フーベルタ
「何だって! それじゃあ……」
「とても怖かったわ。そして私は全てじゃないけど知ってしまった。あなたの……」
「ナノテク・コンタクトによる脳姦現象が起こったのか」
僕の暗い過去、死んでしまった家族、溢れる気持ち、ひた隠しにしてきた人に言えない衝動……そしてはっきりと自覚してきたシュレムへの淡く、それでいて熱い恋愛感情。それらの多くがコンタクトを媒介として、言葉以上の情報で彼女に直接伝わってしまったのだ。訓練されたコンタクト・ドライバーでもないのに、奇跡的に波長が合致し脳姦されたシュレムは今、どんな気分なんだろう。
それにしてもナノテク・コンタクトにメモリーされていた個人情報が漏れて他人に、それもシュレムに深淵な感情に至るまで読み取られてしまうとは。赤裸々という言葉が存在するが、自分の裸をまじまじと直視され、隅々までルーペで観察されたような気分だ。死ぬほど恥ずかしい、穴があったら入りたい。
全く、ナノテク・コンタクトのセキュリティの甘さはどうなってるんだ! だが彼女にならば知られても……誰にも明かさなかった心の襞に溜まっていく、黒く淀むような柔らかさの恨めしい乾きを……むしろ彼女にだけは知って欲しかったのかも……しれない。
その時、前方より強力なライト光が我々に容赦なく浴びせられた。
……しまった、夜間とはいえ油断しすぎた! この格好は目立ち過ぎると思っていたが。
「そこの二名、停止しなさい。自転車から降りて!」
拡声器を握る女性は婦警だがアディーでも、もちろんチトマスとも違った。黒い制服……噂に聞く反乱分子を掃討する秘密警察なのか。付近にはパトカーらしき車も停まっている。今になって回転灯の赤いライトが点灯し、夜の闇を灯台のように切り裂いた。
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