インドゥストリア
「ヴヴォォオオン!」
ようやくスシローは、ボクが拘束されている台を怪力と爪でテーブルごと破壊してくれた。
「痛てて……もっと優しく助けてくれないかな。一応、女の子なんだから」
「ブリュッケちゃん、急ごう。教授も助けなきゃ」
二人を拘束していたロープを解いて逃げ出そうとした時、奪った銃を構えた人影が玄関に立ち塞がった。アロハ山川こと奥さんだ。あの優しい笑顔は消え、別人のような夜叉の顔になっている。
「醜い化物め! 殺してやる! 容赦なく撃ち殺してやる」
「きゃああああ!」
室内で自動小銃をぶっ放すなんて無茶苦茶だ。ボクの叫び声より早く飛びかかったスシローは壁に足の爪を食い込ませると、あり得ない角度で奥さんに体当たりした。
M4カービンは曲がり、奥さんは台所の方に飛ばされて、落ちてきた大量の調理器具の中に埋まったのだ。
「ありがとう! スシロー! 助かったよ」
ボクはワーウルフ・スシローの背中に飛びついてゴロゴロした。黒っぽい毛が鼻に入ってクシャミが出るよ。
「やれやれ、ようやく助けられたか。この度はホント酷い目に遭ったもんだ」
ゴールドマン教授も、こわばった体をほぐしながら首を鳴らすと、ボクらと肩を叩き合って喜んだのだ。
☆☆☆
ビワ湖の畔に存在するちょっとした入り江。蒼く波静かに清き水をたたえる。
十字架のような拘束具に仲良く縛り付けられ、寝かされた老夫婦が二人。
「解いて下さい~、助けて下さい~」
「お願いだからトイレに行かせてよ~」
カピタン鈴木とアロハ山川だ。猿ぐつわしなかっただけでも、情け深いと思って欲しいな。
「やかましい! オーミタカシマ警察が来るまでの間、お前らはケプラーシャンハイガニをおびき寄せる生き餌になってもらうぞ!」
ゴールドマン教授が吐き捨てるように言う。しばらく隠れて待っていたが幻の珍味、輝くケプラーシャンハイガニはちょっと姿を見せただけでサッと消えてしまった。正に幻のごとく銃で狙う前に姿を消したのだ。
丸い甲羅に毛の生えた器用そうなハサミを持つカルキノスだが、1~2メートルほどの大きさしかなく小型のすばしっこい奴だった。噂通り、固くてまずそうなエサには見向きもしないのか。あ~あ……。
お疲れなのかスシローは人間の姿には戻らず、逆に完全なオオカミの姿になっていた。ボクはスシローに、とある事実を告白せねばなるまい。
「スシロー、実はね……」
「何だよ。さっさと言いなよ、もどかしいな」
「実はボクが今はいているピンクの下着は……あの奥さんに借りた物だったんだ」
「……つまり僕が見て興奮したのは、オバはんのズロース!」
スシローはヘナヘナと人間の姿にトランスフォームした。素っ裸になって情けなく座り込むと、肩を落として頭を抱えた。そんなにショックなのか!? どっちかというと中身の方が大事なんじゃないの?
結果から言うとボクの初めてのカルキノスハントは、邪魔が入って見事に失敗に終わったのだ。一体いつになったらカルキノスハンターのブリュッケです! と堂々と胸を張って名乗れる日が来るんだろうね。
教えてよ、ゴールドマン教授。そして裸のスシロー君。
【おしまい】
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