アレテイア

 シュレムが言うようにS級奴隷のゴールドマン教授は、オーミ姉妹社という会社の代表をしているほどの資産家だから、資金援助を頼めば快諾してくれるかもしれない。

 見も知らずの金持ち有閑マダムの奴隷になるくらいなら、シュレム様の下僕となって毎日サービスをしてさしあげる方がよっぽど救われる。

 朝も夜もシュレム様への献身的なご奉仕……医療現場で疲れた体をバスルームにて全身あわあわで洗い流し、更にオイルマッサージでスベスベぴちぴちな肉体を上から下まで細部にわたり丁寧に揉みほぐす。夜はベッドの中で裸のまま……あれやこれや……あぁ~! これにスクール水着姿のマリオットちゃん、いやしくもブルマ姿のブリュッケちゃんまで加わったりしたら……ひぇ~!


「ちょっと、アンタ、何いやらしい想像をしてるのよ。モロ顔に出ているわよ!」


 シュレムの大声で、はっと我に返った。


「いえ、ただサドル上にて考える人のポーズを取っているだけですが」


「顔が猪八戒そのものになっているわ」


「そんな……豚骨ラーメンの材料みたいな顔だなんて、心外だな」


「人が真面目な話をしているのに、いい加減にしなさい!」


 シュレムに罵倒された。これだ、この感覚が何だかしっくりくるのだ。もうシュレム様に購入されてもいいかも。アマゾネスに一生仕えたい……って、心根から骨の髄に至るまでB級奴隷になってしまったのか、俺は。

 いや、たとえ死んでも最後まで男のプライドは捨てねえ! 死んだ両親や兄に申し訳が立たないよ。

 急にシャキッとして自転車を漕ぎ始めた僕に、シュレムは怪訝そうな顔でスカートを押さえて座り直すのだった。


「オカダ君、実はまだ伝えていない事があって……」


「ん、なんだ?」


「私、興味本位で、あなたから預かっているコンタクトレンズを両眼にはめてみたの」


「ええ?」


「すると、不思議な事にオカダ君の……地球にいた頃かな、かなり昔の記憶が、つぶれてしまいそうな感情と一緒に、どっと私の頭の中に溢れだしてきて……」

 

 僕は自転車のブレーキレバーを強く握り、叫び声のような甲高いブレーキ音を響かせると、再び路傍に急停車させた。



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