ラカディエラ

 時々ハサミが視界に入り狙いにくい。だが、やがてリズミカルにハサミを動かしている事に気付く。

アディーは頭の中で拍子を取りながら呼吸を止め、無防備の瞬間を狙う。一分近く呼吸を止めると、心臓の鼓動からくる脈拍の揺れまでもが狙撃の邪魔に感じる。


「今だ!」

 

 ハサミが視界から消えたと同時にトリガーを引く。凄まじい反動と硝煙で目が開けていられない。

……やったのか?

 チトマスが急いでこの場を離れるように叫んだ。口元を狙ったはずの12.7mm弾は右ハサミに命中し、下方のツメを折り飛ばした。食事を邪魔されたモクズガニは、逃げ出すかと思われた。

 だが逆に、こちらに向けて重い脚を交互に動かし、横ばいで歩き始めた。赤く染まった泡を吹きながら、どんどん近付いてくる。カクさんはスタリオン高機動車をスタートさせ、横ばいの方向に合わせて逃げる。

 屋根のハッチから頭を出したアディーはケプラーモクズガ二に向けて連射。図体がでかい分、的が大きい。1発が歩脚に命中し、ついに逃げ出した。


「あと2、3発しか残ってないよ」


 サポートするチトマスが叫んだ。化物は荒れた畑の中をジグザグに逃げているが、そのまま追跡する。背を向けた巨大ガニの黒っぽいグリーンの甲羅に1発撃ち込む。かなり距離は近い……だが角度が浅かった。

 避弾径始の効果により銃弾は弾き飛ばされてしまった。


「もういっちょ!」


 車の振動により、いい加減な射撃だったが、偶然カニミソ付近に命中した。次の瞬間、貫通した弾がカニのふんどし部分を吹き飛ばす。

 ……やっとケプラーモクズガニは動きを停止させて、重い甲羅を地面に着けた。


「やった、やっと一体仕留めた」


 チトマスとカクさんが歓喜の声を上げる。

 アディーはM4カービンを手に、慎重に装甲殻類カルキノスに近付いていった。今までに数回しか見た事がないが、何という巨体だろう。生物のデザインとしては美しささえ感じる。重力が強いと言われるこの惑星で、ここまで成長するとは、宇宙の神秘と言わざるをえない。特徴的な毛をハサミにほとんど生やしていないので、まだ若い個体なのだろう。


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