アムブロシア

 シュレムの寝息を確認する。ここでイビキをかいていたら美女のイメージが台なしになるが、幸いな事に上品な寝息だった。

 起きている時はツンツンしているが、寝ている時は案外……カワイイ寝顔じゃないか。無防備な寝顔にオナラを吹きかけたり、色々イタズラするアイデアがほとばしったが、冗談で済まされる訳もなく、ボコボコにされる可能性大なので止めておこう。


 起こさないように、そろそろと慎重に布団をめくり上げて……と。シュレムはちょうど横向きに、あっちを向いて寝ているからスペースを作りやすいな。

 つま先から音をたてず忍者のように、するする布団の中に進入してゆく。嗚呼! シュレムの体温によって人肌に温められた布団の適度に気持ちのいい事よ! 温泉と比べても約1.5倍ぐらいの体感的な気持ちよさだな。

 しかも何だか良い匂いがする。今日風呂に入っていないはずなのに、ナゼこんな芳しい香りを放つのだ、君は。

 これがもし野球部の男だと仮定すると、汗臭さと足の臭いで鼻が曲がり、悲惨な状況を招きかねないというのに、正に女体の神秘としか言いようがない。


 布団に肩まで潜り込んで深呼吸した。この状態で眠れるのも、やはりスケさんのおかげと言えるのだろうか。いやはや、やっと安眠できるぜ。

 明日の朝、僕が隣で寝ていたら、シュレムは一体どんな顔をするんだろう……ははは、楽しみだな。

 カクさんは、まだ外で見回り中かな……だんだん意識が遠のいて……。


「あ、ぁあん! んっ!」


「うわあ」


 心臓がキュッとなり、声にならない声を上げる。

 寝返りをしたシュレムの寝言か……これじゃ誰かにカン違いされちゃうよ。


「ん! ぅ~ん」


 悩ましすぎるわ……って。

 シュレムは更に寝返ると、うつ伏せになったが、僕のケガした左腕を胸の辺りで下敷きにした。 


「痛っ~……気持ちいい」 


 シュレムの顔が、ほぼ僕の顔にくっ付いた。彼女の呼吸が耳にかかる。キスできるくらいの距離だ。

 そういえばシュレムは寝相が悪かったな。左腕を動かすと、ノーブラの胸がプルンとするのが伝わってくる。これじゃあ、迂闊に動けないぞ。


「はぁ~……どうしよう」


 体調が万全だったら、色々と目覚めて襲いかかっていたかもしれない。まあ、僕は紳士ジェントルマンだから胸を揉むぐらいで、そんな事はしないけど。唇を奪ってやろうかとも思ったが、僕の信条に反するので止めた。


「眠れないよ、耐えられないよ。誰か助けてくれ……」


 僕は眠りに就いたというより、下がったはずの高熱のせいなのか、そのまま気を失ってしまった。

 心地良い苦しみが全身を駆け巡り、天国とも地獄ともつかない生殺しサウナに放り込まれた心が、バターのように溶けてしまいそうになる。


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る