ギーゼラ
粗末なベッドに載せられていたが、ここはどこなのだろうか。ビニールハウスを連想したが、白いテントの張られた簡易な救護施設内かな。左の腕には針が刺され、チューブの先には点滴バッグが繋がっている。
「しっかりして、オカダ君……」
聞き覚えのある声だな。汗の滲んだ顔を、声のする方に向ける。
ようやく焦点が合うと、白衣を着た美人が椅子にかけているのを確認できた。
「シュレム! 良かった……無事だったのか! 俺は、俺はてっきり……」
「あなたこそ、もうダメかと思ったわ」
シュレムは僕を抱きしめてくれた。この惑星に来て、初めて感情のこもったハグをされた気がする。本当に嬉しい。嬉しくない訳がない。視野狭窄気味の灰色世界が、だんだんと白夜のような明るさを取り戻してくる。
同時に名誉の刀傷は、ナノテク絆創膏の力で、みるみる塞がり治っていく。手袋をはめた手の甲で涙を拭ったシュレム。彼女がようやく、はにかんだ笑顔を僕に見せてくれた。
今までに見た事もない一番の美しい笑顔だった。
「……高度に発達した科学は魔法と区別がつかないとは、よく言ったものだ」
男の野太い声が背後で聞こえた。誰だ、感動の場面を邪魔する無粋な奴は!
シュレムが会釈して僕に紹介した。B級奴隷なのに医者だって?!
「ありがとう、Dr,メガネ。ほら、あなたも感謝しなさい。背中を斬られてから、ずっと付きっきりで治療してくれて、輸血までしてくれたのよ」
どこかでお会いしたような……右手に傷跡がある。まだぼんやりとした頭で考えてみる。
「思い出したぞ! 確か湖賊ビルショウスキー一家と行動を共にしていた人!」
「ハハハ……よかった。まだ覚えていてくれて」
白衣のドクターは眼鏡を拭いて、恥ずかしそうに笑って見せた。以前よりこざっぱりしたが、更に痩せてしまったようだ。横にいたランドルト弟は、感染防止が第一の場所なのに戦闘服の埃を手で払いながら話しかけてくる。前から思っていたが、何だかカクさんとキャラがかぶる奴だな。
「どうした? 大丈夫なのか、オカダ査察官! 頭でも打ったのかと心配したぜ」
そう言うと彼は不精ヒゲを生やした薄汚い口元から白い歯を見せた。ドクターを呼び寄せた手柄を主張するのだろうか、得意気な満面の笑みだ。
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