マルタ

 その時、カクさんから脳内通信テレコミュが急に入ってビックリした。


『オカダ君、緊急事態発生! 現在何者かによって拉致監禁されている。現在地の座標は……』


 同時にバイオニクス研究所の検査室内線に連絡が入った。漏れ伝わってくる声には聞き覚えがある。

 眼鏡のズレを直しながらランドルトは、困った顔で僕の方にコードレス電話の子機を回してきた。


「もしもし、シュレムよ! オカダ君、大変なの! カクさんが街でいつの間にか、いなくなっちゃって困ってるのよ。探してもいないから先にオカダ君の所に行ってるんじゃないかと思って、ここまで訪ねて来た訳で」


 ははは、珍しくシュレムが焦っている。


「カクさんは、こっちにはいないよ。大丈夫、君はここで妹達と待機しておいてくれよ。俺が探しに行ってくる」


 僕は単独でスタリオン高機動車に乗ると、フランキ・スパス12ショットガンにショットシェルを詰め込んだ。チューブ型弾倉にドラゴンブレス弾2発、スラグ弾、バックショット3発の順になるようにした。そいつを助手席に引っ掛けて、そのまま市内に向かってアクセルを踏み込んだ。

 買い物帰りのおばはん、ジャージ姿の自転車娘……会社の塀外は一見のどかな人々が歩いちゃいるが、生き馬の目を抜く恐ろしい世界が待っているのか。





「……はい、首尾よくトーキングドッグを確保できました。今からそちらへと向かう予定です」


 フレネルは、市内に存在するパークス商会の営業所所長室に堂々と足を組んで座り、電話を掛けている。指先で螺旋状の黒いコードを弄びながら言う。


「ランジェリーショップに異常なほどの興味を示し、連れの女性に殴られているのを目撃しましたので……ハイ、もしやと思いまして、私の脱ぎたての上下をエサに罠を仕掛けた所、まんまと捕らえる事ができました」


 カクさんは、装甲殻類カルキノス用の鋼鉄製の檻に入れられてパークス商会営業所の倉庫に放り込まれていた。


「大暴れして、それで私に向かってエッチな暴言を……セクハラ発言を大声で繰り返しましたので、ハイ。手が付けられなくなったので薬で眠らせました。正にケダモノと言うか猛獣です。手なずけるのは無理かもしれません」


 



 最後の脳内通信テレコミュでカクさんのおおよその位置は掴めていた。だが、そこからトラックにでも乗せられて移動してしまったようだ。


『……オカダ君……』


 カクさん? いや、これはスケさんからのテレコミュじゃないか!



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