エオス

 シュレムさんがついに怒った。


「あなた達、はしゃぐのもいい加減にしなさい! 今、会社の外が大変な事になっていると連絡があったばかりじゃない」


 外部モニターで確認すると、オーミ姉妹社の門前はデモが起こったように騒然としている状態。スーツ姿のパークス商会社員が何十人も押しかけ、守衛さんと揉み合っている。

 こりゃいかん……シュレムに頼んで、ある所に電話して現在の情況を伝えるように言っておく。

 文句があるのなら法律的に解決すりゃいいのに、あえてしないのは自分にも非があるから。手っ取り早く実力行使に出たんだな。


「迷惑をかけて申し訳ない。我々査察団チームの出番だ。」


 ランドルト姉にそう伝えると、僕とカクさん、それに新生スケさんとで門に向かって走った。想像以上にスケさんの四つ足スピードが早い。


 外部は騒がしく、オーミ姉妹社本社の社員が窓から不安そうに事の成り行きを見守っていた。

 黒スーツのパークス社員の前に堂々と丸腰で姿を現すと、どよめきが起こったのが分かる。

 

「あら、オカダ査察官、お久しぶり」


 何とパークス本人も出動してデモ隊の中に参加していた。


「これは何のお祭りですか?」


 質問する僕の横には牙を剥くカクさん、セーラー服をなびかせる四つんばいの猫耳スケさんもいた。彼女は身軽にジャンプすると会社正門の上に飛び乗り、ルーズソックス中の爪を表札の上に立てた。


「私の営業所に銃を持って侵入し、財産を奪って逃げた。タダで済むとは思わないでね」


 パークスは相変わらず黒がしっくり似合う、ロングヘアーをまとめない細身の美人だった。貧乳の前で腕組みしたまま冷たい言葉を言い放ち、ピクリとも動かない。隣には秘書のフレネルもいたので、キツネとタヌキのコンビかと思った。


「俺の相棒を拉致監禁した上、地下にかわいそうな人間を閉じ込めていた」


「何の事かしら? それにB級奴隷をどう扱おうが合法よ。新任地球人さん!」


「なぜ然るべき所に通報しない? 叩けば色々出てきそうだな」


「……今日は話し合いに来たの。それがお互いのためにもなるわ」


「ほう、お互いのため、ねェ……」


「あなたの“白い血”を数年契約で当社に分けてくれたら、全ての事を水に流して許してあげるわ。更に何パーセントかの対価も支払います。どうかしら? 決して悪い取引じゃないでしょ?」


 僕は即答した。

 デモ隊のどよめきが消えて水を打ったように、しんと静かになった。


「お断りいたします」


 パークスとフレネルはグッとなって怒りに震えた。わなわなと肩を小刻みに揺らせて、歯ぎしりが止まらない状態にカクさんは笑いながら宣言した。


「我々を誰だと心得る! 買収なぞ通用せぬわ。ここにおわすは太陽系外植民惑星一等査察官のオカダ・アツシなるぞ!」



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