プロクネ

 はるか彼方の蒼い空にソドムとゴモラの大小対をなす衛星は、まだうっすらと存在感を示している。朝になったが、まだ夜明け前……僕の体は凝り固まってガチガチになってしまった。


「う~んんん……」


「おはよう、シュレム」


「うーん、え~と……質問していいかな?」


 僕と枕を並べる彼女は目をこすりながら伸びをして、髪の乱れを両手で直した。


「何だい? 一緒の布団に入ってる理由は、話せば長くなるけど」


「いや、熱は下がったの? それに今朝の体調はどうなのよ」


 意外にも彼女は動揺しなかった。さも、当たり前のように……まるで恋人同士のように。布団に入ったままシュレムは上体を起こし、覆い被さるように僕の額に手を当てた。


「ほぼ、熱は下がったんじゃない? 良かったね、私のおかげじゃないかな」


「いやいや、あまり手厚く看病された記憶はないけど」


「じゃあ、これでどう……」


 シュレムは寝ている僕を抱き寄せて、ぴったりと密着した。ちょうど彼女の白い首元に僕の鼻がくっ付くくらいに。

 頭がくらくらとしてきた。彼女が放つ何とも言えない香りに酔いしれる。

 冷静なフリをしていると思う。彼女の心拍数が急上昇しているのだ。その事が手に取るように分かってしまった。そしてそのまま、お互いに目が合った瞬間、極めて自然な流れで僕らは唇を重ね合ったのだ。


「――ん」


 シュレムの満足げな吐息が甘く濡れた口元からこぼれた。


 あ~あ、やってしまった……後悔はしてないけど。

 右手の指を伸ばして彼女の柔らかな唇に触れてみる。何だか、うっとりとしたような表情だ。そのまま指を顎から首筋に這わせた。


「ん……ぁ……」


 くすぐったいのを我慢しているのかな? そろそろと焦らすように指をシュレムの鎖骨から服の中にまで移動させる。少しずつムニュッとした弾力感が指先に溢れ、彼女の心臓が鼓動を発する場所へと無意識に誘われてゆくのが分かる。これ以上は怒るかな? どうかな……この辺でストップするべきか? それとも、最も敏感な部分まで……許されるのか……ボーダーラインが見えない。

 彼女は頬を紅潮させ、一瞬ぴくんと反応したのを僕は見逃さなかった……目を閉じたまま、来るのを待っているのか? 


『来た―――――!』


 と僕が心の中で叫んだ時、シュレムにケガした左腕の方を胸元まで引き寄せられた。


「いでで……!」


「何よ、もっと嬉しそうにしなさいよ」


 これがアマゾネスの愛情表現……なのか。

 小声で話していなかったので、マリオットちゃんやブリュッケちゃんが目を覚ました。ヨダレの跡が眩しいアディーは、なおも熟睡していたが。

 毛布にくるまった隣のマリオットちゃんがボサボサ頭で訊いてきた。


「あれ? オカダ君、場所がチェンジしている? 夜中にトイレでも行ったの?」


「まあね」


「おはよー、オカダさん!」


 まだ寝ぼけたブリュッケちゃんが抱き付いてきた。今日も賑やかな一日になりそうだな。

 僕は地球外のウィルスに感染したにも関わらず、快方に向かっている。自分の体力と免疫力に感謝。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る