カリュブディス
見ちゃったよこの人。ボクの恥ずかしい所を。
「ヴ、ヴオォォォォォォ……ンン!」
興奮したスシローは一瞬のうちに
髪は伸び、色白の肌はモフモフに、鼻先と犬歯がバキバキと伸びて牙を剥くと上着が弾け飛んだ。そして怪力を発揮して後ろ手に縛られた縄を切断すると、両足のチェーンに噛み付き飴細工のように断ち切った。身長が倍近くになる頃には尻尾が生え揃い、鋭い爪を光らせ、熱い炎を思わせる息を吐き出す怪物が爆誕したのだ!
「スシロー! やったね! 中間形態が一番カッコいいよ」
あまりの出来事に老夫婦はスシローを見上げると、硬直したままだった。旦那さんが持つチェ-ンはリボンテープのように黒い化物の首輪に繋がり、ゆらゆらと揺れている。
「は・な・ぜ!」
180番ぐらいの荒目の紙ヤスリを思わせるザラザラの声を発した。
「へぇ?」
「手を放せと言ってるんだ!」
「ひ、ひいぃぃぃぃ~! お助けえぇぇぇ~!!」
パニック状態になったカピタン鈴木こと旦那さんは、手首の輪っかにはめたチェーンの事を忘却して、そのまま逃げ出そうとしたが、当然腕がビンと張って、その場にへたり込んだ。
スシローはチェーンをたぐり寄せると肩をがっちり掴み、後ろから旦那さんの薄くなった頭を鋼鉄のような黒爪で乱暴に梳いた。
「うわあぁあああ! 喰われるゥ!」
大口を開けたスシローは、並ぶ牙を金剛石のように鈍く光らせる。そしてチェーンに噛み付き、バラバラに奥歯で噛み砕くと、スイカの種のように旦那さんの頭上に少しずつ吐き出した。
「止めてくれえええ! 喰うなああアァ~!」
五月蠅いなあ……。優先順位を考えてよ、スシロー。早く拘束されたままのボクを助けて欲しいな。
旦那さんは心臓を凍らせる耐え難い恐怖のあまり、気がふれてしまったのだろうか。スシローの毛だらけの手からスルリと抜け出すと、笑いながら丸出しのボクに近寄ってきた。わぁあ、来るな!
「ヒィひひひ! ひゃははは! 恥骨を触っちゃうぞ~」
「ガヴゥゥッ!!」
スシローは右腕で旦那さんを力任せに張り飛ばした。もはや手加減なしだ。車に追突されたように宙を舞った体は板壁に激突して大穴を空けた。
「あっ! ゴールドマン教授!」
ボクは思わず叫んだ。壁の穴から登場したのは、椅子に縛り付けられたゴールドマン教授だった。隠し部屋に監禁され、猿ぐつわもされている。こりゃ思わぬ大発見にして感動的な再会? 埃を被って苦しそうにモゴモゴと何か言っているようだ。
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