ヴァールタ
気難しい婦警は車内で更にチクチクと圧力をかけてきた。
「貴様、違法行為を繰り返していると、地球人といえども死刑が待ってるぞ」
「婦警さんよ、俺は極刑が科せられるほどの悪戯はしていないぜ」
「オーミモリヤマ市の行政権と司法権は、あって無いようなものだ。検事はおろか裁判官までもが皆、ケプラー22b総督府から派遣されてくるのだ」
「つまり、デュアン総督の思うがまま……正に独裁政治だな」
婦警は体制批判を受けて、ますます気を悪くしたのか妙な話を振ってきた。
「ビワ湖の畔にオキ島というケプラーモクズガニが巣食う島がある」
「……? 見た事はないが、カルキノス辞典によると獰猛な巨大肉食ガニらしいな」
「死刑になった囚人は、オキ島に裸で置き去りにされる……ケプラーモクズガニは生きた獲物をすぐには殺さず、少しずつハサミで手足の肉を、もぎ取りながら食べるらしいぞ」
彼女流の脅しのつもりだろうが、車内は沈黙に満たされた。かといってビビった訳でも脅しに屈した訳でも決してなかった。
「奴らは
カニの分際で人類のような
「ヒロミ巡査長、出発します」
運転手の婦警が無線を確認した後、割り込むように言った。ケプラー22bの人にとって、そのカルキノスの名は口にするのも忌み嫌われるようだ。
「ヒロミ? 俺の知り合いのA級奴隷と同じ名前じゃないか」
「おい、A級奴隷なんかと一緒にするな。私は広見巡査長だ。広く安全を見回る……正に警察官に相応しい名前だと思わんか」
名前のような姓だな。んん? もしかして……。
「ひょっとしてオーミモリヤマ駅前のトイレ近くの交番に勤務してないか? アンタ」
「いかにも、そうだが……何でその事を知っている、オカダ元査察官?」
「いや、何でもない」
とある、えげつない光景を思い出しそうになったので、車内で大人しくする事を決め込む。ビエリ奴隷訓練所までの無料送迎タクシーに乗ったんだ、と自分に言い聞かせて窓の外の切ない風景を眺めた。
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