コンスタンティア

 ザイデルD-15部隊の動きが鈍くなった事実を、ゴールドマン教授は見逃さなかった。


「指揮系統に混乱が生じているようだ。一心同体の団結力が自慢のザイデルD-15部隊は、攻撃には滅法強いが、防御戦は不得手なはずだ。ケプラー22b総督府をバックにした陣地防衛にもほころびが目立つ。攻めるなら今がチャンスだ」


「司令部にも一発攻撃を加えてやる!」


 僕は電神・秋水を操作して、ケプラー22b総督府通用門側にあるとされるザイデルD-15部隊の本陣にスマート爆弾を放り込んだ。閃光の後、腹にビリビリと地響きが伝わり、遅れてやってくる鈍い音が戦場のリアルさを知らしめる。

 砂煙と黒い塵雲が晴れるころ、戦場に奇妙な空白地帯が生じた。


「何だ何なんだ?! 戦場が割れてゆくぞ」


 僕が電神・秋水からの偵察映像をつぶさにゴールドマン教授に報告する。


「ええ? 何だって? どれ……」


 双眼鏡を覗く教授は、急に手を震わせると、金魚のように口をパクパクさせながら何か言ってくる。


「……オカダ査察官、逃げろ」


 僕とスケさんはゴールドマン教授の方に向き直ると、同時に問いただした。


「何て言ったんだ? 教授?」


「今すぐ逃げろと言ったのだ! 奴だ! 奴が現れたぞ!」


 ゴールドマン教授の目は絶望に打ちひしがれて焦点が合わず、死人のように血の気が引いた顔を手で覆うと、更に呆然となった。


「どうしたんだ。何が起こったんだ。さっきまでのノリノリな勢いはどこへ行ったんだ」


「もうダメだ! S級奴隷のブエルムが現れたんだ。皆殺しにされる……」


 スケさんとランドルトは、その場にへたり込みそうになったゴールドマン教授の両肩を支えた。


「噂には聞いていたが本当に奴が現れたぞ。史上最凶・最悪の戦士だ。地下牢で死亡説や、街で殺人の目撃談もあったが……何とザイデルD-15部隊にいたとは」


 そう言えばザイデルD-15部隊の隊旗を見た時も、大いにうろたえていたよな、このオッサン(失礼)、あの時と全く同じだ。何て小心者で臆病なんだ。

 ひょっとすると……この歳になるまで革命のリーダーとして奮起せず、びくびく過ごしていたのは、このチキンなハートのせいなのか。だから他人を革命のリーダーに推して育てる事はしても、自分からは怖くて今まで何もできなかったんじゃないのか。


「うああ! “師匠殺しマスターキラー”ブエルムだ! ケプラー22bが生んだ最強の怪物がやって来る。奴と絶対に戦ってはならない。睨まれただけでも命が縮まり、生気が吸い取られるという……早く逃げるんだ、オカダ査察官、本当に命がいくつあっても足りんぞ!」

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る