エンマ

 上の階まで駆け上がると他の部屋の家族達が迷惑そうに僕を睨んだ後、ドアを乱暴に閉めた。

 シュレムの部屋はショットガンでドアのヒンジやノブが破壊され、バールでこじ開けられていたのだ。つまり僕が駆け付けた時には、すでに寮の部屋は荒らし放題にされてしまった後だった。


「畜生! 何て酷いことをしやがる。もう許せねえ!」


 興奮気味のチトマスも一緒に部屋に入った。


「これは……言葉になりませんね。私がちょっと仕事で目を離した隙を狙われてしまいました。どの道、警察官である私は、中央のデュアン総督が直接指揮する私兵には逆らう事もできなかったはずですが」

 

 僕は散らばったマリオットちゃんの教科書や参考書を拾い集めた。綺麗な字で書かれたノートには靴の足跡が付いて一部破れている。この間皆で集まって話したリビングルームは、地震の後のようにひっくり返されてしまった。

 シュレムとマリオットちゃんの割れた写真立てを床から拾い上げる。ケプラー風の煌びやかなドレスに身を包んだ姉妹の笑顔が印象的だ。おそらく前に聞いた成人式の時の写真だろう。

 全ての部屋が土足で踏み荒らされ、クローゼットからはブリュッケちゃんの服が掴みだされていた。タンスの引き出しは床に落ち、下着も散乱している。あろうことか彼女の父、ヒコヤンの形見である赤いヘルメットもゴミ箱と一緒に無造作に転がっていた。


 割れた食器類と落ちた洗濯物を片付けていると、いつの間にか現れたアディーが申し訳なさそうに伝える。


「シュレムは勤め先の病院で仕事中に拘束されたそうです。どうもB級奴隷のオカダさんを高額で購入して専属の奴隷にした事をデュアン総督が聞きつけて激怒したみたいです。何がそんなに気に入らないのか分かりませんが、シュレムを再教育施設に閉じ込めるみたいです」

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