エルヴィラ

 オーミモリヤマ市の空は今日も快晴だった。女子寮の2階からでも薄ぼんやりと、はるか彼方にそびえ立つケプラー22b総督府の荘厳な建物が確認できた。KR線の軌道を越えた駅の反対側にあるのに、この威圧感。何だか虫唾が走る。

 待ってろよ、デュアン総督。再び謁見する事になるだろう、そのうちにな。今度はアポイントメントなしで、いきなり入浴中にでも訪問するかもしれないぜ。


「オカダ君、何してるのよ! 朝食の準備の途中じゃないの」


 今日からオーミモリヤマ市民病院の医療現場に一時復帰するシュレム様の声がベランダに届いた。


「今日、傘がいるか、洗濯日和かどうか、外に出て確認しているんだよ」


 ピンクのパジャマの上を脱ぎながらマリオット様が丸出しで自分の部屋から出てきた。


「う~、汗をかいて気持ち悪い~。今日の朝食は何かな?」


「……マリオット姉さん、ベランダにオカダ君がいるんだよ」


 ずれたアニマル柄パジャマの下を引っ張り上げ、乱れた髪を手ぐしで直すブリュッケ様がリビング・ダイニングの席に座った。


「キャッ! いやぁ! オカダ君に見られたかも」


 マリオット様はかがんで手にしたブラのホックを前で留め、ぐるっと回してカップを当てると肩ひもを両腕に通したが、もう手遅れだった。……全部見ちゃったもんね。


 網戸と白いレースのカーテンを開けて僕が部屋に戻ると一斉に『おはよう』の言葉が耳に飛び込んできた。朝一番の挨拶の躾がなっている家庭なんだな。


「今朝のメニューはパンとフライドエッグとシガラキ焼きです」


「最後のは何だー?!」


「知らないのかい? 俺の国で昔から朝に食べられていたという、魚の形をしたパンケーキ生地の中に砂糖で煮た小豆を入れたものだ。おお、今ちょうど焼き上がったから、アツアツの内に召し上がれ」


 手製の金属製魚型からシガラキ焼きを外すと、部屋中が甘い匂いに包まれて朝から全員、胸やけがした。



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