第22章 シュレム・カヲリ
ティケ
第二十二章 シュレム・カヲリ
「命令よ、看護師寮まで連れて行って」
「へいへい……」
「マリオットとブリュッケちゃんが帰りを待ってるわ。『お姉ちゃんまだかなぁ』って。腕によりをかけて作ったエビカレーが冷めてしまうわね」
「おお! ブリュッケちゃんもついに同居を始めたのか、良かった……今度一緒にごちそうになりたいな」
「ふふふ、前と違って一緒に食事できるわけがないでしょ。ましてや寮は男子禁制、立ち入り禁止」
「うーん……そうだろうなあ」
人通りのないドブ川沿いの道路を走行しているが、街中なのに明かりもなく真っ暗だ。街の風景は、思いのほか和風というか日本のかつての地方都市そのものだけど、道端に生い茂る雑草は、すべてケプラー22b特有の透明な姿なのでギョッとする。
一呼吸置いた後、シュレムが自転車の後ろから更にピッタリと僕に寄り添い、意を決したように語り始めた。
「オカダ君、もうすぐビエリ奴隷訓練所を卒業するでしょ?」
「まだまだ先だって聞いたけど……元地球人なので数年はかかるかも」
「いつか訓練所を出るとBクラスのID番号が与えられるはず。いよいよB級奴隷としてデビューするのよ」
「全く嬉しくもない卒業式だな」
「多分、人身売買の対象として商取引にかけられると思うの」
「それはもう聞いている。人間様なのに不動産か何かと同じ扱いだな……正直ムカつくよ」
「それで……私、皆からお金を集めて君を買おうと思ってるの」
「ぐわぁ!」
衝撃的な言葉に動揺した僕は、ハンドルを取られて電柱にぶつかりそうになる。シュレムは悲鳴を上げ、僕の内臓が飛び出さんばかりに両腕でボディを締め付けてきた。自転車を止めて肋骨が折れていない事を確認してから訊いてみる。
「俺を買おうというのか。いや、買って下さるのか?」
「ええ! ……本来私はしがない看護師だからB級奴隷を買う余裕なんてないわ。マリオットもいるから生活はギリギリよ。でも、さっきの奴隷長のゴールドマン教授の力を借りれば何とか……」
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