ徘徊している暗黒地帯なのだ。
当然このような地域にある学校に通っている子女達は、一筋縄では行かないような一癖も二癖もある粒ぞろいの問題児である事が多い。有名な卒業生に湖賊のリーダーをやっているビルショウスキーがいるぐらいである。
ああ~~っ! 悩んでいても仕方ないな。ほっぺたを両手で叩いて気合いを入れ直した。
そうだ! 今晩はとっておきのケプラーカブトエビを料理して明日のために精を付けよう。はは、精を付けるって何となくエッチな響きがあるな。可憐な女性である私にはスタミナ料理を摂取する、の方がより相応しいと思う。
件のケプラーカブトエビは、スーパーで売っている袋入りの乾燥耐久卵を水槽にパラパラと蒔いておくだけで、ほんの数時間で孵化する。そして適当にデトリタス(生ゴミ)などをエサとして放り込んでおけば、ノープリウス体から僅か2週間で体長20㎝ほどの成体エビに急速に成長を遂げるのだ。
私はこのエビの腹身が大好物で、こういう時のためにアパートで密かに養殖していたのである。
ちょっとペットじみてきて可哀想だったけど、大きな10匹を思い切って捌いて背わたを取り、下拵えをした。5匹は小麦粉、卵、パン粉の衣を付け油で揚げてエビフライに、残りを天ぷらにしてツユをかけた豪華な天丼を作った。
「いただきます! エビちゃん」
箸を握って15分ほどで、米粒1つ残さず全て綺麗に平らげた。料理の仕方はコックさん見習いのマリオットちゃんに丁寧に教わったから完璧だった。
う~む、何をやらせてもバッチリだな私は。正直、自分の才能がものすごく怖い!
「そういえば……」
私はふと思い出した、オカダ査察官が興奮気味に語った事を。
『このケプラーカブトエビとやらは宇宙食として最適じゃないか。乾燥卵は何年でも保つし、宇宙空間においても水を注ぐだけで14日後にはインスタント養殖エビが食えるぜ!』
古びたアパートの2階の窓を開けて満天の星空を眺めた。久々にオカダさんと会って、長話でもしたいものだ。……今でも彼の事が好きなのかもしれない。瞬く星は、まるで意思があるかのごとく胸の奥を揺らめかせる。もうすぐ独身寮に入るから、この部屋ともお別れだな。
明日はイイ日であって欲しい。それを決めるのは私の頑張り次第なのかな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます