ジャニーナ

 話は湖岸の所に戻る。幸いな事にゴールドマン教授から緊急連絡用の携帯端末に着信があった。すぐに切れてしまったから、よっぽど慌てていたのだろう。それっきり音信不通となってしまったが、教授が生きている事が分かっただけでも安心だ。

 漂着物を焚き火で燃やしていると、オオカミになったスシローは、ふて腐れて寝てしまった。そんなに怒らなくてもいいのに。ボクはアニマロイドのスシローも好きだし、ヒューマノイドのスシローも両方好きなんだけど。でも一度オオカミの姿になったら、そう簡単に人間の姿には戻れないのかな? 何か条件があるって聞いたけど何だったっけ?

 眠っているうちに徐々にだがスシローはヒューマノイド型に戻っていった。その後30分ほどかけて元の完全な人間の姿になったのだ。素っ裸の状態のスシローに、何もないよりはマシだろうと思って着ているサファリシャツをかけてやった。全裸の男子高校生(?)の隣にはショーツ姿である半裸の女子中学生。いいのか、コレ? このシチュエーション……ないわ~。でもこうなったのも、全てボクのせいなのであった。

 

 暗闇から人の気配がした。ひょっとしてゴールドマン教授? 百戦錬磨の教授がカルキノスにそう簡単に食べられたりはしないと確信していたが無事で良かった……? スシローがガバッと起きて犬歯を覗かせる。

 透明の植物が点在する真っ暗な奇岩地帯からヌッと姿を現したのは高齢の夫婦だった。


「子供二人だけ? おやおや、こんな辺鄙な所で裸になって泳ぐとは命知らずもいいとこだ」


「何を言ってるのお父さん。ふふ、……若いって素晴らしい事ね。羨ましいわ」


 これには驚いた。近くに人が住んでいたのか。男性は長靴を履いた白髪混じりの漁師風の男。女性はエプロンを着けた優しそうなオバ様だった。


「こんばんは。大人とはぐれて困っているんです。猟銃をもった紳士風の男性を見ませんでしたか?」


 ボクが尋ねると夫婦は顔を見合わせて首をかしげた。


「さあな、ここら辺りで人には出会わなかったな」


「あなた達、服をなくしたのなら家まで来なさい。お腹もすいてるでしょう」


 スシローは破けた服を腰に巻き、自分の護身銃M4カービンを背負うと舌を出して尻尾を振った。ただし尻尾があるように見えたのはボクの脳内イメージ。


「どうする? スシロー。 こんな所にいても朝まで命があるかどうか分からないよ」


「そうだな……すっかり夜になったし、装備は全部ゴールドマン教授のリュックの中。乗ってきた車までの距離はかなりあるから、もう戻らない方がいいかも。緊急連絡用の端末にも繋がらないんだよね」


「万事休すかぁ。ここは素直にお世話になった方が賢明でしょ。ボクは何だか心細くて仕方ないよ。朝になったら教授の捜索を始めよう」


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