クロリンデ

 僕は全力で、歩いてきた道を走って戻った。グレーのスウェット上下だったが、汗が噴き出てきて止まらない。上着を道端に脱ぎ捨るとシャツ一枚になる。ガソリンスタンド前で息を整えるため、両膝に手を付いて屈んだ。

 肩で息をしていると、B級奴隷と思しきブルーの汚い作業服を着たオヤジが水を持って来てくれた。


「おお、あんたオカダ査察官だね。レジスタンス活動、がんばっとくれよ。ワシも奴隷解放運動に参加しているんじゃ」


「ありがとう。パトカーが走り去って行ったが……?」


「あ~、かなり前だが病院の方に固まって行ったかな。でも、もう一段落して騒ぎは収まった感じだ。今日は何かあったのかね?」


「分からん。今から確認に戻るよ」


「じゃあな、困った時は協力するぜ、査察官」


 オヤジに挨拶して別れてからメロスのように走って10分ほどで女子寮に着いた。

 前の舗装されていない駐車場には、沢山の轍が地面に刻まれていて、アスファルトには泥でできたタイヤの跡が無数に残っていた。

 誰かミニパトに乗った警察官がいる。婦警が二人も。よく見るとアディーとチトマスだ。


「アディー、それにチトマス、ここで何かあったのか?」


 全力で走って汗まみれになった僕を見て、アディーは両手で口元を覆ったが、すぐ彼女らしく冷静になって答えてくれた。


「オカダさん、落ち着いて。今日総督府からの強制捜査があったみたいなんです」


 チトマスも大きな魚を寸前で捕り逃した釣り人のような顔をした。


「オカダ査察官、申し訳ありません。連絡がずいぶんと遅れてしまいました。一生の不覚です」


 僕は二人からの話を聞いたが、ロクに返事もできなかった。急いでオートロックの玄関を開けると、二階の部屋まで全力で上がったのだ。

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