プリムノ

 ベテラン風情の一人の婦人警察官が近寄ってきて、我々に威圧的な態度で語りかけてきた。


「男はID番号、女は身分証明を見せろ」


「私は病院の仕事帰りに、お風呂に寄っていただけです」

 

 自転車からさっと降りたシュレムは黒制服達に囲まれている。くそ、ヘマしたな……僕は電動自転車に乗ったまま最近発行された自分の仮IDを伝えた。


「貴様、地球人のオカダ・アツシだな。何でワンピースなんか着てるんだ?」


「それがどうかしたのか? おまわりさん」


 制帽からパーマの髪がこぼれる厚化粧の年増婦警だ。低身長なので制帽のつばを上げて僕の顔を確認する。眩しいハンドライトを消せっての。


「B級奴隷の外出許可時間を軽く超えている。ビエリ奴隷訓練所で飯抜きの夜になりそうだな」


「何だと、放せ!」

 

 無駄だと分かっていても抵抗する。拘束してくるのは同伴してきた作業服姿のB級奴隷じゃないか、解放のために頑張っているというのに、お前らときたら……。

 無理矢理パトカーに押し込められる時、シュレムまで拘束されるのを垣間見た。喧騒の中でも婦警との会話が耳に入ってくる。


「看護師さん……あなたは、ずっとマークされていたのさ。言い訳は署でゆっくり聞く事にしよう」


「よせ、オバはん、その子は関係ないんだ!」


「オカダ君!」

 

 白衣の天使も白黒カラーの車の中へ囚われの身となったようだ。


「シュレム! いつか借りは必ず返す」


「ええ、私も……次に会った時ね」

 

 僕とシュレムの間には数メートルの隔たりしかなかったが、随分遠くの距離に感じられたと思う。二台のパトカーは別々の目的地に向かって暗い道を出発した。回転灯は人気のない住宅地を不気味に赤く照らし出し、サイレンは夜の静寂を掻き分けていく。


「くそ、ケプラー22bでも携帯電話が普及していればなぁ」


「だまれ、B級奴隷は所持不可だ! 女装してもA級奴隷にはなれないぞ」

 

 車内で同席した中年婦警は本当にイヤな奴だった。シュレムの前では我慢していたオナラを、気付かれないようにミュートで放出してやった。だが婦警どもは花粉症? アレルギーなのか鼻詰まりぎみで、全く効果が見られなかったのが少し残念。



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