アナヒタ

 アディーはチトマスの方を見て、次に何を言うのか注目した。カクさんも鼻をヒクヒクさせて女子寮の臭いを精密に分析するのを中断する。


「ついに時はきたのです」


「まさか……やれと」


「そのまさかです。例えばロウソクは火を点けないと、そのままずっとロウソクであり続けますが、ただそれだけで役に立つことはありません。火を灯すことによってロウソクは明るく輝き、本来の意味を知る事になるのです」


「ケプラーに火を点けて革命を成し遂げよ……と」


「それができるのは地球人、つまり植民惑星査察官であるオカダさんしかいません」

 

 チトマスが神妙な顔をして隣の顔を見つめた。アディーは目を閉じて頷いた後、静かに口を開いた。


「実は休職中のシュレムなんだけど……近々自由を奪われて、総督府の再教育施設に入れられる可能性があるの」


「何だって! 同居しているマリオットちゃんとブリュッケちゃんの生活はどうなるんだ」


「そうね……私とチトマスとで保護する事は可能だけど。ゴールドマン教授と協力しながら、そうならないように私達もできるだけがんばってみるわ」


 なだめるようにチトマスも口を開いた。


「奴隷長のゴールドマン教授は昔からデュアン総督に顔が利くのです。これでも数々の圧力から皆を守って奮闘しているんですよ」


 一同はっとして奥の部屋の方に向き直る。


「お姉ちゃんを助けてあげて」

 

 部屋から出てきたマリオットちゃんは、ゆるめのスポーツカジュアルな服に着替えたスケさんに抱きしめられた。

 何だか心の奥底から熱い物がこみ上げてくるのを感じて呼吸が荒くなる。


「火を点けるのがロウソクじゃなくてダイナマイトにならなければいいんだが……」


 僕は拳を握りしめた。指の間から血が滴り落ちんばかりに。


「その時は、この星の全てが木端微塵になるぜ」


「いや、それはやりすぎでしょ。もっと冷静になってよ」


 スケさんに優しく突っ込まれてしまった。

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