エドゥアルダ
二人は車内で揺さぶられる。だが、車外に出ればすぐにケプラーモクズガニに捕らえられ、骨まで貪り食われてしまうだろう。
よく見ると腹に外子を抱いている。こいつはメスだったのか……産卵期に栄養を求めて人間界にまで遠征してきたのだろうか。なおもケプラーモクズガニは、もて遊ぶように車を転がせる。
アディーの豊満な胸がカクさんの枕になり、チトマスのプルンとしたお尻がその上に落ちてきた。
「どうしよう、潰されちゃうよ」
チトマスの股の間からカクさんが答えた。
「ぐはあ! 女体に溺れ死ぬ! もう死んでもええわ!」
運良く横転した車が元に戻った。チャンスとばかりチトマスは全速前進する。唸るジェネレーターが壊れそうになるが、文字通り死に物狂いだ。
ケプラーモクズガニも横ばいで追いかけてくる。あまりに地面の状態が悪く、速く安定して走れない。
そのうち駆動系に負担がかかり、サスペンションから異音が響いてくる。車内の荷物が踊り狂い、そのうち水溜まりを前についに停止してしまった。
「もうだめぇ! い、痛い」
アディーは車内のあちこちに体をぶつけて、肌を露出させている部分は傷だらけになってしまった。チトマスもハンドルに頭を打ちつけて半分気絶している。
不整地での運動能力は、カルキノスの方が一枚上手だった。
アディーは命がけで外に出て、小銃で対抗しようかと考える。運が悪ければ……。
絶望に打ちひしがれていた時、窓からケプラーモクズガニが、そろそろと近寄ってくるのが見える。もうあまり迷っていられない。ドアロックを解除して頭を出し、M4カービンを構える。
その時、はるか上空から爆音がせまって来た。アディーは急いでスタリオン高機動車のドアを閉める。
上空からの正確無比な射撃で、閃光となった砲弾がケプラーモクズガニめがけて吸い込まれるように次々と着弾する。徹甲弾であったが次の瞬間、爆発の衝撃波がスタリオンを襲い、重い車体を倒れんばかりに揺らした。
「うわ! 今度は何なの? 何なのよ」
チトマスはシートにしがみ付き、悲鳴を上げる。
しばらくしてからアディーは、様子を伺いに外に出てみた。低空を旋回している、あのブーメラン型の航空機には見覚えがある。
「確か、あれはオカダさんが操縦する飛行機……」
灰色のスマートな機体“秋水”は、翼を振って挨拶する。そして急上昇して、あっという間に雲の中に入り、見えなくなってしまった。
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