アクイタニア

「こら! 起きろ、いつまで寝てるんだ!」


 旦那さんは床で眠ったままのスシローを足で蹴っ飛ばし、たたき起こした。


「う~ん、もう食べられないよ」


 スシローは両手を背中向けに縛られているのに、まだ寝ぼけている。だらしなく涎を垂らして……わざとなのか? 早く今の危機的な状況を把握してよ!

 台所から再び奧さんが部屋にやって来た。片手に持ったフライパンの底におたまを打ち付ける。


「あんたは荷車で彼女を猟のポイントまで引っ張っていく役だよ。さっさと起きな!」


 奥さんは笑顔のままでスシローをどやしつけた。


「スシロー! 早く助けて! ボクが悪かったよ」


「!!」


 ようやく目を覚ましたスシローは立ち上がった瞬間、バランスを崩してこけた。 両足首に手錠? のような物がかけられていたからだ。首輪までされている。旦那さんは首輪に繋がるチェ-ンをぐい、と引っ張った。


「運が悪かったな。ハハハ! 安心しな、お前もすぐブリュッケさんの後を追わせてやるよ。仲良く今日明日中に、カルキノスの餌食さ」


「兄妹かしら? それとも裸で一緒にいたって事は、若いカップルかしら? 恥知らずなマセガキかなぁ? まあ、どうでもいい事ね」


「お前ら、痩せすぎだ。母さん、もっと太らせてからの方が餌としてよかったかな?」


「アハハハ……ワハハハ!」


 スシローは、しばらく床に座ったまま目を閉じていた。よく見ると、だんだん髪の毛が逆立ってくるのが分かる。こいつは激怒している証拠だよ。


「奥さん、残念です。あなたの料理は本当に素晴らしかった。旦那さんも僕に優しくしてくれた事を、今でも感謝しています」


 夫婦は笑うのを止めなかった。聞こえていたはずなのに。


「ヒヒヒ、そんな良心に訴えるような言い方をしても無駄だ。そんなもんはとっくの昔にカニに食わせちまった」


「お腹一杯に食べさせたのは、油断させるためよ。睡眠薬を少しずつ皿に混ぜ込んで、勘の鋭い奴をだまくらかすためなのさぁ!」


 そこまで聞くとスシローはため息をついた。これも人間が心の奥底に覗かせる本性の一部なのかと。


「ブリュッケちゃん、僕に謝らなくてもイイよ!」


 スシローは拘束されたまま、ゆらりと立ち上がった。夫婦は自信があるのか身構えもせず、微塵も緊張しなかったのだ。


「ゴメンよ、許して!」


 そう言うのが早いか、スシローは縛り付けられて身動きとれないボクの下半身に飛びついた。


「きゃあ!」


 ボクのズボンに噛み付いた彼は、思いきり歯を食いしばり、お腹のボタンを引きちぎった。そのままの勢いで下にずらすと、ボクがはいていたピンクの下着が露わとなったのだ。


 

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