ビュドロザ

 巨大装甲殻類カルキノスはゲートの壁沿いに進んできたが、ピタリと止まってしまった。スタリオン高機動車が付けた轍が気になったのか。それとも半没させた地雷に違和感を覚えたのか。もしくは人間の匂いを嗅ぎつけたのか……とにかくケプラーモクズガニは、固まったように動かなくなった。


「何よ、あと一歩! もうちょっとなのに!」


 アディーは、唇を噛み締めて悔しがった。チトマスもグローブをはめた拳を握り締め、装甲ドアを叩いて舌打ちする。


「遠隔操作で地雷を爆発させる事はできないの?」


「う~ん、古いタイプだからね。100キロ近くの重さが加わらないと反応しないわ」


「あれだけたくさんの足があったら、どれかで踏んでくれないかしら」


「実は対蟹地雷で倒せたケプラーモクズガニは一体もないの」


「がっくり……」

 

 アディーは両肩を落として車内で脱力した。


 予想に反してケプラーモクズガニは進行方向を変えてきた。最短距離で仲間の死骸の所に横ばいで進んで来る。


「あちゃー、どうするアディー」

 

 ここからでは遠すぎて、彼女の腕では狙撃できない。


「正直……あと一発であいつを倒せる自信はないわ」


 所詮アディーは専門の訓練を受けていない素人だ。チトマスは射撃を交代しようかと考えたが……。


「一体目の近くに地雷を一個置いたでしょ。アディー、あれを狙うのよ」


「チトマス、私もそう思っていた」


 ケプラーモクズガニは仲間の屍にたどり着き、覆いかぶさった。共食いで命を繋いできたのか……巨体を維持するのも大変なのだろう。ハサミを器用に使って死骸の解体を始める。


「どう? ……そばに置いた地雷は踏みそう?」

 

 チトマスに尋ねると、うまく避けているらしい。さすが知性があると言われているだけの事はある。


「できるだけ近付くのがいいけど、失敗して逃げる事を考えたら、ここからの方が安全ね」

 

 アディーの腕前ギリギリの狙撃距離だ。

 観測すると無風状態で太陽は背、気象条件は良好。


「スコープ越しに地雷を発見したわ」

 

 よく見ると現在、装甲殻類カルキノスの真下に位置して絶好の機会だ。


「よし、一か八かやってみるわ」


「いいよ、覚悟を決めよう」

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