カリフォルニア

 アディーはケプラーモクズガニの残骸を確認した。コゲ臭い匂いが辺りに充満している。あれほどの重甲殻を誇る甲羅全体が、まるで紙細工のようにあちこち貫通し、地面ごと穴だらけになっていた。着弾の衝撃で脚がバラバラになり、元の形が分からなくなっている程だ。抱いていた卵は孵化寸前だった。

 泥水に散らばって落ちているゴルフボール大の卵の一個を拾い上げる。母を失ったカルキノスの赤ちゃんが殻に透けて見えた。あれほどの衝撃から奇跡的に生き残ったのだ。中で回転しながら元気に動いている。


「ごめんね……」


 アディーは両手の中に卵を包んで一筋の涙を流した。

 チトマスとカクさんは抱き合って、カルキノスに勝利した喜びを分かち合っている。


「……お~い、大丈夫ですか……」

 

 アディーが振り向くと、オーミモリヤマ市街の方角から一頭のオオカミが、毛皮をなびかせながら走って来た。


「あれは……カクさん? 何で?」

 

 息せきながら走って到着したのは、紛れもなく見慣れたアニマロイドだった。

 車内にはチトマスにセクハラ中のカクさんがいる。


「カクさん?! ……あなた双子だったの?」


「いいえ、私はカクさんと同じオオカミ型アニマロイドのガーファンクルです」


「ガーファンクルさんでしたか。……あなた達、ホントに瓜二つね」


「そいつと一緒にしないでもらいたい。そっくりですが、これでもアニマロイドのリーダーですから」

 

 カクさんはチトマスの顔を舐めまくり、汗の臭いを嗅ぎながら胸の谷間奥深くにまで舌を伸ばしてきた。その後カクさんが、どうなったのか述べる必要もないだろう。

 頭痛が治まらず、ふらふらとしたチトマスがひょっこり顔を出した。あちこち車内でぶつけたのか、服が出血で真っ赤に染まっている。


「地球製アニマロイドだね。私にも一体欲しいよ……ありがとう、ここまで助けに来てくれて」


「遅くなって申し訳ない。オカダさんが心配していましたよ」


「総督府の方は、一体どうなったのかしら……」

 

 アディーは煙の上る戦場になった市街地を、傷だらけになった顔で眺めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る