ティルザ

 玄関からチトマスの顔を見てマリオットちゃんは首を傾げた。すると長身でマニッシュな出で立ち、オールバックポニーテールに制帽をキメたチトマスは白い歯を見せたのだ。


「婦警さん? アディーのお友達ですか?」


「ふふ、初対面だったかな。シュレムの妹さん!」


「ひょっとしてオトコ女のチトマスさんですか? 姉さんが言った通りの人!」


「違う! 私は可憐な女だ」

 

 制帽を脱ぎ、わざわざ水色の制式シャツの襟元をはだけ、胸の谷間を見せつけるように強調した。

 奥からアディーがやってきて、マリオットちゃんに並んだ。


「あら、チトマス? 勤務中にどうしたの」


「まさかぁ! 今から帰るところ。着替えるのが面倒なので違反承知でこのままなの。堂々としていると意外とばれないものよ……ってオカダさん!?」


「オイオイ、そんな面倒くさがり屋のどこが可憐なんだ」

 

 僕が様子を見に玄関まで出向くと、チトマスに早く労働に戻るように促された。だが申し合わせていた僕らは、三人で彼女を無理矢理部屋に招待する事にしたのだ。マリオットが右腕、アディーが左腕を掴み、僕はパンストを破らないように注意しながら靴を脱がせる。そのまま鍛えた腕力で、柔らかなお尻をリビングの部屋に向かって押していった。


「ひええ~、皆して私に何をするんですか!」


「まあ、まあ、まあ……休んでいって下さいよ~」


 またオートロックのエントランスを誰かが通過した。そして風のような早さで、瞬く間に二階のドア前までやってくる人影がある。鍵が掛かっていないのをいい事に、女子高の制服を着た女の子がドアを開けて飛び込んできた。ローファーが二足、マットの上に転がる。


「うわっ! スケさん!」


「オカダく~ん!」


 スケさんはチトマスの頭を跳び箱のように跳び越して、僕に全力で抱き付いてきた。そして遠慮もなしに両手両足で僕を羽交い絞めにしてきたのだ。

 悲鳴を上げる間もなかったチトマスは、頭を押さえて目をぱちくりさせるしかなかった。



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