ヘルシリア

『……オカダ君、私なんだけど大規模メンテナンスのために脳をいじられて、アイデンティティーを亡くしちゃうかもしれないの……』


『スケさん、大丈夫だよ。俺が細かく確認した限り、オーミ姉妹社とランドルト、それにゴールドマン教授は信用できる人間だ』


『ええ、それは私もチェック済みだけど……この世に絶対という物は存在しないわ。あと数分で私が私じゃなくなるかもしれないのよ。だとしたら……』


『姿は変わってもスケさんはスケさんだよ。100年の経験を活かして無事に戻ってきてくれ』


『そっか、オカダ君ありがとう。ごめんね、弱音を吐いて……私らしくなかったかな。でもオカダ君と話す事で、だいぶ落ち付いたわ』


『そうだよ、これからも頼りにしてるぜ。姉御!』


『ふふ、ちなみにカクさんはハチマン掘近くのパークス商会・ハチマン公園営業所に監禁されているわ』


『インディペンデンス号の監視カメラで追跡済みですか。よし、すぐに行ってみる』


 僕はスタリオンのナビゲーション画面を操作してカクさん救出に向かった。オーミハチマン市は商人の街らしく経済的にも豊かそうだ。メインストリートには高級車が走り、街並みも歴史的な趣がある割には、活気があるように感じられた。





「……ええ、こいつはどんな調教師でも手に負えませんよ。ゴールドマンの所に持っていっても大人しく脳改造できるかどうかも怪しいです。悪い事は言いません、すぐにでも掘に沈めて処分するか、いつものように装甲殻類カルキノスのエサにでもした方が賢明です」


 受話器を置いて好物の羊羹を頬張ると、フレネルは営業所の倉庫に行って檻の中にへたばるカクさんの様子を見た。


「おい、そこのマシュマロ巨乳タヌキ姉ちゃん」


「うわ! もう麻酔から目覚めたの!? タヌキって誰の事よ!」


「あんた、まだノーパンなのかい?」


「うるさい! お前が破いたから新しいのと、はき替え済みよ!」


「トイレの後は……よく拭いた方がいいぜ!」


「……! 殺してやる!」


 フレネルはカクさんの檻に椅子をぶつけた後、水道の蛇口をひねり、ホースで大量の冷たい水を浴びせ続けた。


「うわ! 止めてくれよ! ぷぷぷ! 」


「ハハハ! 犬の分際で私を馬鹿にするんじゃないよ! ケダモノのくせに!」


 檻の中をコマネズミのように逃げ回るカクさんは、急に変なポーズを取ると肛門から屁を放出した。


「キャッ! 何これ!? くっさ!!」


 フレネルは狭い倉庫内に一瞬のうちに充満した、この世の物とは思えない悪臭をモロに吸い込んだ。すると急に気分が悪くなって座り込むと、さっき食べた羊羹を床に嘔吐してしまった。



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