ブルディガラ
ボク達は老夫婦に連れられて、二人が住んでいるという屋敷まで案内される事になった。
「ほう、君はよく手入れのされた、いい銃を持っているね」
旦那さんは
「旧いけど、亡くなった父親が残してくれた大切な形見なんですよ」
「へえ、女の子なのにカルキノスハンターにでも、おなりになるのかしら」
奥さんは感心したように言った。男女同権が確立されたのは、つい最近の話だが、常に命の危険を伴うカルキノスハンターと言えばB級奴隷……男の世界だったのだ。
「そうなんです。ボクは女性初のカルキノスハンターになるために修行を始めたばかりです」
ライトの光に集まってくる小型のトビエビを追い払いながら奥さんは言う。
「それは凄い事ね。もうハンティングには成功したの?」
「いえ、まだ一体も……」
スシローはサファリシャツをボクの肩にかけたので、原始人のように粗末な腰巻きだけの状態なっていた。月を見ようが見まいが人間のままなんだ。まあ、化物の類いじゃあないからね。
「僕らケプラーシャンハイガニを追っていますが、この調子じゃまず無理でしょう。二人共、猟に関しては全く未経験のド素人ですし」
スシローの遠慮のない言葉に旦那さんは呵々大笑したのだ。何だかちょっと不愉快だな。笑い声が闇に吸い込まれる黒一色の世界の中、人家の灯りがポツンと見えてきた。
屋敷は古く、黒ずんだ塀に透明の苔がへばりついている。吹き下ろしてくる風に耐えられるように頑丈な石造りの小山みたいな外観だった。昔に図鑑で見た地球の世界遺産、アルベロベッロのトゥルッリにそっくりだな。
着替えさせてもらった後、漁師の家らしく湖の恵みをふんだんに使った料理を振る舞われた。エビ豆に甲冑魚の後ろ半分の佃煮と姿焼き、ふなずしパイ、巨大シジミのスープなど。どれも珍しい奥さんの手料理だ。湯気の中に顔を入れると、ふんわりと空腹を刺激する素敵な香辛料の匂いがした。
「わあ! どれも美味しそう。スシロー、よかったね。ボクらはツイてるよ」
「さあ、お腹が空いているだろう。どんどん食べたまえ。ハハハ、遠慮はいらんよ」
口髭を整えてテーブルのホスト席に着いた旦那さんは、そう言うと台所の奥さんの所まで行った。
「はい! いただき……ます」
スシローの方を見ると意外にも冷静というかテンションが低かった。もっと野良犬のように、がっつくかと思ったんだけど。旦那さんのダブついた服を着たまま『ありがとうございます』と言った後、ボクに小声で伝えに来た。
「いいのかい、ブリュッケちゃん。何かおかしいと思わない?」
「んん? 何が?」
フォークとナイフを握りしめたボクは、今にも料理に手を付けてしまいそうだ。
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