ヴァールタ

 気難しい婦警は車内で更にチクチクと圧力をかけてきた。


「貴様、違法行為を繰り返していると、地球人といえども死刑が待ってるぞ」


「婦警さんよ、俺は極刑が科せられるほどの悪戯はしていないぜ」


「オーミモリヤマ市の行政権と司法権は、あって無いようなものだ。検事はおろか裁判官までもが皆、ケプラー22b総督府から派遣されてくるのだ」


「つまり、デュアン総督の思うがまま……正に独裁政治だな」


 婦警は体制批判を受けて、ますます気を悪くしたのか妙な話を振ってきた。


「ビワ湖の畔にオキ島というケプラーモクズガニが巣食う島がある」


「……? 見た事はないが、カルキノス辞典によると獰猛な巨大肉食ガニらしいな」


「死刑になった囚人は、オキ島に裸で置き去りにされる……ケプラーモクズガニは生きた獲物をすぐには殺さず、少しずつハサミで手足の肉を、もぎ取りながら食べるらしいぞ」

 

 彼女流の脅しのつもりだろうが、車内は沈黙に満たされた。かといってビビった訳でも脅しに屈した訳でも決してなかった。


「奴らは装甲殻類カルキノスのくせに3、4歳児程度の知性が存在するとまで言われている」


 カニの分際で人類のような知能インテリジェンスがあるのか、やっぱり姿は地球のカニに似ているが、根本的に全く別種の生物なんだろうな。


「ヒロミ巡査長、出発します」


 運転手の婦警が無線を確認した後、割り込むように言った。ケプラー22bの人にとって、そのカルキノスの名は口にするのも忌み嫌われるようだ。


「ヒロミ? 俺の知り合いのA級奴隷と同じ名前じゃないか」


「おい、A級奴隷なんかと一緒にするな。私は広見巡査長だ。広く安全を見回る……正に警察官に相応しい名前だと思わんか」


 名前のような姓だな。んん? もしかして……。


「ひょっとしてオーミモリヤマ駅前のトイレ近くの交番に勤務してないか? アンタ」


「いかにも、そうだが……何でその事を知っている、オカダ元査察官?」


「いや、何でもない」


 とある、えげつない光景を思い出しそうになったので、車内で大人しくする事を決め込む。ビエリ奴隷訓練所までの無料送迎タクシーに乗ったんだ、と自分に言い聞かせて窓の外の切ない風景を眺めた。

 

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